Karte.16-3「チート的に滅されてください」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
○
「シュネーヴィアイ……!」
『ガガガ!』
ちょっと潜めてマリーがシャウトすれば。シュネーヴィが両手を丸めた双眼鏡を掲げ、鋼の美貌の奥で眼光が赤々と輝いた。
「……手で双眼鏡作っただけじゃないかよ」
「そんなことないわよう。わしのコールでこん子が双眼鏡のポーズしてえ、そしたらメインアイがズームするようになっちょんじゃけえ」
「手で双眼鏡いらないじゃないかよ」
第七隊パーティは森の薄闇に潜んでいた……。
進行方向から拓けた明るさが射し込んできていたが、少し遠くに見据えたそこにはまだ突撃せずに様子見していたのだ。
というのも。シュネーヴィの視覚情報がマリーのフェアリーを通してウィンドウへ表示されれば、草木の陰のそこかしこで……、
『ふふふ……』『大地も✕✕してくださっている』『今日はよく採れるな』『破裂させるなよ』『それで種が蒔かれれば、ひいてはヤツらへの罠になるからそれも✕✕だろう』『こちらの怪我人も✕えては✕✕らしいと言ってるんだ』
スオスカ族の戦士たちが、地雷よろしく埋まった野生の破裂果実ビクティミンを収穫して回っていたからだ。
石のナイフをお供に引き剥がしたさきから次のビクティミンがヒリリとせり上がってきて、なるほどそういう意味でも『槍玉』の通称は伊達ではないらしい。さすがは特産フルーツである。
「天然の地雷原ですな。地の利は彼らにあるというもので、はてさて迂闊に突撃しては乱戦は必至というものですが」
『聞こ……ッス……か? タイチョ……みん……心に直接……鬼コ……して……なう』
と。不意に頭の中へ……正確には体内魔力へ不明瞭すぎる声が響いたから、ハルトたちはギョッとした。
ただしニーヤとシェリスだけは平然としていた。
「サー公かぃ? へったくそな念話なのだわ」
「サーシャ殿。変にエルフらしさを出さずにフェアリーを使ってくだされ。ノイズまみれですぞ」
そう、それは姿無きサーシャの声だったのだ。
『マ? ちゃけば……のフェアリ~ちゃん……アイス……過ぎ案件……はんぱぴえん……ッス。つらお』
「ああ、エルフはフェアリー無しでも念話とか念動ができるんだっけか。……途切れ途切れのダークエルフ弁だと何言ってるか絶望的にわからないが」
『アイスの食べ過ぎでフェアリーが不調だぁ? なぁにやってんでぃ、念話ってぇのはこうやるんでぃほはははは』
「わ……すごいですシェリスさん」
「……なんだかんだ、やっぱエルフなんだなおまえ」
八重歯をケラケラと覗かせながらも肉声としての言葉は一つも発さず、シェリスは頭上の枝葉の間を見渡していた。
『きびつい……ッス。あ~しぃ……てかダークエルフって……ぶっちゃけノーマルエルフのみんなと違……マナエーテルを操ん……ガチ苦手的な……んスよぉ。でもでも~……からの~、任してほしいッス。ここはあ~しがヘルプ……るッス』
エルフに比べて体内魔力の『風』と『水』に偏向が乏しいダークエルフは、大気魔力との感応が不得手だ。
優れた感覚器官であるその長耳を用いても。たとえばオドエーテルという声を通して植物の気持ちを汲み取ったり、フォーマット化された魔法ではない無銘なる魔術を……すなわち『念話』や『念動』を発動することは難しい。
「助かりましたな皆様。サーシャ殿が道を切り開いてくれますぞ」
「は? なんだって?」
と。彼女のノイジーな念話に、このくたびれ指揮官はどうして信頼感たっぷりに頷いてみせたものやら。
「なんだとお訊ねされれば……彼女こそは、我が隊が誇るダークなエルフですからな」
その時、枝葉の一点が大きく揺れた。
ーー 《イークイップ》ぅ…… ーー
アイスの食べすぎでお腹が痛そうなフェアリーとともに、枝葉の影の合間を、人影が音も無く跳び移ったからだ。
「サーシャ殿。南から2、2、1、北向きでやや西へ寄っていくといいでしょう」
『あざまる……ッス……ッス』
垣間見えたサーシャは、
次元の狭間から飛び出した、特大の矢筒を背負っていた。
ーー レベル4 ドロウ・ボウ ーー
矢ではなく大量のコンポジットボウだけが詰まった矢筒を。
(ゆ、弓だけ!? 矢は……!?)
