Karte.16-2「サーシャちゃん伍長ッス」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
「っっ……らああああっっっっ!!」
ーー 大剣術 レベル3(神級) ーー
ーー 散弾銃術 レベル3(神級) ーー
瞬間。ヴィウノーの目前へ低く滑り込めば、羅刹がごとき鉄の嵐が吹き上がった。
薙ぎ、斬り上げ、連射、回転斬り、振り下ろし二連、突き、斉射、斬り下がり。
それら一連を一瞬のうちに、ハルトは神がかりの機動を振るってみせたのだ。
「ぶ、ぅええええええ!?」
『うわっカッコよかったなー……でもカッコわるいなー』
……そして全てがあらぬ方向へつんのめり、ハルトはついに頭からすっ転んだ。
どんな武器でも最上級の業を身につけることができるチートスキルだが、べつに必中というわけでもないのだ。
むしろハルト本人としてはレベルも実力もまだまだ伴っていないため、地ばかり穿ってしまった大銃剣は気づけばバラバラに崩れていた……。
『きみももしかしてチート持ち? いやーでもごめんね、オレって『回避』なら誰にも負けない✕✕あるから。あはは』
「だからっっ、それのどこが『回避』なんだよ避けてないだろ! 当たらないだけじゃないかよ!」
『え? どう違うの? 俺のステータスがすごいから当たらないんでしょ?』
「アホか! ああくそおまえみたいなのが出てくるから嫌なんだよ……!」
ーー レベル006 薬草摘み ヴィウノー ーー
ーー ATK:F DEF:F- DEX:D AGI:SSS INT:G- RES:G- ーー
ツッコミの勢いに任せて跳ね起きたハルトに対し、ヴィウノーは悠々とまた歩き出していて。
(いくらステータスが高いからって、突っ立ってるだけで当たらないのが『回避』なわけないだろ……! そのチートは、魔法でだって説明できないから恐ろしいんだよ!)
ステータスとは、オドエーテル(体内魔力)の属性別保有量を数値化したものだ。
たしかにその値が高ければ高いほど、エーテルにより近しい力を発揮しうるというものだが……。
この世の理の中に生きている以上、それを無視した力は有り得ない。
世界には『限界』と言い換えていい数多の法則があり、原因と結果という『因果』があり、魔法だって世の理に即した形へエーテルを練る『行為』にすぎないのだから。
ATKが高いだけでは、打てば折れる木の棒の一振りでボスモンスターはぶっ飛ばせない。
DEFが高いだけでは、剥き出しのどてっ腹を刺されて鎧より硬いワケもない。
AGIが高いだけでは、突っ立っているだけで敵の攻撃はミスしてくれない。
当たり前だ。
だから、その『当たり前』から逸脱してしまったものこそが『チート』なのだ。
限界もなく、因果もなく、ともすれば行為すらいらない。
最高の素材を懸けて木の棒を強めることも、技や魔法の粋を凝らしてどてっ腹を鍛えることも、血の滲む思いで回避術を学ぶこともいらない。
だから。そんな空虚なチートを、ハルトは生半可な気持ちで扱うわけにはいかなかった。
「止めてみせる……! おまえみたいなのに好き勝手させてたまるかっっ……」
「《必中/すーぱーすとらいく》……! あぅっ、あ、ぁ、あ、わ、わ、わわわわぁ……!?」
「いや止まれ止まれおまえもっ、イエぇぇぇぇ!?」
『いちばん✕✕したかも。きみらって夫婦コメディアンかなにか?』
エーテルで形作った杖を鈍器に、イエのアーツがヴィウノーへ必中……のはずが、やはり空振り。しかも《絶対回避》を相手どった必中効果が自己矛盾のループを起こしたらしく、天然危険物乙女は杖に引っ張られてデタラメに回り回った。
「ったく!」
「面目次第もないです」
ハルトが羽交い締めにキャッチしてやれば、杖の消滅とともにようやく止まった。
「いい、おかげで頭冷えた! アリステラはいけるか!?」
「はい起こします、っ、《クラフトウィッチ》……!」
ーー レベルダウン! ーー
ーー レベル2 白魔法師 イエ ーー
イエがローブの胸元から闇色のクリスタルでできたタリスマンを抜き出し、オドエーテル(体内魔力)を集束させた。
それは一条の『闇』の輝きとなって、重めに揺れていたフードの中へ飛んで……。
そこにハンモックよろしくくるまっていた、長すぎる闇色髪の人形へ捧げられた。
「ーーおはよう。さすがに苦戦しているわね」
