Karte.19-2「《ファストトラベル》でお金儲けをするには」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
◯
(まあそれはともかく。改めて、今日の冒険の始まりね)
街道からかなり離れた不便な野営地だったが、そもそもそこは野宿や休息のための場所ではなかった。
『FAST TRAVEL』と彫られたポールが突っ立っているとおり、ここは転移魔法の目的地として指定できるファストトラベルポイント。地脈のエーテルの結節点なのだ。
第七隊のみならず、冒険者らしいパーティや、護衛を付けた技師風の一団がちらほらと転移してきていた。
「無料雑誌ビッグアイテム~、ビッグアイテムじゃよ~。そこの金ピカのお姉ちゃんがた、今ならこのククリナイフが5本も付いた初夏限定アイテムパックもいらんかえ」
行商人じみて品を背負った隠者は、転移してきたのではなくここが縄張りなのである。リュックに大手商会の名札が刺繍されていて、行商委託による自立支援プログラムに参加しているらしかった。
「ごめんなおっさん、助けてやりたいけど俺たちもカツカツなんだ」
「あ、そのランタンくださいです。持ってない形です」
「毎度あ~り~」
「おまえなあ、行く先々でランタン買ってないか」
「ランタン集めが趣味なのです」
「趣味は人それぞれだな」
「灯を……眺めているのが好きなんです。……一晩、ずっと眺めていると……心が…………とても……………………落ち着きます……………………」
「人それぞれだなってスルーしたのに食い下がるなよ、知ってるよおまえが寝落ちしたら俺が消してるんだから……」
「おじちゃん、こん子んためにハーブティーとか置いちょらんならあ?」
けっきょく必須ではない小物をいくつか買ってしまいながらも、第七隊は荒野へ歩きだしたのだった。
「すんごいこと思いついちまったぃ」
と。珍しく黙っていたシェリスが、そんな口火を切った。
「わかりやすい前フリねえ」
「オッケー、どうせしばらく歩いてるだけだしネタ投下してくれ」
「ほはははは、言ってろぃ。天才の道はバカにされることから始まるのだわ」
「バカとハサミは紙一重、ですね」
「そのとおりなのだわ!」
「天才はどこいった」
最貧騎士隊の隊長は、遠ざかっていく野営地のポールを後ろ手に指差すのだ。
「ズバリ! 《ファストトラベル》で運輸業おっ始めたら大儲けじゃねぃのだわ?」
……瞳を大金貨よろしく輝かせた彼女に対して、皆は神妙に顔を見合わせた。
(ありそうで無かったことではあるわね)
そんな様子をどう捉えたものやら、シェリスはふふんと胸を張った。
「瞬間移動できる流通網とくりゃあ、馬車や船なんてメじゃねぃ迅速運輸が可能なのだわ。まあ《ファストトラベル》が使えるマジックユーザー自体多くねぃが、なんならインスタントの魔法書もあるし人手さえ集めりゃいいのだわ!」
マジックユーザーとしての才能を有するのは全人類のちょうど50%程度。かつ《ファストトラベル》を使える光属性への適性を持つ者となると多くはないが、習得自体は難しくはない魔法だ。
それなりに高価ではあるものの魔法書も各地の胚書庫で飼育されているため、なるほど大規模投資は必要だが採算は取れるだろう。
「シェリスさんシェリスさん。無理です」
「どシンプルにへし折ってくるんじゃねぃやぃイエ子」
(無理ね。机上の空論、まったく現実的ではない)
そう、夢想だけなら突拍子無くもないのだが……。
「お願いよお……。魔法の基本だけでもお勉強してつかあさい、シェリスさん……」
「それどころの問題じゃないだろ。俺でも《ファストトラベル》の仕様ぐらい知ってるぞ」
「んあー? 《ファストトラベル》の仕様なんておまえ、スキなとこ飛んでって《リターン》で帰ってこれるってだけだろぃ。なんでかたまに使えなくなって船とか乗るけどよぃ」
