Karte.16-4「ノブレス・オブ・リージュ」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
「《ランウォータリング》……っ、ぅ、はぁっ、はぁっ、みなさん動かないで……! 《ランウォータリング》……けほっ、けほっ!」
「イエちゃん! いったん息入れてっ、もたんよ!」
「まだいけます……! ハルトさん、予備の飴ちゃんはありますか……!」
「それよりほらっ、スタミナポーション!」
「飲んでいるヒマなんてありません……!」
「それでも飲めって! 飴ちゃんもやる!」
「っ……ハルトさん、っ、《ランウォータリング》……!」
スタミナポーションと飴ちゃんの小瓶が投げ渡されたのと入れ替わりに、《ランウォータリング》が……ハルトの袖口に広がりかけていた魔弾の残滓を浄化した。
「……! わるいっ、俺も余裕無くしてた!」
「どういたしまして……!」
「わりゃーさんっ、せめてわしらに命中させんさいやあ! 他ん人んばっか当ておってからにい!」
『だったらきみらが帰りなよ! ほらっ、避けてるだけじゃオレには勝てないよ! オレも避けるから絶対勝てないけどねー!』
(マジで撤退したほうが良いんじゃないか……っ? こいつに勝てないからじゃなくて、この村のために!)
介入したから争いになった。それはスオスカ族とマグヤ・ルォルツァ王国民の争いもそうだし、スオスカ族とベルアーデ軍の争いもそうだし、……この回避男とハルトたちの争いもそうだ。
その善悪はどちらも絶対的なものでなく、どちらにしても争わないといけない都合だってある……とはいえ。職業軍人だって、まともな人間ならその是非に悩まない者はいないだろう。
ましてやハルトたちは。国への忠義以上に、他者を救うことを是とする騎士なのだから。
「シェリス! ニーヤ! これじゃどうしようもないっ、あいつの策っていうのももう待てない……!」
「ーーそんなことはないッス」
と。青年騎士の叫びに答えたのは、視界の端に滑り込んできた『風』だった。
墳墓の頂上へあの呪具弓を突き刺しながら降り立った、ダークエルフだ。
「みんながガチめバトってくれたおかげで、あ~しの策が完成したッスもん」
サーシャが、弓に触れた、途端。
『風』のエーテルが、それこそ矢がごとく無数に走った。
村の外周へ張り巡らされていた弓たちを、エーテルの軌跡がフラクタル(自己相似幾何学)に繋いだのだ。
それは、矢じりのような無数の小三角形が連なり一つの大三角形となった増幅の図形……本人にしか機微の読めないだろう癖の強すぎる術式の……魔方陣。
気づいたハルトが足下から頭上へギョッと振り向いた時には、
「あ~し。エルフのみんなと違って、植物の声も聞こえないし念動もこんくらいしかできないッスけど……」
サーシャは跳んでいた。
空高くにて、ベルアーデ軍式のとあるハンドサインを掲げながら。
「『退避』のサイン、ですな。よろしくお願いしますぞ王女様」
「わーーーーかってらぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「うおっ!?」「あうっ」「なんじゃあ!?」『プシュッ』
瞬間、駆け込んできたシェリスがシャベルをジャイアントスイング。マリーとシュネーヴィは自ずと跳び退いたが、ハルトもイエもニーヤもおもいっきり吹き飛ばされて。
『『『『『『『『『『!??!??!!』』』』』』』』』』
まだ村に残っていたスオスカ族たちもろとも、魔方陣の外側まで突き飛ばされたのだ。
『え? なに?』
そう。シェリスも「だわわわわわわぁ!」と走って逃げれば、後には《絶対回避》を発揮した回避男だけが残って。
彼の目前……魔方陣の中心点なる地面へ、サーシャがキックを突き下ろした。
「《ピットフォール》」
発動。
サーシャが返す脚で翻った直後、輝いた魔方陣が陥没した。
陥没魔法が、落とし穴を生成したのだ。
……エルフに比べて体内魔力の『風』と『水』へ偏向が乏しいダークエルフは、大気魔力との感応が不得手だ。
優れた感覚器官であるその長耳を用いても。たとえばオドエーテルという声を通して植物の気持ちを汲み取ったり、フォーマット化された魔法ではない無銘なる魔術を……すなわち『念話』や『念動』を調律することは難しい。
だが。
しかし。
魔方陣で増幅された落とし穴は、森の外で魔法兵が振るったものとは比較にならない規模だった。
「魔法なら。得意ッス」
なにしろ落とし穴は、村の全てを落としたのだから。
ーー レベル37 戦魔法師 サーシャ ーー
ーー 妨害魔法 レベル2(達人級)
ダークエルフは。マジックユーザーとしての素質が、すこぶる高いのだ。
そしてウッドコテージも、墳墓も、
『へっ?』
土くれの上に突っ立ったままの回避男も、
地鳴りめいた轟音と砂埃へ呑まれた。
……やがて、
……それらが晴れれば、
そこには直下十数メートルものゴミ捨て場、あるいは墓穴が穿たれていたのだ。
『うわはっ、スゴいスゴい! ほら見てよみんな、オレだけ✕✕✕だよ!』
「あ~りゃりゃ……ッス」
そして回避男は。食べ残された林檎の芯よろしく残った地層の上で……無事だった……。
(こ、これでもダメなのか……!?)
