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Karte.17-2「さすらいのマシーナリーメイドさんだからね」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。

「コンカラーガード!」

 それは銃の構えではなく演武じみた振り回し。大メイドがわざわざ名乗ってみせたその長ライフルは、アクロバティックな使用に対応しうるよう至るところにグリップとトリガーが増設されていた。

 波状攻撃を含んだ犬風亜人の飛びかかり包囲網に対し、真っ向から地を蹴るとともに銃身を舞い上がらせて。

 刹那、

 トリガーがひとたび引かれれば、そこからぶっ放されたのは大口径すぎる()()だった。

 圧縮された空気の塊が、ストッピングパワーのみに特化して轟々と焙じられたのだ。

「《ガン・パリィ》!!」

「「「「「きゃいん!?」」」」」

 殴りかかってきた、撃ってかかってきた、飛びかかってきた、それら全ての魔物の攻撃を……銃パリィ(いなし)。

 攻撃が命中するコンマ一秒前の刹那、空砲の連射で弾き返したのだ。

 ーー レベル49 制圧長銃コンカラーガード ーー

 ーー ガン・パリィ レベル2(達人級) ーー

 それは相手の勢い全てをハイリスクハイリターンに弾き返す、れっきとした戦闘技能……その中でももっともテクニカルかつコアなパリィ術だった。

 排出され、内包されていた空圧の凄まじさから花咲くように散らばっていった空薬莢たち。

 ぶっ飛ばされ、転がっていった犬風亜人たち。

「ばううっ!」「がうっ」「ふんぬっ」

 中には地に爪を立てたり受け身で踏みとどまり、機工武器を咥えた牙にいっそうの力を込めた者たちもいた。

 それらの武器にはどう見ても廃材ではない後付けのアタッチメント……手のひら大の鐘のようなパーツが取り付けられ、稼働していた。

 剣も槍もボウガンも杖も。その要となる部分が超微細に振動し、高周波武器と化していたのだ。

「おすわり!」

「「「きゃんっ!?」」」

 しかし。彼らが再び跳び上がる前に、大メイドの方が足に車輪でも付いているような滑走で肉薄……トマホークよろしくダイナミックに湾曲した銃床にて叩き潰していった。

 実際、彼女が履いた機工式サバトン(鉄靴)の踵にはローラー機構があったのだ。

「待て! 伏せ! ちん……なんでもない」

「ばふっ!?」「ばわわわわわわ!?」

 背後から短刀で奇襲を仕掛けた犬風亜人へは脇から長ライフルを突き返して銃パリィ、からそのまま銃口で突き飛ばし。さらに反対側へ銃身を翻し、片手のスナップだけで大回転させるとボウガンの連射を弾き……そのまま突進で犬風亜人を銃床アッパースイング。

「マーリアさん!」

「おや、っと」

 その時、最後に挑みかかってきたのは。大剣型機工武器を咥えたまま、二足歩行に立ち上がってきた大男の犬風亜人だった。他よりも装飾の多いチュニックを着ている。

 トマホーク銃床で鍔迫り合いに受け止めた大メイドだったが、その幼いほどの相貌には気迫こそあっても殺気は無いようで。

(おさ)も? ひょっとして尻尾フリフリ張り切っちゃったかな、ここで叩きのめされたらみんなにカッコつかないと思うよ」

「ま、まあそれもありますが……そうではなくて。新しいお客さんがたがいらっしゃったようなので、()()()はひとまずここまでということでお願いしまするど」

「うん?」

 そう、長と呼ばれた中年の彼にもひっくり返った犬風亜人たちにも殺意は無かったのだ。

 そこではじめて、大メイドは集落の入り口を捉えた。

 そして。ものの30秒も経っていなかったこの大立ち回りについぞ圧倒されていた、ハルトたちを……、

 マリーを見つけた。

「やあ、マリーじゃないか! わたしの可愛い林檎ちゃん!」

「……お母ちゃんみっけ。ひーさ会わんかったのう」

 ーー レベル39 機工技師 マーリア・ベル

 ーー レベル17 魔導技師 マリー・ベル ーー

 大きなメイドさんと小さなメイドさんは、どちらから近づくこともなく笑い合っていた。

 

