Karte.19-1「ここは『LOAD』」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
南エウル大陸、ベルアーデ帝国は帝都ベルロンド近郊にて。
王城が聳える街からやや離れた平原に、駅があった。
機工式の列車が北回りと南回りの線路へ据えられた、新時代の物流拠点である。
帝都と繋がった幅広の街道から馬車がやって来ては、馬を離して荷台ごとクレーンで積まれていく。出荷物は主に量販品の武具や爆弾だ。
また、裕福そうな身なりの紳士淑女が高価な切符を買って客車へ乗り込んでいく。
逆に帝都へ向けて下ろされていくモノも多い。そちらは北の鉱山地帯から届いた金属材だったり、仕事を探しに来たらしい労働者たちが大半だった。
「いいわよお! これで修理できたはずじゃあ!」
と。なんちゃって幼女なドワーフのラバーメイド、マリーが工具箱をスケートボード代わりにクレーンの骨組みから滑り下りた。
すると、クレーン先端の機構に乗っていた作業員がサムズアップとともに操作を始める。
『オーエス、オーエス』
アーム……ではなく、不自然に巨大な鉄腕を備えた人型メカの上半身がクレーンの先端を担っていた。
噴き出すエーテルスチーム。演算のコアとして擬似精霊フェアリーが乗り込んだ、魔導仕掛けの『妖精機』である。
最新鋭のソレは、機関車の屋根から生えていた巨大ゼンマイをキリキリ回したのだった。
「いやあ助かったよメイドさん、妖精機の故障ときたらあんたの顔がパッと浮かんでさ。繁忙期にはまた荷受けのバイトも頼むわ」
「はあい、こちらこそ~。フェアリーギアスでも無理させたらこむら返りぐらい起こすんじゃけん、大事にしたってつかあさい」
続いて各列車の機関砲をリロードしはじめた作業員へ後ろ手を振り、マリーは仲間たちのもとへ戻ってきた。
「おまたせ! ほんじゃあわしらも今日んお仕事に出かけよーのう!」
「てやんでぃ、寄り道させといて仕切ってんじゃねぃやぃ」
「おかげでベルロンド駅限定の火薬ライスが食えただろ」
「ニトロをかけすぎてしまいました……お口の中が甘々でパチパチです」
今日も朝早くから、ベルアーデ帝国騎士団第七隊の四人は仕事に出かけるところだった。
ドワーフな魔導技師にして副隊長のマリー、
ハーフエルフな帝国王女にして隊長のシェリス、
一応はただの平隊員な青年騎士ハルト、
極東ニフ国よりの最弱白魔法師イエ。
最貧な予算事情を救うために各々が金策に励み、稀に騎士隊としての依頼が飛び込んでくれば原則的に全員参加。それが、たった四人限りのファミリーの『家訓』である。
「おーう姫殿下ご一行様、お出かけかいー? 王家にゴマ擦っておきたいから半額で乗せてってやろうかー?」
「ほははは正直かよぃオッサン。気持ちだけ受け取っといてやるのだわ、乗らない代わりにその半額サービス分を現金でよこしやがれなのだわ」
「ぜんぜん気持ちだけ受け取ってないし人の親切を換金しようとすな!」
「今日もキレキレねえハルトお」
通りすがりの機関士がゲラゲラ笑いながら列車へ向かっていった。
まもなくの発車を報せるベルとランプが対応する線路に響いた、が、第七隊はむしろ駅へ背を向けた。
「ハルトさんハルトさん。もしよろしければ今度、列車に乗って素材採集にいきませんか。ちっちゃな旅行みたいできっと楽しいです」
「えぇ? 俺たちは《ファストトラベル》使うからべつにいいだろ、それに比べたら列車なんてノロいし金かかるし肩凝るし」
「…………。…………ぷくー」
「わるい、なんか察した」
「なんか? です?」
「いやちゃんと察したから勘弁してくれ……。と、とにかく今日は依頼仕事だから《ファストトラベル》使ってくれな? な?」
「べつに今日のことはいいのですけど……いいですよ、お任せください。えっと、地図、地図……」
そんなスチャラカぶりを……、
(……ああいけない。私もシェリスやマリーみたいな顔をしていたかしら)
家族たちを夢の狭間から見ていた彼女は、だらしない笑みに緩んでいたかもされない顔を揉んだ。
そこは『闇』のエーテルが生んだ次元の狭間ならぬ、眠れる彼女が現界との縁を繋ぐために用いる異空間だ。