「まっ想定内ッス。ワンチャンあんたに当てるつもりで放ったッスし、だから当たらんかったんしょ……~っと!」
穴の淵に立ったサーシャが両手を踊らせれば、円周上にあった弓たちが一斉に浮遊。その流れのままに穴の中へ滑空。
回避男へ突撃……、ではなく、彼が立った地層の柱の根元を抉り崩した。
『わっ、と、と』
直下の地面だけは一切崩れないまま、そのまま回避男は穴の中へ着地した。
『残念ハズレ! 黒エルフさんのターンはこれで終わり? じゃあ次はオレだよね!』
「あ、ちょまちょまッスあと一つだけ。てかその呼び方は処され案件ッスよ、おニイサン」
回避男が異形剣銃を向けてくる前に、まだ飛んでいた弓たちが穴の淵と壁面の境目へ刺さっていった。
「さて。あ~しらの勝ち、ッス」
ーー 《ウインドボール》 ーー
風球の制圧射撃。なぜかウッドコテージの残骸をも吹き飛ばせない低威力で、連射性能だけ高めた小玉が回避男へ畳みかけられる。
『あはははは勝つのはオレだよっ、回避最強ーーーー! やっぱりオレは最強なんだ! もう最強の薬草摘みなんだよ! オレの《絶対回避》チートは無敵っ、オレは無敵っっ、完全無欠の✕✕✕✕……』
「おニイ~サン。あんた、回避ん時に一瞬立ち止まってるッスよね?」
『……はい?』
穴の淵で頬杖を付いてみせたサーシャが、もう片方の手でハンドサインを掲げた。
するとどうだろう、村の周りの森がざわめいた。
「どやどや」「ゴーゴーゴー」「待ちくたびれたぜ」「こき使うよなあサーにゃんよお」「来たわよーサッちゃん」
(正規軍!? いつの間にっ)
数十人からのベルアーデ兵たちが、強化外骨格を唸らせながら飛び出してきたのだ。
「……サーシャ殿。また吾輩に無断で皆さんを動かしましたな」
「にしし、サーセンッス。とりま半数は村人さんたちをホールドアップしてもろて~っ、もう半数は穴を囲んでほしいッス!」
「立場ねぇなぁ隊長」「わるいね隊長、ガハハ」「おれらも何やるかは聞かされてなかったんだけど」「うっすうっす」「手を上げてください! スオスカ族の皆様!」
森へ逃げ込んでいたスオスカ族たちもろとも、女子供も混じっているとあっては男衆も抵抗できず降伏。それと平行してベルアーデ兵たちが穴を包囲した。
まだまだ風球が止まない穴の中では、着々と進行しつつある何かを図りきれないのか回避男がきょとんとしていて。サーシャがまた見下ろす。
「なんの話でしたっけ? そそッス、たぶんソレがあんたのチートの仕様なんスよ……回避ん時に一瞬立ち止まるのが。弱点なんてイモいもんじゃなくって、仕様のスキを付くからエモいんス!」
『え、えーっと。何を……言ってるのかなあ?』
「ヤバ! まだイミフなんスか~? マジでゲロメンッスね~」
いかにも。か弱い弾幕たちは回避男に当たるべくもなかったが、彼はその場から一歩も動いていなかった……動けていなかったのだ。
あの時も。
ーー『あはは』
ーー「くそっ!?」
ーー足を止めた男の目前で、全ての弾がありえない弾道へ捻じ曲がり、
ーー『だから無駄だってー』
ーー「ぬああ!?」
ーー足を止めた男の目前で、剣も持ち主も不様につんのめって空振り、
ーー『オレには当たらないよ?』
ーー「「「「「ぶべらばるぼるぶぇう」」」」」
ーー足を止めた男の目前で、絶対に当たらなかったのだ。
「シェリザベ~トサマァ。シェリザベ~トサマならわかりみ深いッスよね? 最後の号令は差し上げるッス」
「いらねぃやぃ。おまえたちはまだシェリスさんじゃなく親父の軍だし、あいつだっておまえたちの獲物なのだわ」
「マ? ……へぇ、ちょいリスペクトッス~シェリザベ~トサマ」
サーシャは糸目を楽しげに吊り上げると、軍服の腰の後ろから一つの制式兵装を抜いた。
