ep.99
「おい、気をつけろ!」
「またくるかもしれないぞ」
「今のうちに、回復!」
緊急クエストは終わったはずなのに、周囲にはまだ、プレイヤーの怒号が響きわたる。街に迫ってきていた亀は退却し、歩くたびに揺れていた地面も、起きていた土埃も無くなっている。無事、街に攻め入る魔物の脅威は去ったと言える。先程クエスト終了のアナウンスも流れたから、恐らく西門のボスも倒されたはず。だが、未だ臨戦態勢を解かない東門付近にいるプレイヤーに衛兵たち。掲示板等でやり取りがあったのか、戦闘は終わったというのに、プレイヤーの数は徐々に増えつつあり、一致団結して見えない脅威に立ち向かおうとしている。
「行きましょうか。詰所に案内してください。」
その中で、ただ一人、街の方に戻っていくプレイヤーが。自分より上背のあるフルプレートアーマーの男を引き連れ、足早に街の闇に紛れる。残されたプレイヤーは日が昇る時まで事の震源地を探し続けていた。
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とりあえず夜更けまで、と制限時間を設定した上で、戦闘はタンクにまかせて、後ろから時折魔法を放っている。ようやく思い描いた、戦闘方式をとれた。ここにくるまで、紆余曲折はあったものの、この形式を取ることで、ずいぶん楽に、ガチャポイントを稼げるようになっていた。タンクとの共闘が軌道に乗り始めた、そんな折に水を差すように環境音に変化が起こる。先程まで魔物の鳴き声であったり、プレイヤーとの戦闘音が辺りに響いていたはずなのに、それの全てがなくなり、辺りは静まり返る。しとしとと降り続いていた雨も上がり、嘘のように綺麗な星原が。
「すごい、雰囲気あるな。」
まるで映画のワンシーンのような雰囲気に飲まれそうになる。これから何かが起きる、という確信と、得体のしれないものへの恐怖が綯い交ぜになって襲ってくる。そして、その感情を持ったのも束の間、遠くの方から、ずしんと大きな音と、地響きが。これがその原因か、と妙な納得感を覚える。月明かりに照らされ、あるはずのない場所に山が聳えていた。その山を震源地とし、地響きに土埃。つい先刻まで大量の魔物がいたのに、その気配も一切消えていた。生物としては正しい反応だろうな。あんなのに向かっていくやつの気が知れない。
「あれは、カメ?」
目の前に急に現れた山の正体は巨大な亀。陸地にいるからリクガメなんだろうが、月明かりに照らされた甲羅は、まるで工芸品のような美しい輝きをしている。鼈甲は海亀のはずなんだけどな。甲羅は平たくない。手足もヒレでないから、リクガメで間違いないはず。陸地にいるし。そして、そのリクガメは、何を血迷ったか街を目指して、威風堂々歩みを進めている。
俺が現在いる場所は東門付近の少し城壁から離れた場所。タンクと協力し魔物を倒しながら、時折見かけたプレイヤーにタコスを勧めていたら、畑からこんなところまで来てしまっていた。ちなみに、俺の現在までの営業成績は五分、を少しこえているだろうか。緊急クエストの告知があってから結構時間が経過したことも影響しているのか、比較的素直にタコスを買ってくださるお客様が多くなった印象。おかげで最初に仕込んだ分は、大方捌けた。
こんなにプレイヤーと話したのは初めてだが、声を変えたほとんどがパーティーを組んでいたことに驚愕した。中には普段ソロでプレイしているが、掲示板で声掛けあって、即席でパーティーを組んでいるという人たちもいた。みんな、結構社交的なんだな。俺も、と一瞬過ったが、遊び人なのを失念していた。遊び人をパーティーに入れる酔狂なやつは、遊び人になるに決まっている。遊び人連合なんかも面白そうだが、集団行動できるなら遊び人になんかなっていない。ソロで進めることができているガチ勢は、第3エリアとか前線に残ったままなんだろうとも思った。
「あれは、ボス、だよな。」
あのサイズ感の魔物を出してきて、ボスじゃありません、は、さすがに道理が通らない。それに東門にだけボスを出すとも思えないから、反対側にも、もしくは四方からボスが来るんだろうが、付近のプレイヤーの集まりを見るに、四方からという線はなさそう。このサイズだったら北も南も見えそうだし。
西側には何かしらが襲来していると思っていいだろう
色々考えている間にも亀は一歩、また一歩と悠然に、しっかりした足取りで真っ直ぐ街に向かってきている。血気盛んなプレイヤーは我先にと、一番槍を買って出ているようだが、リクガメは歯牙にも掛けない様子。
