第108話 住民の反発
その日の午後。
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空き地の市場は、
異様な空気に包まれていた。
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人はいる。
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だが。
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笑顔は少ない。
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代わりに。
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苛立ち。
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不満。
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疑い。
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「もうやめろ!」
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誰かが叫ぶ。
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その声が。
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一気に広がる。
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「危ないんだよ!」
「通れねえんだよ!」
「うるせえんだよ!」
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怒号。
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カイルが
眉をひそめる。
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「来たな」
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リーネは
静かに前に出る。
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「話を聞かせてください」
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「聞いてどうすんだよ!」
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男性が
怒鳴る。
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「最初は良かった!」
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「でも今はどうだ!」
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「ぐちゃぐちゃじゃねえか!」
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周囲も
同調する。
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「安全じゃない!」
「子供が危ない!」
「道が塞がってる!」
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正しい。
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すべて。
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正しい不満だった。
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リーネは
黙って聞く。
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反論しない。
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否定しない。
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ただ。
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受け止める。
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その様子に。
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少しだけ
声が弱まる。
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「……で」
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別の男が言う。
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「どうすんだよ」
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視線が集まる。
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答えを求めている。
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リーネは
静かに言う。
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「修正します」
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短い言葉。
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「信用できるかよ!」
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即座に返される。
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空気が張り詰める。
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カイルが
一歩前に出る。
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「じゃあ聞くけど」
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低い声。
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「今のままがいいのか?」
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沈黙。
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誰も答えない。
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カイルは続ける。
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「元に戻すか?」
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「全部やめるか?」
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少しずつ。
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視線が揺れる。
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あの頃。
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静かだった街。
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何も起きなかった街。
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安全だった。
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だが。
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止まっていた。
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「……それは」
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誰かが呟く。
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言葉が続かない。
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カイルが
少しだけ笑う。
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「だろ?」
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「今はめちゃくちゃだ」
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「でも」
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「動いてる」
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リーネが
静かに言う。
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「だから」
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「整えます」
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視線はまっすぐ。
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「安全を確保し」
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「ルールを作り」
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「続けられる形にします」
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沈黙。
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誰もすぐには
納得しない。
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当然だ。
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信頼は
壊れている。
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その時。
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「……やってみろよ」
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小さな声。
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最初に出店した店主だった。
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「俺は」
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「まだやりたい」
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その一言で。
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空気が変わる。
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「……俺もだ」
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「やめたくはねえ」
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「でもこのままは無理だ」
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声が増える。
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否定だけではない。
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迷い。
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揺れ。
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そして。
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わずかな期待。
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リーネは
その全てを見る。
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そして。
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「三日ください」
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静かに言う。
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「三日で」
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「形にします」
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カイルが
横で小さく笑う。
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「短っ」
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リーネは
答える。
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「時間がないので」
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その言葉に。
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誰かが
小さく笑った。
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ほんの少しだけ。
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空気が緩む。
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完全ではない。
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だが。
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崩壊は止まった。
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リーネは
空を見上げる。
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まだ。
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終わっていない。
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ここから。
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本当の勝負が始まる。
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