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Karte.20-1「わらわが考えた最新の最強魔法!」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。

 宵の時頃。

 帝都ベルロンド、グレードベルアーデ城(正式名)の玉座の間にて。

「ったく、話にならないな」

 スツルク・アハトズィーベン・ベルアーデは書類の山にまみれた玉座へ頬杖を付いてみせた。

 短く刈り込んだ銀髪、腕捲りした黒金色の軍服にベストとマント。筋骨隆々、40代前半の偉丈夫な帝王である。

 一塊の岩のような手にはいっそ不釣り合いなほど小さな羽ペンを、しかし慣れきった様子で弄んでいた。

『ーー話にならぬ? それは我の台詞である』

 彼の正面には手乗りサイズの擬似精霊が……それも角付きの上位種であるハイフェアリーが浮遊していて、リアルタイムビジョンを介した幻影念話のウィンドウを発していた。

 そこに映るは、天蓋に覆われた(しとね)

 ベールの向こうに不動なる人影が座り、女声が聞こえてきていた。

『例えばライネウ共和国への第298期復興支援金。貴様の粗末な舌が語る妄言は、我の下した最終調整に真っ向から歯向かっておるではないか』

「べつに喧嘩売ってるわけじゃないが、強いて言うなら『筋』の問題だよ」

 ほぼ一年中を(まつりごと)へのデスクワークに費やしているワンマン帝王は、惜しげもなくウィンドウへ睨みを利かせる。

「うちとあんたのところで五分と五分の支援金を積み立てるから意味があるんだよ。だってのに隷属国から三割もかき集めて自分は二割っていうのは、正直面白くもないな」

『貴様の(つら)が白いか黒いかなぞ知らぬわ。不服ならば我が国を見倣えばよい、寛大なる我が許す。貴様たちのごとき野獣には猿真似こそ似合いであるな』

「お断りだ。だいたいそんな例外を一つ認めたら、これからの先々でまたどんな勝手を言われるかわかったもんじゃない。そのツルツルの脳ミソに見習わせてやりたいほどあんたが皺くちゃのババアになって、いずれビーツの肥やしになった後、続く世代が何不自由しないように土を均しておくのが俺の役目なんでね」

『だから知らぬわ、貴様の矮小な家庭事情なぞ』

 そう、幻影念話から聞こえてくるのは妖艶なる女声だった。

「とにかく。きちんと国家予算から、ああそれも『特別』だの『特殊』だの妙な冠がついてない明確な出所から積み立ててもらうぞ。9番と12番の議題にも同じことが言えるな、他に文句があるならそれ以外の項目のことで頼む」

『ほう……吠えよる。よほど我が無双なる皇国と一戦交えたいと見える』

「毎回言われるとスゴみがないぞ。一応言っておくが『黒雪戦争』で停戦協定を出したのはそちらが先だからな」

『停戦してやったのだ。ゆえに貴様たちは、我が父祖の公明正大なる慈悲に感謝して日々生きるべきなのだ』

「言ってろ。ともあれご先祖様方が停戦の血印を押したからには、せいぜい俺もこの茶番を続けるしかないわけだが……」

 何の話だったかと自嘲気味に、スツルクは目頭を揉んだ。

「……けっきょくまたこの流れか。決着はいつものアレでいいか?」

『望むところである。本来は亡者のごとく喧しい貴様たちが我が地へ参じて然るべきであるが、今回も()()()()()へ未来の領土を視察させてやるとしよう』

 と、ウィンドウの向こうでメイドが暑苦しそうに窓を少し開け、換気された空気が寝台のベールをはめかせた。

 すると。人影の姿が露わに……、

 ……東方共通語で『定限声音(おんせいげんてい)』と書かれた札を下げた、小熊とも猿ともつかないブサイクなぬいぐるみの姿が露わになった。

「……ところで皇帝陛下さんな、そのぬいぐるみはなんだ」

『たわけが、絵物語を読んだことも無いのか。真に尊き者は会議の場に姿を現さず、ぬいぐるみや妙な板を写し身とするものなのだ。ふふふ、これにより我の妖艶なる魅力に磨きがかかってしまったな……』