「これは、タイムアタックかな。」
あれが街まで到着すれば、アウト。それまでに倒す、または退却させられるとプレイヤー勝利、的な。緊急クエストの締めとしては、いい催し物なんじゃないか?街まで到達すれば、一体どうなるんだろうな。さすがに、何かしら偉い人が出てきてその場を収めるんだろうが、街も少し壊されたりするんだろうか?その世界線も見てみたくはある。肉体労働があれば、食いもんも売れるだろうし。でもそうすると、こちらの世界の住人のプレイヤーへ対する好感度的な、期待値的なものには悪影響になりそうなので、倒す方が吉か?クエストの終わりということは、俺への沙汰ももうすぐ側まできている。
「お。今のは良いの入ってそうだな。」
観戦を決め込んでいると、一段と周囲が明るくなった。リクガメの顔の前に大きな火球が浮かび上がり、そのまま顔に直撃した。あれが【火魔法】かな?派手でかっこいいな。さすがにウォーターボールやマッドボールと同じレベルのものとは思えないので、Lv.3の魔法なのか、もしくはそれ以上なのか。Lv.3は水が範囲攻撃、土が防御だから、火は威力方面なのは納得できるな。甲羅がある以上、やっぱり狙うとしたら顔になってくるか。でも、顔も引っ込められたら、いよいよ無敵だな。今のプレイヤーのレベルであの装甲を崩せるとも思えん。そのかわり動けなくなることで、プレイヤーが戦況を立て直すことができるから、悪くはないのか?
「 」
せっかくのスペクタクルだから優雅にコーヒー片手に観戦しようとしていたら、背中で大人しくしていたと思ったルーが何やら存在感を主張してきた。え?まじ?確かに、ボスに魔法使ってもいいか、とか考えていたけど、あれにはやめとかないか?ほら、他のプレイヤーもいるし。衛兵も集まりつつあるし。タンクは亀を見据えながらも、こちらを常に気にかけているし。
「 」
ルーはあの時よろしく、俺の頭にまで登ってきた。あ、そう。やるのね。じゃあ、バレないようにしないと。こないだの爆発騒動から、まだ日も経ってないし。発生場所が似通っているのは、僥倖か?今回はプレイヤーも大勢いるから、俺一人に集中するわけでもない。
「少し近くで見てみよう。」
リクガメに近づいたら、タンクも戦いたくなるんじゃないかと思った次第。さすがに衛兵という職に就いていて、街のために強大な敵に立ち向かえるというのは、誉なんじゃなかろうか。そこでタンクの俺への視線が切れたタイミングを狙ってルーに魔法を撃たせれば、とりあえず真っ先に俺が疑われることはあるまい。タンクが前回の爆発騒ぎを把握していて、共通項として俺を勘繰ってくる可能性は捨て切れないか?あの力があれば、魔物よけの魔法くらい簡単に破れると容易に想像できる。難しいミッションだが、さすがに魔法使って良いと言った手前、約束を反故にはできない。
「マッドボール。」
リクガメの近くまできた。近くで見ると、さすがの大迫力。タンクへの牽制と、記念受験も兼ねて魔法を打ってみるがまるで効果なし。0ダメージの可能性だってある。
「タンク。俺逃げないから、戦ってきていいぞ。」
「お前は信用ならん。」
なんとなくうずうずしている様だったので、戦闘許可を出してはみるものの、突っぱねられる。ここまでは想定通り。なんだが、信用を得ていないと直接言われるとクるものがある。俺結構誠実にしているのに。
「良いのか?あれに一撃入れられたら、英雄になれるぞ?」
「俺の任務はお前の監視だ。」
なんて欲のないやつ。目の前に街の脅威が迫っているというのに、隊長の言いつけを守り続けるなんて。だが、困った。こんなに近くに来たのにタンクが攻撃に参加しないとは。ルー、もう少し待ってろ。次の手も考えてある。タコスを無理やり口にぶち込んで意識を逸らせるから。いつでも発動させられるようにしておくこと。
「あ!見つけた!おい、お前!嘘つきやがったな!」
「タコスで仲間になる衛兵なんていなかったじゃないか。」
お。ちょうど良いやつが来た。これが渡りに船、か?俺の運も捨てたもんじゃないな。思案していた俺に声をかけてきたのは、昼に俺に衛兵の仲間に仕方を聞いてきたオラオラしていた奴、とそのパーティー。結局彼らは、タコスで仲間を作ることができなかったようだ。それで、俺にキレてくるなんて、本当にちょうど良い奴ら。まるで舞台装置のよう。NPCか?
