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Karte.17-1「せっかくのレイドレースなんでぃ」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。

 南エウル大陸、その中西部を席巻せしめるベルアーデ帝国。

 帝都ベルロンドのグレートベルアーデ城(正式名)外苑には、帝国騎士団の本拠であるパラダイスナイトガーデン(正式名)がある。

 各隊の特色に基づいた砦が規模も形も様々に合計7つ。今朝もまた朝日が顔を出しきらないうちから、クエスト持ちの市民を迎えるためにちらほらと目覚めはじめていた。

「ごめんくださあい」

 と。騎士にしては異彩な人影が、砦ともいえない最小最貧の2階建てハウス七番館へ……、

 ではなく、そのお隣さんの六番砦へ踏み込んだ。

 どの砦も隊の特色がわかる意匠に凝っているものだが、ソレの外観はただ真四角に大きいだけの『箱』だった。

 窓一つ無く、打ちっぱなしの石壁の一ヶ所に『要予約』と案内用紙が貼られたドアが設えられているだけ。

 しかも中に入ってみれば、そこは大きな外観に釣り合わない行き止まりの小部屋でしかなかったのだ。 

 ガス灯一つが吊るされた下、床から大きめのラッパ……伝声管が生えていた。

「今週のコードテーブルは11のC……ノック、ノック、こ・ん・に・ち・は……6、2、7、7、9、9、9」

 申し訳程度に据えられていた椅子に座り、伝声管の内側を強弱と位置の使い分けでノックしたのは……赤髪をブレイドに編み込んだラバーメイド姿の幼女。

「こんにちはっていうかおはようの時間だけど。もしもーし、メイドインドワーフなわしじゃあよー」

 最小かつ最貧なる『なんでも屋部隊』第七隊の副隊長、マリーだ。

 その幼女じみたミニマムボディと褐色の肌は、職工種族ドワーフの特徴である。

「ーーおはようマリーちゃん! コード確認完了でふ、待ってましたよ~!」

「このくだりいるう? わしが来るうてわかっちょったんに」

「いいじゃないでふか。わっちらには伊達と酔狂が必要なんでふ」

 伝声管から女声が上がってきたとともに、ゼンマイ仕掛けの駆動音。

 ドアにロックがかかれば、床が昇降機として下っていった……。

 するとたちまち、マリーの目前に()()()()()が広がった。

 無数の機工演算機と書類に埋め尽くされた、司令室のような大広間だった。

 天井……つまり地上に突き出た『箱』のほとんどを占める内部として、歯車とゼンマイの機関部が稼働していた。

「スァーヤ皇国の次の動きは?」「想定Bの逆張り」「MMちゃんが奪った資料のおかげだな」「おーっすマリーさん」「メイドインマリー! おつかれ」「……ども」「いらは~い」