開眼。生き人形の少女は夢の狭間から目覚めた。
アリステラ。
かつては深淵に追放された旧き『星』の意志であり、今はこの小さな受肉体とともに地上に在る、自称守護精霊の少女だ。
「アリステラ! チートアイテムじゃなくてチートスキル持ちの人間みたいなんだが……それでも破壊できるのか!?」
「それは問題無い。求めるのなら使い手ごとでも」
「え、いいえ、あの、あのっ、チートだけを壊せないでしょうかお姉さん……!」
「それも問題無いけれど。どちらにしろ、私の手でチートを破壊するには条件を揃えないといけないわね」
「というと!?」
ある理由から、第七隊はアリステラを救うために
チート処理を積極的に請け負っているのだ。彼女の手にかかればチートアイテムが一瞬にして破壊されるのを、ハルトたちはもう二度も目の当たりにしてきた。
とはいえ今回は怪異を引き起こすチートアイテムではなくヴィウノー自身に宿ったチートスキルのようで、こうして直に見極めてみるまでどう転ぶか不安だったのだが……、
「対象の戦意喪失と、私がこの手で触れること。……つまり彼が負けを認めるぐらいに倒さないとチートの破壊はできないわ」
「それができたら苦労してないしそれは事前に言っといてほしかったよなぁぁぁぁ!?」
「言おうにもこんな土壇場でしか起こさないからでしょう。だから余裕を持ってレベル上げと経験値の温存をしておきなさいと言っているのに」
「私はブリーフィング中に起こそうとしたのですけどハルトさんに止められて……」
「おま言ううう!? ああもうとにかく倒さないといけないんだなっ、聞いたなシェリスっマリー!」
「ほははははあたぼうでぇぃ!」
「ぺっ、ぺっ……ううう土食べちゃった、長期戦の予感がするのう」
復活したシェリスとマリーが集合してくれば。通常の戦力としては期待できないアリステラはともかく、第七隊全員がまた構えるのだ。
『着いたー。歩きだと✕✕に遠いんだよなー』
村の内外の境界線である粗末なアーチを越え、ついに踏み込んでしまったヴィウノーの背中へ……、
「はい皆様、そこまで。そこまで。いったんストップですぞ」
「な、っ、おい……っ?」
一斉に飛びかかる前に、皆の前へニーヤ指揮官がスライディングしてきた。
「指揮官さん。ハッ……まさか、指揮官さんが真のボスさんだったです……?」
「お? お? シェリスさんそういうのもやぶさかじゃねぃのだわ」
「まさか。シャベルを下げてくだされ王女様、時間切れです。これ以上戦っては村に被害が及びかねませんからね」
「そんなこと言ったって、どのみちあいつが入り込んだら……」
「あっ? ねえみんな見て、あん人の行き先」
再合体したシュネーヴィの肩の上にて、マリーが指差した先……、
ヴィウノーは、捕虜たちの簡易収容所へ直行していた。
『どーもー。今回もオレの勝ちってことで、みんなを解放させてもらうよ』
大銃剣を構えたベルアーデ兵たちの何人かは今にも挑みかかりそうだったが、仲間たちが諌めて。
多数の銃口に睨まれたままながらも。ヴィウノーはスオスカ族入りの網が掛けられた杭を外していき、いっそのんびりと彼らを解放していったのだ。
『やったぜ!』『今日も御子様の✕✕だ!』『ありがとうな!』『おいみんなっ、今日こそ✕✕者どもを追い出そうじゃないか!』『そうよそうよ……!』
徒党を組んだスオスカ族たちがそう勢いづけば、ベルアーデ兵たちもますます殺気づいた、
が……、ヴィウノーがヒョイと手を上げればスオスカ族たちは途端に黙ったのだ。
『ダメだよみんな、それはルール✕✕。この人たちだっていつも✕✕に帰してくれるんだから、✕✕しなくっちゃ』
『……わかったよ御子様』『そのとおりだ』『うん……』『でもこのままじゃあなあ』『御子様……』
スオスカ族たちは屈強な男どもがほとんどだったが、誰もがヴィウノーを尊重し、どこか平伏しているような様子さえあった。
そんなヴィウノーは、一団の先頭を歩きだしながらベルアーデ兵たちを見渡すのだった。
『みんな、こんな✕✕はもうやめてくれないかなあ。オレは人を✕つけたくないけど……こんなことが続くなら、オレも戦わないといけなくなるよ。じゃあね』
……実際、ベルアーデ兵たちはよく我慢していた。スオスカ族たちと目と鼻の先の距離で睨み合いながらも、その帰還を見送っていたのだから。
