ep.144
暗がりの路地で止まっていると、後ろから声をかけられた。低く、警戒しているのを隠さない声。低めの女声と言われても疑わないくらい。いや、俺が怪しいのは疑いようのない事実だけどさ、お前も同じ境遇にいることを忘れちゃいかんよ。そう思いながら、声の方に向く。
「いえ、何も。強いていうなら、酒場探しでしょうか。」
とりあえず、丁寧に答える。声をかけてきたのは、でかいおん、女性。俺よりも上背がある。鯛の鯛に似たような威圧感。少なくとも俺の知り合いでないのは確か。お嬢さん、夜の独り歩きは危険ですよ。でも、言っちゃ悪いかもしれないが、彼女にナンパ目的で声をかける人は少なそう。俺より強そうだし。同性からの人気高いタイプじゃないか?あと、強い女性が好きな人。考えてみると、強い女性好きな人って大変だよな。簡単に靡かないことが強さの証でもあるだろうし。
「酒場探し?ギルドにあるだろう。あんたプレイヤーだろ。」
「GAKU、でいい。そういうのじゃないんだよな。せっかくなら穴場を探したいじゃないですか。それで、あなたは?女性が明け方に一人でいるのも褒められたことではないのでは?」
「ははっ、言ってくれるじゃないか。私は龍龍。組合の自警団として、見回りしている。」
見た目通りの豪傑な女性。名前は龍龍。中国語読みかな?大陸のプレイヤーなんだろうか。こうしてラグなく話すことができるのはいいよな。それにしても自警団もいるのか。組織の自警団なら、自称ではないんだろう。ボランティアでやっているのか。大変だな。でも、そういう徳の積み方もあるんだな。覚えておこう。
俺の顔を知らないってことは、衛兵とは連絡を取り合ってなさそう。あいつらも、そこまで鬼じゃなかったってことか。商人まで敵に回ったら、いよいよ身動き取れなくなるし。
「組合って?工商地区の?」
「そう。最近物騒でね。職人連中で話し合って、見回りしてるのさ。」
表面上は治安良さそうなのにな。時々来るような俺みたいなやつにはわからない、中にいる人しかわからない苦悩もあるんだろうな。
「それは、大変だな。」
「そうだな。だから、GAKUも怪しい行動は控えるように。」
龍龍が見かけてすぐ声かけてきたのか、それとも少し泳がせてから声かけたのかわからないが、夜更けに街中をうろうろしている怪しげな男がいたなら声をかけてきたのも頷ける。仮面でもつけてようもんなら、一発アウトだったな。でも、とりあえず、俺が人畜無害だと理解してもらえたようで何より。遊び人も開示すれば完璧か?
「善処するよ。龍龍は何の生産を?」
「ああ、私はシュタイン裁縫店で服飾を作ってる。」
「男物もあるのか?」
「もちろん。オーダーも出来るぞ。」
「へえ、明けたら寄らせてもらおうかな。」
結局ガチャで防具関連を当てることは叶わなかったからな。夜も街も歩いてみるもんだな。今日はいい出会いがあると思っていた。鯛の鯛のいるゴードン鍛治店にディスプレイされているような金属製のものは後衛職向けじゃないからな。俺がギリギリ着けられるのは革装備だと思っていたが、普通の服にちょっとした性能が乗っているのはありがたい。柄シャツオーダーして、遊び人仕様にしてもらおうかな。でも、金ないんだった。
「おお!ぜひそうしてくれ!」
龍龍とフレンド交換して別れる。龍龍はもう少し見回りを続けると、自警団の方に戻って行った。あ、物騒の具体的な内容を聞く前に別れてしまった。まあ、後ほど店に行くからその時でもいいか。別に、とっ捕まえてやろうとか、そんな考えは微塵もないんだが、自衛のためにな。
「さて、ジョンのところは開いたかな。」
まだ、少し早い時間だがモーニングはやっているのかな?MAPの残りは神殿の周辺とミアの家の裏辺りで完成する。地下とかがなければだけど。衛兵の詰所が地下の作りだったから、地下って概念が普及している世界観ではあるんだよな。どこかから、地下に行けてそこではギャンブルやらセクシーな店やら、日の当たらないような施設がひっそりと存在しているんじゃないかと思っている。
「あれ?あの後ろ姿?」
ジョンの喫茶店直前でどこか見覚えのある人物の後ろ姿が目の前を通り過ぎていく。あの髪色、華奢な後ろ姿。多分ギルドのサリアちゃんだ。彼女も喫茶店だったんだろうか?コーヒー飲んで出勤ですか。いい趣味をしている。ジョン、また金借りたんじゃないだろうな?
「ん?開いてないな。」
喫茶店の明かりはついていない。なんだ、喫茶店じゃなかったのか。ちょっと話が合うなとか思ってしまったじゃないか。じゃあ、どこから?この辺に家が?おい、龍龍は見ていないよな。今の俺めちゃくちゃ怪しいぞ。そんなつもりじゃないんだ。やましい気持ちは微塵もない。




