ep.115
畑に向かって、【看破】を使用する。あ、忘れてた。【聖域ノ管理者】も隠蔽行きだ。俺でも何とか倒せたとはいえ、あの難易度。物珍しい称号に違いない。パーティーならば、その限りではないのか?一人がタンクでヘイト受け持って、一人が回復して、残りでダメージ与えられれば、そう難しくないんだろうか?体が靄の第一段階でもダメージを与えられるのか?泉の秘密に気づくかどうかが鍵だったかもな。いつか攻略の正規ルートの種明かしがあるのだろうか。
「いない、な。」
畑に人は見えない。よっぽど上手く隠れているようだ。サリアちゃん並みの猛者ということか?でも。直接捕まえるなら【看破】出来ようが出来まいが関係ない。【気配希釈】かけてるのに、声を出した己の間抜けさを恨むんだ。俺には衛兵の知り合いがいる。今日のお前の晩飯は、さぞ冷えていることだろう。
「うわーーん。なんでこんなこと。あんまりだよー!」
「ん?」
畑に到着する直前。今度はハッキリと声が聞こえる。そして、もしかしなくても泣いている声。姿を隠して泥棒している奴が出すような声ではない。ものすごく嫌な予感が。その予感は的中。落とし穴に被せていたものがなくなって、穴がぽっかり空いている。中はまだ見てない。理由は怖いから。
「そこに誰か、いるんですか。助けてください!」
一旦落とし穴からの声は無視し、当初の目的であった畑の移動のため、薬草類を回収する。祠はどうしようかと悩んでいたが、一応神像とセットで回収できた。一つのオブジェクトとして判定してくれただろう。植えていた土を少し回収し、聖域に植える時に混ぜてみよう。効果があるかわからんが、まあ、アクアリウムの水合わせみたいなもんだ。インベントリがパンパンだ。箱庭に期待しよう。
「ねえ、いるんですよね!この声、聞こえてますよね?助けてくださいよ!」
今度からここに来なくなると考えると、懐かしい気持ちに。思えば、ここでもいろんなことがあったな。ルーと初めて出会ったのもここだったな。あの日は確か、雨降りだったか?だから透明だったルーに気づけたようなものだ。
「聞いてんのかって、おい!助けろってー!」
「どうかしたんですか?」
いよいよ、穴からの声を無視できなくなってきた。女性の声だが、結構長い間叫んだんだろうか、ところどころ掠れて聞こえる。あの落す気のない、土を被せただけの杜撰な落とし穴に誰か落ちるとは思えなかったんだがな。魔物ならともかく、人が落ちるとは。あんまりそんな注意力の無いやつと知り合いになりたくはないが、まあ流石に俺のせいだしな。その穴の中ジタバタ暴れている体力があるなら、登れそうなもんだが。あ、スコップがないと土硬いんだったな。
さも今来たかのように。この落とし穴も素知らぬ顔で声をかける。落ちていたのは、キツめの美人さん。最初泣いている声を聞いた時には、年少な感想を持ったんだが、蓋を開けてみると、今の粗暴な物言いがよく似合っている。丁寧な物言いも出来てはいたから、新卒前後くらいだろうか。そして、今となっては珍しい初期装備。なんだ、初心者か。
「見りゃわかるでしょ!助けなさいよー。」
あまり助けたくならないな。俺の益にならなそうだし。別に初心者なら、死んだってペナルティはない。そのうち腹減って、神殿にデスポーンできるだろう。いいこと教えてやろうか。このゲームは10回しんでからがスタートだ。
「ねえ、ごめんってば。謝るから、助けてよ。」
無言でその場を立ち去ろうとすると、謝罪風の言葉が飛んできた。小娘に謝ったら許してもらえると学習させるのも良くないだろうが、流石に俺もそこまで鬼に徹することはできない。人が良すぎるのも、俺の弱点だろうか。
まあ、同じ初期装備のよしみだ。一刻も早くコーヒー飲みに行きたいところだが、前の戦闘では運が良くて勝てた部分もあるからな。ここらで徳を積んでおくのも、一興。ああ、祠はまだ残しておくべきだったな。どうせいい事するなら、神の前でしたほうがいいに決まっている。
「どうしてこんなところに?」
穴の底に手を差し出し、キツめの美人さんを救出する。STR足りて良かった。これで持ち上げられなかったら、恥かいてたところだ。それこそ、友達の衛兵を呼ばねばならんかったかも。一応、ここまできた理由を尋ねてみる。何もなしに来るような場所じゃない。普通のプレイヤーが取る行動じゃないからな。後学のために聞いておかないと。落とし穴に落ちていた件は忘れてやろう。薬草を盗ろうとしたんだろうが、それも不問だ。元々俺もグレー寄りだったし。
「なんでもない。」
救出した女はバツの悪そうに、裾をパンパンと叩く。照れ隠しもあるのだろうか、そっけなくそんなことをいう。まあ、作画の良い美人は何をしても似合うなという、月並みな感想。だが、感謝の言葉がないのはいただけん。美人なら、それでも生きていけるか。全く、羨ましい限りだ。
「何でもない事はないだろう。こんな辺境まで。」




