第99話 ヴァルト市
ヴァルト市役所。
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古い建物。
だが中は整然としている。
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効率的。
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無駄がない。
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そして。
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妙に静かだった。
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「こちらが
現状のNCI内訳です」
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会議室。
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市の担当者たちが
資料を並べる。
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数字。
グラフ。
評価指標。
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すべてが
整っている。
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「経済効率は
全国平均より上」
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「赤字事業は
すべて削減済み」
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「人件費も
最適化されています」
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担当官は
どこか誇らしげに言う。
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カイルが
横で小さく呟く。
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「……それでこの街か」
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誰にも聞こえないくらいの声。
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だが。
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リーネは
聞いていた。
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「問題は?」
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リーネが聞く。
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担当官は
一瞬だけ
言葉を詰まらせる。
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「問題は……」
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少し迷ってから言う。
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「特にありません」
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沈黙。
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カイルが
顔を上げる。
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「いや、あるだろ」
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全員が
彼を見る。
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「空き地」
「人減ってる」
「商店街死んでる」
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指を折りながら言う。
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「問題だらけじゃねえか」
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会議室の空気が
固まる。
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担当官が
顔をしかめる。
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「それは」
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「効率化の結果です」
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「非効率なものは
排除した」
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カイルは
少しだけ笑う。
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「なるほど」
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「じゃあ聞くけど」
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机に手を置く。
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「次、何やるつもり?」
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担当官は
答えない。
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答えられない。
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「……現状維持です」
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やっと出た言葉。
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カイルは
天井を見る。
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「終わってんな、この街」
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誰かが
咳払いする。
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空気が
悪い。
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だが。
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リーネは
静かだった。
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「挑戦枠を使います」
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全員の視線が
集まる。
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「この都市を」
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「実証対象にします」
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担当官が
驚く。
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「ここを?」
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「はい」
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「一年で」
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「変えます」
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会議室が
ざわつく。
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「無理です」
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即答だった。
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「ここは」
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「リスクを取れない構造に
なっている」
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その通りだ。
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NCIがある限り。
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失敗は許されない。
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「だから変える」
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リーネは言う。
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「挑戦枠は」
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「NCIに直接影響しない」
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担当官が
目を見開く。
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「……そんなことが」
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「制度上、可能です」
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静かな説明。
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だが。
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現場にとっては
異常だった。
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「失敗しても
評価が下がらない?」
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「一定範囲では」
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「はい」
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沈黙。
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誰もが
その意味を考える。
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カイルが
ニヤッと笑う。
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「つまり」
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「やっても怒られない枠か」
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「違います」
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リーネは
即座に否定する。
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「責任はあります」
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「ただ」
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「挑戦を理由に
評価は下げない」
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カイルが
肩をすくめる。
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「まあ似たようなもんだろ」
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担当官が
ゆっくり座り直す。
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そして。
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「……本当にやるんですか」
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リーネは
うなずく。
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「はい」
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「この街で」
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「最初の成功を
作ります」
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短い言葉。
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だが。
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重い。
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担当官は
深く息を吐く。
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「分かりました」
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そして。
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「協力します」
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その一言で。
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止まっていた街が。
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少しだけ
動き始めた。
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カイルが
小さく言う。
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「さて」
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「何からやる?」
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リーネは
窓の外を見る。
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空き地。
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静かな街。
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「まずは」
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「動かす」
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同じ言葉。
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だが今度は。
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現実を相手にする言葉だった。
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