黄昏あるいは暁のような闇がどこまでも広がるなかに、舞台セットのように壁の無い小屋が漂泊している。
簡素に過ぎる廃材製のテーブルセットへ、彼女、旧き『星』の意志である守護精霊アリステラは座していた。
(さて。今日も始まるわね)
アリステラが見つめる闇には大きな『眼』の形が開かれ、そこに景色が映っていた。
イエに寄り添って立つ、しかしてそこに誰もいるはずがない『眼』から見る視点だった。
「そうでした。お姉さんに持っててもらっていました」
「……すやすや……すてぁ……」
(フードの中に突っ込んでいただけでしょう)
イエが白魔法師ローブのフードから地図の巻き紙を引っ張り出せば、それを抱き枕にしていた生き人形……受肉体のアリステラが寝顔を覗かせた。
イエから1レベル分の『経験値』を……オドエーテルを捧げてもらわなければ10分と起きていられないアリステラは、この夢の狭間でこそ眼を開けているのだ。
これまでもそうしてきたように、ずっと……。
「最寄りのポイントは……ここですね。いきます、《ファストトラベル》」
イエが声ならざる詠唱を編めば。
(……今日も始まるのね)
『光』でできたゲートが真上から四人へ降り、通していった……。
◯
そうして《ファストトラベル》のゲートをくぐれば、一瞬にしてそこは目的地……、
「「「「え」」」」
……の、はずなのだが。
気づけば第七隊は、白と黒の世界にいた。
「な、っ、なんだここ!?」
「さっきの駅みたいですけど……白黒、です?」
万物がモノクロームに色彩を失い、眩しいばかりに明るいのに太陽すら黒い世界だった。
「駅どころかほら、向こうには城下街もグレートベルアーデ城もあるし……なんだかスケッチの中の世界みたい。え、え、《ファストトラベル》のせいでわしらの目えがえらいしこーなったとかじゃなーよのイエちゃんっ?」
「は、はい、術式はきちんと発動しました。何も失敗していないです、転移は成功しています。でも、それならどうして同じ場所に戻されて……」
「同じ場所じゃねぃだろぃー。人っ子一人どころか虫一匹いねぃし」
そう。線路に列車、街道に馬車があれども、人も馬もおらず。シェリスが相棒の最硬シャベルで手近な石をひっくり返してみても、ダンゴムシ一匹いなかった。
「世界がどうにかなっちまったかより、シェリスさんたちがこういう世界に飛ばされちまったのを疑うのほうが妥当なのだわ。まあチートアイテムとかなら真面目に考えるだけ無駄だから知らねぃけど、ほははははは」
「……おまえはいつでもそんな調子だから助かるよ、皮肉抜きで」
「兄弟ぃ、味しねぃのだわこの火薬ライス。ぶふーーっ」
「バカ! バカ! こっち向いて噴くなよバカかよ!」
出店の釜から白黒なだけの米を頬張ったバカ縦ロールだったが、それでも彼女のおかげで第七隊は深呼吸した。
ピポンッ、
「なんか出てきたぞ」
と。なんだか間抜けなチャイムとともに、何事か書かれた光のウィンドウが四人のそばに現れた。
「フェアリーのウィンドウ……? いやこんな目に痛い感じじゃないか、えー、と、なになに……」
「大丈夫ですかハルトさん。そんなに近づいたら牙が生えてきて頭からムシャムシャされないですか」
「看板ミミックとか怖ぇよ……。こんな世界にぶち込まれた時点で大丈夫じゃないんだし、誰の仕業か知らないがノッてやるしかないだろ」
(……そうね。こんなに生に乏しい世界なのに、この様子だと現在進行形で生きている)
ウィンドウに並ぶ文字列、いくつかの箇条書きをハルトが読み上げるのだ。
「……『いらっしゃいませ。ここは『LOAD』、《ファストトラベル》のための裏世界』」
「ろーど(道)、ですか」
「うーん? それなら『L』じゃなくて『R』、『ROAD』じゃろ?」
「書き間違いだろぃ。『LOAD』世界なんて意味わかんねぃし」
顔を見合せあった三人娘を手で制して、青年の眼差しは次の行へ。
「『あなた様がたは、あなた様がたが設定した目的地に到着するまでこの世界から出られません』」
四人とも息を呑んだ。
「『どんな行動をとってもあなた様がたは何も変わらず、表世界の時間は進みません』」
そして、最後の行がある意味でいちばん問題だった。
「……『最後に、あなた様がたの險俶?縺ッ閼ア蜃コ譎ゅ↓豸亥悉縺輔l繧』……んんん読めるかぁ! なんだこの化けた文字!?」
