ep.120
せっかく窯を温めたからと、仕込んだ生地の分は全て焼き上げる。後半の方は、逆に火力が強すぎて少し焼きすぎてしまった感じだが、それでも商品として売っても問題ないレベルに揃えることができた。【料理】スキルを使っても、ピザを焼くことは一朝一夕にはいかんものだ。だからこそ、やりがいもあるんだろうけど。惜しむらくは、このおいしさを誰とも共有できていないこと。ここは俺のマーケティング不足といっていいだろう。まあ、いい。俺がこの街を出る時には、セバスにレシピを売って、マージンをもらうようにこぎつけるんだ。
「ごちそうさまでした。」
結局、最初に焼き上げた一枚まるまる食べてしまって、お腹いっぱい。この辺りは、燃え移る心配もないし、窯の中はそのままにしておこうかな。誰かが、イタズラしてしまうかな?それの責は俺ではないだろう?
「、後始末するか。」
木の棒を使いながら、中の燃えている木を外に出す。ここが俺の屋台だってことバレてるからな。何かあったら、俺のせいにされる。確実に。同じ轍は踏まないのだよ。地面に穴を掘り、そこにまだ燃えている木を突っ込み上から土をかけ、【水魔法】で消火。これで完璧。フレンドコールも携帯番号みたいなのがあれば、ここに書いていくのにな。フレンド交換しないと連絡取れないのが、唯一の欠点だろうか。さて、街に戻ろう。
東門で今回も衛兵に捕まりながら、何とか街に入ることができる。ポツポツといる往来人からも、変な目で見られている。見晴らしのいい一本道で交通事故起こしたらこんな気持ちになるのだろうか。
セバスに連絡して、坂を登り始める。返信はすぐ帰ってきた。内容は、来てもいいですが的な、何とも曖昧なもの。まあ、水も聖域のを使っていいし、ピザを届けるだけだからいかなくてもいいんだが、このおいしさを共有したい気持ちが強かったし、セバスにしては珍しい歯切れの悪い返事も気にかかった。
頂上に到達して、ミアの邸宅に目をやる。視界内にものすごい異物が。普段なら、手入れされた芝生に綺麗な噴水が出迎えてくれる。しかし、今日は鉄の門扉の向こう側、齧り付かんばかりの距離で見知らぬ男が立っている。あれは一体?ちょっと広くスペースが確保されている、頂上の広場を通る通行人一人一人をものすごく睨んでいる。セバスが渋っていたような感じがしたのは、あれのせいか?ミアの執事としては、新鮮さもあり俺と引き合わせてもいいと思ってくれていそうなんだが、全体的な状況を鑑みると、今日はこない方が良かったんだろうな。
俺よりも低い身長。ミアよりは大きい。髪の色も一緒、顔も似ている。目の色が違うかな?おそらく、兄弟なんだろうが。今日はガk、子どもと縁があるようだな。どうする、すでに連絡しといて何だが、別日に再訪するか?でも、数日は聖域に注力したいしな。インベントリ内にあるから、熱々のままとはいえ、気持ち的に焼き立てを届けたい気持ちもある。うーん、迷うな。
「貴様がGAKUか!」
ミアの邸宅に向かいながら、行くか行くまいか悩んでいると、門の向こうの男が先手を打ってきた。声変わりはまだなのか、透き通ったいい声。目線は合わせていないが、こちらを捉えている。よく見ると、後ろの方にはセバスと、同じ格好をしたもう一人の男性が申し訳なさそうに控えている。
「最近、妹にちょっかいかけている輩がいるみたいだが、お前のことか?貴様のような奴に、妹はやらんぞ。」
なんだ、ただのシスコン野郎だったか。じゃあ、どうでもいいや。最初はまた適当にはぐらかして、お暇しようと思っていたが、嘘をつかないという神との口約束はまだ反故にしなくても良さそうだ。あと何日持つかな。禁煙と同じようなもんか。
「いかにも、私がGAKUです。ちょっかいなど。少し世間話と、お水をいただきにきています。ミア様とセバスチャン氏にはよくしてもらっています。」
鉄門の方に近づき、名乗る。流石に、勝手に入ることはできない。彼の言うちょっかいとは一体どういうことなんだろうか。相手の対応を待つしかないが、果たして、年端もいかないシスコンとまともな会話が出来るのか。
「お兄様。私のお友達です。」
どういう顛末になるかと興味半分で次の反応を待っていたら助け舟が。良いタイミングだった。人通りはそこまで多くないとは言え、領主家の前で子どもと言い争ってる男がとか通報されでもしたら、いよいよだ。ルーには一人で聖域に行く練習させないとな。向こうにリスポーン設置できれば良いんだが。ルーが一人で使えれば、ミアも聖域に連れてってやれる可能性が上がる。流石に衛兵のいる門近くの噴水でミアを連れていると、国際問題になりかねん。




