ep.146
豊穣神の花粉症疑惑も出てきたところだが、いつまでも呑気にしてられない。今日もやることが盛りだくさんだ。初めから手にあまるほど盛りだくさんなのに、次から次へと新たな興味が湧いて出てくる。もしかしたら、【欲望の僕】のせいじゃないかも。
「お邪魔する。」
アインスの街に飛び、リンゴを買って無事に開いていた魔道具屋へ。入るなり、近づいてくる蛇。こいつの腹掻っ捌いたら、今まで食わせてきたリンゴが発酵してアルコールに変わったのが出てくるんじゃないの?蟒蛇だし。そんな怖いこと、できそうにもないけど。お目付け役のマダムに勝てないどころか、この蛇にも勝てそうにない。気配消せるやつを数人知っているが、多分この蛇が一番。気配というか、透明だからな。知らぬ間に近づいてきて、俺くらいのサイズがあっても丸呑みだろう。
「水はどこに?」
薬草を置き、水を持って来た旨伝える。今日から出す薬草も、豊穣神の権能を十二分に享受した自信作。見る人が見ればわかるような、逸品となっているはずだ。俺には分からない。ルーも最近食べているところを見ないから、もしかしたら、野生味が失われて来ているのかもしらん。野趣溢れるものの方が好きだという奴も居たっていい。
「これに入れな。」
そう言って、装飾のついた薬瓶を置く。そこに、トノサマフロッグの水袋から水を注ぎ入れる。水袋を取り出したときは、マダムの表情がギョッとしたような顔になったが、すぐ平静を取り戻している。水を飲み込む時にはとんでもない音を立てる水袋も、水を出す時には静かなものだ。この水袋も魔道具というものに分類されるのかな?こんな便利なものがここには沢山あるのか?宝の山じゃないか。俺には買えないだろうけど。
「これでいいか?」
並々と注ぎ、確認する。マダムは【鑑定】しているのだろうか、水を凝視している。お眼鏡にかなったのかな?ミアのところの水と遜色ないレベルだと見ているが。精霊だか、妖精だかがいるかどうかは俺には分からんし。マダムは水から視線を切って、顔をこちらに向けてくる。
「次からは、これに入れて来な。」
そう言って、先ほど出した薬瓶より少し大きい5本ほど取り出してくる。並べられた5本の薬瓶。それほど量が入るわけではないが、量が必要ってことではないのかな?てっきり、これで回復薬作ると思っていた。回復薬精製に水は大量には使わないってことだろうか。薬草の群生地が近くにあるのも相まって、水資源の有益性が高まっているものとばかり思っていた。
「何か変わるのか?」
「鮮度が落ちるんだよ。」
何やらスピってる返答が。そのうち水素の音聞かせられるんじゃないか?水袋に入れて、インベントリにも入れて、鮮度が落ちるとは思えないが。まあ、これも見る人が見れば変わってくるんだろう。次からは汲んですぐ持って来た方がいいのか?気軽にワープできるからいいんだけどさ。瓶を受け取ると、契約成立と言わんばかりに、リルが置かれる。今までよりも少し多い。
「おい?」
「いらないなら、返しな。」
耄碌したのかと声をかけると、ルーの鱗を売った時と同じようなやり取りになってしまった。もちろん、返すわけもなく、ありがたく頂戴する。やはり、薬草は品質が良くなってたみたい。試しに入れた水にも、色をつけてくれたのかな。水がいい値段するなら、マダムの懐も空にしてやれるぞ。そういえば、最近鱗落ちないな。体調が良くなってきたと考えて良い?あの鱗使えば、俺も透明になれると踏んでいる。
「水も定期的に入れていいのか?」
「構わないよ。」
回復薬を買いつつ話しかける。空にしてやると言ったが、継続して収入がある方がいいからな。安定を求める方の日本人気質。まあ、別に専売契約を結んでいるわけでもないし、他に卸したって良いんだが。ルーは待ってましたと言わんばかりに、手の方に降りてくる。こいつ、ガチャで当たった回復役には目もくれなかったのに。ガチャで当たったのはギルドと同じもの。ルーも違いがわかる方の生き物だったんだな。
「一体どうやってリルを?」
「これから客が来るんだ。用が済んだのなら帰りな。」
ルーに回復薬をかけてやっている間、雑談を試みるが、にべもなく突っぱねられる。この店に客だと?バカも休み休み言え。このゲームが始まってから毎日のように来ているが、ここに客がいた試しなんてないだろ。一回だけ、休んでいた時があったとは記憶しているが、それでも羽振りが良い理由にはならない。
「待て、聞きたいことがある。ここに孵卵器はないか?」
ガチャで当ててしまった謎の卵。今はとりあえず、聖域の祠の隣、種を植えたのとは反対側に土を盛って安定させてきた。ちょっと扉の開け閉めに気を遣う場所なので、また別の場所に移そうとも考えている。孵卵器でもあれば小屋の中で保管できるのだが、肝心の孵卵器の入手先がわからん。
「30万でいいよ。」
金の出所は俺だったのか。