そして彼女は、影は、不穏な談笑を交わし合うスオスカ族たちの真上を駆け巡ったのだ。
次の瞬間、
群生ビクティミンの合間に、コンポジットボウが次々と突き刺さった。
『は?』『なん……?』『ゆ、✕っ?』『って……』
他でもない樹上の影……サーシャの手により投げ落とされたのだ。
合成弓とは、金属や動物性の素材で強化を施した弓の種別だ。丸木と弦さえあれば成立する普遍的な単弓に比べると作成や保存の面でコストが高すぎるが、小型化された取り回しの良さを特徴としている。
ただ。サーシャが降らせたそれらは、例えば獣の腱を用いて弾力を上げる……といったカスタマイズではそもそもないようだった。
なにしろ、弓にはサーシャの髪が接がれていたのだから。
「……呪具、です?」
魔法的な意味を持たせたアイテムの中でも、特に、生物の素材を要としたものを魔法具ではなく呪具という。
それは概して、捧げられた者の想念を使用者へ接ぐモノである。
ーー 《ウインドボール》 ーー
だからもとより矢は必要ではなく、代わりに一抱えの風球がつがえられたのだ。
次々と、次々と、それら中級攻撃魔法の輝きが弓弦を引き絞って。
連射。斉射。
かすかな風切り音が吹かれたばかりの、静かな狙撃だった。
『ぶっ』『べっ』『らっ』『あっ』
スオスカ族たちは揃って『風』のヘッドショットを食らい、脳しんとうを起こしたらしくぶっ倒れていったのだった。
『ひぃっ!? 敵襲だっ、✕✕だ……!』
一人だけ命中しなかったスオスカ族がすぐさま踵を返した、
が、
一張りの弓が空中浮遊し、先回りで地に突き刺さった。
『ぁっ……ぎゃっ!』
そしてウインドボール。けっきょく最後のスオスカ族も黙らされた……。
すると全ての弓たちが浮遊し、樹上の一点へ一斉に帰っていったのだった。
入れ替わりに「いぇあ~」、サーシャが降ってきた。
「詰めが甘いですぞ、サーシャ殿」
「にしし、見てくれたッスかみんな~。あ~しぃ、念動はこんくらいしかできないッスけどこれなら得意で……あっ」
「「「「あ」」」」
サーシャの受け身が、ビクティミンの一つを踏み抜いた。
破裂、
連鎖、
大騒動……!
「サァァァァ公ぉぉぉぉぅぃ!」
『てへぺろッス』
「ってもういないし!?」
「あわわわわわ《アジ・ブースト》」
「シュネーヴィっ、ザーグシルトぉ!」
『ガガガガガガガガ』
「あいすみませぬ」
飛び交った槍の種たち。シェリスのシャベル剣術やシュネーヴィの棺型タワーシールドが蹴散らし、なんとかかんとか回避に防御にきりきり舞い。
最大の問題は、そんな破裂音のお祭り騒ぎがすこぶるやかましかったことで。
『ーーなんだ!?』『ーー✕のほうからだぞ!』『ーー槍玉か!?』『ーーたいへんだっ、あいつら✕✕してるかも……!』『ーー待てっ、もしかして黒い兵隊どもじゃないのか!?』
光射す向こうから、ドヤドヤと無数の気配が駆け込みつつあったのだ。
「しゃあねぃ! 兄弟ぃぃカバーー!」
「おまえ槍まみれだぞ縦ロール!」
悪鬼羅刹も泣いて逃げ出すだろうほどに角ならぬ槍を生やしまくり、シャベルを振り上げた蛮族戦士……もといシェリスの突撃開始。
ーー 《イークイップ》 ーー
ーー レベル6 双剣銃パラレラム ーー
一方のハルトは二丁の剣銃を抜き、魔導機関に『水』のマナエーテルを吸わせると魔弾として連射。
やや強めの出力。宙を駆ける水柱の形となった魔弾はシェリスのすぐ左右を掠めーーついでに縦ロールに刺さった槍の種どもを洗い流しーー、なおも突き進んだ。
そうして。シャベルの峰打ちと放水魔弾が、森の終わりで出くわしたスオスカ族たちへぶち当たった。
『やっ……!?』『ば!?』『✕✕に敵だぁぁ!』『ほんとに兵隊どもっ!?』『ぎゃんっ』
「イエちゃん離れないでねえっ、突破突貫突撃じゃああああい!」
「なんだか悪者になった気分です」
「否定はできませんな」
一気呵成に、第七隊はスオスカ族たちを乗り越えて光の中へ飛び出したのだ。
