ep.145
茶店が開いていないなら仕方がない。一旦聖域に戻って、畑でも見て回ろう。
噴水前から小屋に飛ぶ。完全に日は出ていて、今から戻れば喫茶店も開いているんじゃとも思うが、時間に余裕があるからな。先に畑を見てしまった方が、動線的にはいい。農家の朝は早いんだよ。俺も先立に習って、朝イチでの行動だ。
「お、いいサイズになってきた。」
今聖域界隈で一番ホットな話題が苺。身ぶりも大きくなってきていて、あとは色付くのを待つのみ。豊穣神が張り切って、あまりにも大きくなりすぎたらどうしよう。現実世界での固定観念があるから、どうしても大きいものは味がイマイチな印象を持ってしまう。こちらの世界では、両立できればいいんだがな。文字通り口いっぱいに苺を頬張ることができたら、至福なこと間違いなし。甘いのがあれば、それを次代に繋げてみる。技術が伴ってくれば、甘いのと大きいのを掛け合わせてみたい。そしてまた、甘大を厳選して次に繋げる。
「病気やら虫害はあるのだろうか?」
聖域にいる間は、気象災害は無視できるとして、病気やら虫害はあるのだろうか。その辺も豊穣神がなんとかしてくれるか?一枚一枚全部確認したわけではないが、今のところ大丈夫そうではある。でも、泉周りの夜光る花付近には蝶も飛んでいるわけだし、青虫なんかはいない道理がない。連作なんかもどうなっているのか、気になるところ。
「ミツバチもいればいいのに。」
あの花でできた蜜は美味しそうだぞ。現実世界では、ハチミツも高級品だからな。花の種類にまでこだわろうもんなら、ますます手が出せなくなる代物。そして、交配にも役にたつという。コントロールできなくなるから、ある程度、遺伝子が固まってからの方がいいのだろうか?素人には分からんな。こっちの世界の植物博士にでも尋ねてみよう。どうせ郊外に変人の植物マニアがいるだろ。
畑に水を撒いて、お次は果樹の方に。果樹も順調、のようだ。実をつけるまでは全然至っていないものの、順調に大きくなっている。一目で見ただけで成長を実感できるから、すごいもんだ。聖域様様、豊穣神様様だな。こちらには、何かしらの肥料を与えてやりたいところ。この世界では、不要と判断したら、勝手にシステムがゴミを消去してくれるからな。おかげで生ゴミが出ない。綺麗でいいし、いちいち残していたら、ゲームが重くなるからいい事尽くめなんだろうが、こういう時には不便だな。
「第2エリアには何かあるよな。」
兵太夫曰く、釣りの専門店もあるみたいだし、きっと植物の専門店もあるはずだ。それ以前に、広い農地があるかもしれないし。アインスの街にはそれらしいのがないからな。せいぜいプランターとか、大きいのでミアの庭くらい。まあ、こればっかりは、土地は有限だから。それぞれの街に特徴があって非常によろしい。まだここしか知らんけど。
アインスの街は、お世辞にも広大な土地とは言えない。おそらく国家における防衛の最前ラインであると思う。辺境にしては強固な城壁を持っているから。水資源も豊かだから、生命維持には事足りる。魔法の力で何とでもできるんだろうけど。野菜類の移送もできているし。
東の方を進んだ先に何があるかは知らないけど、魔物もファンタジーよりだし、多分そういうことなんじゃないかな?誰か、プレイヤーで東方面を開拓している人はいるのだろうか。エリアが同心円上に広がっているなら、東方面の第2エリアはどうなっているんだろうな。これから龍龍に会いに行くし聞いてみるか。この辺のニュアンスはプレイヤー同士の方が伝わりやすそう。
「果樹も問題なさそうだ。」
少し考えこんでしまったが、果樹の方も問題なさそう。低木に調整するつもりはないが、日のあたりを考えて、枝ぶりは少し調整したい。紐と杭でどうにかできるかな。やれることはやってみよう。
「ルー。そろそろ行こうか。」
聖域では安心できるのか、俺の背中を離れて思いのままに過ごしているルー。別に分離不安とかを起こすようなタマではないだろうけど。自由に動き回るのはいいことだな。呼ぶと普通に地面を歩いてくる。樹上性じゃなさそうだ。一緒に豊穣神への参拝も済ませて、さあ、街に飛ぼうかというところ、祠の隣に小さな芽が生えているのに気づく。
「おお!これも発芽したか。」
祠の隣に植えた謎の種。群生地での採取の際に一緒に拾って、北の畑では育たなかったことだけわかっている。それが聖域では、しっかり芽がでた。何が発芽に寄与したのか不明だが、生えたんでよし。あとは何が成るかが問題だな。スギじゃないよな?あいつら裸子だろ?スギだったら、ある程度伸びたところで、家財道具に変えてやろう。一枚板のバーカウンターなんてのもいい。
「祠も上等のに変えてやるから。」
何となく、神像が微笑んだ気がした。
裁縫店の名前、なぜか”シュタイン”がピンときたんですよね。
原因がわかりました。アインスの街だったからです。