読めない一文を最後に置かれてしまっては、無闇に不安が増すではないか。
おそらくいちばん大事なことが書かれていたのではないか、と心配になってしまうのも無理は無い。
「あ……これ、ニフ文字です。魔法に使うX言語の、ニフだけで使っている別コードなんですけど……」
「ああなるほどお、フェアリー用のFavaみたいなものね。ほんで何て書いちょんならあ?」
「ごめんなさい、小さい頃に習ったきりで忘れてしまいました」
「イエ子ぅぅぅぅ! シェリスさんは魔法の勉強なんてしてこなかったから口に出しては怒らないのだわ!」
「予防線張りながら怒るな」
ポピンッ、
とりあえずでも四人が読み終えたのを察したように、ウィンドウはまた消えていったのだった。
「《ファストトラベル》、《リターン》……ダメです、発動しないです」
微妙な沈黙を破ろうとするようにイエがハッホッと大きな袖を翻しまくったが、どこにもゲートは現れず。
「でしょうねえ、お決まりのパターン。フェアリーも困っちょるし、シュネーヴィも呼べないし……」
ーー エラー! ーー
ーー 《イークイップ》 座標検索 失敗! ーー
ーー エラー! ーー
ーー フロレンシックレコード 接続不能! ーー
ーー マップ データ取得 失敗! ーー
ーー コンパス 精度レベル- ーー
マリーがフェアリーを操作してもマップ一つ開けず。
「この辺りの機工も見るかぎり……ぽちぽち……がっちょん……ああやっぱりい反応無し。紙っぽいゆうか塩っぽいゆうか、なんならあこん材質」
機関車によじ登った彼女がボタンやレバーをいじっても、何ら反応しなくて。
「そうだ。こんな時こそアリステラ起こしていいだろ」
「そうでした、知恵をお借りしましょう」
「むしろネエちゃんの力でこんな世界ぶっ壊せねぃのだわ?」
「うう、アリステラちゃんをだっこさせてもらって勇気貰いたい……」
(そんなに求められても困るわ)
白魔法師ローブの胸元から、闇色クリスタルなタリスマンが抜き出された。
「《クラフトウィッチ》」
ーー レベルダウン! ーー
ーー レベル1 白魔法師 イエ ーー
イエからタリスマンへオドエーテル(体内魔力)が集束されれば、それは一条の『闇』の輝きとなって、フードの中の生き人形へ捧げられたのだ。
「……ん…………す、や……すてぁ……ぐぅぅ……」
「え、っ? ……ダ、ダメです。起きないです」
「起きない!? エーテルさえチラつかせたら世界一寝起きの良いヤツなのに!?」
(人をエーテル中毒みたいに言わないでくれる)
だが、そう。確かにエーテルが宿ったのに、アリステラはうなされただけで眼を開けなかった……開けられなかったのだ。
(ごめん。目覚めてあげられないの……そこは『光』が強すぎる)
夢の狭間の掘っ立て小屋で、当のアリステラが席を立ってウロウロするばかりなのを。当然、イエたちは知る由もないだろう。
「……すや……む……にゅ……ご……めん……」
「うっし! 謝ったから許すのだわ!」
「寝言でしょ?」
「寝言を寝て言わないんだよこいつは……。まあ仕方ないよな、こうしてても始まらないし歩きださないか?」
ハルトが固い足取りを踏み出した……、
が、他の三人は何か察したような苦い顔で尻込みしていて。
「あのう……どちらへ?」
「どちらへって。……目的地しかないだろ……今日の依頼の」
「ガチで、です?」
「ガチで。徒歩で」
ハルトは、イエのフードからあの地図を……南エウル大陸の簡易地図を取った。
「……隣国っていっても、直線距離でも200キロ以上。……かあ」
指差したのは。ベルアーデの北東部にあるここベルロンド地方から南西へ国を横断した、隣国。
「昔のヤツらって、よく自分の足だけで旅できたよな……」
「てやんでぃ、真っ裸でリンゴかじってた時代でも馬ぐらい乗ってらぁ」
第七隊、西へ。
……徒歩で。
(せめて、しっかり見届けるわ)
アリステラはテーブルセットに座り直した。
が、
やはり、そこからは長かった……。
◯
誰もいないモノクロ世界での旅は、何もかも生きてはいなかった。
「おい見てみろぃ、この溶鉱炉の火。ハリボテみてぃに立ってやがるし、触ったらヘタレたのだわ」
活動の失せた町村に『火』の色は無く。