「何の努力だよ……俺ぐらいしか見てないっていうのに」

 その時、スツルクの玉座の後ろで縄が千切れる異音が上がった。

「ーーぷっっはぁっっっっ! こんのクソ✕✕✕ッッ、うちのスーちゃんをまた誑かす気ぃかぁぁぁぁ!?」

『ひぎっ!?』

 猿轡だけは噛み千切った、ロープでグルグル巻きの王妃ルーデリカ・ルル・ベルアーデ。

 縦ロールなポニーテール金髪を逆立てて、エルフな彼女はウィンドウを見つめる眼差しに鬼気を宿していて。

「肥やしたる肥やしたる肥やしたる肥やしたる肥やしたる……」

「こらルルさんっ、その捕獲ロープ高かったんだぞ! 何年前の話をしてるんだ誤解だ!」

『肥やすってなんであるか!? そやつは我の前に出さない約束であろうベルアーデ……!』

 ウィンドウ越しの景色が大いに揺れた。どうやら撮影者がハイフェアリーを手元に引き戻したらしいが……、盛大に転んだらしい。

 魔物の剥製カーペットを敷き詰めた床や、長めのネイルで飾った色白の手、それに寒色を基調とした防寒着風ドレスの柔らかな胸元が代わる代わる映った。

『陛下!』『陛下!?』『治療師ー!』『おいちょっ、照明はもういいから手伝え!』『あれ? なんかここ、濡れて……』

 大臣らしい老人、近衛兵、メイド、照明係、総出で『皇帝陛下』を搬送する様まで見切れてしまって。

『ーーママみたいにはなりたかねぇのじゃ……』

『ーーほんと、なぁにやってんですかね』

『ーー将来……心配……』

 呆れたスツルクのほうから念話を切る直前、壁に寄りかかったままの3つの人影が映ったのだった……。


 ◯


 翌日の、昼前。

 グレードベルアーデ城の裏手には、帝都外壁からコブよろしく突き出した闘技場があった。

 黒土だけを均した、一切の障害物やギミックの類いの無いフィールド。結界装置の下で階段上に連なった観客席。そんな昔ながらのアリーナだ。

 その名もアメージングベルロンドアリーナ(正式名)。

 王城を背負う最上段の観覧席は、かの摩天楼から直通のラウンジとなっていて。

『あー、テステス。チェック、チェックワンツー』

 帝王スツルクが伝声管風の機工拡声器……『メルボルン(MAILーHORN)』へ喋れば、それは歯車とゼンマイ仕掛けで声量を増幅させた。

『ではこれより! ベルアーデ帝国とスァーヤ皇国による第9回親善闘技を始める!』

 と、力強く拳を掲げてみせた、

 ……が、場内からのレスポンスはまばらだった。

 観客の全員が帝王のために拍手や歓声を送ったものの、そもそも観客席の八割方が空席だったからだ。

『あー……うむ、とりあえず、またかと思いながらも観に来てくれたおまえたちには感謝してるぞ』

 想定内だというように咳払いしてから、スツルクはフィールドの両極で開かれていった門の一方を指差した。

『盾の門より! ベルアーデ帝国代表、シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ!』

「ーーほーっはっはっはっはっは!」

 日向へ悠々と歩み出てきたのは、黄金の縦ロールとバトルドレス、そして……ダイヤ色のシャベル。

 ーー レベル50 魔法戦士 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー

 ハーフエルフな絶世の(残念系)美姫、シェリス王女である。

「見てるかぃ~軍の四天王とか六傑とか七天衆とかなんかそういうヤツらぁ、おまえたちを差し置いて今日もつよつよなシェリスさんが出てやるのだわ~」

「煽らない煽らない! ああもうシェリスさんがそがーのんじゃけぇ親の七光りとか依怙贔屓とか言われるんじゃあよ!?」

「……? そうなのですかマリーさん? シェリスさんは実際お強いのですから、そんなことを言われていても気にする必要ないと思います」

「そのとーり! 100億万点やるのだわイエ子ぉ!」

「わーい。ですハルトさん」

「とりあえず、億万なんて単位は無いぞ」

『通称シェリス……と帝国騎士団第七隊の愉快な仲間たち!』

 青年騎士ハルト、顧問白魔法師イエ、副隊長兼メイドさんマリー。隊長シェリスに一歩遅れて入場していくのだ。

 もっとも今回のシャベル剣士様には。みんなの『シェリスさん』としてよりも、『シェリザベート王女』としての意地が少しは求められるのだろうか……。

(スァーヤ皇国との親善闘技だって? ウソつけよ、北エウルのブライティナ以上のライバル国だろ)

