第100話 評価の副作用
ヴァルト市の朝は、
静かだった。
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人はいる。
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だが。
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動きが少ない。
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駅前。
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人は歩いている。
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だが。
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誰も急いでいない。
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「……なんか」
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カイルが言う。
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「全体的に
“安全運転”だな」
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リーネは
うなずく。
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「ええ」
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「失敗しない動き」
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その言葉に、
担当官が反応する。
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「当然です」
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「失敗すれば
評価が下がる」
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「評価が下がれば
予算が減る」
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迷いのない声。
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「だから」
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「確実なことしか
やらない」
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それが。
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この街の
“普通”だった。
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工場へ向かう。
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ラインは動いている。
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無駄がない。
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効率的だ。
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「改善提案は?」
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リーネが聞く。
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現場の責任者は
少し困った顔をする。
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「以前は
ありました」
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「ですが」
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「今は
出ていません」
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「なぜ?」
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「リスクがあるからです」
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即答だった。
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「改善は」
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「成功すれば
評価が上がる」
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「でも」
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「失敗すれば
評価が下がる」
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リーネは
静かに聞く。
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「成功確率は?」
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「分かりません」
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「だから」
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「やらない」
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合理的。
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完璧に
合理的な判断だった。
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カイルが
小さく笑う。
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「つまり」
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「成功確定以外は
全部却下か」
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「はい」
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迷いなく答える。
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その目に、
疑いはない。
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それが
正しいからだ。
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次に向かう。
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商店街。
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シャッターの前に
一人の女性が立っている。
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「ここは?」
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「元々は
飲食店です」
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担当官が答える。
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「なぜ閉めた?」
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カイルが聞く。
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女性が
少しだけ笑う。
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「新しいメニューを
出そうとしたんです」
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「でも」
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「売れるか分からない」
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「失敗したら
赤字」
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「評価も下がる」
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彼女は
肩をすくめる。
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「だから
やめました」
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あっさりと。
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それは。
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諦めではない。
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判断だった。
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リーネは
静かに言う。
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「もし」
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「失敗しても
評価が下がらなかったら?」
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女性は
一瞬だけ
考える。
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そして。
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「やってましたね」
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即答だった。
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カイルが
笑う。
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「分かりやすいな」
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そのまま歩く。
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街は。
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壊れていない。
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むしろ。
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整っている。
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だが。
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動いていない。
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「……制度の副作用」
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リーネが呟く。
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担当官が
静かに言う。
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「我々は」
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「正しく運用してきました」
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「無駄をなくし」
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「効率を上げた」
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その通りだ。
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「でも」
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カイルが言う。
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「未来も削ったな」
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担当官は
何も言えなかった。
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リーネは
空き地を見る。
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広い。
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何もない。
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だが。
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ここには。
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“やらなかった未来”が
ある。
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「始めましょう」
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静かな声。
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担当官が
顔を上げる。
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「何を?」
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「挑戦を」
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短い言葉。
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だが。
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この街では。
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久しく
聞かれなかった言葉だった。
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カイルが
笑う。
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「いいね」
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「久しぶりに
面白くなりそうだ」
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リーネは
うなずく。
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ここから。
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制度は。
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“人を動かすもの”に
なるかどうかが試される。
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