そこは、大河沿いに拓かれた村だった。
大きな針葉樹のように尖ったウッドコテージが連なり、ビクティミンを干した網棚が多く見られる素朴な共同体だ。
なるほど、この『言葉の地』に住まう少数民族たちの中では大所帯なのだろう。見える限りでも5、60人のスオスカ族たちが村の奥に集まっていたのだが、第七隊の来襲にギョッとしていた。
苔むした墳墓がそびえるその御前にて、小魚のロクシェ(芋の薄焼き)を長机へ並べながら、何かの祭事の最中のようだった。
『あれっ? さっきの変な兵隊さんたちじゃん』
『み、御子よ! ✕✕なことを言ってる場合ではないぞ!』
そして人々の中心には、長老らしい壮年祭司が縋りついたあの回避男ヴィウノーがいたのだ。
「いました……! ヨケタロウさんです……!」
「なんか気の抜けるあだ名つけるな!」
『ルォルツァの手先ども!』『ここまで来るとは良い度胸だな!』『殺されても✕✕は言えんよなあ……!?』『バカめ! ✕✕どもめ!』
隊列を組んだハルトたちに対して、スオスカ族の男衆どもも壁のように立ちはだかった。
今にもビクティミンを蹴り出そうとしている者たちはもとより。その皮と種を利用したフレイルやスピアを携えている者たちもいて。
「……で!? あいつがいたのはいいとして、ここからどうすればいいんだよ……!?」
「サーシャちゃーーん! 策ってけっきょくなんなんならああああ!?」
……実質的にノープランでここまで来てしまったハルトたちは、ここからどうアクションすればいいかわからなかった。
しかも、また姿の見えない彼女からは、今度は返事の一つも無かったし。
「おや、彼女は囮になってほしいと言っていたでしょう。皆様、今しばらくのご苦労をおかけしますが『策』とやらの発動までよしなに頼みますぞ」
「わりゃーさんもなしてそがー掛け値無しで信じられるんならあ!?」
「あれでも我輩の副官ですからな。信じるのは当然でしょうぞ?」
「ほーっはっはっはっはよく言ったぁぃ! その生意気がダテじゃねぃってのを証明してもらうのだわ!」
シェリスが「《ヴィント・ダス・クローネ》(凪がぬ風冠)!」、シャベルに『風』のエーテルを付与するとその風圧でニーヤを手繰り寄せた。
「んじゃシェリスさんとおまえは左、マリーと兄弟とイエ子は右なぃ! スカスカスカシ野郎は最後に残して、まずはこのオッサンどもを泣かせてやるのだわぁ!」
「なんと……。寡兵にて二手に分かれるというのは悪手ではないですかな、王女様」
「よぉぉぉぉいっドーーーーン!!」
「ぶっっ」
『『『『ぶっっ』』』』
「ほははははは第七隊へウェルカァァムなのだわぁぁ!」
シャベルで尻を一発。打ち飛ばされたニーヤが咄嗟にシールドバッシュの構えでスオスカ族たちへ激突した時には、シェリスも飛びかかっていたのだ。
一瞬遅れて、ハルトたちも飛び出した。
「しかたない! こっちもいくぞ!」
「オッケイ! 非戦闘員のみなさーーーーんっ、うちの顧問白魔法師の負担軽減んためにはよ逃げてつかあさーーーーい!」
「やっぱり悪者になった気分です」
号砲となったのは、パニック一歩手前で住居へ駆け込んでいった村人たちの悲鳴。
かき消すように、スオスカ族の男衆の怒号が轟いた。
「シュネーヴィ! パリィ! ギフトシュラーグン(毒正拳)!」
『プシュルウッ!』
「ニワトリモチですハルトさん、足元にご注意ください」
「助かる! リロード!」
「槍玉返しっ、からの槍玉返し返し返しぃ! でぇぇぃ!」
「ふむ……よく鍛練された自警団ですが、獣相手を想定した立ち回りのようですな。惜しい」
『ぐぬぅぅ!』『うわっ、ベタベタするなんだこの✕✕!?』『冷たっ、だだだ!?』『伏せろぉ!』『ぎゃっ、ワシの槍があ……!?』
シュネーヴィの連続パリィと正拳突き、イエが《インベントリ》から放った鶏型自走トリモチ魔法具『ニワトリモチ』たちの爆走、ハルトの『水』魔弾の向こう脛撃ち、シェリスの槍玉バッティング、ニーヤの小手狙いのベルアーデ剣術。