 スァーヤ皇国。南エウル大陸から東へ地続きのアイザ大陸にて、かの地の一、二を争う領土と人民を有する社会主義国家だ。

 様々な理由から『いずれ崩壊する』と大昔より言われてきたが、極寒の地で蒸留酒と埋蔵クリスタルを頼りにしぶとく生き残り。近年では最先端技術『魔導』への常軌を逸した国力全投入により、テクノロジーの怪物と化した国である。

『対して鐘の門より! スァーヤ皇国代表、皇女三姉妹!』

「ーー遅ぇんだよジジイ! ゲストの扱いがなっちゃいねぇのじゃ!」

 影から躍り出てきたのは、氷色の髪とジャケット、そして……エーテルスチームを噴き出すドレスグローブ。

 ハルトたちと同年代だろう、三人の姫君が現れたのだ。

 まず、一歩進んだ中央に立つ姫は……、

「おいシェリザぁ、チビメイド以外に2匹もゴマすりが増えてんじゃねぇか。てめぇじゃ勝てねぇからって手下をボコらせる気なのじゃぁ?」

「てやんでぃ、こいつらは応援でぃ。おまえたちが鼻くそほじって過ごしてる間に家族になった新入りなのだわ。白いのがイエ子、灰色のが兄弟」

「ちゃんとした名前で紹介してくれ!」

「イエコとキョウダイィ? 西方共通語のネーミングセンスはやっぱ美しくねぇのじゃ」

「ほら誤解された! ……いや誤解するか普通!?」

「はじめまして。白魔法師のイエと申します。こちらはパートナーのハルトさんです」

「……もういい。騎士のハルト」

「ふん、皇族への挨拶も知らねぇのかよ! まあいい、わらわは第一皇女のスタリーチナ・トロスツュ・スァーヤなのじゃ!」

 第一皇女スタリーチナ、なる女性。

「イエちゃん、発音できなかったらチーナでいいのよん。わしらもチーナちゃんて呼んどるけぇ」

「了解です」

「うらぁチビドワーフ! てめぇらの了見で呼ばれる筋合いはねぇのじゃ!」

「チビもといワガママボディはドワーフの持ち味ですう~、じゃけん恥ずかしないですう~」

 透き通るような氷色のセミロングヘアーに透明感が満ちる、可憐な女性。ただし目付きが鋭すぎる、20歳のシェリスと同い年ぐらいだろう美姫だった。

 フリルマシマシのナイトドレスにノースリーブのダウンジャケットを羽織り、色とりどりのクリスタルのアクセサリーを下げながらも濃紺のシックな雰囲気に纏め上げている。

 そして肘上まで覆うドレスグローブは。四大属性色の宝珠が表面を幾何学的にスライドできるようになっているらしい、流麗な杖のような魔導装置だった。

 次に、スタリーチナもといチーナの傍らに立つ姫は……、

「なぁにやってんですかお姉様は。どうもーはじめましてな方、あたしは第二皇女……っていうか次女のマーシャリュスカヤ・ポルーチャ・スァーヤよ。以後よろしくー」

 第二皇女マーシャリュスカヤ、なる少女。

「ああ、あたしのことはどうぞシャールって呼んじゃって。うちの国のことながら確かに長ったらしい名前だしねー、うん」

「シャール! 裏切り者がっ、ママの付けた名前が気に入らねぇのじゃ!?」

「チーナお姉様だって普通に呼んでるじゃないですかー」

 色濃い氷色の髪をアシンメトリーな三つ編みにした、グラマーな少女。斜に構えた物腰を現すように垂れ目が際立つ、14、5歳ほどの美姫だった。

 デャアリャン様式を思わせる大きなスリット入りのナイトドレスに半袖のダウンジャケットを羽織り、要所をベルトで引き絞ることでスポーティーな雰囲気に纏め上げている。

 そして肘上まで覆うドレスグローブは。ホイールを連ねた仕掛けにより変形機構が備わっているらしい、武骨な腕甲のような魔導装置だった。

 そして、チーナとシャールの陰に隠れた姫は……、

「第三皇女……トロヴァーニャ……」

 第三皇女トロヴァーニャなる、幼女。

「ヴァーニィ……」

「そうねーヴァーニィ、フルネームはトロヴァーニャ・クニガ・スァーヤ。トロちゃんでもバニーちゃんでもなくてヴァーニィね。口下手なあんたのために姉様が言っといてあげるよっと」