 ネクタイを締めたスーツ風制服の騎士たちが、鑽孔テープ(パンチテープ)を介して機密書を入出力していた。

 ベルアーデ帝国騎士団第六隊は、諜報を専門としたエージェントたちの集まりである。

「改めまして、おはようでふマリーちゃん」

 マリーが椅子を回して振り向けば。伝声管ブースに対する受付のように、極東ニフ風の女性騎士が鑽孔テープの編纂と校正を担っていた。

 羽衣を被った羊皮紙色の髪を一本結いにし、その毛先を栞として百科事典をくくりつけた淑女だ。

「おはよ。正規軍の情報部から、こっちにも顔出すように言われたんじゃがあ」

「うん、ちょうど良かったでふ。さっき第五隊と擦り合わせて解読終わったところなんでふ」

 ……毛先が手に依らず持ち上がり、マリーの前へ。百科事典に挟んでいた様々な紙の中から、騎士は一通の便箋を抜き出した。

「手紙? ……って読め~ん~」

 なぜかチラシの裏を再利用した開封済みの便箋と手紙だった、が、内容を開いたマリーはさっそくのけぞってしまった。

 インクではなく炭か何かを溶いた汁を、書くというよりは爪で引っ掻いた様子で。直線の組み合わせだけで成された楔形文字が躍っていたからだ。

「資料がまだ少なくて苦労しましたあ……。()()()()の文字でふね」

「コボルド? あん子らかてこがー文字は……ああ、そういうことじゃあね」

「私みたいに、手足まで人間らしくなる種族って実は少数派でふもんね!」

 パタパタと開閉した百科事典とともに笑った騎士は、やがて、マリーに見つめられて咳払い。

「閑話休題。端的にいえばベルアーデ製機工武器の発注書でふね」

「……んう?」

「そうなんでふ。最近、テイマッツ王国のコボルドたちは『()()』としての市民権獲得を掲げてお決まりの泥沼にハマっちゃってるんでふけど、名指しで急にベルアーデの機工武器を欲しがるなんて……これまたお決まりのパターンじゃないでふか?」

「…………はああ。知ってしもうたからにはー、のう」

 手紙を返そうとしたマリーだったが、両の手のひらと百科事典の壁に断られた。

「そのお手紙もマリーちゃんに回しまふ! もともとお城の騎士団管理部からこっちに回ってきたんでふけど、そもそもどの隊でも送り先を間違ってるものでふし」

「ちょっとお。わしでも間違ってるわよお、いくらお金が無くてもわしは()()()とは違う魔導技師なの。発注書てわかっとんなら『工廠』行きで解決じゃろお?」

「だからあ。普通なら『工廠』に送ってから個人的にお知らせするところ、同じ帝国エージェントのよしみで『工廠』に送る前に相談したんでふよ」

 ……手紙をエプロンに仕舞ったマリーは唇を尖らせた。

「……まだ送ってないのね? ほんじゃあ、まあ、騎士団の人助けのうちなー入るがのう」

「またまた。マリーちゃんたち、ちょうど聖女教会から連絡受けたんでふよね。内容の察しはつきまふ!」

「よく調べてるのねえ」

「よかったじゃないでふか。実質業務外の【獣狩り】だけより、依頼で出向くことにすれば他の隊に白い目で見られないでふ!」

「あの人たちも。あなたたちみたいにフラットに接してくれたらええんじゃがのう」

「わっちらは偏見で人様に接しないでふよ~。情報とは力であり、力そのものに善悪は無いものでふから。マリーさんとこの『チートくん』だって自称『『星』の意志』様だって、扱い方次第だと思いまふでふ」

「……あんがと」

 マリーは肩をすくめると、椅子の向きを伝声管へ戻すとともに上方を指差した。

 そうして女性騎士の百科事典がレバーをガッチョンとぶん殴れば、昇降機は上昇。

「あっそうだマリーさん! このまえイエさんが作りすぎたってあのお味噌、よかったらまたくださいって言っといてくださいでふ!」

「おミソ、ね。……発酵食品と腐った食べ物の違いって知っとるかのうーわりゃーさんー?」

「でふ?」

 マリーは振り向いた。

「人間から見て益があるかどうか。その解釈だけなんよ? ……一応言っとくがのう、わしの可愛い後輩らの秘密を外に漏らしたら承知せんよ?」

 ……およそメイドとレディらしからぬ据わった眼差しで、女性騎士の笑顔を凍りつかせて。

 昇降機が上がりきればすぐさま、マリーは青空の下へ出でた。

「……出発、早めてもらわんとのう」

 ホワイトブリム(メイドカチューシャ)の中から、手乗り妖精フェアリーを飛び出させるのだった。


 ○


 ベルアーデ帝国の北の隣国、テイマッツ王国。

 南エウル大陸の最北端であるユードワーフ半島半島の北側と周辺諸島を占めるこの国は、古くは世界でも指折りの名門貴族が集う富の国だった。

 しかし機工技術の普及に伴い力を持ち得た民草に反乱を起こされ、後に『ベルアーデ』の名を掲げることとなる彼らに敗北。

 北海まで押し込まれた名家たちは山ほどの財を船に積んで散り散りとなり、その後の歴史の中でも幾度となくベルアーデ帝国への逆襲を図っていったが有象無象に没落していったという。