 ○


「集落の外にいたネズミのようなコボルドはおれたちの原種にあたりまするど。とはいえヒューモンとして生まれるにあたり、なぜかこのように犬っぽくなったので……信じられないでしょうね」

「でしょうか? とってもコボルドさんっぽいと思いまするど」

「ひょっとして口癖だけでそう思ってるなおまえ」

「ははは。共通語教育はみんなで頑張ってるのですが、こればかりは抜けないでするど」

 集落の真ん中で焚き火がおこされていた。犬風亜人……コボルドの長が胡座を掻き、肉球ハンドゆえにかなり握りにくそうだが追加の薪を投入していく。

 ハルトたちは、その火の前にて集落から歓待を受けていた。

「お客さんでするど~、でするど~」「歓迎歓迎」「ごちそうですねるど」「お嬢さんに貰ったこの傷薬、効くねえるど」「ちょっとケモノ魂が疼きすぎちゃったねるど」

 スープを沸かした鍋や焼き料理を刺した枝が火に添えられており、拾い物っぽい陶器だったり葉っぱの皿がコボルドたちによって準備完了される。

 先ほどの模擬戦で見えた野性味はすっかり無く、住居の中にいたらしい主婦勢や子供たちも交えて実に朗らかだった。

 小さく見える集落だが、見える限りでも50人近くはいるだろうか。

 彼らは魔物の人型変異体……いわゆるヒューモン。

 世界に満ちるエーテルの影響を受け、人間と相似のカタチで生まれた魔物である。

 エーテルには人間が認識できる形へと事物を変換させる因子が含まれているのだ。

 それはかつて『星』の意志が、高次元の概念(エーテル)を精霊という形へ降ろした名残であるという。

「申し遅れました、おれはここをまとめてるピレンといいまするど。ベルアーデの話はマーリアさんからかねがね……さあ召し上がってください、第七隊さん」

「一応言っとくけど食べないのは失礼だよー、きみたち。歓待を受けないのは最大級の侮辱だって舌を狩りにくる部族もいるくらいだからね。まああれはヒューモンじゃなくて人間だったけど」

「わ、わかってるよ……」

「ハルトお、話半分でいいからね。お母ちゃんは親切と余計なお世話が一緒くたになっちょる人じゃあけん」

「我が子ながらひどい紹介の仕方だねえ」

 調整待ちの大量の機工武器に囲まれながら。マリーの母……機工技師マーリアは工具箱に手を突っ込み、もう片方の手で串刺しの焼き料理を嗜んでいた。

 そう、ゲジゲジな脚が垣間見える焼き物の雑草巻きを。

 他にも鍋のスープは『生き物』由来ではなさそうだったが、やはり大量の雑草ベースに野菜も果物も一緒くたに入れた独特の汁だった。

「ごくごくごく……」

「うお。おまえすごいなイエ……さすが白魔法師、いろんな素材に慣れ……」

「ごく、ご……ぐるぐるぐるぐる」

「……いや目ぇ回してるな。そりゃそうか、慣れてても何も感じないわけじゃないか」

「あ、ああ舌に合わないなら無理しないでいいでするど。舌も何も狩ったりしないので」

「わしはけっこういけるけどなあ。地元の鉱石料理より断然グルメじゃわい」

 けっきょくハルトたちは何口かのご相伴にとどめ、気を利かせたピレンが料理の残りは住民たちへ振る舞いはじめて。

 それでもそんなやり取り自体が挨拶となり、互いに緊張が和らいだ気がするのも事実だ。

「改めてはじめましてえコボルドのみなさん。わしらがここに来た理由はまあいろいろあるんじゃが、とりあえず、こんお手紙についてお話聞きに来たんが一つじゃあね」

 と、マリーはエプロンの中から一通の便箋を抜き出すと中の手紙を開いた。

 どう見てもそれは爪痕の連なりにしか見えない文面だった。

 が、マリー曰くそれは騎士団に送られるべきではなかった『機工武器発注書』とのことで。

「ベルアーデの機工武器を買いたいんですってね? とりあえずこれは騎士団じゃのうて国立工廠に送らんといけんもんじゃけえ、普通なら転送させてもらうんじゃが……ちぃと成り行きでのう。火急の発注と違うんならあワケを訊かせてもらえん?」