「みんなぁ~! シャベル、用意ッス!」
「「「「「「「「「「シャベル!」」」」」」」」」」
ニーヤを除いた全兵士が。サブ武装として支給されている短柄のシャベルを掲げたのだ。
シャベルとは。ベルアーデ剣術の教えにも説かれている、窮地を救う第二の武器なれば。
「埋めるッス」
「「「「「「「「「「うーい」」」」」」」」」」
皆で、穴を埋めはじめた。
『ちょッッ……あはっ、あはははは冗談だよね!? ✕✕!? オレどころか村ごと埋めちゃう気!?』
『御子様!』『やめろ!』『ああっ、あたしらの村が……!』『先祖の✕✕まで!』『罰当たりが!』『✕✕✕✕が!』『うああああ!』
見る間に土砂が降り積もり、ウッドコテージや墳墓を巻き込んで回避男の足元に溜まっていく。それでも彼は風球を『避ける』ばかりで一歩も動かず、制止された村人たちが半狂乱になっていく。
それでも、大銃剣ショットガンを突き出しながらベルアーデ兵たちは揺らがなかった。
「頼むから動くなって」「村ならきっとすぐに復興任務が入るよ」「ああ、我らが帝国の親父殿ならそうする」「単なる慈善事業じゃないがな、無論」「無駄口だぞ。状況終了まで良く努めろ」
真っ当に。冷徹に。
他者を救う騎士ではなく、国への忠義を是とする軍人として。
『や、やめて! ちょっ、いったん止めて! ほらっ、人狼様の武器も捨てるから! だから、っあ、ひぁっ、もうここまで……いやだああああ✕✕✕✕!』
早くも腰まで埋まった回避男が異形剣銃を投げ捨てれば、それはあの焼け爛れた残滓へと溶け消えていった。……が、『攻撃』ならぬ『穴埋め』は止まない。
「おまえたちぃ、参加してもしなくてもどっちでもいいぜぃ。シェリスさんはシャベラーとして是非とも参加するのだわ、ほはははは」
「またテキトーなこと言ってえ。げー(本当)はシェリスさん…………まあわざわざ言わんがのう、わりゃーさんの侍女として」
「あのう……白魔法師としては、戦いはともかく無益な殺生は止めないといけなくて……」
「心配はいりませんぞイエ殿。貴殿の姉上のために、今回は無力化するだけと周知させておりますからな」
『あばばびばばばばびぁぁぁぁ!』
そして。まさに泡を食った叫びが響いた。
小さな墳墓のようになってしまった回避男の喉元へ、そしてついに口元まで土砂がかかった。
『あ。びゃ。ーーーー』
その途端。まだ息ができないほどの生き埋めではなかったのだが、あっさりと失神してしまったのだった。
そうして、戦いによって活性化されていた余剰分の体内魔力が戦意喪失によって漏洩。
ーー レベルアップ! ーー
ーー レベル3 イエ ーー
ーー レベルアップ! ーー
ーー レベル017 ハルト ーー
『経験値』として、戦いを通じてより強く共鳴しあった者たちへ……勝者となった第七隊パーティへ分配されたのだった。
「……最強の薬草摘みになりたいのなら他に鍛えるところがあったと思います」
「ああ。『回避』以外の何もかもな」
膝からプルプルとくずおれていったイエを、ハルトもまた末端まで震えた手で受け止めたのだった。
「タイチョ~。状況終了ッス」
「まだですぞ。呼んだのは第1、第3、第4、第5班ですか……では第3と第4班はそのまま村民の拘束、第1班は周辺の警戒、第5班は12秒で降下準備を」
「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」
まだ止まらない黒金の怒涛の中で、騎士たちはまだまだちっぽけだった。
○
実質的に制圧されてしまった村の中で、ベルアーデ軍主導による村民の安否確認と穴のサルベージ作業が進んでいた。
一方。穴の淵で。
