ep.30
「いらっしゃい。ゴードン鍛治店へ。」
「剣や鎧、他にも色々揃ってますよ。気に入ったものがなければ、オーダーもできますよ。」
おお、こっちの世界に来て、初めて歓待されたような気がする。いや、別にこちらの女性も歓待しているわけではなく、通常営業なのであろうが。今までが今までだったからな。店の名をゴードン鍛治店というそう。この店の主人がゴードンというのか。いかにも鍛治がうまそうな名前。それか、オーナーがゴードンとか。ゴードン鍛治店アインス支店とかだったら、なんかやだな。
「ああ、すまない。鍛造の音が聞こえてな。」
剣や鎧とは今のところ縁遠いんだが。オーダーなんて夢のまた夢。現状金属製で欲しいもの、ナイフやスコップ、如雨露とかかな。如雨露はまあ、今はなくても。ナイフ、スコップは緊急性は高めか。
「ナイフなら取り扱ってるよ。大型のから小さいものまで。」
スコップとかは園芸店に売ってるんじゃないかねと教えてくれる。園芸店はこの世界に存在しているということだな。東門からこの店に至るまでには見当たらなかった。坂道の方にあったのかな。
「おお、壮観だな。」
ナイフが展示してあるコーナーまで行くと、大小さまざまな品揃え。こういうの、見ているだけでもテンション上がってくるよな。男だな。価格もピンキリ。ピンとキリどっちがどっちかわからないよな。選択肢が多すぎて、逆に困る。
「一番安いので、300リルからか。」
俺の使い道はちょっとした料理と、あとは木の加工か。安ければ安いほどいいのだが、切れ味は欲しいし、流石にすぐ壊れられても困る。
「少し、持ってみても。」
「怪我しないようにね。」
許可をもらえたので、手頃なものを手にとってみる。持ち手もそれぞれ、いくつか手に馴染むものがある。せっかくの機会だから、ちょっと背伸びして少しお高めのラインも触ってみる。流石に持ちやすいし、切れ味もいいんだろうな。金ができたら、少しずつランク上げていかねば。自分で作るのもロマンがあっていいが、流石に心得がなさすぎる。
「それがいいのかい。ウチの新入りの作ったもんだよ。」
握り心地と価格を見て、なんとなくこれかな、と考えていた時、ニコニコと店員さんが話しかけてくる。ほう、新入りと来たか。だからお手頃だったのだろうか。デザイン性もなく無骨な見た目であったが、重心もいいし、手に馴染む。
「ああ、手の届くもので一番しっくりきた。本日は買えないが、リルが出来次第また来よう。」
「新入りというのは、旅人、だろうか?」
「そうだよ。今はいないんだけどね。」
あの子喜ぶよと、この女性もなんだか嬉しそう。新入りという旅人は真面目に修行に励み、住民の方に受け入れられているのか。今はいないと言っていたな、残念。会ってみたかった。
「あんたも旅人だろう。そんな高いものじゃないし、これがいいならとっておくよ。」
なんと、嬉しい提案をしてくれる。正直、このナイフ以外はイマイチピンと来なかったんだよな。旅人だから、すぐ稼げるだろうという前提での提案なのだろうが、プレッシャーもあるな。流石にまだ薬草は生えていないだろう。売れそうなアイテムもない。レベル6だから、まだ少し余裕がある。一度、回復して、ウサギ狩りに出かけよう。東の方でスライムでもいいな。物理には強いが、魔法には弱いというのが定番だし、動きも早くないから。いつまで、鶏やらネズミが強くなっているかというのも気になるが。今ログインしてきた人、結構厳しいんじゃなかろうか。ソロじゃなかったら行けるのか。
「よろしく頼む。」
取り置きをお願いし、店を出る。土をいじって、汚れたし汗もかいた。【生活魔法】で見た目は綺麗なのだが、気分的に風呂に入りたい気分。宿屋でいい部屋を借りれば、風呂がついてくると言っていたが、いくらだったかな。
神殿に向かうまで、通りにある店を冷やかしながら進む。おかげでこの街の相場を知ることもできた。プレイヤーが狩りまくったのだろう、ウサギや鶏の肉は安価で売られていた。野菜類や果実はお高めではあるが手が出せない程ではない。お約束と言っていいのかわからないが、米は見当たらない。まあ、この辺比較的乾燥しているしな。この街の水はどうやって賄っているのかも不思議だ。
通りを抜けると、見慣れた風景が。数時間程だが、今日はすごい冒険したような気分になる。会社から帰る時も時々はいつもと違うルートを選んでも良いかもな。【DW】が終わるまでは直帰だが。神殿で寝る前に、ギルドの資料室にでも行って、少しこの街のことを調べてみよう。
「 多いな。」
資料室に来てみると、いつにもまして人だかりができていた。サリアちゃんが部署移動でもしたんか、いや下にサリアちゃん用の囲いはできていたし、なんだこれ。司書のブルーもてんてこ舞い。プレイヤー対応に追われている様子。これは、また今度だな。