 今、ここにあるのは貴族の子弟たちが辛うじて復興させた寂しい海運国だ。

 沿岸部や各諸島の港町ならともかく、大陸部の領土には豪邸の廃墟が沈みかけた湿地ぐらいしかない。

 わざわざ諸島へ首都を置いた貴族ならぬ『王族』たちは、一応は『従属』を示しているベルアーデ帝国へ今でも逆襲の機会を窺っているのだろうか。

「ーーサイルーク泥炭地~、サイルーク泥炭地~……っと。へへ、駅馬車でもねぇのに何言ってんだかってもんですがね」

 半島の中央部、サイルーク泥炭地。周辺の水源から流れ着いた清流も街の廃墟とともにすっかり沈み、尽きぬ水たまりと浮き草ばかりになったフィールド。

 そこに二頭立て馬車が留まれば。御者が振り向く前から、黒ずんだ汚れまみれの客車が開かれた。

 途端、中から数多のゴミが雪崩れ出た。

 生ゴミも不燃ゴミも粗大ゴミも別なく、あっという間に小山を形作った。

 ……途端、数多のゴミが()()()に絡め取られた。

 ーードェルドェルドェル……

 全長数キロはあるだろう()()()()()()が、泥炭地をお散歩しながらそれらの餌を捕らえたのだ。

 ソレは浮き草にまみれた背の上から、己が身ほどの高さを有する()()()()()()()()()を生やしていた。

 生ゴミも不燃ゴミも粗大ゴミも別なく、一口で呑み込んで……、

 たちまち地鳴りめいた蠕動とともに、ゴミの塔の根元に真新しい階層がかすかにせり上がったのだった。

 そして一方、ゴミが押し出された馬車の中から4つの人影が足早に飛び降りたのだった。

「おおお……これが『サイルークの屍蝋トカゲ』か。……お、俺たちもゴミまみれなんだが大丈夫か?」

「人肉よりもゴミのほうが美味ぃって気づいてから数百年間、記録上は誰も食われてねぃらしぃぜぃー」

「いちおう、『リペアパウダー』を撒いておきますね。ちょっともったいないですけどガンコな汚れにも一発……なのです」

「ああんもおっ。けっきょく予定より遅れてもたあ」

 どこにでもいるような青年騎士ハルト。シャベルを担いだ金髪縦ロール美姫シェリス。極東ニフ国よりの白魔法師乙女イエ。なんちゃって幼女メイドマリー。

 ベルアーデ帝国騎士団第七隊、ハルトたちはようやっとこの()()へ到着できた。

 といってもまだ早朝といって差し支えない時頃であり、ゴミ収集馬車の御者が欠伸を噛み殺した。

「人を乗せて走るなんざ何年ぶりでしょうかね。今度ファストトラベルで飛ぶ時ゃあ東側のアーファスにしたほうがいいですぜ、そんじゃまいどどうも」

「おーう助かったのだわ運ちゃん、天井の角に返り血ついてたから隠しとけよなぃー」

 そうして馬車が口笛吹き吹き去っていけば、四人は改めて大トカゲへ向き直った。

 と。ソレの周遊コースからは外れて、廃墟群の合間に多くの人々が集まっているのが見えた。

 見るからに猛々しい、戦闘職系の冒険者たちだった。

「ちぇっ、早く来すぎちまったか」「早いうちから集まっておきゃ抜け駆け防止になんのよ」「やべ、脱出糸だけ忘れた」「意地汚ぇやつがどっかいんだろ」「おーい誰か! 脱出糸と酒売ってくれや!」「ほいほーいっいらっしゃいませ!」「ほらな」

