ep.52
ボス部屋の前でカメレオンをおろし、ボス部屋と向き合う。近づいたことで、ボスがなんなのかも大体見当がつく。これはあれだな、食べられそうにはないな。少し期待していたんだが。まあ、コウモリ、蜘蛛、蟹と食べられそうな方が少ないんだが。
「ゲコ。」
「果たして、淡水なのか、海水なのか。」
ボスがカエルとのことで、淡水説が濃厚になった。雰囲気からして、海水だと踏んでいたが、予想が外れてしまったな。俺もまだまだ、修行が足りない。
目の前のカエルは俺よりも背丈が大きい。こんなん、その気が無くても当たられただけで、致命傷もんだろ。それが飛んでくるんだろ?絶対当たれないじゃないか。これまでの戦闘経験で、取得可能スキル欄に【回避】というのも出ている。どんな効果があるのかわからないが、使用すると体が自動制御で敵の攻撃を避けてくれるようになるのかな。それよりも、パッシヴで避ける距離が増えるとか、敵の攻撃の予測がつくとか、避けた後の行動が早く出来るようになるとか、その辺がいいな。
トノサマフロッグ Lv.10
水源地に付近に生息する大型のカエル。食欲旺盛で雑食。周囲の魔物も食らい尽くす。
「トノサマガエルじゃねえか!」
なんだトノサマフロッグって。トノサマガエルでいいだろ。見た目を悪くしすぎない配慮か、雨蛙のようなファンシーな色しやがって。
しかし、倒さなければならない動機もできた。俺が蟹になかなか出会えなかった理由、お前が蟹食いまくってたんじゃないのか?ああん?蟹はな、人様が食べるものなんだよ。カニ食べたやつが、美味しく食べられるなら、食うことも許容するしかないが、食えないやつが美味しい食材を食い散らかしていくのはどうにも我慢ならん。到底許せるはずもない。
「お前には恨みがあるから、死んでもらう。」
お前も生きるために食う側面があるのだろうが、食い過ぎだ。お前も生きるために他者を食うのだろうが、こちとら日本人だぞ。食に生き食に死ぬことも辞さない美食民族ぞ。腹が減ったら、お前はコウモリを食え。カエルの行動を観察しながら、ウォーターボールを放つ。
「ゲコッ!」
こいつも水耐性があるのか、あまり効いていない様子。だが、今回は耐性はあまり気にしてはいない。耐性があろうとも、効いてはいないというわけではないのなら、使い得だ。カエルは力試しとばかりに飛びかかってくる。巨体が邪魔してか、そこまでの速度は出ていない。敵を常に捕捉しておけば容易に避けられる。避けた後には、少し行動が止まり、次の行動を始めるといった具合。カエルも足がビリビリするのだろうか。
「第一段階は、大丈夫だな。」
避けながらマッドボールの詠唱を。MPにはある程度余裕がある。少し多めに消費し、顔に向かって放つ。目に入って、俺を見失ってくれたら御の字だ。
「ゲコゲコ。」
「まだ余裕か。」
指輪でステータスも底上げしているのに、まだまだカエルは余裕そう。さすがボス。行動が変わる前に押し切ってしまおう。
「ウォーターボール!」
攻撃を交わし、2度目の【水魔法】を唱え、撃つ。すると、緑のような黄色のような体色だったのが、本来のトノサマガエルのように、斑らの赤茶色に変わっていく。
「本番か。」
この世界のボスや中ボス的な魔物には、HP低下やその他トリガーにより、第2形態が備わっていると考えて良いな。その結果起きるのが、行動形式の変容、新たな攻撃の追加、単純なステータス上昇といったところだろうか。戦力の逐次投入は悪手だというのに。まあ、生物としては、危機的状況に陥ると、生存本能から、攻撃的になるというのも分からない話ではない。あとは、子を守る親が、命を投げ出し、危機に立ち向かうこととか。
蜘蛛の刺激毛の遠距離攻撃の例もある。様子が変わったということは、警戒を強めろということだ。一度、魔法打つのはやめ、回避中心に立ち回る。
「ゲコォ!」
「うわ、あぶねっ!」
力強く鳴いたと思うと、舌を伸ばして、絡め取ろうとしてきた。動き続けていてよかった。先ほどまで俺がいたところの壁が少し抉れるほどの速さと威力で舌が飛んできたことを考えると、捕まるとひとたまりも無い。
「それで、スピードのなさをカバーしているのか。」
自身が遅くても敵が早くても捕まえてしまえばどうということはない、ということだろうか。その捕まえる手段が優秀ならば、実に理にかなった戦闘スタイルだ。そうやって、自分は動かず、舌だけを伸ばして、周囲の生物を食い散らかしてきたのか。だからそんな大きくなれたのか。舌の攻撃の後は、またジャンプ体当たり。それも俺の今いる場所ではなく、先ほど舌を伸ばした方向に。舌で捕まえている前提で攻撃を出しているんだろうな。だが、その行動は俺にとってはありがたい。舌の攻撃がいくら速いからといって、よく見ていれば避けれないものではない。それさえ避けられれば、安心して魔法の準備ができるというものだ。
再度舌攻撃を交わして、土魔法を放つ。今回は【破壊】スキルを使う気はない。魔力の指輪があれば、十分にいけると踏んでいる。素の速さが蜘蛛以下なのがありがたい。このまま魔法を当てていけば、勝てる。
[レベルが上がりました。]
「意外とあっさり。」
トノサマフロッグがポリゴン化し、レベルアップのアナウンスが。推定ボスにしては、思ったより楽に勝利できた。動きの遅い相手には優位に戦えるな。指輪がなかったら、もう少し苦戦を強いられていたかもしれない。少なくとも、戦闘時間は長引いていただろう。回復薬なしではきつかったかもしれんな。
トノサマフロッグの皮×3
トノサマフロッグの舌×1
トノサマフロッグの水袋×1
トノサマフロッグの手袋×1
「おお、ドロップもいい。」
体がでかいだけのことはある。落とすものも大量だ。ボス部屋の入り口に行くと、カメレオンが背中に登ってくる。待たせた。けど、結構早かったんじゃないか?いつも待ってもらってすまないな。だが、俺についてくると、今後もこうなるぞ。ここが終わったら、また街の近くに行くから。
ボス部屋から続く道は一つのみ。必然的にその道を進んでいく。またもや下り。仄かに目の前が明るくなっていく。それと同時に、潮の香りと波の音が洞窟内に響き始める。ゴールは海だったのか。想定よりも海ステージが早く出てきたな。もう少し先に港町が出てくると思っていたんだが。
「眩しっ。」
洞窟内との明暗の差で目がチカチカと。瞼を閉じても、赤く光が貫通してくる。【夜目】が聴きすぎているんじゃなかろうか。目の前は入江になっており、ほんの少しの砂浜があるくらい。他は、岩肌が剥き出しで、今の格好じゃどうにも太刀打ちできそうにない。