お世辞にもスオスカ族たちは洗練された戦士たちとはいえず、妖精機にアイテムに魔導武器に魔法シャベルに軍式剣術にことごとく打ちのめされていった。
彼らにあったのはあくまでも『自衛』の武器と同胞の絆であり、『戦闘』に臨む者どもの前ではもう一押し足りなかったのだ。
だから、そう、
『うわあ……イヤだなあ、向かいのヴィヒおじさんまでボコボコじゃん。村一番の槍さばきとか言われてたのに』
『ひいいっ、ひ、ひぁ……避難誘導は私に任せてくれ! 私はっ御子様を信じてるぞ……!』
『あ。ちょっと長老おーっ、そっちは川だろー』
彼らにとって。墳墓の前でいまだ突っ立った彼の異能はその一押しとなるのだろうか。
「シェリスさん、先に行くからね! あん人も逃げんうちに押さえるわっ……!」
「あいよーぃ! おう中尉ぃっ、シェリスさんの悩ましき肩甲骨へ侍る栄光に浴すのだわ!」
「『背中は任せた』と普通に言ってくだされば普通に守りますぞ」
シェリスが頭上でシャベルを高速回転させれば『風』のエーテルがリング状に広がり、落ち、まだ倒れていないスオスカ族たちもろとも内向きに封じる台風の目……結界じみたバトルフィールドとなった。
背中合わせにベルアーデ剣術を構えあったシェリスとニーヤ。
その一方、シュネーヴィにしがみついたハルトたちは墳墓の前まで一息に跳んでいた。
「お兄さん! 高みの見物決め込んでないで、わしらと再戦してもらおかいのう!」
『ドワーフのお姉さんからしたらみんな高みの見物じゃない? ははっ』
「まああ! なんちゅう上から目線!」
エーテルスチームを噴き散らして着陸しても……、対峙しても、ヴィウノーは呑気に小石なんて蹴っていた。
『ごめんごめん✕✕だって。なんでみんなそんなにカリカリしてるのかなあ?』
「おまえみたいなのにチートで好き勝手されたら面白くないからだよ!」
『ひどっ。きみもチート使いなのにどう違うんだよー。べつに悪用してるわけじゃないしきみたちから✕を守ってるだけだし、悪いチート使いはむしろそっちじゃないの?』
「一理あると思います」
「こら! おまえもベルアーデの騎士団員だろ!」
「私はあくまでも顧問な白魔法師ですので、良いことも悪いこともハッキリ言わせてもらいます。ただ……」
……ハルトはイエを手で制し、ため息混じりにヴィウノーを見据えた。
「……一つだけ訊かせてくれ。おまえ、そのチートを手に入れて一度でも悩んだことがあるか?」
『ん、無いよ? だってこんなに✕✕な力じゃん! オレ、この絶対回避チートで最強の薬草摘みになってみようかなーなんて! あははっ!』
「よし決まりだ。おまえは倒す」
『なんで!?』
頷き、パラレラムの一丁を向けるのだ。
「……このところいろいろあってさ、まだなんとなくなんだがわかったんだよ。『力』っていうのは良いか悪いかより、けっきょくそれを許せるか許せないかの戦いなんだって」
脳裏によぎったのは、
荒れ野の牢城に翻った大剣、
聖女を識る街に唸った岩塊、
ーー「白魔法師様は拘るところがわからないですね。あなたたちだって『できる』ことをするのでしょう」
そして霧深い島に傾いだ笑み。
「だから俺も俺の『力』を使うなら、悪人だの化け物だの言われたってそんなのは二の次でいい。……おまえみたいな考え無しがいつかバカをしでかす前に、そのチートはぶっ壊させてもらうぞ」
「はい、同感です」
突きつけられた両の手の二丁剣銃。その銃口よりも力強く、傍らに立つイエの眼差しがヴィウノーへ向けられた。
「私はあくまでも顧問な白魔法師ですので、良いことも悪いこともハッキリ言わせてもらいます。ただ……白魔法師は戦いを否定しません。譲れないのはお互い様だと思うので、どうかチート的に滅されてくださいヨケタロウさん」
『怖っっ!? てかチート的に滅されてってなんだよー!?』
「おまえが倒れてくれたらすぐにわかるさ!!」
「わしらもどうなるかまだわかっちょらんしのう」
(言うなって!)
