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趣味人のVRMMO  作者: et al.
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ep.23

 

「、これを貴女に渡して欲しいと。喫茶店の店主から。」


 驚き、のけぞってしまったが、あくまで平静を装い訪ねた目的を告げ、硬貨を渡す。他に見られてなくてよかった。びっくりして声を上げてしまうなんて。狼の時以来か?いや、狼は声もあげられなかったな。それにしても、どうやって背後に?全然気づかなかった。


「・・・マスターが貴方に?」


 マスターとはジョンのことであっているだろう。この硬貨を渡すだけでいいと言われてきたが、確かに、借りたもんは自分で返すよな。なんでこんな旅人がってなるよな。普通。ジョン忙しそうでもなかったし。いや、でも、あのテーブル席の紳士が客としている限り店を開けるわけにはいかないか。サリアちゃんはプレイヤーの出現によって、さらに忙しくなっただろうし。なかなか喫茶店に赴く暇なんてないのかもしれない。


「ああ。俺が客としてコーヒーを数杯飲んだから、返す目処がたったと。」


「そう。いや、そうね。」


「確かに。コーヒー豆先払いでもらってたんだ。無事渡せてよかった。」


 サリアちゃん、未だ疑問は残るようだが受け取ってくれた。いつもの愛嬌を振り撒いている顔じゃなく、少し深刻そう。そんなにジョンに直接返して欲しかったのか。まあ、あとは二人でやってくれ。俺は、これでミッションコンプリート。いやー、肩の荷が降りた。また自由に行動できるぞ、と階段の方へ向う。


「貴方、名前は?」


 背後からサリアちゃんの声。風鈴の鳴るような綺麗な音色。CV誰なんだろうか。聞き覚えはない。これだけの技術力だ。AI音声だと言われても納得はいく。


「GAKU、でいい。趣味に生きる男だ。」


 振り返ることなく、名乗り。決まった。ジョンの言い回しを参考にしてみたが、少し渋い感じがしていいな。いただいとこう。


「街中で【気配希釈】使うならもっと上手くなってからにしてね。」


 目の前で声がした。声がしたと思ったらサリアちゃんが階段のところに現れる。いつの間に?貴女、さっきまで後ろにいただろう。後ろを振り返るもなにもない。サリアちゃんは階段を降りていく。完全に出し抜かれた。


「あ、ブルー。ありがと。」


「どういたしまして。もう用事は終わったのかい?」


 反対に階段を上がってくるブルー。サリアちゃんに言われて外していたのか。いい人そうだったしな。ん?貴方ともすれ違ってないよな?もしや、魔境か?ここは。


「あれ、君は?」


 続けてすれ違う俺に気づく。これは演技なのか?俺の顔を覚えてくれていたらしい。まあ、そんなに日を置いていないしな。


「【生活魔法】は便利に使っている。無事冒険者にもなれたよ。」


「それはよかった。次資料室に来るときは顔パスでいいよ。」


「ああ、また近いうち寄らせてもらう。」


 ブルーにも挨拶できた。二、三言交わして別れる。階段を降りると、サリアちゃんはすでに業務を再開していた。おい、ファンボーイ共。注意しときなさいよ。あ、タリアとの関係を聞くの忘れた。彼女と話せる機会なんてそう来ないだろうに。姉妹と睨んでるが、まあ、外れてはいないだろう。


 冒険者ギルドから出ると、夕暮れ。旅人のうちに少し遠出してみようかなと思い立ち、ギルドに戻り、薬草採取のクエストを受注。薬草を5株1セット。それで200リル。まあ、悪くない。薬草を手に入れたら、やってみたいこともある。対応してくれた受付嬢が採れる場所も教えてくれた。また、新しいことに挑戦できる。【DW】の世界の素晴らしきことかな。



 警備兵に挨拶をし、草原を歩く。前回夜に街を出た時よりも人は多い。みんなレベルも上がってきているんだろうな。装備も立派だ。逆に街に帰ってきている奴らは俺と同じ初期装備。頑張ろうな、お互い。陽が沈む前に、薬草の採取ポイントまで辿り着きたい。今回は魔物もスルーしていこう。