「よかったわね。チートで世を脅かした者はその場で殺害あるいは略式裁判で即死刑が相場のところ、ベルアーデもこれ以上の火種を増やすことはしないでしょう」
『ーーーー』
イエの手からトテトテと放されたお目覚めアリステラが、口までロープでグルグル巻きにされた回避男へ歩み寄る。
「 V A N (VANISH)」
眼を見開いた彼女が彼の足首へ、肉とも機械ともつかないかさぶたまみれの傷へ手を伸ばせば、
ーーチッ、チッ、チッ、チッ、チッ、
たったそれだけで。触れるまでもなく、その傷が霧散……治療されたのだ。
薄く笑うように鳴り響きながら。『光』と『闇』のエーテルへと分解されていった。
黄昏か暁のような闇色少女へ、『闇』だけが吸い込まれていった……。
「……私も、チートの破壊方法は喰い散らされていなくてよかったというべきか。むしろ怪しむべきかしら」
アリステラの頭上に『闇』のエーテルが現れた。
形を成したそれは、薄い笑み……、
いや、無数に喰い散らされた『薄眼』で。
ただ、アリステラがチートからの莫大な『闇』を取り込んだことで、ごくごくわずかに傷を癒したのだった。
やにわに、イエがアリステラを抱き上げた。
「どうでしょう、どうなのでしょうかお姉さん。また何か記憶を解放できたのでしょうか。ドキドキ……」
「プラスチック」
「はい?」
……生き人形少女は半目になっていた。
「神代の終わり頃、そんな名前の合成樹脂が開発されて瞬く間に普及したのよね。知っているかしら」
「知らないです」
「……俺も知らないが」
「そう」
ハルトは嫌な予感がした。
「……自然分解されないその性質から環境問題の一つつして騒がれたのだけれど、今の世界には影も形も無いわね。どうなったものやら」
「知らないです」
「……俺も知らないが……いや、それで?」
「今回取り戻せたのはそれだけ。おやすみなさい」
「うわああああやっぱりどうでもいい記憶だったああああおいおいおい寝るな逃げるなおやすむな!」
コテン。アリステラは「すやすや……すてぁ……」、器用に即寝落ちしてしまったのだった。
「ほはははは。ま、そんなこともあらぁな。アタリハズレがあるなんて逆に燃えるのだわ」
「わしには興味深い知識じゃったがのう~」
「さて、長老の話によるとこの男がチートを得たのは半月前のことですな。スオスカ族とルォルツァの入植者が開戦したその日のうちに、『人狼様』が村に『ご光臨』なされたそうです」
「俺たちの骨折り損をあっさり流すんだなあんた……」
「おつッス~。ぁりゃぁとやした~」
見守っていたシェリスとマリーはあっけらかんとしていたし、ニーヤとサーシャは愛想笑いを放流するばかりだったし。
「破壊をもたらす背徳者たちという風説は彼らの耳にも入っていたようですが、妙なことに『灰色の人狼』はしがない薬草摘みに《絶対回避》を刻んだだけで他には何もしなかったと。墳墓の中に居座り、今の今まで沈黙を貫いていたらしいですぞ。……もっとも、会話のできた者なぞもとよりいないようですが」
「それで勝手に奉られてたってわけね? 物言わんイコン(偶像)こそお祈り相手なー最適ゆうわけじゃ」
「然り、スオスカ族の守護天使であるのだと。彼らが勢い付く一因になったのでしょう。ただし……それにしては我々が、いや、皆様が現れた途端に逃げ去ってしまいましたがね」
「聖女教会のシロクロババアみてぃなこと言ってんじゃねぃやぃ。べつにシェリスさんたちが呼び寄せたわけじゃなし、ヤツが勝手に待ち構えてやがっただけなのだわ」
「それも然り。だからですな、すぐに逃げたのはひょっとしてその時点で目的は達したからではないかと。つまり……一連の騒乱は己の仕業なのだと顔見せできたからではないか、なんて考えてしまいましてな」
