ep.147
おい、30万はぼりすぎだろ。俺の生涯獲得金額と遜色ないどころか、超えてるまであるんじゃないか?こうなったら、卵の親権、マダムに譲るか?俺みたいな放蕩男よりも、金持ちのマダムのとこの子になった方が、いい人生送れるかもしらんぞ。ああ、でもダメだな。蛇がいる。あの蛇は卵を食う。多分。いや絶対。
「これ、いくらになる?」
取り出したのは黄色兎角。角ウサギのドロップ品。多分レアなやつ。振り上げた拳を下げれないプライドか、すぐに買えないとは言い出せなかった。値段に言及したところで、嫌なら良いよ、だろうし。今機嫌を損ねるのは得策ではない。
「黄色かい?2万リルで買うよ。」
思っていたより高いが、孵卵器には全然届かない。もっと良い値のつく色の角を持ったウサギがいるのか。最初に遭遇して負けた時も、今回もどちらも黄色だった。もしかすると、先々のエリアでの話なのかもしれんな。第2エリア以降には、赤や緑の角したウサギがいるんだろう。原色すぎる色のやつとは、あまり会いたくないな。
「この角は何に使えるんだ?」
「好きものに売るか、一番は触媒だろうね。」
「ちなみに、幸運のお守りには?」
「なんだいそれ。」
「いや、いい。」
角が幸運のお守りかもという予想は外れてしまった。それにしても、なんて夢もファンタジーもない世界だ。珍しいものに幸運を願うのは世界が変わっても不変だと思っていたのに。魔物の蔓延る殺伐とした世界では、そんなの屁の突っ張りにもならんってか。祈りより力か?神の存在の強い世界の認識とは思えないな。いや、別にモノに思いを託す必要がないのか。実際に神が存在しているから。何かを仲介させるより、神に祈る方が早い。
「触媒って?錬金術とかのか?」
「ああ。」
回復薬の鑑定で見た記憶がある錬金術。鑑定でわからなかったのは、多分マダムの本当の名前。そこでしか出会ったことはないが。東方医学とかその辺の発想は、大まかな方向では当たっていたな。この店の回復薬は俺の持ち込む薬草と、マダムの錬金術でできているはず。これからは、水も俺のが使われるかもしれない。それって、ほぼ俺が作っていることにならない?ならないか。そのうち、生産者の顔です、を載せてもらおう。
結局黄色兎角は買い取ってもらうことにした。持っていても好事家に売るか、錬金術に使うかしか選択肢がないのなら、売るしかない。ここでマダムに錬金術を教えてもらうってのも考えはしたけど、流石にタスクが重なりすぎる。これ以上はパンクしてしまうからな。簡単に教えてくれる訳ないし。それにしても、あの時俺が削った角ウサギを横取りしたサリアちゃんの囲いの奴。あの時に2万手に入ったら、随分いい思いができただろうな。俺に感謝するんだ。
黄色兎角の代金を貰って魔道具屋を出ようとする。孵卵器の件はうやむやにしたままだ。逼迫しているなら、是が非でも手に入れるが、そこまででもないからな。一応孵卵器という概念があることはわかったし、外で手に入れられる可能性も残されている。運営も、卵を景品にするなら、孵卵器もつけるか景品に入れるかしろよ。もしかしたら、レアな魔道具って孵卵器だった?それなら、当てられなかった俺が悪い、のか?するとマダムから声がかかる。
「孵卵器はいいのかい?」
愉快犯だな。分かっていて聞いて来ている。表情は変わっていないが、にやにやしているように感じる。自意識過剰か?
「生憎、持ち合わせがなくてな。」
「孵卵器なんか使わずとも、暇な時に魔力注いでやんな。」
それで問題ないだろ、と。何だ、アドバイスだったのか。私が自意識過剰でした。相変わらず、マダムは人間以外の生物には甘いようである。俺以外の、か?それにしても魔力を与えるだけでいいなんて。それでいいなら、なんで孵卵器なんてものがあるんだろう。一般生物の卵を孵化させるためにあるんだろうけど、それでは魔道具屋に高値で売ってあることの説明にならない。
「孵卵器を使った時との違いは?」
なるべく生まれてくる魔物に不自由はさせてやりたくない親心。四六時中張り付いて、卵転がしてやることもできないし。マダムからの回答を要約すると強いのが生まれてくるかもしれない、だった。使う孵卵器によっては、いい条件で生まれてくることがあるらしい。生まれてくる魔物はもうすでに決まっているが、孵卵器によっては特別なスキルを持っていたり、ステータスが良かったり、あるいはその両方を持っていたり。ただ、実際にあったことらしいが、悪意を持った人物がつくった孵卵器で、最初から隷属状態の魔物が生まれてくるように仕向けられたこともあるそうだ。今では厳しい禁制が引かれているらしい。
「ここで取り扱っているのは?」
「誰の店だと思ってるんだい。」
確認するまででもなかったが、この店で取り扱っているのは、当然だがいい孵卵器。マダムは明言しなかったけど、おそらくマダムの手が加えられていると睨んでいる。
「ちょっと待ってろ。」




