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Karte.21-2「そいつが救いのあるヤツなら」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。


 ✕


 それは一年に一度の催し、新入隊員を募る各隊合同説明会の日のこと。

 パラダイスナイトガーデンには、騎士隊ごとに特色のある宣伝ブースが設けられていた。

 たとえば『最強』の戦力が集う花形の第一隊では、マンツーマンの面接カウンターを並べ、激レア装備を身につけた主力騎士たちが自ら志願者の話し相手となっていた。

「憧れの『EinzRitter(アインツリッター)(騎士団第一隊)』の、しかも『撃唱(フォー・アンサンブル)四珠(・ジュエル)』の、おまけに『六輝人』のあなたとお話できるなんて! こんなやたらと多い通り名まで全部覚えたんですよ感激ですデュフフ……そのレジェンド装備エロ……えろうカッコいいですねデュフフフフ……」

「ありがとう! 私たちならどんな悪にも負けないわっ、ベルアーデの正義は私たちが守ってみせる!」

 やたらと多くて長い通り名は伊達ではないらしい。単純な物理防御力ではなくエーテルで護られたエピック装備のほぼ丸出しな横乳や尻を揺らしながら、彼ら彼女らは自分たちの在り方に一点の曇りも無いようだった。

 たとえば物理系ジョブの猛者が集う第二隊と魔法系ジョブの賢者が集う第三隊は、合同演武の形式でオリジナル(アーツ)を志願者たちへ披露していたり。

「いくぜマッちゃん!」

「こいやナベっち!」

「エフェクト班、今です」

「「《氷炎連斬砲》!!」」

「「「「おお~~~~。パチパチパチパチ」」」」

「ちっ、急所は外したか」

「考えることは同じ……」

 根っこはどちらも体育会系なライバル同士、ショーどころか本気でぶっ倒そうとしていたが、それはそれで熱血バトルとして盛り上がっているようだった。

 他にも、

 職人集団である第四隊は、津々浦々の魔物の革を使った特大パッチワークや新型防具を展示していたり。

 学者揃いの第五隊は『星辰と魔物『ソレ』系の関係』と題した仮説を講義していたり。

 諜報専門の第六隊は、時限性の機密クリアランスが解除された大事件や陰謀の真実を同人誌形式で配布していたり。

 そして、

 第七隊はといえば、七番館前の演習場予定地……とは名ばかりの空き地にて、

「シェリスさあん、1連鎖で1コずつオジャマさめ送りまくるのやめてよお。ちょお早い早い、これってそがーゲームじゃないけん~」

「てやんでぃ、連鎖なんて運なのだわ。なんで一回ぐらい適当に大連鎖しねぃかなぃ~」

 ……リビングから持ち出したローテーブルとソファを並べ。シェリスとマリーが、フェアリーを介したパズルゲームで対戦していた。

「ねえ、白熱するのはいいけど足バタバタさせないでほしいんだけど。さっきから土埃が飛んできてるの」

 ーー プレイリスト『1852春:02』 の 編集 を 終了します ーー

 そこにはハナもいた。隣り合わせでソファに座った王女と侍女へ目もくれず、もう一脚のソファに相変わらず寝そべっていたのだ。

「ほははは、そんならおまえが離れりゃいいのだわ。だいたい、第二隊の『隠しキャラ』様がこんなとこで油売ってていいのかぃ~?」

「あたしはあんたたちに拉致られてるだけなんだけど。あのサムい第一隊だけならともかく、こんな『ごっこ遊び』みたいな騎士隊にまでヘッドハンティング狙われて、断ったのに準隊員みたいな扱いでここに座らされてる」

