第101話 誰も挑戦しない街
ヴァルト市役所。
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リーネたちは、
再び会議室にいた。
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「では」
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リーネが言う。
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「空き地の一部を
使います」
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「新規事業の
試験導入です」
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担当官たちが
顔を見合わせる。
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そして。
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一人が手を挙げた。
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「前例がありません」
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カイルが
すぐに反応する。
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「そりゃそうだろ」
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「挑戦枠だぞ」
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担当官は
真顔で言う。
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「前例がないため」
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「承認できません」
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沈黙。
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カイルが
ゆっくり振り向く。
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「……いや」
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「そのための制度だろ?」
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「制度上は可能です」
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別の担当官が言う。
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「ですが」
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「運用実績がありません」
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カイルが
天井を見る。
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「出たよ」
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「“できるけどやらない”やつ」
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リーネは
静かに言う。
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「承認フローは?」
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担当官が
資料を出す。
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分厚い。
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カイルが
思わず声を出す。
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「厚っ!」
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「これ全部やるの?」
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「はい」
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「順番に承認を
取ります」
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ページをめくる。
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部局承認。
予算承認。
安全審査。
地域合意。
最終承認。
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「期間は?」
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「最短で
三ヶ月です」
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沈黙。
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カイルが
ゆっくり言う。
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「一年以内に成果だよな?」
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「はい」
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「三ヶ月
承認待ち?」
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「はい」
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カイルは
顔を覆った。
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「終わってるわ」
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担当官が
少しムッとする。
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「必要な手続きです」
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「安全のため」
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「責任のため」
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リーネは
静かに聞いていた。
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そして。
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「このフローは」
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「通常評価前提ですか?」
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担当官が
うなずく。
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「はい」
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「失敗時の責任があるため」
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リーネは
資料を閉じた。
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「では」
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「挑戦枠用に
簡略化します」
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全員が
止まる。
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「……え?」
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「制度上」
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「挑戦枠は
通常評価外です」
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「つまり」
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「同じ承認は
不要です」
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担当官たちが
ざわつく。
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「そんなことは」
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「前例がありません」
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「今作ります」
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即答だった。
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カイルが
吹き出す。
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「いいねえ」
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「それそれ」
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担当官が
戸惑う。
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「ですが」
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「責任は」
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「制度が持ちます」
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リーネは
はっきり言う。
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「挑戦枠は
国家政策です」
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「個人責任ではありません」
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沈黙。
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担当官たちは
言葉を失う。
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今まで。
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すべては
個人責任だった。
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だから。
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誰も動かなかった。
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リーネは
続ける。
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「必要なのは三つです」
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指を立てる。
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「目的」
「期間」
「上限」
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「それだけで
承認します」
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カイルが
笑う。
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「一気に軽くなったな」
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「本来は
これでいい」
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リーネは言う。
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担当官が
ゆっくり座る。
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頭を抱える。
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「……こんな簡単で
いいのか」
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「いいんです」
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「挑戦だから」
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短い言葉。
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だが。
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この街では
革命だった。
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カイルが
立ち上がる。
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「よし」
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「じゃあやろうぜ」
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「最初の一個」
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担当官たちが
顔を上げる。
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誰も動かなかった街。
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だが。
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今。
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初めて。
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“動く準備”が整った。
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リーネは
静かに言う。
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「ここからです」
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制度はまだ
証明されていない。
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だが。
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確実に。
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一歩、前に進んだ。
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