 そして彼らから少し距離を置いて、武器ではなく筆記用具を携えた者もいて。

「えー、はい、大規模討伐作戦(レイド)開始まであと2時間ですー。後の報酬計算に必要となりますので、フェアリーの活動写幻モードと記憶容量の確認を今一度忘れずにお願いしますー」

 生存性能を高めることだけに特化した機工式装甲スーツに全身を包み、歩く芽キャベツとでもいうような姿になった冒険者ギルドの係員だった。

「『ツーナ』! ズームよろしく!」

 ーーギョガン ギョガン ギョガン……

 ふと。錬金術師らしい冒険者が放った魚型の魔法具が、その出っ張った目をなびかせながらゴミの塔めがけて上昇していった。

 15階層はあるだろうか、その頂上へと昇りつめて点ほどにも遠ざかっていけば……、

 錬金術師が手元に掲げた、『ツーナ』と対になる水槽型の魔法具に映像が投射された。

 ……鉄パイプや針金が玉座のような塊となって最奥に聳えているだけの、虚しいばかりの頂上広場が。

 ーー「ーーーー

    ーーーー」

 四大属性に滲んだ獣毛を纏った、ワーウルフーー人狼ーーがごとき男が。玉座の前で微睡んでいたのだ。

「『灰なる人狼』……前はベルアーデ南東のスオスカで、今度は北のテイマッツか」

 『星』の意志の代行者を語る、神代の存在であるはずの『白式』一派。

 ハルトたちが対峙すべき4体の魔人たちの1体だった。

「意図、というか目的はあるのでしょうか」

「俺たち。……ってなこと言ってたらまた怪しまれるかな、事情を知らないヤツらに」

「もし参加登録がまだの方がいらっしゃいましたらこちらまでどうぞー、ブレイヴィングマニュアルをお持ちの方でしたらテイマッツ支部の所属でなくともかまいませんー」

「はいっ! はいはいはあいっ、4名追加じゃあ!」

「パーティ名は『シェリスの滑らかき肩甲骨団』なーほはははは」

 ……「げ」、と。ハルトたちが冒険者たちの集合地点に早足で舞い込めば、一部の荒くれ者どもが複雑そうな声を漏らした。

 特に、黄金のシャベル王女を目に留めて。

「おい、ベルアーデの姫がいるぞ」「有名な壊し屋だろあいつ」「ああ、良いオンナにゃ違いねぇんだがなあ……」「目的のために手段がメチャクチャ」「おまえ取り入ってこいよ」「やなこった、俺の相棒だったヤツはそのせいでタマ潰されかけたんだからな」

「聞こえてるぜぃビッグマウス・バイス! タマ鋼のガーブは今でも実家の牧場で馬糞掃除してるのだわぁ? ほーーーーっはっはっはっはっはぁぁぁぁ」

 バカ笑いの中でシェリスが獰猛に八重歯をギラつかせれば、一等の荒くれたちでさえ口をつぐんだのだった。

「はあ……家じゃ他の騎士どもから鼻つまみ、外じゃ我らが隊長殿の諸国漫遊のせいで悪目立ちか。そのうちギルドからも出禁にならないか?」

「あの……係員さん、私、フェアリーを持っていないのですけど参加できますでしょうか」

「参加は可能ですがー、あー、その場合は冒険者ギルドからの報酬として経費ぐらいしか出せないですねー」

「マリーさん、私もいよいよフェアリーデビューのお年頃ですか?」

「しーっ、イエちゃんは擬似精霊どころか()()()()と契約してるでしょ。衝動買いせんのせんの」

 そう。ハルトたち第七隊も、あの『灰なる人狼』に対峙するためこのレイドに参加するのだった。

「……すやすや……すてぁ……」

 イエのフードの中で密かに眠っている生き人形少女……かつては『星』の意志だった守護精霊アリステラの記憶喪失を治すため、その元凶である『白式』たちと相対しなければならないのだった。