「てめぇらなぁ……呑気してる場合じゃねぇのじゃ」

 淡い氷色のサイドテールをちょこんと結い上げた、華奢な少女。齢は10を過ぎたくらいの美姫だった。

 パジャマのような厚めのナイトドレスに指先まで覆う長袖のダウンジャケットを羽織り、モコモコと綿の意匠に包まれたキュートな雰囲気に纏め上げている。

 そして肘上まで覆うドレスグローブは。タイプキーとの連動によって本のように開ける仕組みになっているらしい、風雅な絵本のような魔導装置だった。

「っつうわけで。こいつらが自称シェリスさんのライバル、スァーヤ皇女三姉妹なのだわ」

「ライバルじゃぁ!? てめぇみたいな甘ちゃんがわらわたちとタメ張ってるつもりなのじゃ!?」

「まあそれはともかく、こっちも公務なんでぶっ倒れてもらうかんねー」

「尋常に……勝負……」

 たしかに馴れ合いではない気迫をぶつけ合ったシェリスと三姉妹だが。やはり四人とも(黙ってさえいれば)美姫には違わず、凄みよりも麗しさが漂っているのだった。

「はあい、じゃあ自己紹介が済んだところで最終確認させてもらうからね。後出しの文句は受け付けられんよ!」

 敢えて両陣営の狭間に立ったマリーが、声を張り上げる。

「親善闘技は2勝先取の3本勝負! 先日行われた二国間の首脳会談で最後まで決まらなかった諸々の議題について、勝利した国側の決議案が採用されまあす! 異存は無いんね!?」

「は、はあっ?」

 シェリスも皇女三姉妹も頷いていたのだがハルトは唖然とした。

 ピョイと戻ってきたマリーは、青年騎士のそんな反応も見越していた様子で。手招きで少し離れた場所へ呼ばれ、イエともども屈まされると耳打ちされる。

「心配させるから言わなかったけど、これ、そういう『戦争』なのよねえ。どうせこういう決着になるのを見越して、スァーヤはいっつも無茶苦茶な決議案を作りがちなの。ぶっちゃけ、一度でも負けてしもうたらベルアーデが丸ごと乗っ取られかねんね」

「こんな日曜闘技劇場で大ごとすぎるだろ」

「はい、良くないと思います。お父さんお母さんのケンカの決着が子供に押しつけられるなんて」

「スケールをショボくするなよ大ごとだって言ってるのに……」

「そうはいうけどお、親同士が表立って喧嘩しはじめたらそれこそ難癖つけあって戦争まっしぐらよ? じゃけん、こん親善闘技が世界一平和な代理戦争なの」

 三人が目をやった先で、姫たちは睨みあうあまりに怪鳥かファッションモデルのようなポーズを向けあっていて。

 ……ふと、どこか遠くから。鎖がギリギリと擦れあうような、縄がほつれるような異音が軋んでいて。

「……ちなみに。その昔、彼女たちのお母様がスツルクおじ様を篭絡しようとしたとかで……ルーデリカおば様が特に目の敵にしてるから。なおさら親同士がぶつかるわけにはいかんのじゃい」

『こらルルさんっ、そいつはハイエルフでも眠る封印キットなんだぞ!?』

『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……』

 スツルクの向こうの闇の中。神々しい魔法具たちに巻き取られながらも、念動能力によって椅子やカーペットもろとも浮かび上がる王妃ルーデリカがいた。

「それはともかく、今回も賭け(トト)は98対2でシェリスさんが人気かあ。シェリスさーんっ、最終オッズは1.003倍で確定じゃあよー!」

「あいよーぃ! 今日の晩飯代が浮いたなぃ!」

「勝った気になるのが早すぎるんじゃないのっ、シェリザちゃん!?」

 ーー 接続 アメージングベルロンドアリーナ公式賭場 ーー

 ーー 同期 引出魔法ウィズドロー ーー

 ーー 決済 完了! ーー

(ほんとにいいのかこんなノリで。いいのか)

 苦笑していいものかすら迷ってしまったハルトだったが、はたと気づいた。

(まてよ? 一度でも負けたらベルアーデが乗っ取られるっていっても、こんなことを今まで何度もやってきたっていうなら……)

