ep.0
現実パートです。
「おい、長谷川。休み前だからって浮ついてんじゃねえぞ。」
上司の佐藤から声をかけられ、はっと我に帰る。
「すんません。」
楽は短く答え、冷めたコーヒーを一口含み姿勢を正す。今日は巷を騒がせているDWの発売日である。そのことが顔に出ていたのだろうか。ふと向かいの茶屋の嘲るような顔が目に入った。
「楽さんなんかご機嫌っすね。休みにいいことあるんですか。」
隣の席の橋本が話しかけてくる。気のいい後輩でよく飲みにいく間柄だ。楽は上司に気を配りながら小声で橋本に答える。
「ああ、件の件であぶく銭が手に入ってな。俺もDWができそうなんだ。」
「ええーマジっすか。あれ相当倍率高かったっすよね。俺も抽選申し込んだんですけどダメだったんですよ。」
「俺も抽選は漏れたんだけどね、ほら、こないだの轢かれた相手。その会社の重役のご令嬢だったみたいで。あれよという間に、諸々の手続きが済まされて、なんだかんだDWもらえることになったんだ。高価な医療用VRマシンもセットでな。」
「怪我の功名ってやつですか。ラッキーなのかどうかわからないっすね。」
「DWはプレイしたかったからな。怪我もなかったしラッキーだろ、っと。」
こちらの様子を気にする上司と視線が合いそうになり、話を切り上げる。目をつけられ残業でも言われた暁には俺の計画が水の泡だ。本日だけは定時で上がらなければならない。楽はいつにない使命感を持って業務に取り組む。
その後なんとかログインを遅らせようと画策する橋本を躱し、近くのコンビニで食料を買い漁る。
「今の俺は誰も止められんよ。俺の望んだ世界が待っているんだからな。」
腹の底から沸々と湧き上がる全能感を気合いで押し戻し、口笛を吹きながら家までの坂道を駆け上がるのであった。