そしてヴィウノー一行は、第七隊の目前をも通過していったのだ。
「……きみ。その有り様で『戦い』なぞ語らないほうが身のためよ」
『わ、人形が生きてる? 白魔法師さんの✕い✕? なに言ってるのかわからないけどとりあえず帰るね、楽しかったよ』
……まだ早鐘を打っている鼓動の中で、ハルトだってもう一度飛びかかってやりたいぐらいだった。
そうしてヴィウノーたちは、森の奥へと立ち去っていったのだった……。
……歯噛みすら聞こえてきそうな静寂を、アリステラの生欠伸が壊した。
「……さて、改めて作戦会議としましょう。とはいえ私はもう魔力切れだけれど……ふぁ……」
「やや、貴女様が例の守護精霊殿でありますかな。拝謁賜り恐悦至極」
「アリステラよ。……きみも一癖ありそうだけれど、まあ、私の家族たちをひとつ勝たせてあげて」
「是非もありませんな」
「……ぐう。……くう……すやぁ……すてぁ……」
途端にコテンと寝落ちしてしまった彼女へ会釈をし、くたびれた青年中尉は第七隊を手招くのだった。
「さてさて。では様子見も終わったところで、ヤツを倒すプランを実行に移すとしましょうぞ」
ハルトは「はあ……?」、ファミリーの面々と顔を見合わせあった……。
○
戦闘がとりあえず終わったことで鐘が鳴らされ、家に閉じ籠っていた村人たちが続々と現れつつあった。
例えば農家たちが老若男女問わず、マグヤ・ルォルツァ王国名産のパプリカや肉団子の畑へ駆け込んだり、
「こっちはアウトか~」「ったくどいつもこいつも踏み荒らしやがって」「チーズ肉団子は?」「アウト」「パプリカはちょいと早いが粉にしちまうかあ」
例えば子供たちが解き放たれ、ベルアーデ軍がプロパガンダ用に牽引してきたアイスクリーム販売機工車に群がっていたり。
「おじちゃんブラッドオレンジ!」「あたちラムレーズン!」「おいおいおまえたち、言いたいだけかよオシャレなフレーバー」「退役したらアイス屋になるんだ」「やめれ」「機工技術ならいつでもどこでもアイスが食えるぞ! すごいだろう」「ベルアーデは機工の国~、素晴らしい機工の先進国~」「奥さんどうだいっこの機工保冷庫!」
例えば本営の天幕に、豪奢なタキシードとサルエル姿の中年領主が詰めかけていたり。
「これはどういうことですか指揮官殿っ、それにベルアーデ王女様! 貴公らにお任せすれば今日にでも解決するというお話でしたのにっ、チート持ちまで使っておいて同じチート持ちに負けるとはっっ……」
「最後にゃ解決してやっから黙ってろぃキーーーーック!」
つまりただのドロップキックが炸裂、領主は「へぎゃっっ」とシェリスに蹴り飛ばされた。
第七隊は天幕の中に集合し、マリーが淹れてくれたはちみつレモンティーで疲労回復に努めていたのだった。……当のミニマムメイドさんは主君の飛び蹴りに唖然としているばかりだったが。
一方、意外にも領主はタフネスたっぷりに跳ね起きた。
「うぐ、ぐ……吾輩の叔父がこの地を拓きはじめた頃、森向こうの奴らとは友好関係を結んだのです。必要以上に踏み込まない約定も交わしました。なのに今回、ほんの半月前にスオスカ共和国とやらを立ててからは吾輩たちを侵略者だと今さらがなり立て……」
「おーおーオッサン、意外とガッツありやがんのだわ。そこまで『良いもん』になりたいかねぃ……ま、オッサンたちが間違ってるとかスオなんとか族が正しいとかは帝国軍の仕事に関係ねぃのだわ」
「……わ、我々が正しくて、向こうが間違っておるのです」
横暴なほど姫君に見下ろされていたが、領主は媚びた愛想笑いを崩さないように必死の様子だった。
だからこそ、滑り込んできたのは王女付きの侍女としてのマリーである。
「シェリスさんっ! こういう時に帝王学をおべんきょしとかないと将来困るわよっ、営業スマイルの一つでも覚えんさいやあ!」
「んなもんそん時になったら学ぶってんでぃ~。っつうかこっちのルォルツァに味方すんのはそのほうが後々ゆすんのに旨味があっからで、どうせ後になりゃ国王連中と睨み合うってのにこんな小物へ愛想振り撒いてもしかたねぃのだわ」
……サラッと言ってのけた不良王女を、ぽへーっとタンブラーを傾けているイエは除いて誰もが凝視した。
「……。……へ、陛下に聞いてきたの? シェリスさん」
「てやんでぃ、んなもんちょいと考えりゃわかんだろぃ。ほはははは」
