ep.39
少しだけ嫌味を返せたので、溜飲を下げる。自分では違いはわからなかったのだが、見る人が見れば違いがあるのだろうか。俺と兵太夫の鑑定する魚の違いみたいな。
自分の畑で取れたローハを出す。ここに群生地産のものを一つ混ぜて意地悪してやってもいいんだが、日も落ちてきている。早々にずらかろう。
「ローナと合わせてこれでどう?」
ババアが提示してきたのは、これまた結構いい額。コーヒーを飲んでもお釣りがくる。ギルドよりも買取金額が良いのはどうしてだろう。品質等を見ているのだろうか。大量生産、大量消費ではないんだろうからモノを見て交渉できるからだろうな。
「分かった。だが、畑が荒らされたり接収されたりしたら、定期納入ができないかも。」
「別に、困ってないから良いわよ。」
「そうか。では鱗は?」
「これも買いとるわ。ただ少し傷んでいるから、価値は下げるよ。」
傷んでいるらしい鱗も買い取ってくれるという。これで、当面の間は凌げる。キャンプキットを売っている店に行かねばならんのだが、ギルド専売だったらどうしよう。もしそうだったら、ライト君だな。ライト君に買わせて少しだけ色をつけて買い取ればいいか。
手持ちにある鱗を全て出す。傷んでいるという言葉を信じ、手元には残さない選択をした。これが吉と出るか、凶と出るか。
「じゃあ、鱗はこれね。」
と言って出されたリルは目を剥かんばかりの金額だった。こんなの、この世界での今まで稼いできた金額より大きいじゃないか。やっぱり、一枚保険で残しておくべきだったか?傷んでいなかったら、もっとしたのか。でも、全部出した手前、戻してもらうのもあれだし。
「これ、あってるのか?いや、俺としてはありがたいが。」
「文句あるなら、減らしても良いわよ。」
「いや、いい。ありがたく受け取らせてもらう。」
貰えるもんはもらっておく。いや、ホクホクだな。こんなに金が作れるとは思わなんだ。気分いいから、この店の売上に貢献してやってもいいぞ。
「この店にキャンプキットはないだろうか?」
「さあ、その辺の道具屋で売ってんじゃない?ウチは管轄外よ。」
「この店で買える魔道具はどんなのが?」
「舐めるんじゃないよ。最低でもあと一桁は稼いで出直しなさい。」
今が俺の最高出力なんだが?最低でもあと一桁多くって、一体どんなん扱ってるんだ。というか、魔道具ってなんだ?空と跳べたり、ワープできたりするあれか?
「では、回復薬を一種ずつ。」
それだったら、俺にも手が出せるのは知っている。ぼったくり価格でしか買えないのが難点だが、結局冒険者ギルドが利用できないなら、どこで買っても一緒だ。
「700リルだよ。」
HP回復薬が200リル、MPのが500リル。〆て700リルを支払い回復薬をもらう。まあ、保険として持っておくのは悪くない選択肢だろう。使わないに越したことはないが、魔法での回復手段も欲しいところだ。
「名前は前回言っていただろうか。GAKUという。あなたは?」
あ、そういや、こいつ俺のこと鑑定しているんだったな。前回言っていたとか関係なかった。対して、俺は名前すら分からず。ここで直接聞くのは癪に障るが、致し方なし。
「ふん。あたしの名前がわかるようになったら、ギルドにも行けるんじゃないかしら。」
名前がわかるようになったら、ギルドに行ける?どういうことだ?あのババアが、俺がギルドに行けない理由を正確に捉えているとしたら、ババアの名前が分かるようになったら、称号を隠せるようになるということだろうか。どういう因果関係か分からんが、【鑑定】の能力を上げれば、隠す能力が手に入るということなのか?もしくは、【看破】か。それか、ババアとの友好度が上がれば、名前を教えてくれ、同時に隠す能力を教えてくれるということか?そのルートはできれば避けたいんだが。
結局、何も分からずじまいで、魔道具屋を後にする。店の奥の物が積み重なってできた塔は相変わらず、今にも崩れ落ちそうだった。
GAKUが店を出てしばらくして、魔道具屋の女店主は魔道具を使って、誰かと連絡をとる。片手には葡萄酒の入ったグラス、もう片方は空を撫でている。
「あれはアンタんとこのかい?」
「ああ、いや良いんだ。 」
「で? そうかい。なら良いんだ。」
「せいぜい、良くやるんだね。」
女店主はそう言い放って、一方的に通信を切る。未だ空を撫でる手は止まらず、その表情は悦に入っている。まるで、新しいおもちゃをもらえた子供のような。
「しばらく、退屈せずにすみそうだね。」
女店主は新たに始まったこの物語の顛末を想像し、手に持ったグラスを煽る。魔道具の積み重なった塔は崩れ落ちていた。