「いやそこだよ、そういうところだよ」
「はい、第七隊のマジックユーザー代表として私が説明させていただきます。です」
エルフは全員がマジックユーザーの才能を持っているものだが。ハーフエルフのシェリスは魔法の勉強をサボってきたらしく、魔力を練ってシャベルに叩き込む荒業しか学習していないのだった。
「シェリスさんが言ったように《ファストトラベル》でお金儲けをするには、えっと、少なくとも3つの無理があるのです」
「おう言うじゃねぃの。聞かせてもらうのだわ」
むしろ楽しげに八重歯を覗かせてみせた黄金王女と、対してまったく物怖じしていない白魔法師である。
「無理その1です。《ファストトラベル》は使用者を入れて8人まで転移できますけど、物品は対象にできないのです。物を運びたいなら身に付けている必要があって、つまり持ちきれないほどの貨物や貨車ごとは無理です」
(『ロード』で運べないから、というのも仕様のうちなのでしょうね)
一抱えの箱ならともかく、荷車にしがみついていても本人しか転移されないので無理である。
「あ、ちなみに《リターン》なら触れている物ごと転移できます……けど。自分の足で登録した帰還地点にしか飛べないので、仮に運送業に使えるとしたら集荷ぐらいですね」
「抱きついて《リターン》してこようとするリターン誘拐犯とかいたなあ。合意無しの転移は啓蒙が無い獣や魔物にしか効かないって知らなくてお縄だったが」
実際、巨大さめなんかを道連れに城まで帰ってくる暴れん坊王女がいることだし。
「そりゃ大した問題じゃねぃのだわ。いっぺんにゃ無理でも抱えられるだけ持って、《ファストトラベル》と《リターン》をマラソンすりゃ十分効率的だろぃ。なんなら《インベントリ》だってあるのだわ」
「《インベントリ》は闇属性の魔法なので、それも使えるマジックユーザーとなるとさらに限られますけど……」
「そっちは魔法書がないもんな。バカ高いハイフェアリーと契約して《ミニ・インベントリ》がやっと使えるくらいか」
どの属性をどの程度まで扱えるか、命には生まれ持った魔力適性がある。そこにオドエーテルの属性的バランスが併わさり、たとえばマジックユーザーなら『攻撃魔法』・『回復魔法』・『補助魔法』などの得手不得手まで決まるのだ。
特に四大属性の上位なる『光』と『闇』の行使には、わずかな適性があるだけでも希少とされている。
「……だから《ファストトラベル》も《インベントリ》も使えるおまえってレアケースなんだよな、なにげに。《ファイアーアロー》も使えないのに」
「はあ。白魔法師が覚える魔法には『光』も『闇』も関係無いので、師長に教わるまで気にしたこと無かったです」
(できれば《ファストトラベル》は覚えてほしくなかったけれど、魔法書まで量産されているからどのみちのことね)
「私のことはいいのです。それよりお話を戻しますと、はい、《ファストトラベル》をマラソンするのは無理その2なのです」
イエは、シェリスが転移マラソンを思いつくのも当然だというふうに頷いた。
「転移距離に応じてクールタイムが発生するからです。同じ国内なら1日、国外なら数日、別大陸なら数週間といった具合で、連続使用はできないようになっているのです」
「そうよおシェリスさん。どがーに(どんなに)えっとー(たくさん)人員揃えたとこで、いっぺん働いたらしばらく働けんわーなー商売として現実的じゃないじゃろ?」
「んむむ」
……シェリスは熟考しているらしく、バカ丸出しに口を半開きにしながら眉間に皺を寄せていて。
「……んじゃあ。《ファストトラベル》のポイントに寝泊まりできる拠点をおっ立てまくってー、短距離輸送リレーのローテーションを組むのだわ。それなら一人アタマのクールタイムもすぐ終わんだろぃ?」