「んじゃ第一戦っシャールがいきますよーーっと先手必勝ぅぅぅぅ!」

「ってズルっけぇ!?」

 挙手と早口で一方的に宣言し、次女シャールが腕甲じみた魔導装置より膨大なエーテルスチームを猛らせた。

「プラーチィコッド:G(ドレスコード:G)!」

 本体サイズをゆうに超えて変形機構を開いていきながら、振りかぶりながら、大ジャンプしたのだ。

 彼女とシェリスを除いた全員がフィールドの端へ跳び退いていくと同時、

『魔法兵! 結界!』

 スツルクのハンドサインによって、闘技場の頂上外周へいくつもの障壁がせり上がった。

 それ自体は機工仕掛けだったが。一つ一つに魔方陣が描かれているうえに、お立ち台となって袖付きフルアーマーな魔法兵たちを乗せていた。

「《バリア》ァ!」「魔力ドーン!」「非番にこれかよ!」「手当が激ウマだからよし!」「よくこんな仕事してるよな魔力発動所の連中」

 彼らが障壁魔法バリアを放てば各方向の魔方陣を要に増幅および調整され、フィールドだけをスッポリ包む結界となった。

 つまり、内でどれだけの大惨事が起こっても外へ被害を及ぼさない檻である。

「覚悟してよね!」

 シャールの魔導ドレスグローブは彼女以上の巨大サイズに展開され、噴き出し続けるエーテルスチームが明らかに意図をもって彼女を包んでいた。

 すなわち、彼女自身がモチーフなのだろう超巨大な拳士のオーラとなっていた。

 ……多分にナルシシズムが含まれた、もはやギャグの領域だろうほどダイナマイトボディなオーラだった。

 ソレが、彼女が、手元に溜めた魔力を膨らませていて。

「必殺っ! 《上々下々左右左右拳:AX38》ぃぃぃぃ!」

(っていきなり『必殺技』ぁ!?)

 放たれた魔力は散弾じみて細かに分離し、一つ一つが等身大の拳士の幻影と化した。

 それぞれが異なる型の拳術を構えながら、ひとり不動のシェリスへ襲いかかっていったのだ。

 『必殺技』。それは体内魔力オドエーテルを全出力する、己だけのアーツ(技)の通称である。

「うららららららららーーーー!」

 ーー レベル24 拳士 マーシャリュスカヤ・ポルーチャ・スァーヤ ーー

 ーー 拳術 レベル1(職人級) ーー

 ーー 装備補正  ーー

 ーー 拳術 レベル2(達人級) ーー

 そして。シェリスを爆心地として、拳技を打ち込んでいった幻影たちが立て続けに爆発していった。

 それらは本来ならレベル2(達人級)には届かない荒削りな冴えだったが、なにしろ魔導ドレスグローブに補正されて爆発力と数が尋常ではなかった。

 どんな技でも技術でも一段階上のものへと昇華せしめる、それこそが『魔導』の末恐ろしい力なれば。

「あ、わ、わ、シェリスさん……!?」

「ダダダダメよイエちゃん! 動いちょらー焦げてまう凍ってまう!」

「あっついあっついつめたいつめたい!?」

 結界の内周ギリギリに張りついたハルトたちの鼻先まで、爆発の余波が吹きすさんでいった。『火』と『水』とを織り交ぜたエーテルスチームの特徴である『熱い冷たさ』あるいは『冷たい熱さ』、いわゆる『氷炎』は活性化次第で人をも焦がし凍らせてしまう。

 熱波と寒波が、灰と雹が、爆ぜた時と同じくあっという間に散っていって。

 シェリスがいた場所には、もう、デコボコのクレーターしかなかった。

「アッハァ! やったっっっっ……か……」

 そうして。魔導ドレスグローブの変形解除とともに超巨大オーラが消え去れば、途端に真っ青になったシャールが空中から墜落。

 他でもない、必殺技を使用した反動。巡る体内魔力が急激に失われたことにより、いわば魔力の貧血状態となったのだ。

「ういせ、っとぃ」

 そして。彼女の真下の地面を掘り抜いて、()()()()()()()()()シェリスが飛び出た。

「ほっはぁ!」

「べぶっ」

 放っておいても一秒後には地に落ちていただろうシャールを、シャベルの宙返りスイングで背中から叩き落とした。

「ほははははははははバーカバーカアーホアーホおまえの母ちゃんスァーヤ皇帝ぃ!」

「ばぶっ、びぶっ、ぼぶっっ」

 仰向けにノビた彼女を、というよりは自重に潰れた乳房だけを連打。

「学習しねぃなぃシャールぅ! 初手必殺技で何回負けてやがるのだわぁ!?」

「だっ、いだっ、だって最初から必殺技ぶっ放しゃピンチもクソもないじゃないのよお! 今回のAX38ならっ、AB99ハドゥ拳の欠点を克服できてたのにぃぃモォォォォ!」