「『白式』たちには『無敵』がついているのに、みなさん大丈夫でしょうか……」

「それは俺たちも同じだろ」

 ーー レイド対象 情報開示 ーー

 ーー 『灰なる人狼』 ーー

 ーー 情報レベル0 ーー

 ーー 特徴 『無敵』・『複合魔弾による擬似魔法(仮称)』 ーー

 ーー 弱点 不明 ーー

 ーー 備考 状態異常系の攻撃をしてくるとの未確認情報あり ーー

 厄介なことに、かの者たちには実質無限の『無敵』状態変化が付与されている。以前に世界各地へ出没し、その天災じみた破壊行為からレイド対象へ指定されたにあたり、冒険者ギルドも情報を集めてはいるようだった。

「ま、レイドに参加する理由なんて人それぞれだ。人間社会を脅かす強大な存在が現れた時に冒険者ギルドが発行する、任意参加の大規模招集にすぎないからな」

「人それぞれ……? 平和を守るためではないのです?」

「建前はもちろんそうだが、参加者にとっては普通のクエストより旨味が多いんだよ。いわゆる『貢献度』制の報酬金だったり、強敵の素材、他にはレイドボスを倒したってことそのものの箔とか称号……平和を守ったっていう名誉も含めて、何を求めるかは十人十色ってわけだ」

「……ますます大丈夫でしょうか、そんなバラバラな心意気で」

「ま、数の暴力と集団心理ってヤツでわりとうまくいくのだわ。そのぶん、劣勢になるとアラクネの子を散らすみてぃにどいつもこいつも逃げ出してくけどなぃ」

「少なくとも経費は冒険者ギルドが補償してくれるからねえ。寄付や積立金で賄いおってもギルドが自腹切って報酬から何から支払うけえ、あん人らにとっちゃなるべく発行しとうないもんなんじゃわ」

 そう、だからレイドはよほどの時にしか発行されない作戦である。

 それを不謹慎にも『祭り』だと称する輩だって、意外なほど多かったりする。

「これに限った話じゃないが、仕事を受けた冒険者は原則自己責任だ。おまえが心配するまでもないんだよ」

「……それでも、もしも喫緊の治療を要する方が出たら手を差し伸べていいですか?」

「もちろんそれも自己責任だ。……ま、俺も手は貸してやるから迷子にだけはなるなよ」

「はい。手……お手……お手々繋いで頑張っていきましょうハルトさん」

「無理に『手』縛りで良いこと言おうとしなくていいんだよ……台無しかよ」

 ーー 《イークイップ》 ーー

 ハルトはフェアリーに頼んで次元の狭間から魔導二丁剣銃パラレラムを装備。携行品も……主にイエの即応補助のための品々もチェック完了。

 そしてハルトがマリーへ目配せすると、彼女は頷き、シャベルを弄ぶシェリスを見上げた。

「それじゃあシェリスさん、さっそくなんだけど。急にワガママねじ込んでしもうてごめんのう、げにい(本当に)ええんならあ?」

「おうよ、もし()()()がいんならあのダンジョンの中だろぃ。せっかくのレイドレースなんでぃ、野暮なことするよりこのヤロウどもと一緒に……んや、こいつらをぶっちぎってすぐ追い付いてやんのだわ」