ハルトは息詰まった。
「そんなバカなっ…………って、言いたいところだが……無くは……無いん、だよなあ。あいつらがなぜか俺たちに執着してるのはそうだし」
何日も何日も大人しく墳墓に籠っていたのは、ただの顔見せ。……煽り目的。
そんな仮説を一蹴できないほど、『星』の意志の代弁者を騙るあの背徳者一味はいまだ謎だ。
「たしかし~。ほな、ぶっちゃけハルちんたちのせいで村一つ潰れたってことでファイナルアンサーッスね!」
「なんでそうなるんだよ! いやそうだったとしても言うなよ!」
「少なからず負い目は感じているので……私たちにできることがあるなら、えっちなこととお金のこと以外でお手伝いさせていただきます……」
「にししし、冗談ッスよ~。ちゃんとこのお兄サンを無力化してくれたから第七隊のお仕事はもうアガリッス。あとの救護も復興もあ~しらのお仕事ッス」
「……あんたに言われたら立つ瀬無いな」
「それは我輩のセリフですぞハルト殿、なによりサーシャ殿。409小隊の指揮官は我輩であるということ、どうぞお忘れなく」
「わーお! きゅんでッス!」
(どのあたりが?)
「もちっ、指揮なんてつらたんなことあ~しには無しよりの無しッスし。タイチョ~のおかげであ~しらはイイ帝国軍人になれるッス! そうッスよね~っみんな~!」
「「「「「「「「「「うーい」」」」」」」」」」
(絶対ノリだけで返事してるだろ……。これじゃどっちが副官なんだか)
口の端で笑ってみせても、ハルトは直接ツッコまないでおいた。それは皮肉ではなく賛辞であり、小さな憧れのようでもあったからだ。
(……何が善いのか迷うのだって戦いのうちだ。でも時にはこいつらみたいに、罵られても迷わず突っ切る意志が戦いを終わらせることだってあるんだよな)
遠くでスオスカ族たちの罵詈雑言が聞こえる……。世の理の一つと割り切るのだとしても、聞かないようにだけは絶対にしてはいけない声たちが。
時の運、閃き、共闘する仲間。それらが噛み合って勝てたのだから負い目こそあっても引け目は無い、が。
時には迷わないのだとしても、
考え続けなければ。
考えることを止めてしまったら、どんな力も生き方もそこで人間性を失うから。
考えていればこそ。暁か黄昏のように移りゆく善悪だってあるのだから。
「んじゃ、遠慮せず帰ろうぜぃおまえたち。さらばでぃ中尉にサー公、ベルロンドに戻ってきた時にゃ一杯奢らせてやるのだわ」
「ヤバ~! シェリちんのオゴリじゃないんスかぁ~っ?」
「さらばですぞ。……シェリス殿」
ストレッチを回したシェリスは「ん~……?」、敬礼を捧げたニーヤとサーシャへ妙に神妙な顔で振り向いた、が。
「ほーっはっはっはぁ! またなぃ! イエ子、《リターン》なのだわ!」
「了解です。《リターン》……コロコロ、っ、はひゅっっっっ」
「おまえまた飴ちゃん舐めながら詠唱したな!?」
「喉詰まったんならあ!? お水お水お水!」
足下に渦巻いたゲートへ、今日も第七隊は落ちていったのだった。
黒金の国ベルアーデへ。
どんな歯車だろうと色とりどりに連ねる軍事大国の輝きは。機工も魔法も魔導だってある今の世で、いつでもどこでも誰にでも、遠くて近い……。
続
……。
…………。
………………。
「ヤバ! なんでブチらなかったんスかタイチョ~。せっかくですしおすしぃ、最後までやればよかったんじゃなくねッス?」
「……貴女こそ。どうして止めたのですかな?」
……………………。
「あ~しはいいんスよ、マジ私怨と八つ当たりバリバリッスし。でもタイチョ~は……てかうちの隊のみ~んな、ベルアーデに没落させられた貴族の出じゃないッスかぁ」
「……それを言うなら、我輩とて私怨と八つ当たりですぞ」
………………。