「そりゃ去年の話だろぃ。今年は呼んでねぃのに居座りやがってぃ」

「ふふ~、わしらのせいにしといたら楽だもんねえ。ええんよええんよ、ゆっくりしてきんさい」

 マリーが卓上の雪玉揚げをつまもうとした時、鈍い轟音が空き地の奥から爆ぜた。

『ガガ。ッシュ』

「ありがとシュネーヴィ」

 マリーの分身たる全長2.5メートルのメイドメカ……妖精機(フェアリーギアス)シュネーヴィがパラソルを開き、降ってきた黒土を防いだ。

「ほらなぃ、だから黒土なんか入れなくていいっつったんでぃ」

「え~~。ベースボールとかしたいじゃろ、いつか」

 マリーとシェリスの二人が……いや、ハナもいちおう顔を向けた空き地の奥では、ある模擬戦の勝敗がついたところだった。

 実直そうな美男子が、引きつった息遣いとともに尻餅を付いていた。

「わ、私の杖が……!」

 第七隊への志願者らしい彼の目前で、地に打ち付けられていた杖が無惨に壊れていく。

 先端に据え付けられていた宝珠のオーバーロードによって、無数の牙を生やすように黒土を崩壊させていた杖が。

「ッッ……は、ぁ、っ……はぁっ……」

 その残骸を美男子の目前で振り下ろしていたのは、杖をぶんどっていたのはリヒャルトだった。

 獣じみた凄みを見せる彼を、美男子のフェアリーが《ステータス》にかける。

 ーー シークレットモード ーー

 ーー レベル■■■ ■■■■■■■■ リヒャルト ーー

 ーー ■■■スキル 《■■■■■■■■》 ーー

 ーー ■■■! ■■■! ■■■! ーー

 秘匿されてはいたが、彼が発揮した異能を見ればその正体は実質明らかだった。

 ーー レベル3 杖術(神級) ーー

 いかにも。それは人を超えかけ、神がかった業だった。

 リヒャルトは美男子へ食らいつくように杖をぶんどり、一度限りで壊してしまったものの杖のスペックを神がかりに発揮してみせたのだ。

 マジックユーザーではない彼が。杖の取り回しからオーバーロードのさせかたまで一瞬でマスターしたうえで、魔法ではなく殴打で使い捨てたのだ。

「チートか……っ!? こんなのが試験の相手なんて聞いていないぞ私は、勝てるわけがないじゃないか……!」

 チート。

 誰も故を知らず、この『星』の理を逸脱したスキルやアイテムとして現れる異常存在。

 人の世を乱せば即時の処分が妥当とされる『救えざるもの』。

「だいたい、平和を守る騎士隊になんでチート使いがいるんだ……!」

「ほいそこまで。見えっかぃ? これ、おまえがサインした同意書でぃ」

 美男子が詰めよってくる前に、シェリスが安っぽい同意書を突きつけた。

「マリ~」

「こほん……ここに明記してあるでしょ? 『入隊および採用において』……こん場合の『採用』は『採用試験』も含むっちゅう注釈付きじゃあね、『物的、人的、赤っ恥的等あらゆる損害による責任をベルアーデ帝国および所属機関は負わない』って」

「そ、そういう問題じゃ……!」

「んじゃどういう問題でぃ? この騎士団で悪さしてるわけじゃなし、兄弟に文句があんならそいつを預かってるシェリスさんが聞いてやんのだわ。ほれバッチコーイ」

「っ……シェリザベート様はどうして、この隊の長であらせられるのにチート使いを仲間に……」

「そりゃあそれがシェリスさんたち第七隊のやりたいことだからなのだわ。他のどんな連中に見捨てられても、そいつが()()()()()ヤツなら手ぇ差し伸べてやるってなぃ」

「……良くも悪くもだろ……」

 目を逸らしたリヒャルトがごちていた。

「……失望しました」

 一方、首を振った美男子は杖の残骸を回収し、空き地の出口へ歩きだした。

「他に断られた依頼でも、公序良俗に反しないものなら必ず受ける……そんな思想に共感しましたが、その(じつ)がこんな有り様ではやっていけません。志願は辞退させていただきます」