「もちろんでするど。その手紙はうちの血気盛んな息子が先走りまして……貴国の機工武器が欲しいのはそうなのですが、まだその時期ではないだろうと取り消しの文を送ったばかりなのでするど。行き違いになったようで」

 ピレンが視線をやった遠くで、コボルドの中年女性に寄り添われた少年が気まずそうに犬耳を倒していた。

 長はマリーから手紙を受け取ると、忠心が漂うような『待て』の姿勢へ背筋を伸ばした。

「それもこれも。おれたちが魔物の突然変異としてのヒューモンよりも、人間に近しい一種族として……『亜人』として認められるために努力しているからなのでするど」

「『亜人』、か……」

 『亜人』。その語句は、実は扱いの難しいモノだ。

「違ったら。何か違うのですか?」

 と。天然危険物乙女が、子犬よろしく首を傾げた。

「……わるいおっさん、こいつ筋金入りの世間知らずなんだ。犬猫でも空気読めるってのに思ったことを言わずにはいられない」

「いえ、かまいません。なかなかどうして、核心を突いた言葉でするど」

 ピレンはどこか寂しげに笑った。

「『亜人』……その定義も意義も曖昧には違いありません。ヒューモンというのはあくまでも人間に近しく生まれた魔物のレアケースにすぎませんが、偶然に偶然が重なっておれたちみたいな大所帯に発展することがありまするど」

 実際、『突然変異』から一個の(しゅ)が確立された例は珍しくない。獣だって……そう、人間だって。

「そしてそんなヒューモンたちがいつか人間社会に浸透すると、人間とは異なるにしろ魔物ではない『亜人』として認められるんです。どっち付かずのまま()()()を宿してしまったおれたちには、特に人間との共生を望むならそれは心強い名になるんでするど」

「なるほど……。みなさんにとって一つの()()になるのですね」

「どこまでいけば『亜人』、ってのが特に決められてるわけでもないのが困りモノだけどな。……『普通の連中』は『普通じゃない連中』のことなんか真面目に考えない、ありふれた無関心だよ」

「詳しいんですねるど、騎士の兄さん」

「ま、まあ俺も、騎士の兄さんって認められる前はいろいろあってさ……。同情にしかならないだろうけど心中察するよ、認められるためには認めない連中の中に飛び込まないといけないもんな」

「ちなみにこれがね、ざっと調べただけじゃがこん人らの活動じゃあよ」

 ーー 開示 ドキュメント ライブラリー ーー

 マリーがフェアリーの記憶容量内から写幻付きの記事を開けば、コボルドたちが感嘆の声を上げた。

 犬耳の形が突き出たお揃いのバンダナを被ったピレンたちが、侘しい港町や限界集落で奉仕活動に励んでいる写幻たちだ。

 見るからに手際の良いゴミ拾い、嗅覚を活かして失せ物探し、人懐っこく幼子の遊び相手、新型防具のイメージモデル……。

 コラムほどの枠の記事だったが、好意的なものらしかった。

「でもねえ。……じゃがのう」

 なぜだか浮かない顔のマリーが、憚りがちに続ける。

「あなたたちはあなたたちでしょ? 言っちゃえば亜人として認められるのはただの称号で、それもあなたたちの努力っていうよりは人間のアバウトな()()で決まるんだし。そがーに……人間らしいなるんを急がんでも、ええんじゃあないかのう」

「それはまあ、一朝一夕に認められるものではないでするどけど……」

 あなたたちはあなたたち。そんなマリーの諭しをハルトは以前にも聞いた気がするが、いつだっただろうか。

「それでも、他の地でいまだ影の中にいる同胞たちのためにも。おれたちは人間らしくあり続けたいんでするど」

「……わしら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わよ? 人間らしさなんてそんくらいのもんじゃて」

「その、『人間から』というのがおれたちとの違いなんでするど。それにドワーフには機工を造る知恵がありましたし、エルフにだって魔術の才能がありました。だからおれたちも……」