「そう言われましても。俺は本当にタコスを売っていたら、衛兵さんがついてきてくれたんですよ。それで嘘つかれたと言われましても。」
「うるせえ!返金しろよ!それかその衛兵を俺たちに寄越せ!」
「私としては構いませんが、当人に確認いただかないと。」
これでタンクがそちらに移ってくれるとありがたいことこの上ないんだが。緊急クエストも終わりに向かっているし。刹那的に生きているこいつらをみると、何も考えないその行動が羨ましく思えてくる。俺は色々考えて生きているのに、なぜこんな業を背負わなんだ。考えすぎなのか?
「俺はあなたたちについていくことはできない。」
「彼もそう言っていますので、どうぞお引き取りを。」
「うるせえ。バカにしやがって。この詐欺師が!」
おい!言うに及んで詐欺師とは。聞き捨てならない。他のお客様候補もたくさんいらっしゃると言うのに。明日以降の売り上げに響いたら、どうしてくれるんだ。リクガメとの戦闘の渦中にあっても、相当の耳目を集めてしまっている。俺への同情の目が大半かな?残りは見せ物としての好奇の目。気合い入った奴らは、そもそもこちらを見ていない。早く、殴りかかってこいよ。
「そんな態度だから、衛兵さんも付いて行きたくなかったんでしょうね。」
「てめえ!」
ついにキャパを超えることに成功したのか、思惑通り殴りかかってきてくれた。俺はタンクの後ろに隠れて、タンクに暴徒の相手をしてもらう。タンクの俺への意識が削がれたその瞬間。
「(今!)」
「 」
待ってましたとばかりに、亀の腹あたりを中心として、とんでもないエネルギーの爆発が生じる。近くにいたプレイヤーに当たらないように配慮してくれたのだろう。俺が気にしていたのを覚えていたのだろう。良い奴だな。でも、周りのプレイヤーは吹き飛ばされてしまったぞ。やりすぎじゃない?
さすがボスというか、ルーの一撃では沈まなかった。それでも腹甲に相当のダメージが入っていたのか、弱点でも露出したみたいで、爆風から立ち直ったプレイヤーは混乱しながらも一気にその弱点を攻め立てる。爆発の瞬間に、暴徒もタンクも手を止めたことでこの小競り合いも終わっていた。暴徒達もこんなことをしていても益がないと悟ったのか、捨て台詞を残してリクガメ討伐に参戦していった。お前らはそうでないと。
「ありがとうございました。」
「いや。あの爆発は、前にあったな。」
「そう思います。また近くに何かの魔物がきているんでしょうか。」
俺が原因という考えには至ってなさそうで、一安心。あれだけ一気呵成に攻撃しているから、クエストの終了も間近なんだろう。少しだけリクガメに近づいて、とうにCTも上がっていたマッドボールを撃つ。近づいたことで、戦闘の様子が視認できた。最後に置き土産として、暴徒が剣を振りかぶった時を見計らい【破壊】の力を。俺からの餞別だ。鋭い衛兵なんかはそれで気づいたんじゃないか。その一撃を持って、亀は急旋回し、街から遠ざかっていく。【破壊】の力を持ってしても、倒すまでに至らないとは。さすがボス。恐れ入った。
『緊急クエスト:アインスの街を防衛せよ。をクリアしました。』
『アインスの街の防衛に成功しました。皆様の貢献度に応じて報酬が付与されます。現在集計中ですので、しばらくお待ちください。』
亀が退却してそれほど時間をおかず、緊急クエスト終了のワールドアナウンスが。西門の方でも戦闘が終わったんだろう。向こうはすごいな。ルーの他にも、ものすごい魔法使うやつでもいるんだろうな。そいつはうまく存在を隠せているのだろうか。今度何かあった時は、そいつのせいにしてやろう。
緊急クエストも終了のアナウンスがあり、亀も退却したにもかかわらず、東門に集まったプレイヤーとNPCの緊張は解けない。それどころか、西門の方から他のプレイヤーが集まってくる始末。
「行きましょうか。詰所に案内してください。」
すみません。
こういう形式をとった手前、文字数が嵩んでしまいました。
なんとか1話で終わらせないと、と思いまして。