 通りすぎざまにキッとシェリスを睨み、貴重な志願者は他の隊のブースへ去っていったのだった。

「なんでぃ。な~んもブレちゃいねぃだろぃ」

「そもそも、勝ったら合格負けたら不合格とも言ってなかったのにねえ。あれじゃあどのみち不採用じゃわい」

「「…………」」

 ハナと同じような渋面で、リヒャルトが隆起した土の牙に腰を下ろした。

「こんにちはあ! ここが第七隊だよね?」

 と、今度は歩くブリキのバケツ……もとい、地方からのお上りさんなのだろう純朴そうな中年男性がやってきた。

「シェリス王女に侍女のマリーさん! おれ、ファンなんだ! 第七隊に入ればシェリス王女たちと一緒に平和を守っていけるんだよね、ぜひ……」

「不採用。ここはファンクラブじゃないんでぃ」

 食い気味に、シェリスが投げた金剛シャベルが中年の足元から数ミリ先に突き刺さった。

「い、いや、お二人への忠誠心から言っただけだよ、平和を守る気持ちは本物で……」

「却下! そんなら正規軍でも目指しなぃ、おっさん!」

「衛兵さ~ん。こん人です、正規軍に入隊希望じゃあて~」

「ほう」「そりゃありがたい」「さあ一緒に愛国心を分かち合おう」「あらやだ、俺ほどじゃないけどイイカラダしてるわね」

「!??!?!!?」

 男性は衛兵たちに拐われていった……。

 そして今度こそ、第七隊へやって来る者は誰もいなくなった。

「あーあ、今年も収穫は無しなのだわ」

「なあに言ってるの。いちおう今年度分の新入隊員としてリヒトがいるじゃない」

「外で拾ってきたほうが早かったなぃ。となりゃあますます、こんな説明会なんざ役に立たねぃっと」

「あはははは。リヒトぉ、わりゃーさんはげにラッキーさんじゃのう~」

「ほはははは。おまえの経験値になるんだからもうちょい長く戦えよな兄弟ぃ、恥ずかしがり屋めぃ」

「うるっさいな……! 人を見世物にして楽しいのかよ!」

 本気で言っているのかどうか、隊長と副隊長は肩を揺らしあった。

「本当に『ごっこ遊び』ね。何がしたいかわからないんだけど」

 と、黙して静観していたハナもついに身を起こしてしまった。

「他がやらないクズみたいなクエストばっかり受けて、報酬もゴミだらけ。そうでなかったら予算稼ぎのバイトに追われて、まともに新入隊員も取らないと思ったらチート使いの野良犬拾ってきて。下に見られて当然なんだけど」

「よく見てるわねえハナちゃん」

「やっぱうちの隊員にふさわしいのだわ」

「冗談やめてほしいんだけど」

 テーブルの上でスナックの敷物になっていた同意書の綴りから一枚引き抜くと……、

 サインを走らせ、ハナは立ち上がった。

「「お?」」

 きょとんとしたシェリスとマリーだったが、ハナは応えることもなく空き地の奥へ向かった。

「……は? お、おい、なんだよ……ょべっっ」

 自省にでも耽っていたらしいリヒャルトがようやっとハナの足取りに気づいたが、その時にはのけぞっていた。

 サーリットヘルムを外したハナは、その(かど)でリヒャルトの額をひっぱたいたのである。

「ッッ、でッッ、なにすんだよ!?」

 悶絶したリヒャルトがようやく持ち直した時には。さらに歩き続けたハナは、サーリットを被り直しながら彼と距離を取っていた。

「なにって? 武器を取りなさいよ」

 そう、彼と対峙する中距離で抜刀ムメイを鞘ごと持ち、向き直ったのだ。

「…………ッッッッ!」

 あの美男子とのやり取りから募らせるものがあったのだろうか。先ほどよりも尖った獣の目付きへ一転し、リヒャルトはハナへ挑みかかってきた。

「バカなんだけど」

「おぶぁっ!?」

 だから。ステゴロの彼に近づかれる前に、居合剣気で返り討ちにした。

 峰打ちの要領で刃を返していた剣気はいちおう殺傷力を持たず、リヒャルトをくの字に蹲らせたが斬ってはいなかった。……反射してなお飛んでいき、城壁の一面を半分ほど打ち壊した。

 ーー 始末書 を 自動 作成 します ーー

 ーー 被害額 を 見積もり中 ーー

 ーー 引出魔法ウィズドロー ーー

 ーー 残高 大金貨 146558枚 ーー

「あんたの武器を取りなさいって言ったの。あたしの武器を取りなさいなんて言ってないんだけど」

 深呼吸、血振りならぬエーテル振りの『残心』、目で追いながら『納刀』。やるまでもなかったがルーティンとともにハナは抜刀ムメイを腰にまた佩いた。

「わか、っ、て、るよ……」

 睨み上げてきたリヒャルトの両腰には、いかにも、魔導式の二丁拳銃パラレラムが提げられていて。

「だけどこいつはサポート向きなんだ、俺のチートでも魔弾が強化されたり魔法が使えるようになるわけじゃない。それよか、敵の武器をぶん取って一撃で終わらせるほうが手っ取り早いだろ……」

