ep.22
報酬を前払いでもらってしまった。この後も少しぶらついてから、冒険者ギルドに行こうと思っていたのに。そうはいかなくなってしまったな。ただ、これで念願の一つ、コーヒー豆が手に入った。品質は折り紙つき。インベントリの時間は停止している。つまり、酸化を気にせず、好きなタイミングで飲めると言うことだ。
どんなシチュエーションで飲もうかと、色々考えながら、冒険者ギルドに向かう。やっぱりキャンプで飲みたいよな。この世界にキャンプという文化があるのかどうか。おそらく、道楽としてのキャンプをする酔狂なやつはこっちの世界にはいないんだろうな。西門から続く草原の先には森がある。その森なんかいいロケーションじゃないかと睨んでいる。水源の近くにテントを張って、焚き火をつけ、コーヒーを飲む。この硬貨を無事届けたら、トライしてみようか。これからの当てが有益であればいいのだが。
そうこう考えているうちに、冒険者ギルドに到着する。サリアちゃんが出勤していることを囲いの多さから推測する。ひとまず、出勤してくれていて助かった。また、ちょちょいと人散らしの魔法を使ってくれんだろうか。
「気配希釈」
当てとは【気配希釈】のスキルのことである。ランダムで手に入れたスキルだが、まさかこんなところで初お披露目になるとは。すまなかったな、お前は戦闘で使って欲しかったかもしれんが。まあ、そんじょそこらの戦場よりも激しい場所だぞ。お前の出陣式にはもってこいだと思うよ。
これから、あの集団に突撃しなければならない現実に尻込みし、ついスキルに話しかけてしまう。目の前をプレイヤーが通っているが、こちらに気を配る様子はない。独り言を話してしまっているので、気づかれない方がありがたいが。多めのポイントを払っただけのことはある。結構使えるスキルな気がしてきた。
目の前を通る人にぶつかってみる。するとそこでスキルの強制解除。こちらから何かアクションを行ったら切れるのか。試験運用はOK。だが結構な速さでスタミナが削れていった雰囲気。先ほどホットドッグを食べていてよかった。初期スキルではないのかもな。
「チャンスは多くない。短期決戦になるな。」
ギルドの中の様子を伺いながら、その時を待つ。スキル発動の時に周りに人がいないことも確認して、サリアちゃんの対応の切れ間を狙う。
「今!」
【気配希釈】を発動。無事成功した。ギルドに入り、サリアちゃんの方に向かっていく。途中で人にぶつかったらアウト。隙間を縫うように移動し、ターゲットを補足。
ん?サリアちゃんと目があってない?スキル切れてる?一度立ち止まり、あたりを見渡す。よかった。俺に気づいている人はいなさそう。スキルも切れてない訳だが、なぜかサリアちゃんは完全にこちらを捕捉している。まあ、変な動きをしながら近づいてくるやつがいたら気になるよな普通。こちらが見えているのであれば話は早い。少しづつ近づいて、硬貨を渡そう。渡したら、気配希釈が解ける。そしたら全力で出口に走る。イメージは完璧。
もう少しで、渡せる距離に入るといったところで、サリアちゃんが、他の職員に場を開け渡す。このタイミングで、なんてことを。嘆く取り巻きに当たりそうになり、人混みから離れる。サリアちゃんは2階に登っていく。休憩のタイミングと被ったのかな。取り巻きも追っていかない。その辺は弁えているのか。よく調教されている。その方が都合はいい。
2階にいくサリアちゃんを追いかけていくが、姿が見えない。撒かれたか。職員の休憩所は2階にあったのかな。流石にバックヤードに入ることはできない。一応、各種生産職のための加工場にいないか見て回るが、見当たらない。突き当たりの資料室にたどり着いたが、サリアちゃんの気配はなし。見事に撒かれたな。こちらの【気配希釈】が見抜かれていた。サリアちゃんも相当な手練のようだな。これから使っていけば習熟度みたいなものが上がっていくのだろうか。サリアちゃんに見つからないレベルまで持っていくのは厳しそうだ。今度は、正々堂々正面から持っていこう。囲いの少ない時に。
せっかくここまできたので、ブルーに無事冒険者になったことを報告しようと思ったが、姿はなし。あいついつもいないな。いい豆を手に入れたんだ。ここでブルーと飲むのも一興だな。まあ、またの機会に、と踵を返す。
「私に何か?」
「うをッ、」
目前に笑顔のサリアちゃん。驚きのけぞる俺。