「なんかもう反論することに意地になってないか?」
「やかましいのだわ! 現実的とかもうそういう問題じゃねぃのだわ、『しこーじっけん』というヤツなのだわ!」
「あのう。それも無理なんですシェリスさん、最後の無理その3です」
「なぁぁんなんでぃ!?」
(可能不可能の話だけなら実現可能ね。しかし……それは実現と同時に不可能へ変わってしまう)
これまた、各地のポイントに町でも作ればいいというアイデアそのものは当然の帰結なのだが……。
「《ファストトラベル》ポイント……地脈の結節点はとてもデリケートで、エーテルが豊かな自然の中にしか現れません。小さな村が開拓されるだけでも不安定になって、最悪、他の場所に移動してしまうのです」
エーテルというものは、人が掌握しようとすれば彼方へ去ってしまうものだ。精霊たちを喪った神代からそれは変わらない。
「なんでこんな辺鄙な場所にしか跳べないのか考えたことなかったのか? 辺鄙な場所じゃないとそもそも使えないから、暗黙の了解で目印ぐらいしか立てないようにしてるんだよ」
「もういいのだわ。賢いシェリスさんは費用対効果を考えたのだわ」
言い負かされたことには不満そうだが、着眼点は間違っていなかったとでも言いたげにシェリスはふんぞり返ったのだった。
実際それは、効果だけなら世界を変えうるほどにも思える《ファストトラベル》が見せた……ありふれた夢だろう。
「シェリスが言ったようなことができる仕様だったら、世界はもっと劇的に発展してたんだろうな。せめて町から町へ転移できるようなものだったら、『旅』ってもの自体が無くなるくらいに……」
荒れた道のりを踏みしめながらハルトが頷いた時、
遠くの丘陵から、耳をつんざく急ブレーキが響いた。
その異音に呑まれかけてしまっていたが、女声らしい悲鳴も。
「あっ……! た、たいへんです……!」
丘陵を走る線路の上、駅でもないのに列車が停まっていた。
ーーチデ! チデチデチデェッッ!
列車と同じくらいの大きさの、双頭の鹿が線路上で猛り狂っていたからである。
しかもその魔物鹿は、線路上にいた旅のパーティへ激怒しているようで。
「あたしは足挫いてるのよ!? 護衛ならなんとかしてよ!」「うるせえ! あんたがオルトロスタッグなんか撫でようとするからだろうが!」「大人しい魔物なのにどうして!?」「レールを舐めてる時は鉄分補給してるんだっ、貧血で気が立ってるのぉ!」
旅行鞄しか持っていないただの市民な女性と、護衛らしい数人の冒険者の一団だ。
「あーあーなぁにやってんでぃ。ま、旅にイベントは必要なのだわな、っと……総員突撃ぃぃぃぃ!」
「袖すり合うも斬り捨て御免、ですね」
「物騒に混ぜるな!」
「ハイホォォォォッッ、シュネーヴィ!」
『ガガガーッ!』
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル44 金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット ーー
ーー レベル6 双剣銃パラレラム ーー
ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー
アイテム使用のために素手が基本のイエはともかく、各々が次元の狭間から得物を喚ぶと。救援へ走り出した第七隊だ……。
◯
数分後。
線路上に、血まみれの旅人女性がへたりこんでいた。
「……あ。あ、あ? あああ……」「ま、まあなんだ、足挫いただけで済んでよかったじゃねぇか。ホカホカの返り血まみれだが……ぶっ、くくく……」「助けてくれてありがとおおおお」「じゃ、損害賠償とかめんどいんでうちらはこれで」
ーーチッデッ、チ、チ、チデェェェェ……!?
