ep.110
上流になるにつれて蛇行が激しくなってきた感。それでも少し川沿いを外れると森が深く、足元が悪い。何か、聞いたことのない奇妙な声もしているし。歩行距離は伸びるが、仕方なく川に沿って蛇行しながら歩みを進める。一体、この世界はどうなってるんだ。第2エリアまでこんなに歩くとは思えん。それなのに、先に水源以外の何かある気配がない。ならば、なぜ進んでいるんだ?ゴールに何があるか、興味があるからだ。
「お、あそこがゴールかな?」
がむしゃらに前に進んでいると、なんとなく雰囲気が変わり、環境音も消えた。目の前には開けた土地にこの川の水源と思しき泉。近くには掘立小屋が。いくら気候が安定しているとはいえ、人の住む場所とは思えない。この辺を管理している者の倉庫、とかだろうか?でも環境音が消えるってことは、何か良からぬことが起きる合図だということは、学習済みだ。さっきまで晴れていたはずなのに、文字通り、雲行きが怪しくなってきた。ルー、何かあると思うから、準備しといてね。逃げる方か、戦う方か。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか、はたまた仏か。」
有事に備えて、残っていたギルド産のMP回復薬を使う。これで残すはHP回復薬2個のみ。心許ないが、欲望には抗えない。一歩近づくと、静寂から一転、けたたましいビープ音が鳴り響く。仏であってくれとの思いも虚しく、これで鬼か蛇かの2択になった。警戒を強めていると、暗い空から雪のように黒い靄が降ってきて、小屋の前で形をなしていく。
聖域ノ守護者 Lv.???
聖域ヲ守護スルモノ。ソレハ不定形。カツテノ咎人。
「こりゃ、まずいね。」
久しぶりに敵を鑑定したが、随分物々しい。鬼か蛇かでいうと、鬼。それも間違えて強い方の鬼が出てきちゃった雰囲気。不定形というのに、ガタイのいい大男の形をとっている。両の手には半身ほどある斧。体は黒い靄が渦巻いてできているのに、斧は実態がある。持ち手には野球のグリップテープのようにボロボロの包帯が巻かれており、端は垂れ下がっている。あまり手入れのされていないように見える持ち手とは違い、斧の鋒は丹念に磨がれているのがわかる。その斧を振るう男の膂力も凄そうだ。それに、今までに見た敵の中でも圧倒的にビジュが完成されている。
かつての咎人だとか書いてたが、聖域守らせるんなら、聖騎士とかに任せた方がいいんじゃない?何があって咎人になったか、事情は知らんけど、あんま褒められたもんではないだろ。罰則として守らせるんなら、こういう長閑なとこじゃなしに、極寒の雪山とか、酷暑の火山地帯とかをお勧めする。おそらく、誰かを守るためにとか、仕方なく咎人に堕ちた人が、神の温情によってここに配属されたとか、そんなストーリーだろうか。そんな奴は、両手に斧なんて持っていないな。
横方向に動きながら、出会い頭にウォーターボールを一発当ててみる。少し仰け反っただろうか。だが、あまり、効いている様子はないな。これは、【破壊】の力に頼らねばならんかも。テイマーになってれば、こいつをテイムできた世界線もあるんだろうか。仲間になってくれれば、この上ない戦力になりそうなのに。タコスなら出せるよ?美人の知り合いもいるよ?いい喫茶店も紹介できるよ?仲間になった瞬間弱体化するパターンは無しで頼むよ。
「うをっ、あぶねっ!」
聖域ノ守護者の体がブレたと思えば、急に目の前に姿を現す。横方向に動いていたのと、振りかぶった縦の2連撃だったので、なんとか横に倒れ込む形で回避に成功する。横薙ぎだったら、当たってただろうな。そして、当たってたら一撃だろう。初期装備で来ていいところじゃない。というか、初期装備で来れるところではないんだろうな。道中は気配希釈も使って、敵とは戦わずにここまで来れた。
「逃げ道は、無理か。」
ここに来たときに通って来た道は、分断されている。この戦闘のために特殊なフィールドが用意されたんだろう。逃げるのは不可。ルーは逃しておくべきだったな。
「当たったら一撃なのは、逆にありがたいか?」
HPがフルだろうが、当たれば一撃で死ぬならば、HPも戦闘リソースとして割けるということだ。覚悟も決まる。気兼ねなく【破壊】の力を使えるというもの。幸にして、斧による攻撃も大振り。絶対2連撃するとすれば、その隙も狙える。まだ、一回しか攻撃モーション見れてないが。頼むから、斧での攻撃に美学があるタイプであってくれよ。
少し戦ってみて、見れた攻撃モーションは3つ。一つは最初に繰り出してきた、縦の2連撃。それから斧を体の前に構え、突進しながら横に切り裂く、殺傷能力の高そうなもの。最後が、距離が離れすぎた時に出してきた、軽いホーミングのついた衝撃波。これ自体は横に動くことで簡単に避けられはするんだが、その後すぐ縦か横の攻撃が飛んでくる。これを躱すのが困難だった。初見では後ろにビビって後ろに尻餅をついたことでかろうじて斧には当たらなかった。この衝撃波は出させないのが一番いい。
「このままじゃ、ジリ貧だな。」