 採取ポイント付近についた。街の近くと比べて、草の背が高くなってきている。木々はまばら。もう少し進めば森といったところか。人のよく通る道から外れ、薬草を探す。薬草はこちらではローハというそうだ。納品は根ごと。ということは根にも茎にも利用価値があるということなのだろう。回復薬になる草を根ごと採取して未だ種が途絶えていないこと、指定農作物として大量栽培せず、冒険者に取らせていることを考えると、生命力、繁殖力は強いんじゃないかなと思うんだよな。それか、回復魔法の使い手が溢れていて、回復薬の価値が高くないか、だが。それ活かして、やりたいこともある。


 採取ポイントは比較的容易に見つかった。周りに魔物がいないことを見て採取に入る。採取ポイント1箇所につき3〜5回トライできる。その中で当たり(薬草)は1回〜2回。あまり効率がいいとは言えないが、旅人を卒業してからは、これがメインの稼ぎ方になりそうな気配。回数重ねることが大事だと気づき、無心で採取を繰り返す。雑草、ローハ、虫の死骸、雑草。ローハ、ローハ、謎の種子。雑草、謎の鱗、雑草、ローナ。


「ここまでか。」


 採取ポイントが枯れてしまった。辺りは日も沈み真っ暗。少し時間をおけば、また採取できるようになるのだろう。次から次へと採取ポイントを渡り歩いたせいで、随分と街道から離れてしまった。そろそろログアウトの予定だな。ここから街に戻るのも、正直面倒くさい。せっかくここまできたのだ。もう少し奥に進んでみよう。そして、神殿にデスポーン、そのまま神殿でログアウト。寝泊まりできる場所は把握している。計画に抜かりはない。


 街とは反対側に進んでいくと、まばらだった木々の頻度が増えてきた。この辺から、森になっていくんだろうな。足元に落ちている枝を少しずつ拾いながら進める。魔物ではない虫もよく見られるようになってきた。森に入ると、キジバトのような鳥の声。森もなかなか風情があっていい。だが、どうやらここまでのようだ。さっきから腹が空いて、動きが悪くなってきている。まさか、自分も空腹に苦しむことになるとはな。実のなる木も見当たらない。これは、俺に知識がないのが原因だろうか。


 死ぬ前に何か情報をと足を早める。すると川のせせらぎが遠くから聞こえた。川縁なんて空腹を耐えるにはもってこいのロケーションだ。音のする方へ向かうと綺麗な川が。横幅は小さく、深くはないが水量は豊か。


「ここをキャンプ地とする!」


 人生において、大声で言いたい言葉ランキング上位のものを言えた。テントもないし、椅子もない。何にもないが、あとは死ぬだけ。待ってろ、今度はしっかりした装備でここにきてやるから。満腹度はもはや残っていない。地べたに座り、デスの瞬間を待つ。


「あ、あれ使おう。」


 途中から、何の気なしに集めていた小枝があることを思い出した。気持ちばかりのキャンプファイアーを、と思い、組んで【生活魔法】で火をつける。少なくとも俺が来てから雨が降った形跡はない。拾ってきた小枝もよく燃え、パチパチと良い音をならす。


「これがあれば、なにもいらないかもな。」


 火が灯ったことで、辺りが少し見渡るようになる。木々は鬱蒼としているが、一応空は確認できる。近くに光源があるからか、期待していたほどの星空ではない。月も見えん。あるかも知らん。相変わらず、虫は多いが、まあ害はない。火がついているからか、近寄ってこない。川の向こうも少しは確認できるが、新しい情報はなし。そうこうしているうちに、もうすぐ息絶えそう。


「ウォーターボールで消して、と。」


 燃え移りそうな木まで少し距離はあるが、マナーとして消しておく。MPも大判振る舞い。攻撃対象がなくても【水魔法】は使えた。ウォーターボールを使ったところで目前が暗転。デスポーンの時と同じあれだ。


 気づけば、神殿。今日も神殿でお世話になろう。タリアを警戒して、のぞいてみるが不在のようだ。日頃の行いのおかげだろう。大手を振って女神像の前にいき、祈る。それから、神官さんに声をかけ、いつもの場所に行く。先客もないし、いつもの場所へ行きログアウト。


 消したと思っていたキャンプファイアーに火種が残っていたこと、それを見ているものがいたことを、GAKUは気づく由もなかった。




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