ep.116
「ああ、もう。わかったわよ!」
その後もいくらか押し問答を繰り返していると、遂に観念したのか、声を上げ、話を切り上げる。最近の若物は根気がなくていかんな。あれ?俺としても不毛なやり取りをこれ以上しなくて済むから助かってるのか?ありがとう、最近の若者。
「では、名前は?俺は、GAKU、でいい。」
「レイ。」
「おお!普通だ。」
「なによ。」
「いや、すまない。俺の知り合い、変な名前のプレイヤー多くて。」
すまんすまん、と平謝り。救出したばかりの時は、恥ずかしさや怒りが綯い交ぜになって、興奮状態にあったのだろう。少し時間が経って平静を取り戻してきた様子。俺のこっちでの知り合い、変な名前の奴ばっかなんだよな。このゲームプレイヤーの名前被りは可能なんだが、知り合いに被っていそうな奴は見当たらない。鯛の鯛なんてその最たるもの。
「では、レイさん。なぜこんなところに?」
名前がわかったところで、本題を切り出す。初期装備からして、おそらく初心者だとは思うんだが。こんなところに一体何の用があるのか。自分のことは棚に上げる。俺の問いに対し、堰を切ったように話始める。
「出遅れちゃったから。」
「ん?」
「だから、出遅れたんだって!」
情緒。不安定なのは元来の性格だったか?レイ曰く、こちらの世界にはサービス開始初日に来たそうだ。強くなって無双するために称号狙い?で人と違う行動を取ったらしい。開幕で東門の方に走り、門を出た辺りで初討伐の称号は誰かの手に。焦った彼女は遠くまで進んでしまい、ゴブリンに囲まれて死んだそうだ。それで気づいたら、初期リス地点。無事?ファーストデッドのアナウンスを聞いたらしい。周りには今もログインしてきているプレイヤーが大勢いたので死んだことは目立つことはなかったが、それでもあちこちでファーストデッドが嘲笑混じりで話題になったこともあり、ムカついてデバイスに当たったら、故障。修理を待って、本日再びログインしたそうな。
「へー。」
「それでね、
正直もう興味は薄れているんだが、彼女は止まらない。水袋からコップに水を注ぎ、飲むように促す。これで会話が途切れるかなと期待したが、一気に飲み干し、話を続ける。不幸な身の上話を誰かに聞いてもらいたいようだ。俺も大人だし、優しいから、年少者の聞いて聞いてには付き合ってあげている。おじさんとしては、端的にここにきた理由が聞ければそれで良かったんだけど。
本日満を持して、ログインできていない間のワールドアナウンスを聞いて、愕然としたそうだ。緊急クエストやら、第3エリアの解放やら、とにかく、スタートダッシュして無双しようと目論んでいた彼女には到底受け入れられない現実が待ち受けていたらしい。そこで計画の頓挫を悟った彼女だったが、何とか気持ちを切り替えて、誰も向かわなさそうな辺境や路地を訪ねてユニークな力を手に入れようと、新たな計画を打ち立てたそうな。その流れで、北の城壁沿いを歩いていたら、いかにも意味ありげな祠と叢があったので、飛びついたそうだ。こんなの見つけたら、近づかないわけないじゃない、と彼女談。そして、脇目も振らず祠の方へ進んで行ったせいで、足元にあった落とし穴に気づかず、そのまま落ちてしまった、らしい。
図々しく、コップをこちらによこしてくる。注げってことか?まあ、大人しく水を注いでやる。するとまた喉を鳴らして一気に飲み干す。良い飲みっぷり。将来いい酒飲みになるぞ、貴女。
落とし穴から登ろうにも、上に届かず、穴の壁にも全く歯が立たない。途方に暮れて、思わず涙がこぼれ、そうになった時に俺がきたらしい。その話を聞く限り、そこまで穴の中で長い時間を過ごしたわけではなかったんだな。少しだけ残ってた罪悪感が消え去った。地獄に仏。まさに俺のことを指している言葉じゃないか。
「あなた私のこと無視したでしょう!そこの祠も、叢も!全部なくなってるじゃない。どこにやったのよ。あなたが盗ったんでしょ!」
適当に聞き流していたら、こちらに矛先が向いてしまったようだ。感情に流されながらも、周囲の状況を正確に判断した良い指摘だ。なかなか目端の利くお嬢さんか?確かに俺は、無視したし、祠も薬草も回収した。ただ、盗ってはない。俺の畑だ。そして、ここは何か起こる曰くつきの場所じゃない。ただの畑だ。やっぱり、落とし穴に入る程度のポンコツかも。
「いえ、私がここにきた時は何もありませんでしたよ?」
「じゃあ、なんであなたはここに来たのよ?」
ギクッ!




