ep.13
宿から神殿は少し離れており、街の中心地であろう場所に建っていた。日本ではせいぜい見れて教会くらいか。結婚式でなんちゃってのは数回見たことある。いかにも神殿ですって見た目だ。見たことない俺でも、神殿だとわかる。線の入った円柱が建物を守るように聳え立っている。ガラスは普通のだ。いや、現世と比べれば、質は低そう。信仰が違うからか、十字架はなし。
「おいおい、こういうところではステンドグラスがマストだろ。」
運営もロマンが足りていない。だがこういうところがプレイヤーの手の入れどころなのかもしれないと思い至る。世界観的に、風景は中世の西洋っぽい所謂な街並みをしているが、その実ゲーム内は比較的現代に近いようなモノで溢れている。必要なものは揃っている気がする。エネルギーは電気ではないだろうし、科学技術も発展していないだろうが、それを魔法で補っている。要するに、プレイヤーの革新的な文化介入は難しそうというのが俺の所感だ。そうじゃなかったら、茶店で焼いたホットケーキで天下取ってる。
「ま、この街が発展しているだけかもしれないな。」
まだ、街を出たこともないのだ。この街以外は防壁は木の柵ですって言われても、不思議じゃない。コンクリートジャングルがその辺にある可能性も捨てきれない。まだまだ始まったばかりだ。
「すまない。こちらで寝泊まりさせて貰えると聞いてきたんだが。」
「えーと、旅人様、ですよね?今は宿屋がお安くなっていますよ。そちらを利用されたらいかがでしょうか。」
神殿の中は、思っていたより質素。入ったら大きな広間。前には信仰しているらしい神像。女神。磔にされていない。キャラクリの時の女神なのかな。パイプオルガンは見当たらないのにそれっぽいBGMは聞こえる。そして意外にもプレイヤーが出ていく姿をよく見かける。まあ、生き返るとしたら、普通神殿とかそういう場所だよな。俺の他にも夜の金策に出向いた金の亡者がいるのだろう。はっはっは、お前らも怖い思いをしてきたのか。仲間だな。でもなんで俺は初期リスだったんだ。おかげでなんか変な目で見られたぞ。
女神像の近くにいた、これまたいかにもなシスターに声をかける。この人も目鼻立ちくっきりの美人。冒険者ギルドのサリアちゃんと比べたら、少しキツめで近寄りがたい雰囲気。そのせいもあってか、サリアちゃんのような囲いもいない。遠巻きに見ているのが何人かいそう。神聖さも寄与しているのかな。
だが、神って話がわかるよな。シスターも巫女も服装が良い。その服を用いた二時創作が産む固定観念や背徳感も重なるのだろうがな。どんな起源があるのか知らないが、神託で服装を決めたと信じたい。それだけで、男は神を信じる理由になるものだよ。
だが、こっちは寝泊まりさせてもらうことを期待して話しかけたのに、帰ってきた言葉は芳しくない。信じていた神様に裏切られた気分だ。
「その宿屋に教えてもらってきた。こちらなら金がないものも受け入れてくれるって。」
「神はすべての者を受け入れてくださいます。ですが、旅人様なら先立つものを神様が持たせてくれているはずですが。」
ほう、シスターにはそのように伝わっているのか。プレイヤーが初期に持っているものは神からの授かりものということだ。俺に加護をくれている豊穣神なのか、それともキャラクリ女神なのか。目の前の神像も何神なのかわからんしな。プレイヤーによって見えている神が異なっていてもおかしくはない。色々聞きたいこともあるが、俺の現実の体が待ってはくれない。アラートがものすごい。よほど泊めたくなさそうだが、こちらも曲げられないものがある。
「その神様のおかげで、美味しいコーヒーを飲めた。礼をいう。お布施をすることも厭わない、金の工面ができたらだが。」
「だが、少し急用ができて今すぐ休みたいんだ、頼む!」
こちらの世界でも頭を下げてばかりだ。人間というものはなかなか性質は変えられんな。
「言質は取りました。神はあなたを見ていますよ。」
「どうぞ、こちらへ。」
泊めたくなさそうな雰囲気から一転、にこやかである。早く早くと言わんばかりに、奥の部屋に案内される。そこには簡易ベッド、気持ち程度のパーテーション。だが、他に人の気配はない。みんな、計画性があったんだな。あれだけログインしてても、ここを使うやつはいないのか。だが、おかげで静かに眠れそうだ。
初ログイン、色々あったような、なかったような。ほぼ何も進んでいないな。まあ、明日からだ。ベッドは硬いが、寝床を使わせてくれた神に祈りつつログアウトする。神殿の広間で女神像が少し光ったのには気づかなかった。
敬虔な者には、救いがあって欲しいものです。