 盗み聞きで情報収集に励んでいた冒険者たちが、そんな会話に首を傾げたが……、

 シェリスと上下にハイタッチを交わしたマリーは、ハルトとイエを引き連れて、冒険者たちの集まりから抜け出るのだ。

「ほんじゃあっっ、お先にいってきます! ハイホォォォォッッ、シュネーヴィ!」

 ーー 《イークイップ》 ーー

 ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー

『ーーガガガガガー!』

 マリーのコールとともに上空に次元の狭間が出現。全長約2.5メートル、赤銅色の鉄巨人が飛び出してきた。

 魔導技師マリーの写し身たる鋼のメイドメカ。内部に搭乗した七体のフェアリーが駆る、妖精機フェアリーギアスシュネーヴィだ。

「シュネーヴィ! 最大出力でっ……ジャンプじゃあ!」

『プ~~ッ、シュルゥゥゥゥ!!』

「しがみっ」「つきます……!」

 掬い上げたマリーを肩車させ、ハルトもイエも足掛かりの付いた背中へしがみつかせて、靴裏からエーテルバーニアを噴いたシュネーヴィは跳んだ。

 全身よりエーテルスチームを排気し、冒険者たちを煙ならぬ蒸気に巻きながら……大トカゲのゴミの塔めがけて飛び出したのだ。

 当然、それを見た冒険者たちやギルドの係員は騒ぎだした。

「抜け駆けだ!」「おいこらぁぁ!」「げほごほっ」「まだ開始時間じゃないぞ!」「『シェリスの滑らかき肩甲骨団』様! 困ります! あーっ!! おきゃ、お、お困り様ー!!」

「やかぁぁぁぁしやぁぁぁぁぁぁぁぃ!」

 が、彼らを制止したのは魔蒸気も吹き散るほどの『火』の大薙ぎだった。

「ほはははははははは! よく見やがれぃ! あいつらが向かったのは頂上じゃねぃのだわ!」

 ーー レベル50 魔法戦士 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー

 ーー レベル44 金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット ーー

 《フォイヤー・ダス・クローネ》(陰らぬ火冠)。シャベルに火属性を叩き込んだシェリスによる、冒険者たちの毛先が焦げつくほどの牽制だった。

 集団心理な彼らが追走しはじめようものならその時こそヤキを入れてやるとばかりに、ウズウズと。彼女は大トカゲを背にギラついていたのだった。

(レイドの前に全員ぶっ倒さないでくれよな……!)

 ……一方。そんな姉貴分を見下ろしていたハルトたちは、大トカゲ本体の高さは裕に超えてまだ飛距離を伸ばしていた。

 シュネーヴィの関節の各部から噴出される補助エーテルバーニアによって、その大ジャンプは上向きの滑空とでもいうようにスムーズだった。

 目指しているのは頂上ではなく、そう、最初から中層の一所を目指した跳躍だった。

 中層外壁から、瘤のような大きめの区画が突き出ていたのだ。

 ただ。いよいよ外壁近くまで接近していったところで、

『ガガッ』

 大気魔力マナエーテルから魔蒸気として動力を得ているシュネーヴィなのだが、突然、エーテルバーニアが使い物にならないほど不安定に詰まった。

「きたぞ! ダンジョンの()()()()!」

「わかっちょるっっ、わいぃぃぃぃ!」

 『ダンジョン』と指定された地帯は濃すぎる大気魔力に満ちている。深部になるほどその閾値が不安定になるため、特に繊細である飛行系のすべは魔法だろうと妖精機だろうと制限されるのだ。

 同じ階層内での空中機動ならまだ御しきれる程度で済むが、階層を跨ごうとすれば秒単位で魔力の変数に苛まれる。

 だからマリーは。シュネーヴィを最後の一押しで宙返りさせると、

「あぁぁぁぁん、たっ、ちゃ、ぶりゃああああああ!」

『プシュガァァァァ!』

 気合いの奇声を発しながら、ジタバタ、モガモガ、シュネーヴィのヘッドダイブを外壁へ突っ込ませたのだった。

 大トカゲの分泌物で凝固しているらしいゴミの壁を突き破り、ダンジョン内へ突入したのだった。

 ーー 注意 ダンジョン内 念話・Fメール等一部機能制限中 ……きゅう ーー

 フェアリーだって酔ってしまう魔境へ一度足を踏み入れるからには、覚悟が必要だ……。

「いっだだだだ……! あと臭い! ものすごくゴミ臭い!」

「粗大ゴミに刺さらなくてよかったですね。《ヒーリング》」

「ありそうじゃったこと言わんでえなあイエちゃん……ぺっ、ぺっ」

 覚悟と、無理な突入でさっそく擦り傷まみれになっても折れない心が必要で。

 『サイルークの屍蝋トカゲ塔』……、

 その中は、まさに立体ゴミ捨て場としかいいようがない赤茶けた様相に満ちていた。

 ーーチュワッ!?

