ep.136
予約できてませんでした。
すみません。
後顧の憂いもなくなり、気持ち晴れやかに聖域に集中できる。街に戻り、噴水広場から聖域に飛ぶ。転移直後のこの浮遊間にも、なんとなく慣れてきたように思う。あとはどこからでもワープできるようになる機能を頼むよ。
「うわっ、なんじゃこれ!」
小屋から出てみると、目の前の景色が一変している。泉から続く、細い水の流れがあるだけだったのに、俺の腰程の背丈のある叢が出現していた。その叢を形成する植物には見覚えがあるし、心当たりもある。草原奥の薬草の群生地。あれよりも範囲は狭いが背丈が高く、こちらを威圧してくるかのような威容を感じる。正直同じ植物とは思えないほど生き生きとしている。そういえば、群生地復活させた時もすごかったもんな。
「本気出したの、んですか?」
思わず、小屋の出入り口傍にある祠に話しかけてしまう。城壁沿いの畑でも十分な成長速度を見せてくれていた薬草群であったが、今回のは異常。神の権能ってこんなにもすごいのか?苺とかは大丈夫なのか?果樹の方は?このペースで育ってくれるなら、選別も比較的容易にできるのでは?
「豊穣神様ありがとうございます。初めての供物は必ずや。ただ、神職は引っ張ってこれませんでした。」
祠の神像に手を合わせる。不可能ではないようだが、守銭奴がいてな。もしかしたら第2エリア以降の神職にお願いすることになるかもしれん。でも、石を持ってきたから、少し高さを出してやる。そしたら、もっと遠くを見渡せるようになるぞ。ここは景色がいいから。
「でも、これなら。」
今まで持て余していた、謎の種。これでインベントリの1枠を使っているから、ものが増えた時には手放してしまおうとまで考えていた。前植えた時も育たず、かといって、地中で腐ることもなかった種だが、ここでならば育つことも可能なんじゃなかろうか。祠が直射日光を浴びている環境も喜ばしくない。祠ってものは、木陰に佇み、木漏れ日を浴びて厳かにしておかねばならない。そういう法律がある。神像の隣という、一番神力が強そうなところで育ってもらおうか。
「水もかけて、と。」
穴を軽く掘り、種を埋め、水袋から水をかける。都合よく、水袋の中も空になったようだ。マダムから泉の水持ってこいと言われたからな。この水にはどれほどの価値がつくのか。咎人が守護者になった来歴も不明であるが、あまりにも目にあまる採水を続ければ、俺も咎人に堕ちてしまう可能性を孕んでいるということだろうか。なるべくこの綺麗な風景を保つことに尽力したくはあるが、通常利用+αくらいは認めてもらいたい。これもやってみないとわからないな。
ひとまず薬草の様子を見てみる。採取するのは明日でいいとして、この調子なら今までの倍は納品できそうだ。問題はマダム側のキャパがあるかどうかだな。客は俺以外に見ていないし。在庫の変動も見ていない。俺以外の売り上げ、あるの?金満で半隠居であることは間違いなさそうだが。どこかの集団の相談役とかしてそうだな。不労所得か。羨ましい限りだ。
「あ、ルー。ここ安全だから自由にしてていいよ。」
薬草の勢いに負けず、苺とスイカも成長が認められた。こういう時は、薬草とか生命力の強い植物に負けそうなのに。近いうちに、どこかで肥料も買ってこないといけない。これだけ成長しているってことは、それだけ土の中の養分も吸っているってことだろうし。兵太夫にもらった魚の魚骨でも肥料として使うか?鶏飼って鶏糞でも手に入れるか?音と匂いがこの場所にはそぐわない。自給というわけにはいかなさそうだ。苺は、実のようなものが見える。集合体恐怖症が恐怖するアレのような具合。スイカはもうちょっとかな。花は咲いているから、結実してくれれば御の字。ビニールで覆うこともできないが、強く生きてくれ。
声をかけたルーは、足を下ってその辺をうろつきだした。ローナはその手前のものは噛んでもいいから。ずっと背中にいるもんだから、もはや気にならない存在だが、いなくなると、やけに軽く感じてしまう。前もこんなこと思ったな。返事は返ってこないが、話しかけれる相手がいるだけでも違うんだろう。鳥類飼う人のペットロスがひどいのはそういう理由からなのかもしれない。
「果樹の方はー。」
こちらも順調のよう。初めに植えたオレンジは膝の高さほどまで成長し、ちゃんと樹の体をなしている。リンゴはまだまだ、れぷるに至っては芽も生えていない。果樹の方は流石に時間がかかるな。サイクルの早い野菜的果実の方で品種改良に挑戦して、そのノウハウを果樹の方で使うようにしていきたい。できれば旬の果物を人の目も気にせず、飽きるまでむしゃぶりつきたい。味がイマイチなのが混じっていたら、悲しいからな。