ハルトが二連射した直後。マリーとシュネーヴィが前に、イエが隣に陣取ってひとかたまりに走り出した。
『だからあっ、当たらないのになあ!』
やはりヴィウノーはその場から動かず、魔弾は逸れた。しかし今のハルトたちの役割は『囮』なれば、彼の注目を向けさせることこそが重要で……。
「ーーーー
ーーーー」
(……っ!?)
ヴィウノーに肉薄しようとした直前、ハルトは、聞いた。……かすかに耳にしただけで捉えずにはいられなかった。
その、およそ『声』だとは判別できない獣じみた唸りを。
ヴィウノーがハッとした様子で、ハルトたちをまるで無視して振り向いた。
そびえる墳墓、その入口として暗黒を満たした下り階段へ。
「ーーーー
ーーーー!」
そこから、四つん這いの巨躯が飛び出した。
四大属性に滲んだ獣毛を纏った、ワーウルフーー人狼ーーがごとき男が。
「ーーーー
ーーーーッッ!!」
墳墓の高さよりも飛び上がりながら、己の爪を噛み千切って吐き捨てた。
大人でも握り潰せるだろう巨大な手足に剥き出した爪は……一本一本が剣銃だった。
肉とも機械ともつかない異形のそれが、両手を掲げたヴィウノーのもとへ手渡されたのだ。
『人狼様! オレにっ、こんな武器までくれるんですか……!』
「『灰なる人狼』!? な、なんでここに!?」
そうだ。アレは、『灰なる人狼』という名のモノなのだ。
ハルトはとっさにパラレラムを向け、魔弾の偏差射撃を『灰なる人狼』の腹へぶち当てた、
「ーーーー
ーーーー?」
が、かの者はビクともしなかったのだ。
威力や当たりどころの問題ではなく、命中こそすれどもその事実以外は一切無効にするように。
ーー 《ステータス》 完了 ーー
ーー 状態 『無敵』 ーー
ーー 効果時間 残り:9999999…… ーー
「くそっ、やっぱりか!」
「って、あん『白式』の『灰なる人狼』じゃあ!?」
「っ、もう見えなくなってしまいました……!」
『人狼様!? どこに行くんですかっ、おーいっ、人狼様ーーーー!』
『星』の意志の代行者を語る、神代の存在であるはずの『白式』一派。
アリステラの記憶を封じた敵、ハルトたちが対峙すべき4体の魔人たちの1体だ……!