 ーーチュチュチュワワワワ……

 ーーチュシャァァァ、ッ

「ってぇっっ、さっそくエンカウント!?」

 そして三人の前の通路では、ゴミを漁っていたらしい魔物たちが突然の闖入者集団に驚いていたのだ。

 小柄な体格に鱗と角を有した二足歩行、ネズミとトカゲの中間の姿。廃材を加工したらしい粗末な槍や杖を携えていて、前衛と後衛に分かれた1パーティのようにも見える。

「ネズミのようなトカゲのような……なるほどです、聞いていたとおりのコボルドさんです」

 さっそく両手をピーンッとホールドアップしていたイエだった。

 が、その情けないアクションは正解だったのだ。

 なぜならハルトもマリーも、揃って両手を掲げたのだから。

「ま……待ってえ! 戦う気はないんよっ、こん先の『亜人』さんらに用があるんじゃ!」

 ーーチュ……

 ーーワッチュ

 ーーワュチュワワチュワ

 なんと。

 たったそれだけで、コボルドたちは自ずから立ち去っていったのだった。

「……ほっ。です」

「うんー、聞いとったとおりでよかったわい」

「勝てない相手じゃないが、この先のことを考えても慎重に接しないとな」

 そうしてハルトたちは、外から見えていた『瘤』のほうへと歩みだしたのだ。

 ーーチュワ

 ーーワワワワッチュ

 ーーチワワ

 ーーワ?

 ーーワチュチュ

 通りすがりにまだまだワラワラたくさんいたコボルドたちへ、その都度、不戦の意思表明をしながら……。

 そして、外の明るさがいっそう強く感じられる場所へ……ついに『瘤』への入り口らしいエリアへたどり着けば、

「「「え」」」

 三人揃って、ホールドアップしたまま唖然とした。

 その『瘤』は、塔から張り出した足場状の集落だったからだ。

 棒とボロ布を組んだだけの窪みのような住居が立ち並んでいる。

 使えそうな機工の粗大ゴミが公共設備として活用されている。

 原始的なのだか文明的なのだか、その狭間にあるような風景。

 ただ、ハルトたちが驚いたのはそんな景色そのものではなく……、

 集落の中心で、()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()で。

「ぐるるるる……」「ばうわうっ」「……るど」「はふはふっ」「ふぐゅふぐゅ……」

 ピコッと動く本物の犬耳、肉球と獣毛のある手足、いわゆるマズルと呼ばれる長い鼻面。しかして顔つきや骨格は獣ではなく人間のそれであり、革に穴を開けただけだがチュニックを纏っている。

 さらに奇妙なことに全員が、咥えて使用することを明らかに想定された短柄の機工武器を構えていた。

「ーーやれやれ。きみたちね、威嚇っていうのは人間の世界じゃ負け犬の遠吠えと同じなんだよ?」

 そしてもっとも異質なのは、彼らに相対した一人の人間である。

「きたまえ! わたしと存分にやり合おうじゃないか!」

 ズバ抜けて長身の、そしてその身の丈ほどにも大きい機工式ライフル銃を担いだ()()()()()だった。

 逞しさすら感じられる後ろ姿に束ねられるは、モブキャップ(女中帽子)に包まれた赤髪。

()()()()()……!」

 マリーの呼び声は。飛びかかりだした犬風亜人の叫びに呑まれて、ライフル銃を翻した褐色肌の彼女には届かなかった。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)

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