「『貴族殺し』の愛娘。『貴き血』を排するその血脈こそいかなる色であるのか、民は救えども貴族は救わないその覇道は尊しべくものなのか。……次第によっては全てを投げ打ってでも見極めるつもりでしたが、いやはや、手袋は投げつけずに済みました」
「ちゅうと~? ッス」
…………。
「『ノブレス・オブ・リージュ(貴き血の責)』。貴き者は力を持ち、その力を己ではなく他者が為に振るう責を持つということですよ。そうでなければ蹴り飛ばされて鼻血でもなんでも垂れ流してしまえ……と、あの領主への態度からいくばくかでも彼女の心に触れられた気がしましてな」
「深読みしすぎじゃないッスかぁ? ムカついたからブッ飛ばしただけかもしんないッスよん」
……。
「かもしれませんな。ですがそう考えてみれば、我輩たちが没落したのも道理なのです。かの帝国の侵略が前に、我が家の存続こそが力無き民を救うと説いてやまなかったからこそ……技術によって民へ力を与えようとする、かの新時代の貴族たちに勝てなかったのでしょう」
「あ~し、ムズい話はわかんないス。あ~しはシェリちんが手柄を横取りしない王女様ってわかったからぁ、トモダチになれる気がしたんでッス!」
……、
「……時にサーシャ殿は、貴族の末裔でもないのにどうして帝王一家を恨んでるんでしたかな?」
「マ!? チャクソド山でキャンプファイヤーした時に話したじゃないスか~! 超小声で!」
「超小声だったので聞こえなかったのですぞ」
「だぁ~かぁ~らぁ~! ッス!」
ーー PLAY! ーー
ーー チャプター 22/22 ーー
サルベージ作業が再開されていた穴の中、サーシャのフェアリーが活動写幻を再生した。
『ほな最後にっ! 今期の訓練校を首席卒業した期待の新星にして、今期の入隊募集イメージガールを努める予定の……サーシャちゃんから応援コメントがあるで~!』
『っぅ……っぅぅぅ……み、みんなぁぁ~~っっ……テ、テテテテテンアゲでハリキっていこうッス~~…………ぅぅぅぅぇぇぇぇ……!』
新兵研修用活動写幻の締めくくりとして、王妃ルーデリカが画面外から引っ張り込んできた彼女は、
下品なほどエロチックな軍服ビキニを着せられた、サーシャ。
ケープで胸元を覆ったサーコート姿がむしろ着痩せしているのだとよくわかる、ちょっぴりだらしないほど肉付きの良い肢体がムチムチと……、
「「「「「「「「「「ひゅ~~~~っ!!」」」」」」」」」」
「ブッ殺ッスよみんな! 見てんじゃねぇしッスゥ!」
サーシャは仲間たちの視線とウィンドウを手でかき消した。
「あんの王妃様ぁぁぁぁ~……! 王権乱用ッス! 暴君ッス! 一周回ってダークエルフ差別ッス!」
「それは暴論でしょうぞ」
「あんなにムチャ振りしたのにけっきょくシェリちんも誰もへこたれないし! もうっ、次こそはあ~しに泣いてヘルプ希望するくらいイタズラしてやるッス! こっそり! さりげに!」
「……陰湿ですなあ。こんな陽気なキャラですのに」
「だって王妃様に直接ケンカ売ったらブッ殺されんのはあ~しッスもん! イメージガールを降りるって言った時の、あ、あの芋虫でも見るような目……ひぃぃっっスゥゥゥゥッッッッ!」
「ちなみにあの活動写幻は、出来が良かったのでいまだに新撮されず使われているそうですな。我輩も保存していますぞ」
「知ってるッスゥゥゥゥッッッッ!」
どんな歯車だろうと色とりどりに連ねる軍事大国の輝きは。機工も魔法も魔導だってある今の世で、いつでもどこでも誰にでも、遠くて近い……。
続
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)
※(次回更新は10月17日(月)の18時頃です)




