ep.149
マダムの声に、ハッと我に帰る。この心核は人の心を取り込む、何か特殊な魔力が秘められているように思う。こんな危険そうなもの、安全に手放せて良かったまである。自分一人で見ていたらどうなっていたことか。心核に取り憑かれて聖域で人知れずリクガメになっていたかもしれない。
それにしても、これを魔道具屋に流したことは秘匿しておかなくては。ここ最近、物騒だと龍龍も言っていたぞ。生産職が自警団編成しているんだから、窃盗があったとかそんなんだろ。ここのセキュリティ、蛇だけだぞ?こういう時、知り合いが少なくて良かったと思うよな。持っていることを知っているn/nにはデスペナルティで失ったと伝えよう。あまりにも悲惨でそれ以上言及してこれないだろう。
「約束の孵卵器だよ。」
こころなしかテンションが上がっているようにも見えるマダムが、陸玳瑁のアイテムを全部受け取り代わりに出てきたのが孵卵器。何でできているかわからなけど、手尺で測れるくらいの高さの灰黒色の受け皿のような見た目。こんなのが30万もして、孵化を促す機能までついているとは思えないが、陸玳瑁の爪に見合う価値があることに期待するしかない。
「それでは、あとは良きに計らってくれ。」
「ああ。」
あとのことはマダムに一任することにして、魔道具店を出ようとする。新たな楽しみができたし、重しも消えたし、少し身軽になった晴れやかな気分。指輪と靴のせいかも。そういえば、魔道具屋と噴水広場までの行き来も早かったような。今まで走ったことないから比較できん。
「どうした、ルー。」
扉を開けても、なんとなくルーが後ろ髪引かれているような気が、回復薬はすでに使ってやったし、なんか他に欲しいものでもあったのかな。お前も本来のサイズの甲羅が見たかったのか?そうか。お前もあのリクガメみたく大きくなるんだな。そうなったら俺の背中には乗れなくなるだろうが、俺がお前の背中に乗ってやるから。
本日n回目の聖域。孵卵器をセットし、その上に卵をおく。ここまでやって有精卵じゃなかったらタダじゃおかない。孵卵器に置いたら、今後は魔力を流す行為はしなくてもいいのだろうか。孵卵器に備わっている?俺が魔力を流したら、俺の能力に寄りそうで少し不安でもある。どうせなら能力面はマダムに寄って欲しい。魔力を流す行為が親と子の縁になるのならば、定期的に必要があるが。そのこともブルーに聞くリストに入れておこう。
「もしかして、この理論でいくと、俺とマダムの子ってことになる?」
考えるだけで、身震いするほどの恐怖。どうしてこういう考えをしてしまったのか、自分がわからない。早くこの考えを取り払おうと、隣の神像に無心で手を合わせる。
「さ。行くか。」
しばらく手を合わせても邪念は取り払えず。泉に行って顔をつける。苦しくなるまで顔を沈め、もう限界というところで顔を上げる。よし、完全に振り払えた。無駄な時間を過ごしてしまった。今日も予定が埋まっている。急がねば。
聖域から噴水広場へ飛び、工商地区で龍龍の勤めている服屋を探す。確かシュタイン服飾店とか言ってたかな。表通りは今までも通っていたのだが、見かけたことあるかな。目当てなものにしか目が行っていなかったな。
「ここだな。」
しばらく探し回ってようやく看板を見つける。商店街に古くからあるブティックのような佇まい。前面には女性ものの町着がディスプレイされているが、男物は取り扱っているのだろうか。町着は繊細なもので、高い技術力が窺える。奥の方にあるのかな。入りづらいが、約束もしたからな。
「ごめんください。龍龍はいますか。」
声をかけながら中に入る。
「おお、GAKU!来てくれたか。」
奥の方から龍龍が出てくる。奥が仕事場なのかな?シュタインさんもご在宅で?
「龍龍本当に服屋だったんだな。」
「信じていなかったのか?」
本当に針仕事をしているとは。全く。見た目で判断してはいけないんだな。確実に俺よりも武力がありそうなのに。それでいて器用とか。ステータスを見せて欲しいものだ。
「自警団がよく似合っていた。男物は?」
「オーダーでないなら、服は自動で調整されるようになってるよ。シンプルなのはこっちだ。」
そう言って、案内してくれる。あまりにもゲーム的配慮。もしくはそういう能力を龍龍ないし、シュタインさんが持っているってことだろう。案内されたのは、無地のシャツがあるエリア。性能は知らんが、見た目は非常に好印象。綿か麻のようなものかな?自然な感じ。あるいは動物のか。当然、合成繊維ではないはず。
「繊維はどうしてるんだ?」
「ここらではラーミって植物から取れる。第2エリアには毛の長い山羊がいるな。」
「やっぱり、動物の方は高いの?」
「天然で綺麗な奴はな。オーダーに使われる。」
「へえ。この街草原が広いから、牧畜でもすればいいのに。」
「それだ!」
「へえ?」




