ep.8
「ありがとう、美味しかった。」
「料理はそんなに好きではなくてな。一回作ったことあるものはすぐ作れるんだが。」
ホットケーキのレシピが追加された、だそうだ。確認すると【料理】のところにホットケーキがある。自分で作ったものを自分で食べたら登録され、レシピが登録されたら、次回以降材料が手持ちにあれば工程をスキップして作れるようになるらしい。これがゲーム的忖度か。ただ、自分で作ったものよりも少しランクが下がる、とある。いい食材を使えば、手をかければ出来がいいということなのだろう。店主もこれを使ってるのだろう。
「今回足らん分はチャラでいいぞ。」
「 恩にきる。」
しっかり1,000リルは持ってかれた。無銭飲食を見逃してもらったし、コーヒーも追加してもらえたし。悪くはないトレードだ。だが無一文なのは困った。これからどうしよう。ログイン数時間で無一文なプレイヤーなど他にいるだろうか、いやいない。まあ、落ち込んでいても仕方ない。丸く治ったんでよしとしよう。辞去して店を出る。出る時に心なしか、ヒゲの紳士も会釈したように思えた。
「さて、気を取り直して金策に走らなければ。」
何をするにしても金がいるのは現代と同じか。トボトボと記憶を頼りに最初に降り立った地点を目指す。日は若干傾いただろうか。現実世界と時間の流れが異なるのは本当だったようだ。今現在、自分にできる金策とは何かを考える。一番手っ取り早いのは、冒険者となって依頼を受けたり、モンスターを狩ったりだろうか。料理なんかも換金できるだろうが、まだ趣味として楽しみたいんだよな。こっちの世界の食べ物やレシピを色々知れるチャンスだろうし、いつかはそういうところで勉強してみたい気持ちはあるが。まず、旅人を雇ってくれるかだよな。レベル上げて料理人とかいうジョブにでも就けたらいけるか。斡旋所があるのか、それとも自分で売り込みかけねばならんのか。
「あれ、ここどこだ。」
わからないことだらけで、思考の沼に沈んでゆく。考えるのは楽しく、初見で情報の出揃っていないゲームの醍醐味を味わえている。
ふと立ち止まると、知らない道だった。いや、知っている道の方が少ないのだが、完全に初見だ。ただの街並みが再現されているだけで、この建物に人がいる雰囲気はない。
「とりあえず人に会うまで進み続けるしかないか。」
ところどころ右折左折はさみながらなんとなく足の向く方に進んでいく。すると少し先にいかにも人がいそうな凝った見た目の建物があったので近づいていく。周囲は草木に囲まれ怪しい雰囲気。中はごちゃっとしており、いろいろなものが雑多に積んであるところもある。奥のカウンターに妙齢の女性が座っていた。渡りに船だ、冒険者ギルドの位置を教えてもらおう。
「すまん、通りすがりのものだが、道に迷ってしまって。冒険者ギルドまでの道を教えてはいただけないだろうか。」
妙齢の女性は答えず、代わりに親指と人差し指を擦り合わせる。チッ、このババア、金せびるつもりかよ。イラッとしたが、今はこちらが尋ねている側だ。
「すまないが一文無しなんだ。暴れウサギのドロップ品なら出せるが。」
「あんた文無しかい。はあ。冒険者ギルドならその道曲がってまっすぐだよ。」
こちらに金がないことが判ると、大きなため息をつく。だが、道を教えてくれるあたり、悪い人ではないんだろう。擦れてはいるが。
「ありがとう。次来たときに何か買わせてもらおう。」
「ちなみにこちらでは何を取り扱っているんだ。」
「薬とか魔道具だよ、あと古いものも扱ってる。せいぜい金稼いでくるんだね。」
店内を見渡すと確かに薬類が置かれているコーナーがある。物が積んで置いてあるのは女店主の言った古いものの一角なのだろう。なんか今動いたような。もうすぐ崩れそうだぞあれ、いいのか。
「ちなみにHP回復薬はいくらだ?」
「一番程度の低いので200リル。MPのは500リルだよ。」
回復薬も結構するな。MPのは尚更だ。だが、やっぱりあのコーヒーは別格だったんだな。回復薬の金額を知れたことでますます金策をしなければならなくなった。一戦闘毎に回復薬を使っていたら赤字だ。俺のメインウエポンが魔法である以上、MP不足は死活問題だ。なんとか戦闘以外で稼げないか。
「教えてくれてありがとう。俺は旅人のGAKU。いろんなことやりたくて来た。」
礼を言って立ち去る。自分の名前を売るのも忘れない。どこに金脈があるかわからない。この女店主が金の成る木かも知れないのだ。結構踏んだくられそうな気もするな。