片方の首を断たれたオルトロスタッグが逃げていのと似て、血まみれの護衛対象を担いだ冒険者たちはスタコラととんずらしていったのだった。
「おーう! 困った時ゃお互い様なのだわ、困った時ゃベルアーデ帝国騎士団第七隊までなのだわほはははは!」
「シェリスさん、この首さんまだ動いているので《インベントリ》に入らないです」
「おーう、今シメてやるのだわ」
「あ、大丈夫です。……失礼します、いただきます」
ーーヂッッ
「うっぷ……慣れないんだよなあ俺、そういうの」
イエが陰で小刀を動かし、動かなくなった双頭鹿の首肉が三人がかりで次元の狭間へ押し込まれていったのだった。
「これも《ファストトラベル》の仕様のうちだな。辺鄙な場所に出るから、自衛手段を持ってない人間にはワリと危険な道のりになりがちなワケで……。あんな護衛付けてても迷惑かけるなら馬車とかで旅しろって、普通に」
「親戚の結婚式に間に合わなくて、とかなんとか護衛の方が仰っていました」
「その親戚が新婚旅行に《ファストトラベル》を使わないことを祈るよ」
「はい、風情が無くなりますよね」
「俺の話聞いてたか?」
「自衛できる人なら大丈夫というお話ですよね」
「聞いてたのかよ」
(聞いていないわよ。なんなら二人とも)
イエが振り撒いた『リペアパウダー』が、火属性の『焼却』と『融合』の効果から装備を修復していった。返り血の汚れもろとも。
「《ファストトラベル》を作ったヤツぁ根性悪なのだわ!」
「なんだまた急に」
と、シェリスがまた何か言い出した。
「急じゃねぃやぃ、話の続きからなのだわ。今のアホたれどものことだってそうでぃ。1コでも仕様が違やぁ世界が変わるほどのもんになるってぃのに次から次へと『無理』『無理』『無理』、わかっててこんなナンチャッテ便利なもん作りやがったのだわ!」
「いやいやいやいや……論理に私怨しか無さすぎる。制約まみれでも世界の端から端まで転移できるのには変わりないんだ、やるだけやってそれしかできなかったのかもしれないだろ」
「ちなみに、術式を改訂しようとして成功した方はいないそうです」
「いいや違うねぃ! そいつぁ実はパーペキな術式がわかってて、シェリスさんたちが絶妙に不便がってるのを見てほくそ笑んでるに違いねぃのだわぁ!」
「……イエ、ちなみに《ファストトラベル》の編纂者って?」
「不明です。神代が終わって、今の世界が始まった黎明と混乱の中で編まれたとしか……」
「おーーいみんなあ! お礼にわしらを乗っけてってくれるてぇっ、急いだってつかあさーい!」
『ガガッガ』
落ちた、重すぎる金属音。鋼のメイドメカたるシュネーヴィに車両を持ち上げさせていたマリーが、壊れたブレーキ機構を修理し終えたようだった。
「助かった。いこうぜ……」
「はいです」
「おいこらおまえたち、何に対して『助かった』なのだわ。もっとガールズトークしようぜぃ」
「俺はガールじゃないしそう言ったら全部の無駄話が可愛くなると思うなよ」
客車よりも機工部品を積んだ貨車が大半を占める列車で、第七隊は荒野のさらに僻地へ進んでいくのだった。
(ほくそ笑んでる、か。それももちろんあるのでしょうね)
窓枠に腰かけた『眼』なる彼女は。今度こそ皆が《ファストトラベル》トークを終えても、一人、静謐に考え込んでいたのだった。
列車の終着点、荒野のオアシスにしてはソリッドすぎるソレを見据えるのもしばし忘れて。
(だから。あいつのことを無駄に考えるのはやめなさいってば)
強すぎるほどに瞼を擦りながら、改めて先を見据えるのだった。
そこは。
大量の列車と飛行船が打ち捨てられた、鉄の墓場がごとき地。
隅へ追いやられたそれらの古き新型に見つめられながら、現在進行形で最新鋭の輸送機械がテストされている実験場だった。