「下手な言い訳はやめてほしいんだけど。それであんたが勝てるのはあんたをナメた人間だけだし、獣や魔物が相手ならどうするわけ?」

「ぐっ……」

「ハッキリ言うけど。あんたは自分の武器に愛着も無いし自分の戦いかたに芯も通ってない、だからそんな場当たりしかできないんじゃない」

「こんな、貰った武器に愛着なんて持てるか!」

「貰っといて使ってるならなおさら。自分で選びもせずにイキってるだけなんだけど」

「うぐっ……」

「チート使うのやめて、ちょっとは剣銃術でも練習したら?」

 今度は、リヒャルトは地べたに座り込んでしまった。

「……チートでも使わないと勝てないんだよ。俺は」

「じゃあチート使えば」

「どっちだよ!?」

「どっちでもいいけど。……少なくともあんたは、チートを使うか使わないかで迷ってるように見えるけど……あたしに言わせれば贅沢な悩みなんだけど」

「はあ……? なにがだよ」

「忘れて。なんでもないんだけど」

 ハナは背を向けてソファのほうへ戻っていく。

 ……が、一度立ち止まって。

「とにかく。どんな力をどんなふうに使うのか……選ぶのはあんたなんだけど」

「……。チートだろうとスキルはスキル……それ以上でもそれ以下でもない、か」

「はあ? なにそれクサいんだけど」

「ほっとけ!」

 振り向こうとしたが、やっぱりやめて。

「ほははははハナ美ぃ、そんじゃまぁこのサイン済み同意書に基づいて試験結果を伝えるのだわ。んんんんじゃかじゃかじゃかじゃか……」

「辞退するけど」

「でゃっっ」

「わあ、紙吹雪じゃあ」

 シェリスが突き出した同意書が、居合剣気によって微塵となった……。


 ◯


 昼下がり。

 思い思いに昼休みを過ごしていた騎士たちが、弁当箱やバレーボールを片付けて砦へ戻っていく。

 そんなパラダイスナイトガーデンの空に、特大の《リターン》ゲートが開いた。

「おうああああ!?」

「あう、あう、あわわわわ」

「ほーっはっはっはっはっはっ」

「なんならぁぁぁぁ!?」

 帰還したハルトたち第七隊は、泥だらけの姿で落ちていった。

 ーーホスホスホゥスッ

 ーーホウッッ、

 ーースァァァァァァ!

 機工の骨組みから溢れんばかりに猛った馬型のエーテルたち……三頭立ての()()()()()()にしがみつきながら。

 耳をつんざく墜落音に騎士たちがギョッと振り向いた。

『ガッ』

「あっ」

 荷車の扉にしがみついていたシュネーヴィが、軟着陸の衝撃でドベシャとずり落ちてしまった。

 錠が壊れていたのを全身で閉めていたのに、開かれてしまった。

 ーーオブヒィィィッ!

 ーーオフゴッ、オフゴッ

 ーーオークゥゥゥゥゥゥ!

「あちゃああああ()()()が大脱走じゃああああ!」

 荷車から吐き出されていったのは、四足歩行の人面豚たちだった。

 廉価な豚肉として畜産されている魔物、オークである。

 眉無しで豚鼻、小さいながらも牙が生えた厳めしい人面。揃って皆同じ顔だが、いちおう、リボンのような角が生えているほうはメスである。

 ーーオアイラブユウゥゥ!

 ーーオジュテーム!

 ーーオウォーアイニーッッ!

「ぎゃああああ!?」「くんなくんな!」「クッサおいクッサ!」「豚よ豚!」「豚以下だよ!」「こぅらぁぁ第七隊ぃぃぃぃ!」「姫様ご勘弁をぁぁぁぁ!」

 それらが目の奥にハートを浮かべながら、目に付く騎士たちへ猛アタックしはじめたのだ。

 物理的にも、発情期的にも。

「だからやめろよシェリスおまえ処理に困ったやつを《リターン》で道連れにするのはああああ!」

「大丈夫でぃ、こいつら全員去勢してっからエロ本みてぃなことにはならねぃのだわ」

「去勢しててこの勢いなの!? いや違う違うそがー問題と違くてえ!」

「あの。去勢したオークさんは逆に同性へ発情するようになる、と牧場主のおじさんが言っていたような……」

 暴走を続ける魔導馬車の屋根へちゃっかりとよじ登り、しがみつき、第七隊だけは無事だった。

 まあ。悪臭のする汚泥にまみれた姿を無事といえればだが。

 卑しい人面豚に押し倒された(主に男性)騎士たちがベロベロクンカクンカされるのは直視に堪えず、とにもかくにもハルトたちは事態収拾のために動き出す。

「シェリスとマリーはこの馬車を止めろ! 俺とイエはオークどもを……ああくそっ、ダメもとだがあいつの力を借りて何とかしてみる!」

「あいよーぃ。んやー兄弟もなかなかイイ面構えするようになったなぃマリー」

「ボケてる場合ですかっ。よろしく頼むわあ二人ともっ……シュネーヴィこっちじゃあ!」

『プシュルッ』

 城下町へ逃げようとした騎士たちを押し退け、外苑の門扉を閉ざしたシュネーヴィがとんぼ返り。エーテルバーニアを噴かして魔導馬の一頭に組み付けば、シェリスもマリーも残り二頭へそれぞれ飛び乗った。

