ep.107
それにしても未来か。どう言った形で教えてもらえるのか気になりはする。確定事実の断片を教えてくれるか、不確定未来に対するアドバイス的な物を教授してもらえるのか。とりあえず1,000リル渡したが、値段に応じて占い結果が変わるタイプだったりして?
老婆は水晶玉のような透明の丸い玉をどこからともなく出した。NPCにもインベントリなのか、魔道具的ななものがあるんだろう。魔法が蔓延る世界でも未来を占うのには媒体が必要となるんだな。魔法でチョチョイと見れそうなものなのに。
「・・・・」
老婆はぶつぶつ呪文のように呟きながら水晶玉に手をかざし、素人目にもわかるくらい膨大なエネルギーを込め始める。マジックバッグ的な魔道具も持っていたし占いは、楽して稼げて良いなとか思っていたが、とんでもない。これ、1,000リルじゃ割に合わないんじゃないの?俺ではMP回復薬使っても再現できそうにない。MP準拠かも定かではないんだが。
老婆の魔力に呼応するように、水晶玉が光始める。俺には光っているようにしか見えないんだが、老婆には何が見えているんだろうか。これ不思議なんだよな。水晶玉に何かが映るなら、向かいにいる客にも何かが見えないと道理に合わない。何か細工でもされているんだろうか。見える人にしか見えないとか言われたら、諦めるしかない。
幾許かの時間が過ぎ、パワー的な何かを消耗したのか息も絶え絶えな老婆。声をかけようにも、何か邪魔してしまいそうな雰囲気もあり、次の言葉を待つより他ない。でも、水晶玉を見ながらリアルタイムで伝える感じじゃないんだな。水晶玉で見たのを記憶しているんだろうか。老婆なのに大した記憶力だな。水晶玉が光ったのは短時間ではあるが、委細を覚えられる自信はない。見習いたくもあるし、老婆の私情が挟まらないか疑いたくもなる。暇があったとはいえ、こんなことを考えてしまうのは野暮だろうか。
「星降る夜。それは救済か、断罪なのか。太古の力。それは己か、あるいは他か。全ては選択の結果である。」
占い結果は極抽象的なものだった。何もわからず、正直期待外れ感が否めない。流石にもっと具体的なことを教示いただけるものと思っていたのだが。1,000リルではこの程度なのかもしれん。それにこの未来が、いつのことかもわからないし。唯一気をつけることがあるとすれば、星降る夜。それが流星群でも観測できる夜なのか、それともただの星月夜なのか。少なくとも昼は気楽に生きていいと楽観視しようかな。
他に気になるのは太古の力。太鼓じゃないはず。俺が太古の力を振るう未来も選択次第ではあるのかもしれない。この言い方だと、太古の力が俺の未来に登場するのは確定なんだろう。それを扱う可能性が俺か、他の人物か、あるいは生物か。せっかくだし、機会があるなら太古の力を傍若無人に振るってみたい。太古の力も星降る夜と関連があるのか否か。老婆の話が続かないのを確認し、発言する。
「えーっと、願事は?」
老婆は水晶玉を見つめたまま答えない。
「待人、旅行、学問、失物、恋愛。」
とりあえず、おみくじに書いていそうな事柄を思いつく限り挙げてみたが、老婆は反応しない。1,000リルポッキリではこれが限界なのかもしれない。
「あの。ラッキーアイテムとかは?」
占いにつきものなのが、ラッキーアイテム。だと思っているが、人生において、ラッキーアイテムが効果を成した経験のある人は存在するのだろうか。こういう猜疑心が幸運を呼ばないのかもしれないけど。
「今は、身を守る力を。」
そういうと、老婆は完全に口を閉ざした。果たして、それはラッキーアイテムなのか。身を守る力をどうしたら得られるかを、教えて欲しいんだが?当面は今まで通り、冒険していくしかないのか?身を守る力を得られるかどうかもまた、選択なんだろう。
「ありがとう。」
追加でリルを要求されないってことは、1,000リルでよかったんだろう。今度会う可能性がある時は、もっと多く出してみようかな。内容が変わるなら、そう言うことだ。
礼を言って席を外す。老婆の前にすでに水晶玉はない。俯いたままで顔ははっきり見えない。路地を出て、何の気なしに振り返ると、すでに老婆は消えていた。
「幽霊かな?」
それにしては手が混んでいたし、そこまで恐怖は感じなかった。お金に執着して現世を離れられない、老婆が街宣師として彷徨っているというイベントだったんだろう。俺の1,000リルで成仏してくれたかもしれない。
「さあ、気を取り直して、タコス屋だ。」
「 」
予定よりも店を空けてしまった。流石に並んでるまでは期待しないが、数人は待っていて欲しい気もする。天気も良いしな。この時、背中にいるルーが薄ら発光していることに、俺は気づかなかった。




