ep.72
ジョンの淹れるコーヒーの香りに否が応でもテンションが上がってくる。雨季が近づいてテンション上がっている水属性の魔物をとやかく言えないな。俺の苦水属性も暴走しているみたいだ。こっちは季節関係なく年中なのもタチが悪い。
保冷庫からプリンを取り出すと、良い感じに冷えている。お湯で一瞬器を温めて、大きめの皿の中央に落とし、その周りに切ったフルーツを盛り付ける。うん、やっぱり生クリーム必要だったな。あるのとないのとでは全然見栄えが違う。あとは、さくらんぼと。
ジョンがコーヒーを淹れ終わったのと同時に、プリン・ア・ラ・モード風も完成した。こっちの世界で作ると結構簡単なんだよな。片付けも一瞬だし。自分から作ると言ったのに、パスタも甘味も比較的簡単なものになってしまった。せっかくだからもう少し手の込んだのに挑戦してもよかったな。次回臨む時は、事前に何作るか考えておこう。冷やせることがわかったし、とりあえず生クリームを買って、ミルクアイスでも作ろうかな。あれだったら、作り置きできるし、コーヒーに乗せても楽しめる。あとは、氷をいくつか拝借して、生クリームを立てよう。レシピに追加されれば、今後泡立てる手間がなくなるし、どのくらい立てるか、調整できれば更に良いんだが。
コーヒーから行くか、プリンから行くか。髭はプリンから、ジョンはコーヒーからだった。満足そうな顔をしているので、甘党にも無事受け入れられたようだ。口がパスタを食べたままなので、コーヒーで流しプリンを一口。うん、美味しい。昔ながらのやつ。自重を支えられるから、こうやって盛り付けても綺麗なままなんだよな。カラメルの苦味ともバランスが取れている。果物との相性はまずまずだが、それぞれ単体の甘味だと思えば一気に豪勢に感じる。それをまた、コーヒーでリセットすれば、何個でも行けそうだ。
「縁を結んだんだな。」
プリンも食べ終えて、コーヒーの残りも少なくなってきた頃、ジョンが唐突に口を開いた。内容はまたルーをテイムした事について。テイムという行為は、こちらの世界の住民にとって、特別なことなんだろうか。マダムと蛇の関係はそれっぽいよな。俺が知る限り、一例だけか?
「ああ。」
「そうか。」
それだけで会話が終わる。何か伝えたかったのだろうか。ただの確認で発言したんではなさそうなんだが。表情も思案顔だし。
「このフルシファー、何かあるのだろうか?」
「いや、良いんだ。」
「大事にしてやれ。」
実際【呪い】があるから、何かあるんだろうけど。訳知りのようだが、今は言わないのか、言えないのか。それとも、言う必要はないのか。名前をつけると決めた時点で、大事にはするんだが、大事にすることとレベルを上げることは同義なのか、否か。今度時間を設けて戦闘に参加させる必要があるな。ルーが戦闘に意欲的なら、成長したいってことだろうからな。俺としては、なるべく危険な目には合わせたくないんだが、走り回りたい犬を家に留めておくような、本能を制限することはしたくない。
「わかった。」
「アドバイス、ありがとう。」
コーヒーも飲み終わり、リルをおいて立ち上がる。ルーには何かあるんだろうな。それも王都に辿り着けば解明するんだろうか。有事の際も、マダムもジョンも何か知っていそうだから、助力願えると思うと心強い。マダムもあんな感じで動物には甘そうだし。
店を出る時は、髭の紳士も頭を下げてきた。次はアイスを作ってやろう。せいぜい糖尿病には気をつけるんだな。こっちの世界に生活習慣病とかないだろうけど。そもそも、魔物のせいで平均寿命とかも低そうだし。物は揃ってるんだから、運営の匙加減でどうにでもできそうなんだが。ゲームの世界で、生活習慣病とか夢ないか。
外に出ると、雨が本降りに。これが続くと思うと憂鬱だな。品の良い傘なんかは手に入らんのだろうか。番傘なんか、憧れるよな。この西洋風の街並みには合わないだろうか。雨乞いをするのは渇水の地域と、雨具を買ってもらった少年少女くらいだろう。あとは、運動会が嫌いだった俺みたいなやつ。
やっぱり、雨は対岸で見ているくらいが情緒があっていい。雨が降っているってことは、畑荒らしたやつがまた暴走して畑荒らしている可能性もあるな。見に行っても良いんだが、落とし穴に落ちているなら、急ぐ必要はあるまい。でも、本来なら祠を改修する予定だったし、風呂入ったら、あとはもう何もしたくなくなるし。
「行こうか。」
せっかく軌道に乗ってきた薬草園をむざむざ荒らされるわけにはいかん。雨の影響でいつもより暗くなっている細い通りを抜けて、冒険者ギルド前につく。街が綺麗だからか、土気がないからか地面の水たまりも澄んでいる。これで青空があれば、美しい青を反射してもっと綺麗に映えるのに。
「おい、お前!サリアちゃんと手繋いでたやつだろ!」
せっかく、人が詩的に雨を楽しもうとしているのに、無粋な奴め。




