ep.45
「それをどこで?」
魔道具屋のババアにも聞かれたな。正確には、ババアには鱗のことだったが。やっぱり、珍しい種類なのは間違いなさそうだ。この辺では珍しいのか、世界的に見て珍しいのか。乱獲に合うなら、決まった生息地がありそうだが、こいつがこの辺にいたのはなぜ、という疑問が残る。
「ローナが生えているところでな。」
畑の説明も面倒なので、少し濁して伝える。まあ、嘘は言っていないから許してくれ。いや、正確に伝えた方がいいのか?外来種で、とか居た場所が問題となる、とか。でも、群生地にもこいつの鱗あったし、あの辺にいたのは事実。コイツかは分からない。
「ジョンはコレについて詳しいのか?」
何か知っていることがあれば教えてほしい。原産地であったり、怪我の治し方まで、なんでも募集している。
「いや、詳しいわけではない。もちろん乱獲されてきた歴史があるのは知っている。」
「そもそも珍しい個体で、ここまで気配を消せるのを見たのは2度目だ。」
「 」
ほう。よかったじゃないか。ジョンに褒められたぞ、隠れるの上手いって。それがわかっているのか、どことなく自慢気な雰囲気。最初はどうなることかと思ったが、案外コミュニケーションは取れるな。ただ、ジョンも詳しくは知らないみたいだし、やはり専門家に聞かねばならんか。
一悶着あったが、コーヒーは美味しい。すまんな、カメレオン。これは大人の嗜みなんでね。君にはまだ少し早いかな。というか、お前は何を食うんだ?ローナが主食なのだろうか。現実に則って昆虫食?背中で虫食われるの、嫌なんだが。
カップの底に残った冷めたコーヒーを飲み切る。カメレオンに関しての情報は得られなかったが、いい時間潰しになった。果たして、魔道具屋は開いているのだろうか。開いていなかったら、残念だが畑に引き返そう。ウサギでも狩って肉焼いて食ってみるか。
「すまない。こないだ頂いた豆を挽いてはもらえんだろうか?」
「なんだ、まだ飲んでいなかったのか。早めに飲まないと悪くなるぞ。」
プレイヤーだから、その辺は大丈夫なんだが。確かに、コーヒー呑みとしては、ずっと取っておくと酸化しそうで心配にはなる。
「ああ、豆を挽く手段がないのを失念していた。」
「そうか。」
そういうとジョンはバックヤードに。いきなりどうしたんだろう。もらったコーヒー豆はまだ俺の手元にある。カメレオンが背中を這い上がって、俺の肩口に。お前もどうしたんだ、と眺めていると、コーヒー豆が肩の方へ吸い込まれていく。一瞬の出来事に唖然としてると、ジョンが戻ってきた。
「昔のやつだが、まだ使える。」
そう言って、年代物らしきコーヒーミルを出してくる。マジかよ、ジョン。お前、いいやつだな。道具屋とかで探してみたけど、見当たらなかったんだよ。結構紅茶文化が根強いのかもしれないな。大きな都市に行って、ニッチな店に期待するしかなさそうだと思ってたのに。木箱の上にグラインダーがついただけの、まさしくビンテージ品。流石のセンスをしている。
「いいのか?結構いいもんじゃないのか?」
「この辺で手に入れるのは難しいぞ。」
短くそう言って、俺の飲んでいたカップを片付け始めるジョン。あまりにもかっこ良い。何かしら料理を振る舞って礼をしたいのだが、自分から言うのは違うしな。今日は【料理】イベントが発生しなかったか。ヒゲの紳士がいるときに、起きるのか?
「では、遠慮なく。」
ジョンに感謝を伝える。っていうか、おい、カメレオン。お前コーヒー豆食っただろ。ここのコーヒー結構高いんだぞ。俺だけ飲んだ、腹いせか?葉っぱ食ってたお前が、コーヒー豆噛めるのかよ。カフェインは摂っていいのか?まさか、お前ジャコウか?ジャコウカメレオンだったのか?俺の背中で排泄はしてくれるなよ。
礼を言って、店を出る。出た後で、どうせなら、ポットやドリッパーの類も、お古をもらってくればよかったな、と図々しい考えに思い至る。その辺は、結構宗教寄りだし、気を使ってくれたのかもな。
「ポットは琺瑯かなー。」
将来揃えたい道具を夢見ながら、魔道具屋に向かう。カップは白磁、ソーサーもセットで。アイスコーヒーには透明度の高いガラスを。ドリップフィルターはどうだろうな、あるのだろうか。ネルドリップが好みだが、現実ではペーパーフィルターだ。理由は楽だから。あとはそれらをディスプレイできる棚なんかも欲しいな。語り出したら、キリがない。
店では薬草を売る予定だけだったが、また回復薬も買っておかねばか?どうせ、コイツのことも聞かれるだろうし、長くなりそうだ。
「お前のせいで、面倒ごとが増えたぞ。」
「 」
背中の爬虫類に抗議を入れるも、どこ吹く風。ソロプレイヤーにとって、貴重な話し相手ができたので、悪い気はしないのだが。街中では、控えねばな。独り言話しているおっさんにいい感情を向けるやつなんて、この世界だって見つからないだろう。
魔道具屋の前につく。どうやら、ババアはご在宅のようだ。街まできて、小一時間待った甲斐があった。さっき来た時の違和感も消えている。なんだったんだろうな、あれ。