◯
そこには、無数のスポンサー名をあしらった『ハルバード試験発着場』の大看板が立っていた。
鉄板で舗装された無数の搬入路を、列車からの荷を分けた機工車が往く。
各ルートの先には建屋型の巨大ドックが並んでいるのだが、内部は外側から容易に見えない造りになっていて。
ドックごとに、制服や旗印の違う技術者たちが熱く働いているのだった。
「よく来てくれたぜ! 俺はボルドーヘッド工房の二代目筆頭技師のグスタフだ!」
「ゴーストレイン商会の第四技術部長のパムよ~。来てくれてありがとう~」
第七隊を出迎えたのは、隣り合うドックから現れた二人のドワーフだった。
「俺たちの新型飛行船も鼻高々だな! あの黒金帝国の騎士さんたちが他には目もくれずに見に来てくれたんだ、こりゃもう帝王様に認められたも同然だぜ!」
かたや、スキンヘッドとモコモコのカイゼル髭の対比が眩しいオヤジ技師。筋肉質な素肌に分厚い革つなぎや手袋を着込んだ姿は、いかにも昔ながらの技師らしい。
「わかるわ~、いろんな案件の中から私たちの新型列車を選んでくれたのよね~。玉石混合の中からいちばん良いものを選ぶ、もとい鼻もかめない石クズを蹴り出すのってたいへんよね~」
かたや、横髪をアシンメトリーにおさげにした若作り技師。フォーマルなラインの作業着を着込んだ姿は、いかにも今どきの技師らしい。
「こんにちは。お二人とも仲良しさんなのですね」
「どこが!?」「どこが~!?」
「えええ……」
(肩を組んでいるようにでも見えるの、あなたには)
肩で押しのけ合いながら、小指を踏み合いながら、第七隊へ笑顔を向けたドワーフ二人はむしろ互いへこそ目を向けていた。
「この人たちとは犬猿の仲なの~! 昔気質気取ってるくせに次から次に魔導技術に手ぇ出しちゃって~、採算も取れないミーハーおじさん集団とか最悪だわ~!」
「んだあ!? 技術屋が最先端追い求めて何が悪いっ、そっちこそなんだよその小綺麗な作業着は! よそからアイデアと技師連中買い叩いてるばっかで指タコ一つこさえたことねぇんだろ!」
「犬も食わねぃのだわ!」
「「ふぅぶっ」」
残像が見える速さで背後に回り込んだシェリスが、ちまっこい二人の襟裏を掴み上げるとこめかみをぶつけ合った。
「シェリスさんたちが『試乗会』とやらに参加して箔がつくってんなら、べつにケツぐらいいくらでも貸してやるけどなぃ。そっちのお家事情まで突っ込まれる筋合いはねぃのだわ」
「下品よシェリスさん!」
「わ、わるかった姫さん! だから下ろしてぐれ苦じい……!」
「だって南エウルで1番の先進国が目にかけてくれたんだもの~、つい熱くなっちゃっただけなの~!」
「大げさねえ。あらかじめ断っとくがのうこの件に帝王陛下は関知しちょらんよ、せいぜい後で報告書読んで『よくできました』のハンコ押してくれるぐらいじゃわ」
「「それでもワンチャン……!」」
「熱々ねえ。ま、飛び込み営業ってそうでないとのう」
そう。第七隊が今回承った依頼とは、この僻地で最新鋭の魔導技術に試乗することだった。
「第一隊から回っていって、俺たち第七隊に来たのは七番目だったけどな」
「いやいや! あの『優鬼』マキシマ技師の孫がいるってわかってたら最初に出向いてたってばよ!」
「この人の工房はともかく~、私たちはフェアリーに携わる者として~、D&E商会の妖精第一主義に頭が上がらないもの~」
「その言葉が本当だとしてもなおさらリサーチ不足だけどな……」
グスタフとパムはさして気にしていないようだった。
「それはともかくよお、ちょうど今から出庫なんだ! 乗る前にちょっと見てやってくれよ!」
「私のところもよ~、来て見て触ってみて~」