「だぁかぁらぁ、そういう問題じゃねぃってんでぃ! 相手がピンピンしてるうちから必殺技なんか当たるかってんでぃほはははははははこの乳牛がぁ!」

「ンッ、モッ、ンモォォォォ!」

「シャールゥゥゥゥゥゥ! てめぇこらシェリザっ、また妹の乳が腫れるじゃろうがオーバーキルやめやがるのじゃ!」

「むしろ萎めなのだわ!」

「姉様……姉様……!」

 最後にはゴルフよろしく打ち出されて、長女と三女が挑みかかってくる前に次女は返却された。

 そんな光景を見て、ハルトはさきほど中断されてしまった思案の答えを得られた気がした。

「……こんなことを今まで何度もやってきたっていうなら。そうか、()()()()()()()()()()んだな?」

「そそ。最初はここも超満員じゃったがのう、今じゃあ場末のキャットファイトショーっちゅう感じじゃわい」

『おうそこまで、そこまで。第一戦はシェリスの勝利な、はい両者の健闘を称えて拍手』

「いぇーい」「パチパチパチ」「姫様! 今日も強い! 美人!」「ぐぅ……ぐぅ……」「それでさー彼氏がさー、え、あ、拍手?」

 結界の外の観客たちも呑気なもので、売り子から麦酒と雪玉揚げを買って宴会をはじめていた。

「クソがあ! 食らいやがるのじゃシェリザぁ!」

「だからいきなり始めるなよせめて一呼吸入れろってぇ!」

 闘技とは。スポーツマンシップとは。そんなものはハナから頭に無いのか、今度は長女チーナが頭上で魔導ドレスグローブを交差させ、エーテルスチームを滾らせた。

「プラーチィコッド:K(ドレスコード:K)!」

 表面に備わる四大属性色の宝珠が軌道を駆け、対応した属性の輝きが尾を引いていった。

 すると。それらの輝きは放射され、チーナの周囲に漂っていたエーテルスチームを変化させた。

 形もサイズも術式も異なる、多数の魔方陣へと。

「わらわが考えた最新の最強魔法! んんんん《盛者強食》ぅ!」

 ーー レベル49 マジックユーザー スタリーチナ・トロスツュ・スァーヤ ーー

 ーー 弱体魔法 レベル1(職人級) ーー

 ーー 装備補正  ーー

 ーー 弱体魔法 レベル2(達人級) ーー

 チーナが両腕を突き出せば。その手から、そして魔方陣たちから『土』色の魔力が放たれ、一つと合わさり突き進んだ。

「《ヴィント・ダス・クローネ》(凪がぬ風冠)ぇ! だわぁ!」

 ーー ベルアーデ剣術 レベル2(達人級) ーー

 対するシェリスは『風』の体内魔力で編んだ冠をシャベルへ叩き込み属性付与。その概念の現れとして今回はイバラ状のエーテルを刃に纏わせ、跳び退きながら高速剣術を閃かせた。

 それは《盛者強食》なるオリジナル魔法を撫で斬りにした。

「おぅぅらぁぁっっ!」

「でゃっ……!?」

 しかし。弾や飛び道具といった『物理』ではあり得ない挙動、指向性を有した『魔法』ならではのトンデモ軌道でシェリスを貫いた。

「シェリス!?」

 さすがに今度はハルトも肝を冷やした、

 が、

「だ、わ……」

 おっとっとと着地したシェリスは、べつにどこも穴が開いてはいなくて。

 《盛者強食》もまた、役目を終えたとばかりに消えたのだ。

 ーー レベルダウン! ーー

「「っ?」」

「んっっ?」

『うん!?』

 ハルトとイエは、聞き慣れたフェアリーのアナウンスに顔を見合わせあった。一方でマリーはビクッと跳びはねていて、階上のスツルクも硬直していて。

 ーー レベル49 魔法戦士 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー

「シェリス? あ、レベルダウン……」

 その対象が彼女であると、ハルトはやっと気づいた。

「…………わ……」

(わ?)

 シェリスが。

「わ」

 シャベルを落とし、ふにゃっと、内股にへたりこんだ。

「わああああんんんん……!」

 泣いた。

「泣いたああ!?」

 幼子のように、えぐえぐと縮こまってしまったのだ……!

「レベル下がってもうたぁぁ……もうあかんのぉぉ……!!」

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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