ep.42
ローナの葉に紛れて、根元に何か透明な物体が。普段だったら気づかなかっただろうが、生憎、今日は生憎の天気。地面にいくつか鱗も落ちている。何か鱗のついたのが、いるなあ。
「よいしょ。」
とりあえず、捕まえてみた。暴れる様子はなし、大きさは両手に収まるくらい。そんなに重さはない。500mlペットボトル1本分位だろうか。下手したら、もっと軽いかも。まあ、片手で持てるくらいだ。左手に乗せ、右手でペタペタ触っていく。ところどころに突起があり、意図せず触れてしまうと、痛い。細くなっていく方が尻尾で、反対が頭かな。触った感じ、ひんやりしているし、変温動物で間違いなさそう。
「あ、痛っ。」
その後も無遠慮に触っていると、頭であろう付近に触れた時、指先に鋭い痛みが。突起に触った痛みではない。なんだよ、急に凶暴になりやがって。今まで大人しく触られていたじゃないか。
「はいはい、わかったよ。【看破】。」
せっかく、色々考察して楽しんでたのに。正体の見えないものを探る機会なんてそうそう訪れないのに。あ、お化けは別だ、あいつら非実体だから。非科学だから。
【看破】スキルを使うと、透明だったものに色彩が宿ってくる。体色は薄い緑と濃い緑のモザイク。濃い緑はいっそ黒っぽくもみえる。意外と長い手足に気持ち程度の爪。脊柱に沿って背鰭のようなとげとげが。頭部には特徴的な目とツノがあり、もっと特徴的な尻尾は長く、先が丸まっている。
「カメレオン、かぁ〜」
確かにカメレオンといえば体色変化が特徴の1個目にくるとは思うのだが、そうじゃないだろう。しかも、お前樹上性じゃなかったっけ?でも俺の視覚情報は手に持ってるこいつがカメレオンだと伝えている。いや、でも鱗が結構しっかりしているんだよな。カメレオンって鱗あったっけ?どちらかというと、ぷよぷよしている印象があるのだが。
「お前がローナの葉、食ってたのか?」
一応、無銭飲食ということになるのだろうか、でも鱗は置いてってくれたし。あれがローナ食ったお礼?でも傷んでたぞ、鱗。話しかけてみるが、もちろんコミュニケーションは図れず。
「定期的に鱗置いていってくれたら、食べてもいいぞ。」
こいつの鱗は良い値段になったからな、交換条件だ。もちろん伝わるはずはないのだが、一応伝えたからな。長い間、拘束しすぎた。爬虫類は飼育した経験がないので分からないが、人から触られて喜ぶ生き物ではないのは知っている。回収した場所に返そうと、しゃがんでローナの叢に手を伸ばす。
「」
だが、俺の手から降りる気配はなかった。促すように尻尾の付け根あたりを押してみるが、足は動かず。何かいいたげにこちらをみてくる。爪が食い込んでいるわけでもないことから、降りることを頑なに拒否している感じはしないのだが、同時に降りる気配もなし。もしかして、マイペースかコイツ。俺の手を樹上だと勘違いしているのか?
「どうした?」
「」
話しかけるが、反応はなし。弱ったな。まあ、緊急の予定は入っていないので、別にいいんだが。称号を隠す能力の取得が緊急っちゃ緊急か。降りないなら、と片手に乗せたまま、残りのローナを取り切る。雨はまだ降っている。神像も濡れている。次の段階は祠だな。風雨を凌げるだけの簡素な木組でいいから、拵えてやろう。
「もういいか。」
「」
まだのようだ。何かして欲しいことでもあるのだろうか。それをしたら、満足して自然に帰る、とか?一応畑での用事も終わったし、街に薬草を捌きに行ってもいいのだが。
「なあ、鑑定していいか?」
「」
返答は分からんが、このままでは埒があかないのも事実。手の上のカメレオンに【鑑定】スキルを使用する。
ルーセントフルシファー Lv.4
体色変化に長けた古い種族。鱗が高価で取引されるため、乱獲によりその数を減らしている。
皮膚に一部欠損あり。
「うわ、大層な名前。」
俺はせいぜいクリアカメレオンとか、その程度かと。るーせんと、何?ふるしふぁー?何それ。学名がついてる?学名になったら、やたら強そうになるあの現象か?シャチ、よりもオルキヌスオルカの方が圧倒的に強そうだもんな。アルファベットで書いたらもっとかっこいい。あの斜に構えた、書体がかっこいい。それと同じあれか?今まで、ウサギとかニワトリレベルだったじゃん。あまりにも運営の忖度が入っているじゃないか。
古い種族という割にこいつはレベルが低い。若い個体とかのレベルじゃないのか?生まれたばかり?強いウサギと一緒くらいだ。親はどこに行った?乱獲の対象になってしまったのか。よく生きていけたなお前。俺は乱獲する側の生物だがいいのか?危機感が育ってないのか?
そして気になるのが、皮膚の欠損。見た感じ、欠損があるようには見えないのだが。動きが鈍いのはそのせいか?普通、簡単には捕まらないよな。
「ちょっくら、ごめんよー。」
今目に見える範囲には欠損は確認できない。皮膚欠損ってことは、内臓ではなさそうだし。内臓疾患から皮膚欠損に?流石にそんな現実世界的なことは考えたくない。ファンタジーの世界には、ファンタジーな病気が似合う。魔力欠乏的なものは、とてもらしくていい。患っている人には悪いが。ひっくり返して腹を見る。
「あー、これかー。」
左の足の付け根付近に鱗が剥がれている部分が。明るい皮膚色に混じって、シュガースポットのような、暗くなっている部分が。今まで落ちていた鱗は、この付近のものだったのか。なんだ、ストレスで脱皮不全でも起こしたのか。わかるよ、世の中はストレスフルだ。
「さて、困った。」
こっちの世界に動物病院はあるのか?古い種族ってことで、研究している人物は設定されていそうだが、果たしてこの街にいるのか。これを見てしまった手前、流石に放置はできない。鱗で金もらった事実もある。せめてその鱗代くらいは治療するか、専門の施設へ保護を要請するか。乱獲の憂き目にあい、親もいないようだし。
こっちの世界でこういうことに詳しそうなのは、司書のブルー、ババアくらいか?セバスも色々知っていそうだが、ミアにお熱。ギルドにはいけないから、実質ババア一択か。あんまりお近づきにはなりたくないんだけどな。なんとなく、あの店に行くと、捕食者の視線を感じる。
「とりあえず回復薬か?」
買ってよかった回復薬。魔物に効くか知らんが。さて、2種の回復薬があるが果たして、どちらが有効なのか。ローハじゃなくて、ローナを食っていたってことは、HP回復薬ではないのか。だが、MP回復薬がローナからできているのかどうかもまだ知らない。
「はあ、やること多いじゃないか。」
透明な カメレオン(マダガスカル産)




