ep.20
「ああ、少しだがな。ブレンドを。」
嘘だ。本当は泡銭が手に入ったからなんて言えない。それにしてもジジイ。客に向かって金があるかなんて聞くか、普通。この店の雰囲気は相変わらず。テーブルの老人もご健在のようで何より。。あとでこっそり、どうやってお金稼いでるか、教えてくれない?一輪挿しには今回は、青色の大きい花。いや、小さな花弁の集合体かな。花はいいよな。一輪だけでも存在感がある。空間の中心になれる。畑持ちたいな。
コーヒーが出てくる。もはや無言だ。常連になった気分。コーヒーも相変わらず。だが、今回はサイフォンで入れていたな。サイフォンは見ているだけで楽しい、エンタメ性が加味される。味の違いは正直わからん。美味しければいいのだよ。
「この豆はどこで、売っているんだろうか。」
常連ついでにコーヒー豆の入手ルートについて問うてみる。この辺りに売っているなら、簡単に入手できる。教えてくれないなら、何か秘密のルートが存在するのだろう。コーヒー豆を求めての冒険か。悪くない。
「ここで使う分だけ知り合いに依頼している。販売もしとらん。」
知り合いに依頼ということは、この辺りでは買い求められないということだろうか。豆の品質が問題なのかな。明らかにいい豆を使っていそうだもんな。豆を求めての冒険が決定した。
「コーヒー豆自体は珍しいものなのか?」
「いや、王都付近ではよく飲まれている。紅茶の方が人気ではあるが。」
ほう、豆自体は比較的手に入るのだろう。やっぱり、品質に差があるのだろうな。流石に厚顔とはいえど、入手ルートまでは聞くことはしない。ロマンがあるから。だが、良い豆が手に入る機会はあるということだ。ワクワクしてきた。そして、紅茶が人気らしい。英国モチーフだろうか。紅茶もいいな。いい茶葉が欲しいところだ。我ながら、節操がない。でもいいんだ。こっちではなんでもするんだ。
王都があるという情報もついてきた。では、王がいて、その下に貴族がいるのまでは確定かな。この街もそこそこの規模だ。門も立派だったし、もしかしたら、王家にルーツを持つお人が統治しているのかもしれない。これだけのプレイヤーが一気に現れて尚、姿を見せないのは、事前に知っていたのか、市井に興味がないのか。俺が知らないだけか。タリアの感じを見ているとプレイヤーが来ることは事前に知っていた気もする。神殿と貴族が仲良くしてるのも、嫌な話だが、報告義務はあるだろうしな。それにしても、ここでしれて良かった。関わり合いになりたくはない。彼奴等は自由の対義語であるからに。
「販売はしていないが、頼みを聞いてくれたら、少しは融通できる。」
コーヒーを飲み干した後も難しい顔をしていたのだろう。コーヒー豆が手に入らなかったことがショックだと感じ取られてしまった。まあ、間違ってないが。少し政治について考えてただけだ。気の使えるいい店主だな。頼みとはなんだろう。俺にできることはあまりないんだが。
「ありがたいが、頼みによる。」
コーヒー豆は欲しいが、頼みを鵜呑みにはできない。流石に身の丈に合わないことをやるつもりは今はない。
「冒険者ギルドには行ったことあるか?そこの受付に渡して欲しいものがある。」
「え、まさかサリアとかいう。」
「彼女を知っているのか。なら話が早い。」
「彼女にこの硬貨を渡して欲しい。」
おい、おっさん。お前もサリアちゃんに骨抜きにされてんのか。見損なったぞ。気の使える良い店主と言ったばかりなのに。というか、金借りていたのか。どういう関係だ?店主は一度扉奥のバックヤードに入り、硬貨を持って出てくる。少し時間がかかったが、奥底に眠っていたのか。埃かぶってた雰囲気のある硬貨。ここ最近リルを見ていなかったが、あんな感じだったか?
「できなくはないが、」
そう、できなくはない。ないのだが、結構厳しい。あそこは取り巻きがすごいんだよ。個人的な要件を話そうものなら、絡まれること間違いなしだ。そうすると一気に俺が囲まれる側に回る。面倒ったらありゃしない。
「ここ最近、コーヒーを飲んでくれるやつがいてな。返す目処がたった。」
「嫌ならいいんだが。」
やっぱり金借りてたのか。ヘイ、ブロ。お前も金欠だったのかよ。そのコーヒー飲んでるやつって、もしかして、俺か。俺から多めに取っちゃいねえだろうな。
「いや、受けよう。」
取り巻きに気づかれず渡せる当てはある。うまくいくかはわからないが。硬貨を受け取ってインベントリにしまう。
では早速、とコーヒー代を支払い、立ち上がる。
「なんだ、一杯でいいのか。」
「そんなに贅沢出来んのでな。」
「また、なんか作ってくれるなら、もう一杯出してやってもいいぞ。」
良い、イベントだ。奥の紳士はコーヒーを注文した。また、お前にもか。




