ep.37
「少し待っていらして。セバス、お茶を持ってきてくれる?」
ミアとセバスは、庭を案内してくれた。噴水や外構の植木、通りからは見えなかった、家の裏にある花壇まで。さすが金持ちの家。腕のいい庭師でも雇っているんだろう。かなり手入れされているのを感じる。花壇には色とりどりの花。名称はわからないが、現実でも見たことあるような花もある。いい畑だな。ここまでとは言わないが、自分の土地が欲しいものだ。状況が状況だけに少し急いていた。ゆっくり庭を見て回る過程で、落ち着きを取り戻せたかのように思う。金持ちの気まぐれには感謝しなければな。ミアとセバスが先に行くところで、こっそり豊穣神にお祈りを。
執事の茶の支度を、噴水の近くで待つ。うら若きご令嬢と二人にされても困るのだが?というか、なぜ二人になっているんだ?警戒はしなくて良いのか。
「見事な噴水だな。」
沈黙に耐えきれず、会話を試みる。白い椅子に座ったミアは少し疲れたのか、息があがっている。一生懸命案内してくれたんだな。
「ええ、妖精も喜んでいます。」
「妖精?」
「ああ、旅人さんは知りませんのね。」
この街の地下には大きな水の魔石があり、この街に水資源が豊富なのはそのおかげとのこと。それに引き寄せられ、噴水などには水が好きな妖精が集まっているという世界観のようだ。この世界の住人には妖精が視える者もごくわずかだが存在し、時の権力者に寵愛を受けてきた歴史があるそう。一般人には妖精や精霊の類は視えないそうだが、存在しているという共通認識はあるそうで、感謝をする文化があるとのこと。プレイヤーが来たから、近いうち視えるものは増えそうだな。猫型のなんぞおらんのか?
「旅人は初めてと言っていたのは?」
この世界に来て数日。さすがに初めてではなさそうなんだが。こうやって話すのが初めてとか?
「少し体調を崩して臥せっていましたの。今日は体調が良くて久しぶりに外へ。」
えー、なにこれ【再生】のイベントだったの?【再生】にどんな効果があるのか知らんが、病弱な令嬢にいかにもなスキル。執事はこれを見て?いや、考えすぎだな。俺の悪い癖だ。
「そうだったのか。それなのに庭を案内させて悪かったな。」
執事が茶を持ってきた。こちらでは、紅茶の方が人気だったな。品のいい茶器。商工地区では磁器は見かけなかったが、この世界には磁器が特産の国もあるのだろう。いつか行ってみて、好みのものを揃えておきたい。
紅茶と一緒に、クッキーも付いてきた。いたれりつくせりだ。コーヒーをよく飲むが、紅茶も好んで飲む。現実では、コーヒーの専門店の方が多いからな。なかなか、いい紅茶を出す店に巡り合わない。執事の入れてくれた紅茶は、甘い香りが漂い、飲み口も爽やか。茶葉がいいのか、執事の腕がいいのか。こっちの世界には見習いたい技術を持ったおっさんが多すぎる。一緒に付いてきたクッキーも、バターたっぷりで美味。紅茶ともよくあっている。
「GAKUはなぜ、ここへ?」」
茶を嗜んでいると、ミアからの質問が。プレイヤーがこの世界へきた理由は、どう伝わっているんだろう。
「俺はここでやりたいことがあってな。」
「やりたいことって?」
「色々だ。料理も、ものづくりも、冒険も。自分がやりたいことを余すことなくするために。」
「そう。それはいいわね。」
ミアの表情が少し曇る。旅人の自由さと自身の病弱な境遇を比べたのだろうか。まだ若いからわからんだろうが、自分と誰かを比べていいことなんて一つもないぞ。不自由なのはいただけないが、金に困ることはない生活も、人から見ればやっかみの対象になる。一定の不自由を享受する代わりに、君たちの今の地位があるんじゃないか。病弱なのは神の気まぐれだ。
「貴女の身分ではそれは厳しかろうが、時折外の話を持ってこよう。」
「本当!ありがとう。」
病弱な部分には触れず、俺が柄にもない提案をすると、綻ぶような笑顔が。いや、さすがにおっさん、目の前で悲しんだ子どもがいるのに耐えられなかったよ。とりあえず笑顔になってくれてよかった。顔を上げると、セバスも笑顔。このやろう、そっちで処理しろよ。
「お嬢様、お薬を。」
「おっと、ではお暇しよう。」
「庭の案内、茶と菓子の礼は後ほど。材料さえあれば、今度は俺が何か茶に合うものを。」
仮にも客人の目の前で、薬を飲ますかね?我が子可愛いさか?我が子ではないが。君子あやうきに近寄らず。下手に同情して、懐かれても困る。
【再生】は行動に力を乗せるという説明であったが、さて、どうなることか。せいぜい実験台になってもらおう。
「【再生】」
使い方がわからなかったので、執事が用意した薬のあたりを意識して、バレないようスキルを使用する。お、お、びっくりするぐらいHPが減っていくな。一気にレッドゾーンだ。やっぱり、俺には過ぎた力だな。
門を閉め、予定していた女店主の店に向かうため坂道を下る。あの純真な少女の後に、会いたくない類の人物だが背に腹は変えられん。
GAKUが去った後の邸宅では、執事の喜ぶ声が聞こえたとか。




