ep.57
少し存在感の増した気がする神像に手を合わせ、【生活魔法】で身なりを整えてからミアの邸宅に向かう。穴掘りなんて魔法はないのだろうか。【土魔法】で覚えられないかな。
適当に【鑑定】や【看破】を撒きながら東門、さらには坂の上の邸宅に向かう。恒例の衛兵さんに挨拶をし、坂道を登り始める。お互い何度か顔を合わせたことがある。もうそろそろ、冒険者カードを提示しなくてもいいだろうか。顔パスってやつだな。魔法の蔓延るこっちの世界ではダメだろうな。俺が悪者ならそういう魔法を使わないわけがない。ただでさえ、透明になって気づかれないやつもいるのに。
「さて、前回は家の前で拾ってもらったんだが。」
家の前まで来て、重大な問題があることに気づく。前回は、ミアに家のまえで拾ってもらったんだが、今回はご在宅かどうかわからないしな。ミアがいなければ執事もいないし、そうすると俺のことを知っている人はいないということだ。何処の馬の骨ともわからんやつが、いきなりミアの名前を出して中に入れろだなんて、まともな神経しているとは思えない。まあ、でも結構水欲しいんだよな。いっぱいもらえたら、落とし穴を作るのに、地面を柔らかくさせるのに使ってもいいし。
「ええい、ままよ。」
「セバスチャンはご在宅であろうか。」
覚悟を決めて、鉄の門を開け声をかける。覚悟は決めていたが、流石にミアを呼ぶ勇気まではなかったので、執事の方を。すると、俺の願いが通じたのだろうか、家の方から執事が出てくる。何か、入り口でセンサー的なものが反応していたのだろうか、レスポンスが早い気がする。背中のカメレオンが何も反応していないということは、攻撃性のあるものではないと思うんだが。さすが、こっちの世界でも金持ちのセキュリティーは完璧。
「これは、GAKU様。どういったご用件で。」
【再生】使ってやったからか、執事の対応が丁寧。いや、最初から丁寧だったか?俺みたいな一旅人にも丁寧に接してくれるとは、教育が行き届いているな。成金ではない、本物、ということだろうか。こういうところを見習った方がいいんだろうな。
「いきなり、すまない。直接来るしか方法がなくて。」
「こちらの綺麗な水が欲しくて。」
「水、ですか?」
「ああ、水だ。噴水の。」
「水袋が手に入ってな。」
前回伺った時、ミアに妖精の話をしてもらったことを伝え、綺麗な水を求めていることを説明する。
「はあ、汚さなければ、構わないとは思いますが。」
もしかしてこれも家長案件だったろうか、どこか煮え切らない様子。執事では決定権がないんだろうか。このくらいいいのに、と思ってしまう俺は階級社会ではやっていけないんだろうな。わざわざ家長を呼びつけるつもりはないんだが、せっかく来たので、手ぶらで帰るのも勿体無い。
「アレルギーがないなら、カニを出せるぞ。」
「こないだ約束した外の話も少しならできる。」
「それは、お嬢様が喜びます。」
呼んで参りますと、恭しく頭を下げ、家の方に向かう執事。どちらが執事の琴線に触れたんだろうか。それにしても行動が早い。渋っていた理由は、それか?執事は行ってしまったが、これはOKということでいいのか?待っている間に水を汲んでてもいいかな。あまりにも効率厨すぎるか?
「GAKU、来てくれたのね。」
噴水前で葛藤していると、さほど待たずに、ミアが執事を連れ立ってやってくる。よかった。もう少し待つようだったら、水を組み始めていたところだ。盗水している現場を見られていたら現行犯だったな。
「ああ、しばらく。」
実はそんなに日は空いていないのだが、こういうあまり日を置かず再開した時の挨拶を知らない。無知というものは恥ずかしいものだな。もっと勉強せねば。まあ、ゲーム側のシステムが適当な言葉に変えてくれていることに期待しよう。
「まあ、フルシファーを連れているのね。」
「お話って、その子と出会った冒険の話なの?」
まって、見えるの?お前、透明化解いてないよな。背中にいるからわからんが、透明化は解いてなさそう。執事に教えられた?この執事なら気づいていてもおかしくはないんだが、わざわざ伝えることはないと思うしな。ってことは、ミアもそっち側の人間だったの?勝手なイメージだが、ミアはそういうのとは縁遠い存在だと思っていた。
「お嬢様は勘が鋭いので。」
執事が椅子に案内してくれる時に俺にだけ聞こえる声量でそういってきた。いや、勘とかの問題か?勘で当てられるのは、いるかいないかまでじゃないか?鋭過ぎない?だが、執事からは詮索はするなといった言外の圧を感じる。流されるまま椅子に座ると、背中にいられなくなったカメレオンが胸元に移動してきて落ち着く。やっぱり、透明だよな。
「俺には透明に見えるのだが、ミアには見えるのか。」
「ええ。とても素敵な色をしています。」
確かに綺麗な体色はしていたが、聞きたいことはそこじゃないんだよな。なぜ見えるかということなんだが。見える人にはなぜ見えないのかわからない天性のアレか。最初から見えていたら、見えない状況がわからないからな。ならば仕方あるまい。
「ルーセントフルシファーというそうだ。」
「こいつは畑で拾ったんだ。怪我していたので、一時的に保護している。」
すまんな、こいつとの出会いはたいした冒険じゃないんだ。そんなに不思議そうな目でこちらを見ないでくれ。そんな大冒険で出会うような種族なんだろうか。通常そうなんだろうな。
「お茶の準備ができました。」
少し気まずい空気が流れ始めたところで、執事からの助け舟が。空気の読めるいい執事だな。それにしてもお茶はありがたい。本当は食いもんが良かったんだが、お茶だっていい。今日も美しい磁器のティーポットから注がれる紅茶は香り高く、淹れる所作は絵画のように美しい。金取れるぞ、執事。もう金とってるか。
「お名前はなんと?」
「ルーセントフルシファーというそうだ。」
「そうではなくて、その子のお名前は?」