「それで。あん人に頼んだんならあ?」

「マリ~、ヘックスドライバーのE型を取ってくれないかな」

「『ベルアタッチャー』は封印ネジのB型でしょ! テキトー言わんの!」

「うん、よく覚えてるね感心感心」

 それなりに近くに座っているのに、マリーは整備も終盤の母をどこか遠めに指差して。蹴り出されてきた工具箱からドライバーを取って投げ返した。

 十指のほとんどにツールを挟んだマーリアは、機工武器数十本の仕上げ作業をあっという間に回し終えたのだった。

「よし終わり。みんな、自分のを持っていってねー」

「ありがとでするど!」「もらいます!」「鍛練鍛練!」「おいそれ僕のだぞるど!」「名前書いときなよー」「名前なんてだせえるど。やっぱオリジナルマークっしょ」「ああ、その猥褻物あんたが書いたの」

 わーわーと各々の機工武器を咥えていったコボルドたちは、それこそオヤツの骨にでも群がる犬ころのようだった。

 彼らを一瞥すらせずに、マーリアは工具箱を収納魔法インベントリへ……ではなく、大きな大きなリュックへ詰めた。

 ハルトたちはイエのおかげで収納に困っていないが、《インベントリ》は魔法書で代用できないそこそこ貴重なものなのである。

「機工武器のことは頼まれたわけじゃないよ。この辺りを旅していたら彼らのことを聞いてね、貸せる力はあるかなってわたしから訪ねてきたのさ」

「同じことじゃろ」

 娘とは比べ物にならない長身なのに、同年代ほどにも童顔な母は豊満に胸を張った。

「なんたってわたしは、さすらいのマシーナリーメイドさんだからね。機工技師としての力はいくらでも貸し出しさせてもらうよ」

 マリーもそうだが、技師を『メイド』とかけているらしい彼女の誇らしげな笑みにハルトは脱力した。

「さすらいのメイドってなんだよ……。メイドって主がいてこそのものじゃないのか?」

「良いツッコミだねハルトくん。うちの子にもツッコミタイプの友達がやっとできた」

「そりゃどうも……ってそうじゃなくて、マリー、さっきからあんま嬉しそうじゃないな? ここに来た理由の半分は母さんがいるって聞き付けたからだろ?」

「……半分もないわよう。せいぜい3分の1ぐらいじゃて」

「細かい照れ隠しだな……」

「そがーのんと違うっちゅうんじゃい!」

 怒るとますます照れ隠しにしか見えなくなるというものだが、本当にマリーは赤らむどころか苦い顔をしていた。

 一方、マーリアのほうこそが面映ゆそうにしていたのだ。

「私は生来の旅好きでね。マリーが一人前になってからは機工技師としての修行も兼ねて出ずっぱりだから、道が交わった時はいつも顔見せてくれるんだ。といってもまだ19だし、パパを置いて家を空けっぱなしなことに拗ねてるのかもね」

「そがーのんとも違うっちゅうんじゃい! お父ちゃんのことも関係な……くは無いがのう違う!」

 前のめりに腰を浮かしたマリーだったが、最大限淑やかに座り直した。

「それじゃあ聞くけどねお母ちゃん。機工技師としてこん人らに()()()武器を作ってあげて、なんの力になるっちゅうんじゃ」

「またそれかいー? 人前でやめなよ」

「無償……タダ、です? 私が言えた立場ではないですけど」

 この白魔法師だって有事とあらば薬や医療品を惜しみなく振る舞うが、機工武器一本でも大金貨数枚以上するのだ。個人が無償で吐き出すには桁が違う。

「お母ちゃんは行く先々で人様に機工武器を作ってあげてるの。そう、無償で、タダで、最低限の旅費以外は自腹まで切っての」

「格闘と噛みつきぐらいしかできなかった我々にはまさに文明の進歩でするど。図書館で読みました、武器を得ることこそが人間らしい進歩なのでしょう? 狩猟にも自衛にも役立ててます」

「狩猟と自衛ねえ。そんならまだええんじゃが」

「咥えることを想定した機工武器なんて製作できて、勉強になったね。彼らにとっては文明のレベルが上がって、わたしにとっては技師のスキルレベルが上がる……かもしれない」