同じ制服の仲間たちが集うドックを示すやいなや。事前に打ち合わせされていたらしく、競い合うように大扉が開かれていった。
『室長~! すみませんっ、モップが挟まったんでちょっと止めます~!』
「ふあ~!? も~っ、なにやってるの~!」
「わはは! ザマァねぇなっ、お先!」
フェアリーの念話を通してパムがアタフタしてしまい、先に開放されたのはグスタフたちのドックだった。
「これがボルドーヘッド工房の秘蔵っ子! エーテルスチーム式魔導飛行船の、『ストーク号』だ!」
格納されていたのは、エンベロープ(ガス袋)に吊られた客室に数十人から搭乗できるだろう飛行船だった。
そのエンベロープを、魔導仕掛けの巨大コウノトリが覆っていた。
「あらあコウノトリ? 今のトレンドは大鷲型じゃろ」
「ふふん、ありゃパワーに偏って扱いが難しくなる一方だからよお。そのうち廃れるっ、次は俺たちのコウノトリ型よお!」
ーー パスコード 認証成功 ーー
ーー ドキュメントフォルダ 『コード:スプラウトベイビー』 オープン ーー
グスタフのフェアリーが写幻と紐付いたドキュメントたちを開き、それらは飛行船の各部を指し示す配置で並んでいった。
実際に稼働させている様子を撮影した、船内セクションの解説ドキュメントだった。
ゴンドラ内の操舵室は極限まで役割を削ぎ落とした小さいもので、主な機構はコウノトリの内部で縦横無尽に広がっていた。
エーテルスチームを巡らせるパイプに満ち満ち。伝声管越しに機関士たちが操作盤を担当することで、魔蒸気はコウノトリの血や筋肉として稼働していくようだった。
「はいはあい終了~! 次は私たちで~す退場してね~?」
「おいこらっ押すんじゃねえっ」
グスタフをヒップアタックで押しのけて、今度はパムが自分たちのドックを示した。
改めて大扉が開ききれば、
「この『EQレール』は、まったく新しいフェアリーギアス式魔導列車~! ゴーストレイン商会の最新作よ~!」
格納されていたのは、機関車・客車・貨車が一繋ぎのシステムの下で連結された列車だった。
各車両の左右から、女性の腕を思わせるフレキシブルアームが生えていた……。
「列車にフェアリーギアスっ? ……じゃがあ、なして腕なんて生えとんじゃあ?」
「ふふふ~、それは乗ってからのお楽しみ~」
ーー パスコード 認証成功 ーー
ーー ドキュメントフォルダ 『コード:イークイップレーラー』 オープン ーー
またも内部資料が紹介された。
先頭車両と最後尾車両にそれぞれ運転室と車掌室があり、機工式列車とは比べ物にならない密度で計器類が並んでいる。
ただしその一方でボタンやレバーは極端に少ない。フェアリー搭乗用のシートが操作盤に鎮座し、運転室と車掌室の情報をタイムラグ無く同期できるように特化しているのだった。
「さて、当然うちの飛行船に乗るよなあ?」「さて、当然うちの列車に~乗るでしょ?」
同時に詰め寄られて、第七隊は同じ分だけ後ずさった。
「って……き、気のせいかしらん? なんじゃあ片方だけしか乗れん感じに聞こえるんじゃが」
「ぜひそうしてくれ!」
「ぶっちゃけ、これはプライドを懸けた戦いなの~!」
両陣営のドックのちょうど狭間に、よく見れば立て看板があった。
ここセルタエ王国南部の地図が簡素に描かれていて。町なんてほとんど無い荒野地帯を、東のベルアーデ国境近くまで『試験航路』の点線が走っている。
その上部には、『ボルドーヘッド ゴーストレイン 合同試験運行』と題されていたのだった。
……誰かが書き殴った『対抗』の落書きが『合同』の文字を潰しながら。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