 その衝撃で跳ねるようにドリフトした荷車から、イエを抱っこしたハルトは跳び降りた。

「オークはー外、福はー内」

「もう全部撒け撒け出し惜しみするな!」

 ーーオブヒッ!

 ーーオキシッオキシッ

 ーーオオオンナキシィッ

 追ってきたオークたちへは、彼らの好物であるクッコロッケを撒いて時間稼ぎ。

 全力疾走の二人は、七番館へと向かった。

 すると、目前というところで正面口が開かれた。

「……はあ? ……はあ……」

 眠たげなハナが扉を開けたのである……てんやわんやな外苑を見て、察して、すぐにまたそっと閉めたのである……、

「待て待て待て閉めるな閉めるな!」

「失礼しますハナさん……!」

 閉めきられる前に、ハルトとイエはロビーへ滑り込んだ。

 直後に施錠までされた扉へ、オークの群れが激突したらしい轟音が連打された。

「……うるさいんだけど」

「ハナ! 手を貸してくれるか!?」

「あいつら去勢してる?」

「してます……!」

「じゃあべつに大した被害も出ないじゃん。もう一眠りするけど」

「おいいい! やっぱダメかよ!」

 ハナはソファのほうへ踵を返した。

「あ、そうですハルトさん、ダメもとというなら私にも一つ考えが」

「あるよな! おまえの考えてることはだいたいわかる!」

「……?」

 ハナが怪訝そうに振り向いてきたが、ハルトとイエはすでにアトリイエへの裏口へアタックしていた。

 住まいを兼ねた、一間だけのささやかなアトリエ内……、

 パーティションで区切られたハルトとイエの生活スペースの狭間に、目当てのものはあった。

 世界に100個も無いといわれる虹宝箱を改造した、ドールサイズの寝台だ。

 鍵穴の代わりに備わった小さなクリスタルへイエがタッチすると、ロックされていたそれは生体認証により開かれた。

「ただいまです、お姉さん」

「すぅ……すぅ……すてぁ……」

「たまには大人しく寝かせてやりたかったが、連れていくべきだったな……!」

 イエが抱き上げたのは、長すぎる闇色の髪を湛えた生き人形の少女だ。

 アリステラ。かつては旧き『星』の意志だったが、今はこんな受肉体に宿った自称守護精霊だ。

「こど……いや違う、人形……?」

 戸口まで来ていたハナがますます不思議がっていたが、眠れる人形少女を回収した二人はさっそくロビーへ戻った。

「後で全部説明するからちょっと待っててくれハナ! ……イエ、何も無いよりはマシだやってくれ!」

「了解です。《ウィッチクラフト》」

 ーー レベルダウン! ーー

 ーー レベル2 白魔法師 イエ ーー

 イエがローブの胸元から闇色のクリスタルでできたタリスマンを抜き出し、オドエーテル(体内魔力)を集束させた。

 それは一条の『闇』の輝きとなって、フードの中で眠る人形少女へ捧げられた。

 そしてイエの目前へ返された時には、輝きはポンッと形を成していた。

「こんなの出ました」

「……いやな思い出が蘇るな。笛か」

 イエがキャッチしてみせたそれは、一見するとアクセサリーのようなごく小さい笛だった。

 ーー レベル99 フライ・ザ・コーラー ーー

「……はあ? ……はああ? レベル99?」

「おはよう。それとはじめまして、ハルトの友人かしら」

「待って、一つずつにしてほしいんだけど。レベル99のアイテムに生きてる人形?」

 この世の理の最大レベルを示してみせたそのアイテムと、余剰エーテルによって目覚めたアリステラと。ハナはどちらからツッコむべきか決めかねているようだった。

「だから後でって言ったろ! アリステラっ、これってどういうアイテムだ!?」

「ひょっとしなくても、窓の外にいるあのオークたちをなんとかしたいのね」

「そう!」「そうです……!」

 窓の向こうに、積み重なった人面豚たちがびっしりとへばりついていた。

「それなら当たりよ。吹けば分かるわ」

「ぴゅひーーーーっ」

「うるさ!?」

 ーーピュヒーーーーッ!