 ピレンも、脇に置いた大剣型機工武器を撫でながら気に入っているようだ。マーリアは満足げに頷いた。

「朱に交わりたければ赤くならなくちゃ。お互いに、ね」

「……? 『朱に交われば赤くなる』、だろ?」

「朱色は赤より薄いのに、交われば元より赤くなるって面白いと思わないかい?」

「はあ? なんだよそりゃ」

 ーー 技工 レベル2(達人級) ーー

 赤髪を弄びながらレディメイドの言葉遊びは謎だったが、すでに世界に通ずるレベルの技能を上げようというのだから思考の一つや二つは飛躍しているものか。

 命にはあらかじめ定められた才能とそのレベルがあり、後天的にはまず上昇しない。しかして人間性こそを以て知恵を磨き続ければ、その一念が神(レベル3)にも近づくことだってあるのだから……。

「ベルアーデ軍に卸してる機工兵装の特許料(ロイヤリティ)だけでも我が家は安泰なんだから、そのお金がまた新しいアイデアの源になるなら貯め込むよりむしろ清浄な流れじゃないかな。自腹くらいわたしはいくらでも切るよ……世界中、いつでもどこでも誰にでもね」

「お金のことだけ言ってるんじゃなくて! ああもうなんて言うたらええんじゃ……」

(正規軍のあの強化外骨格とか銃剣シリーズか……シェリスたち帝王一家がいるから霞んでたが、マリーの家もたいがい名家だよな? 爺さんの商会もあるし)

 母娘が有する『ベル』の名は、ベルアーデ帝国が盟友と認めた一族に贈られるものだ。

「マリーさん、お母さんが心配なのはわかります。でも私は、良いお母さんだと思います」

「イエちゃん……。じゃがあ、のう……」

 と、イエがふんすと握り拳を揺らした。

「マリーさんも前に、マキシマさんに言われなくてもアイフェアリーさんたちの独立運動を助けましたよね。それと一緒ではないでしょうか。マーリアさんは素敵なレディさんですし、マリーさんもお母さんみたいに素敵なレディさんなのです」

「…………」

「お父ちゃんのところで? へえ、この子がそんなこと……。イエちゃんはマリーにとって良い後輩ちゃんなんだねえ、これまたありがとう」

「いえいえ、こちらこそいつもお世話になっています」

「……うちとこん人とでは違うわい」

「おいマリー……なにをそんなにウジウジしてるんだよ、いつものおまえらしくないぞ」

 ちまっこいだけなはずのメイドレディは、本当に、適切な言の葉を持ちえない幼女のようにもどかしそうで。

(……なにをそんなにドロドロしてるんだ、っていうべきかな。よく似てる親子だけどさ……口には出せないけどさ、マーリアは本当にドワーフだよな?)

 ハルトが口に出せないように。長身すぎる母の快活な笑みを見上げる娘にだって、話しにくい何かがあるのだろうか。

 ーー リリリン! リリリン! ーー

 ーー アラーム 設定時間まで あと 1時間! ーー

 そんな時。ハルトとマリーのフェアリーが、同期しておいたアラームを通知してきた。

「と……。じゅうぶん歓待も受けたし、そろそろ動かないとな」

 第七隊の三人はアイコンタクトを交わしあった。代表してハルトが、怪訝そうなピレンへ向き直る。

「この塔の頂上に『灰なる人狼』っていうのが居座ってるんだが知ってるか? あと1時間もすれば冒険者たちがそいつを討伐するためにここを登りはじめる……レイドが始まるんだ。正直、何が起こるかわからないからあんたらには先に避難してほしいんだよ」

 コボルドたちのテリトリーに飛び込んでいきなり避難勧告しても混乱を招くだけだからと、彼らとコミュニケーションを図るためにハルトたちは抜け駆けしてまでここに跳んできたのだ。

 思いがけず手厚い歓待を受けてしまったが、それでもまだ1時間の余裕がある。地上へ降りるだけなら十分だろう。

「ジンロウ……あの犬、いや狼のような人間のことですね。承知してまするど。先日からあそこにいて不気味なのですが、一向に起きる気配も無いので様子を見てました」

 ピレンは神妙な面持ちとなり、周りのコボルドたちも複雑そうに顔を見合わせあった。

「下に冒険者たちが集まってると思ったら討伐のためだったんですね……合点がいきましたるど」

「やっぱり、ギルドからは通達されちょらんかったんじゃね」

 そんな無関心や無遠慮も、マリーには織り込み済みのようだった。この前のスオスカ族たちのように『人狼崇拝』に陥っていたらとも危惧していたものだが、その心配も無さそうだ。