「ウソだろ……川の水までゼリーみたいになってる。これじゃ舟は出せないか」
流れない川に『水』の色は無く。
「機工車はたくさんあるけど、シリンダーもスプリングも形だけねえ。こがーな土掘ったとこでゼンマイ用の聖女香も出てこんじゃろし」
足跡も残らない地平に『土』の色は無く。
「……風がありません。何も……私たち以外の音が何も聞こえないです」
鳴らない空に『風』の色は無く。
「それにあの、太陽……? 朝からぜんぜん動いてなくて。……私だけでしょうか、もう何時間も歩いているのにちっとも疲れていないんです」
「「「右に同じ」」」
黄昏の『闇』すら訪れない絶対の調和の中を、第七隊は歩んでいったのだ。
「見てくださいみなさん、私、もう何時間も走っているのに元気です。うふふふふ……白魔法師なんていらない子なのです」
「心のほうがダメになってる!」
なんなら徒歩どころかダッシュしていた。
が。半日進み続けただけでも、この旅路の恐ろしさを誰もが察しはじめているはずだった。
例えばその『夜』、
「……おいマリー、寝れんのだわ。てか1ミリも眠くねぃだわ」
「しーっ……時計どおりなら今は夜よ、夜なの。白夜か何かじゃあ思うてしっかり休むんじゃあ……」
「だからそもそも疲れてねぃって」
「ハルトさん、いま何時ですか」
「2分前に言ったのより2分進んだ時間」
(体ではなく、心を空にするのがコツよ)
比較的明るくない山の洞穴で寝転びはしたが、睡眠そのものができなくなっていたものだから『夜どおし』ジッとしていたり。
例えば次の日の『昼食時』、
「いくらお腹が空かないからといって、何も食べないで歩き続けるなんて心が不健康になります。さあ張りきってお召し上がりください」
「……このガムみたいなトウモロコシは飲み込んでいいのか?」
「いいくないと思うので、味わってからペッてしてください」
「意味無いし味も無いんだよなあ……!」
(時間を味わいなさい。彩りを愛で、香りを慈しむ……のは無理ね。やはり忘れて)
例えば三日後の『終業時刻』、
「次はイエちゃん! 『真実』か『挑戦』か、どっちにするんならあ?」
「『挑戦』で……」
「よくぞ言いました! ほんじゃあねえ、えーとねえ……んーと……もう561ターン続いちょるこのゲームを終わらせてつかあさいお願いしますうううう……」
「よく言ってくれましたマリーさん、本当に本当にありがとうございます」
「おいみんなあ! このダイナー、カードやボードゲームがわんさかあるぞ!」
「でかした! でかしたのだわぁ兄弟ぃぃ!」
(あなたたちね。無理に遊ぶのは遊びといわないわよ)
例えば二週間後の『もはや朝でも昼でも夜でも何物でもない時間』、
「さめのプロポーズの仕方……」
「もう聞きました……」
「一日で一番暑いのは正午じゃない件……」
「聞いた聞いた……」
「俺の預金残高……」
「知ってるがどうでもいいのだわ……」
「なんで知ってるんだよ……」
「ちな、このやり取りはもう四回目なのだわ……」
「じゃあもういいか……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………いや、会話がもういいって意味じゃなくて……誰か喋ってくれよ、俺だってもうとっくにネタ切れなんだよ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
(…………おしゃべりしたいわ)
そうして、たぶん、一ヶ月後。
「私、《ファストトラベル》のことがわかったかもしれません」
「777775歩……777776歩……777777歩……ほは、ほはは、遂に数え終わったのだわぁ……ほへぃ~、なぁ~んで数えてたんだっけぃ……」
「ああ~……あ、あ、あ、シュネーヴィシュネーヴィシュネーヴィ……機械、いじりたい、エーテルスチーム、嗅ぎたい……シテ……バラシテ……」
「どうしたイエ……こいつらはともかく俺はちゃんと聞いてるぞ……」
色づいていればきっと綺麗なのだろう荒野を、三つの歩く屍と、背筋をシャンと張った白魔法師が歩いていた。
「ていうか、なんか一周回って元気になってないかおまえ……」
「はい。みなさんがゾンビみたいになってしまったので、ゾンビになりたくないので正気に戻りました。ゾンビは大嫌いですので」