「おい!! 人狼様っておまえっ、アイツを知ってるのか!? どういうことな……」
『もうーっ、うるさいなあ!』
ヴィウノーが異形剣銃を向けてきたと見えた、直後、
ゴボゴボと、銃口から溢れんばかりに『火』の魔力がチャージされた直後、
赤黒い魔弾が、視界を覆うほど大きな火柱として発射された。
「っあ……!?」
「ハルトさん……!」
「ぱーぷー(アホ)! ノーコン!」
『ガガガッ』
シュネーヴィの鉄腕に押されて避けるまでもなく、それはハルトたちとは的外れの方向へ突き抜けていったのだが……、
悲鳴。
魔弾は一軒のウッドコテージの外壁を掠め、そのまま森までも穿っていって……、
『きゃーっ!?』『な、なにこの臭い! ✕✕!?』『見て!』『イヤッ、壁が、家が……!』『燃えてもないのに、っ』『焼け爛れていってるのか……!?』
ウッドコテージの丸太材も、森の木々も、魔弾が付着した場所から赤々と爛れていったのだ。
ーー 状態変化 『火傷』? ーー
ーー エラー ーー
ーー 《ステータス》 エラー ーー
それは外壁一面が腐り落ちるまで、木々が枝葉の先まで腐り落ちるまで、あっという間に広がっていった。
……それでもなお終わらず、残滓が付着した先からまた違う場所へと広がりはじめて……感染していったのだ。
『すごい! さすがっ、これが人狼様の武器のちか……』
「《ランウォータリング》……!」
ヴィウノーの引きつった笑みも言葉も遮って。真白の袖に秘された細指から、『水』のエーテルが放たれた。
その流水魔法は『冷やす』と『流す』の概念の宿った魔力として、魔弾の残滓が広がりかけていた箇所を洗ったのだ。
そして大気へ還っていった時には、もう、広がりかけていた焼け爛れは失せていた。
「……! 普通の火傷治しの魔法でしたけど、良かったです、効きました……!」
そう、白魔法師イエの手による治療に他ならなかった。
「やめてください……! その武器は普通じゃないです……!」
『普通じゃないからいいんじゃん! 人には当たってないし、家はまた✕ればいいし、木は✕えればいいじゃん!』
「そんな言い訳が聞きたいんじゃないんだよ……! アイツが世界を壊して回ってる『白式』一味だって知らないのかよ!」
『誰かがそんなこと話してたっけ! よく知らないけど! でもオレたちにとって人狼様は✕✕みたいな人だよっ、だってオレにチートをくれたんだもんね!』
「なッ……なに!?」
ヴィウノーは太陽のような輝きが滲んでいたズボンをたくし上げ、足首をさらけ出した。
そこには、あまりにも大きな引っ掻き傷があったのだ。
彼が持つ異形剣銃と同じ、肉とも機械ともつかないかさぶたにまみれた傷だ……!
『オレは人狼様に選ばれた御子なんだ! なのに、そうだよっ、きみらがこんなところまで暴れに来たから……人狼様がいなくなっちゃったじゃないかあ!』
「くっ……!」
「シュネーヴィ! パリィ、アプフェルビッシェン(林檎僚機)!」
『ガガガー!』
素人丸出しの構えと反動制御で、ヴィウノーがまた魔弾を発射。対してハルトは出力をさらに強めた『水』の魔弾を真っ向からぶつけ、いくばくか相殺できたところでシュネーヴィが割って入りパリィ。
形を保てなくなった魔弾が四方八方に飛び散ったが、シュネーヴィのどてっ腹から射出された林檎型シールドビットたちがそのほとんどを受け止めた。
「セ、セーフう! 一か八かじゃったがのうっ、金属には効かんみたい!」
『ガ、ガガガァ……』
魔弾の残滓はシュネーヴィにもビットにも付着していたが、焼け爛れることはなく。それ以上の感染が広がることもなかった。
「マリーさんっ、あのっ、でもっ、そのっ、ちょっとだけおもらししてます……! 《ランウォータリング》、《ランウォータリング》……!」
「ごめんねええっっ、さすがに全部はうずないー(難しい)わあ! あんがとおイエちゃん!」
「いいえ……! みんなで協力すればなんとかできます、村を守りましょう……!」
干し網や祭祀のテーブルに付着してしまった残滓へ、そしてシュネーヴィへも降り注いだ《ランウォータリング》。それでやっと、残滓も完全に浄化された。
「おい! おまえなっ、この村のために戦ってるんじゃなかったのかよ! そんなモノ撃ちまくってたら村そのものが無くなるぞ……!?」
『だったらきみらこそ帰りなよ! オレは悪くないよ! オレは、きみたちが襲ってくるから戦ってるだけさ!』
「ああくそっ……たしかに一理はあるけどな、話にならないな……! たしかにおまえは『回避男』だよ!」
チャージからの発射。チャージからの発射。コツを掴んできたのか、へっぴり腰ながらもヴィウノー……いや回避男の魔弾乱射は精度もスピードも上がってきた。
その都度、三人がかりで無力化を繋げていったものの……、
『ひっ、あがっ、あ、熱いッ……いいいい!』『おい✕✕✕かっ、あっ、ああ!? おれの手にも、手にも!』『暴れるなっ、こ、こっち来るなよ!!』『御子様、っ……ヴィウノー! やめてぇぇぇぇ!』
流れ弾はとうとう村人たちへも当たっていき、パニックのうちに爛れの感染が広がりだしていたのだ。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




