第105話 拡張と歪み
変化は、
想像よりも早かった。
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空き地の市場。
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一週間で。
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十店舗。
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二週間で。
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二十店舗。
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三週間で。
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数えきれなくなった。
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「……増えすぎだろ」
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カイルが
呟く。
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「予想以上です」
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リーネも
少しだけ眉をひそめる。
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人は。
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“やっていい”と分かると。
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一気に動く。
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それは
良いことだ。
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だが。
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「場所が足りません」
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担当官が言う。
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空き地は
もう埋まっていた。
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テント。
屋台。
即席の店。
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ぎゅうぎゅうだ。
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「じゃあ広げるか」
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カイルが軽く言う。
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「どこに?」
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「隣の区画」
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「そこはまだ
未承認です」
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「じゃあ承認すればいい」
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「手続きが――」
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「省略できるだろ?」
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担当官が
言葉に詰まる。
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制度上は可能。
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だが。
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不安がある。
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「……やりますか」
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担当官は
小さく言う。
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決断だった。
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その日から。
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市場はさらに広がった。
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人が増える。
店が増える。
売上も増える。
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街の空気が変わる。
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「いい感じだな」
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カイルが笑う。
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リーネは
黙って見ていた。
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数値も上がっている。
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だが。
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「……早すぎる」
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小さく呟く。
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その時。
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「ちょっといいか!」
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怒鳴り声。
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振り向く。
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警備担当者だった。
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「人が多すぎる!」
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「通路が塞がってる!」
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「危険だ!」
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ざわめき。
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さらに。
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「苦情が来てるぞ!」
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別の担当官が走ってくる。
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「騒音!」
「ゴミ!」
「無許可営業!」
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一気に。
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問題が噴き出した。
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カイルが
顔をしかめる。
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「出たな」
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「こういうの」
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担当官が
慌てて言う。
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「どうしますか!?」
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リーネは
周囲を見る。
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混雑。
混乱。
不満。
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成功は。
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制御されていない。
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「……止めます」
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静かな声。
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全員が
止まる。
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「え?」
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「一部停止です」
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「エリア制限」
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「人数制限」
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「時間制限」
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矢継ぎ早に指示。
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担当官たちが
動き出す。
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だが。
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「なんでだよ!」
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店主が声を上げる。
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「せっかく回ってるのに!」
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「売れてるのに!」
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不満が
一気に噴き出す。
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カイルが
リーネを見る。
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「どうする?」
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リーネは
静かに言う。
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「止めないと」
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「崩れます」
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短い言葉。
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だが。
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正しかった。
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制度は。
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拡大すればいいわけではない。
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**制御できなければ壊れる。**
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カイルが
小さく息を吐く。
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「難しいな」
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「ええ」
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リーネは
うなずく。
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「これが」
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「制度です」
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成功。
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だが。
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同時に。
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歪みが生まれた。
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そして。
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その歪みは。
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まだ、
序章に過ぎなかった。
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