「そりゃどういたしまして……。で、《ファストトラベル》がなんだって……?」
なんだかんだで二番目に正気を保っている様子のハルトである。やはり、こんな世界でもイエのそばから片時も離れなかったからだろうか。
「《ファストトラベル》の術式はゲートを介して一瞬で目的地にたどり着くものです。でも私、不思議だったんです。空間を繋げて瞬間移動するのなら『次元』を司る闇属性のほうが適しているのに、どうして『時間』を司る『光』のほうなのでしょうと」
「よくわかってないのに使っていいのかよ魔法って……」
「術式で意味を与えればエーテルがこう動く、とさえわかっていれば……それがどんな高次元の働きによるものなのかは考えるだけ無駄なので。はい、たいていのマジックユーザーはそうです」
「いろんな意味で恐ろしいな……」
例えば収納魔法は高次元との狭間を用いる闇属性の魔法だ。一方、《ファストトラベル》は似て非なる『光』のゲートを用いる光属性の魔法で。
次元の狭間という行き先が明確な《インベントリ》に対して、そも、《ファストトラベル》のゲートはどこに繋がっているのか。
ゲートの先は目的地だ、なんて回答は結果にすぎないのだから。
答えは、今まさにここにある。
「ひょっとしたら《ファストトラベル》は瞬間移動の魔法なんかじゃなくて。そう見えているだけなのではないでしょうか」
「というと……?」
聞き返したハルトだって、おそらくはもう察していたはずだ。
「……ま。まった」
『なんで今回はこんな目に』と不運を呪う面持ちが、その前提が間違いであるとでもいうように目覚めていったからだ。
だが、
「ああああああ!? 見ろぉぉぉぉいっっ、ゴール、ゴルッ、ごーりゅなのだわぁぁぁぁ!!」
「「「うわああああああああい……!!」」」
原野の先。モニュメントとしてポールが突っ立った野営地のような場所に、虹色に輝くゲートがあって。
人間性が外れかけていた四人は、両の腕を突き出しながらダバダバと駆け込んだのだ。
この無彩の『ロード』世界で、わざとらしいほどギラついたゴールゲートのなんと神々しいことか。
(おめでとう。これで解放ね)
ただ一人。夢の狭間のアリステラは、その眩しさへ苦々しいばかりに眼を細めていて。
(あなたたちの読みは正しい。《ファストトラベル》は瞬間移動なんかではなく、時の狭間であるこの『ロード』を渡り歩くものよ……)
そして第七隊は、頭から飛び込んでいったのだった……。
◯
ベルアーデの西の隣国の一つ、セルタエ王国。
南北エウルの様々なギルドの本部が置かれ、特に職人系のそれらが影響しあうことで、先進技術の一大プロジェクトが日々生まれていく地だ。
ひっそりと線路が走った郊外の原野にて、モニュメントとしてポールが突っ立った野営地に《ファストトラベル》のゲートが現れた。
そこから突き上げられるように、第七隊の四人が飛び出した。
「よっと。いやーほんと、俺たちみたいな旅人もどきに《ファストトラベル》は必須だな」
「そうねえ。馬車の旅とかもオツなもんじゃがの、お仕事で出かけるんなら一瞬で着くのが便利すぎるわい」
「シェリスさん、さっきのお話なんですけど。列車で行けるオススメの素材採集地とかないですか、できれば日帰りで」
「良いルートがあるぜぃ。南回り路線でポレスカ国境のオーダーシティまで行って、赤金鷲の河畔まで採集して歩いたら北回り列車に乗るのだわ」
ベルロンド駅での掛け合いに引き続き談笑しながら、四人とも、早朝の活力に満ちていた。
(……何度経験しても笑えない。絶対に話さないほうがいいわね……あの時の狭間での毎回の旅路や、最後に記憶が消去されること)
ーー『最後に、あなた様がたの險俶?縺ッ閼ア蜃コ譎ゅ↓豸亥悉縺輔l繧』
ただ一人。旅人の服を着た少女だけは、引き続き、ここにいたのだ。
(私だけが、こうして時の狭間からさえ追放されるのも然るべきことね)
これまでもそうしてきたように、ずっと……。
(……ああ嫌。あいつのことなんか考えていたら眼を抉りたくなってくるわ……やめましょう)
ずっと、ずっと……。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