「詳しい事情はわかりませんが、この塔が戦場になるならそれもしかたないでするど。おれたちが暮らしてるだけで、ここはもとよりダンジョンですから」

 ピレンが大剣を背負いながら立ち上がると、同じく機工武器を保有する戦士のコボルドたちから倣った。

「ただ。避難はできないでするど」

「えっ……! どうしてですか、危ないです……!」

 立ち上がろうとしたイエが薪に躓いて危うく焚き火へ飛び込みかけたので「おまえが危ないっ!」、ハルトはタンゴダンスよろしく手を引いて止めた。

「安心してください、おれたちの身はちゃんと自分で守ります。塔の中にいる原種のコボルドたちにも声をかけて、下手に外へ大移動するよりこの集落の中で有事に備えたいんでするど」

「声をかけて、って……わるい、ハンドサインなら通じたが話までできるのか?」

「もちろんでするど。敵意の無い人間に会ったら去るように、とお願いしたのはおれたちなのですから。心配でしょうけどここが一番安全なんです、マーリアさんに作ってもらった機工武器もありますし」

 戦えない者たちは住居の中へ入っていき、戦士たちはピレンが言わずとも派遣部隊と防衛部隊とで隊列を組んで。なるほど、こういう時のために集落が一丸となって対応を決めているようだ。

 一方、マーリアが防衛部隊のほうへ寄った。

「わたしもこっちに残ってフォローに努めるよ。冒険者登録すらしてない身だからね、レイドへの興味は察しておくれ」

「タダで機工武器は作ってやるくせにそこはそうなのかよ……」

「世間を騒がしてる……『白式』だっけ? 名前以外は知らないな、それくらいの興味だね」

「そんなことだろうと思った。ほらお母ちゃん、わしのレポート送っとくけえ読んどきんさい。コードテーブルはQの4型」

「マリーは技師よりも学者のほうが向いてると思ってたんだけどな、お母ちゃんは」

 ーー 転送 ドキュメント ーー

 ーー 『Eレポート Ver.1.2』 ーー

 ーー パスワード保護中 ーー

 マリーとマーリアのフェアリーが飛行し合い、ハイタッチとともに羽型魔導書『フィグ』からエーテルスチームを交わした。内包された魔導術式のやり取りにより交信完了……。

 一方。妖精の主である母娘といえば、背中合わせにもう歩きだしていたのだ。

 副隊長マリー率いる第七隊は、ピレンが率いる派遣部隊へ合流。

「手伝うわピレンさん。ついでに頂上へのルートを教えてくれん?」

『ガガガ!』

 ーー アーム(武装) ザーグシルト ーー

 シュネーヴィの両腕にカノジョのメイン武装が展開された。棺のごときタワーシールドである。

「ありがとうございまするど。お散歩というわけにはいきませんが、リードさせていただきましょう」

 そして改めて、ゴミの塔内へ突入していくのだった。


 ○


 金属質のゴミを共鳴させながら、塔内に遠吠えが響き渡る。

「わおわお~ん!」「あお~ん!」「はうはううう!」「くううううん!」

 尋常ならざる脚力によって疾走していく、コボルドたちの言葉ならざる言語だ。

 するとどうだろう。潜んでいた原種コボルドたちが壁の穴や天井から現れ、この『避難勧告』の隊列に加わっていった。

「同胞たちよ、人間が登ってくるので集落に集まってください! おれは今からこのお客さんたちを頂上の狼まで連れていきます、協力してくれるならついてきてほしいでするど!」

 ーーワッチュ~

 ーーチャワッチュ!

 ーーチュチュワワワ……

「……という旨を伝えていってまするど。頂上まで向かうのはおれと彼らだけですが、ここは庭みたいなものなので任せてください」

「いろいろとどうもな……!」

 各階層ごとに、原種コボルドたちと合流した亜人コボルドたちが集落へと戻っていく。

 一方でハルトたち第七隊は、長ピレンと数人の原種コボルドたちとで上層へ登り続けていくのだ。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)

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