 イエがおもいっきり笛を吹けば、超音波に近いだろう高音が鳴って。

 先端からエーテルが飛び出し、瞬く間に生物の形となりながら着地した。

 ーーマムン~ッ

「わあ。キレイなワンちゃんさんです」

「人面犬だけど」

「あと『ワンちゃん』に『さん』付けはいらん」

 そう。召喚獣らしいソレは、ブラウンのウェーブヘアーが艶めく美熟女の人面犬だった。

「イエ、ドアを開けて」

「開けます」

「おまえは疑うことを知らないのか!?」

 アリステラの一声で、イエは正面口の施錠を解き放ってしまった。

 ーーオブッ!

 ーーオブァッ!

 ーーオゴゴゴゴ!

「「「っ!」」」

 すると当然、ドアノブを回しきらないうちからオークたちが飛び込んできて……三人は臨戦態勢を取る前にその海に呑まれて……、 

 ーーマムンッ!!

 ……いや、呑まれてしまう前に、人面犬フライの一吠えを受けたオークたちは一斉に止まった。

 ーーオウッッ!

 ーーオマンマッ!

 ーーオフクロッ!

「「「……お?」」」

 瞬く間に、統率感に満ちて人面犬フライの前へ整列したのだ。

「召喚獣フライ・ザ・コーラーはボスモンスター以外のあらゆる魔物を統率できるの。ハルト、与えたい命令を念じながら笛を吹けばそのとおりになるわ」

「よしきた、笛貸してくれイエ…………って、ん、んんっごほっごほっ……やっぱいい、最初に吹いたのはおまえなんだからおまえがやってくれ。最初に吹いたのはおまえなんだから」

「……? どうして二回言うのですか」

「アリステラぁ!」

「どうしてかしらね。からかっている場合ではなかったわね」

「そのとおりだよ!」

「えっと、外にいる魔導馬車を止めたいのですけど力を貸していただけますか……? ぴゅひーーーーっ」

 ーーアイマムンッ

 ーーオオオオ!

 ーーオウヨオッッ!

 ーーオラアァァ!

 号令一下、オーク隊が複縦陣を成して外苑広場へ飛び出していった。離れないほうが安全だろう、とハルトとイエも続く。

 ーーマムンッ、マムンッ、マムーンッ!

 ーーオウイェイ!×100

「増えた増えた」

「ぴゅひっ、ぴゅひっ、ぴゅひーーっ!」

「気に入ったのかその笛?」

 しかもどうだろう。人面犬フライに呼び掛けられることで隊員たちは増えていき、あっという間に全オーク100体もの軍団ができあがった。

「ぱっぱらぱっぱ、ぱっぱらぱっぱ、ぱぱららぱっぱっぱっぱっぱ」

「いやもう吹いてないし」

「うわあ、よおわからんがのう援軍じゃあ」

「お、ネエちゃんおいっすなのだわ」

「おはよう」

 ーーオウフッオウフッオウフーッ×100

 ーーホスッ!?

 ーーホバッ

 ーーヒヒヒンンッ!

 突撃のオーク軍団が魔導馬車に纏わりつき、身動きを封じてみせた。シャベルで魔導馬のトサカをぶっ叩いていたシェリスも、シュネーヴィにネックホールドさせていたマリーも、いまいち効果は薄そうだったが頑張っていた。

「よしっ、俺たちもやるぞイエ!」

「がってんです。えっと、たしか『ヨギボム』ならお馬さんの鎮静に使えたような……《インベント……」

「ずいぶん、楽しそうなんだけど」

 と、

 ハルトとイエの間に、突如、ハナが割り込んできた。

「どいて。リヒャルト」

(うっ……?)

 そう。おもわず悪寒が走るほど、抉り込むようにハルトを見上げながら。

 しかしその眼差しは、バイザーを下ろされたサーリットの向こうに秘されて。

「ふん」

 抜刀。

 ーー レベル9 抜刀ムメイ ーー

 ーー 居合術 レベル3(神級) ーー

 絶え間ない居合剣気の連続が、ハイテンポかつリズミカルに魔導馬へ放たれた。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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