「こ、こん人はもお~~。……あっ、りょ、領主様は心配せんと楽にしよってつかあさい?」
「できるかああ! くそ、くそっ、グズな中央のせいでこんな悪魔どもに頼らねばならんとはぁぁ……!」
さすがに、文字通り愛想が尽きたらしい。戦々恐々と領主は天幕を飛び出していってしまって。
唾も飛び散るその叫びの矛先は、疲れた様子の村人たちへ向けられた。
「いいかね民たちよっ、蛮族どもの侵略にかこつけてサボるな怠けるな! この地は我が一族の尊い血筋により未来永劫の繁栄を約束された地であるっ、些末な心配なぞせず各々の仕事に励むがよい!」
そんな様を遠く見て、シェリスは肩をすくめるのだった。
「けーっ……些末なもんかよぃ、おまえたちはいま『戦争』やってんのだわ。民と領地の主ならもっと体張って元気づけてやれってんでぃ」
「絵に描いたような貴族階級の領主殿ですな。王女様、あなたも『貴き血』というものがお嫌いなのでしょうか」
と、静観していたニーヤがフェアリーを操作しながら訊ねれば。彼が顔も向けなかったのと同じように、シェリスは振り向きもしなかった。
「べつにシェリスさんは親父みてぃに『貴族だから』嫌いなんじゃねぃぜぃ。血がどうたら語るくせに、その血を流して見せる気もねぃアホがアホらしいだけなのだわ」
「……なるほど。たしかに王女様はいつも鼻血まで流しているイメージがありますな」
「ずび。イエ子ぉ、また出てきたのだわぁ」
「あ、首トントンはダメなのですシェリスさん。逆効果です」
ヴィウノー戦で頭から墜落した隊長殿は、鼻に脱脂綿を詰めながら改めてニーヤ指揮官へ向き直った。
「さってとぃ。そんで中尉よぉ、あの当たらん男を倒すプランがもう用意できてるみてぃな口振りだったよなぃ? どういうつもりなのだわ」
「様子見程度で良いとは言われてたけどさ、ひょっとして何か利用されてたのか? 俺たち」
ぶっつけ本番の正面対決で勝てればそれで良し、そうでなくともどういう相手なのかを実感として掴むのは策を練るために重要……とは納得していたが。すでに彼を倒すプランがあると聞かされれば話は違ってくる。
怪訝な眼差しが集中するなか、ニーヤはバツが悪そうに頭を下げた。
「……まずは情報共有の不足に謝罪をば。実は貴殿らがここに到着するほんの直前、我が副官が彼奴を倒す方法を見つけたかもしれないと言い出しましてな。ただし確証が足りないとのことで、そこのところを見極めたいから彼奴と一戦交えて見せてほしい……と言い残して飛び出してしまったのです」
「副官さん~? まあっ失礼な話。っちゅうこっちゃあわしらも兵隊さんたちもそん人のために戦わされたんかいや?」
「そう言われると耳が痛いのですが、ちょうどスオスカ族が進撃を始めたタイミングでしたからな……防衛戦のついでということで我輩も頷いてしまいました。あい申し訳ございませぬ」
「言うわりにゃおまえ、確信犯みてぃな顔してねぃのだわ?」
「ははあ、いや、これはどうも……実はこういうことは日常茶飯事の女でして、彼女は。ええ、我輩の監督不行き届きの致すところでありますのでどうぞお叱りは我輩のほうへ頂ければと」
「なんだかなあ……。で、その副官ってのは今どこに?」
「呼び出しているのですが応答が無くて困っております」
ーー 念話 発信! ーー
ーー ……コール中 …………コール中 ………………コール中! ーー
なるほど相手のフェアリーとリンクは繋がっているようだったが、単純に応答が無いようで。数回コールしてはいったん切ってまたすぐに掛ける、そんな試行をニーヤは続けていた。
だが。
「ーーヤバ! サ~セン~ッス~」
ふと、アイスクリーム販売機工車の後部搬入口がぶち開けられると。
ーー ♪~♪~♪~♪~ ーー
ーー 念話 着信! ーー
ーー ……♪~♪ …………アイス ………………おいしい! ーー
フェアリーへ食べ物を与えるのは推奨されていないのにトリプル盛りでアイスを抱かせながら、流れるような人影が飛び出してきたのだ。
「サーセン、サーセンッス。ちょっちおしっこいってました~。的な」
……クッキーサンドを頬張りながら、一人の女子が天幕へゆるりと駆け込んできたのだ。
「おーっ、ダークエルフじゃねぃかぃ! こいつぁ珍しいぜぃっ、よぉ同胞!」
「ヤバ! マヂでシェリザベートサマ来てんぢゃん~、テンションあげみなんスけど。おっすおっす~しくよろで~ッス!」
青みがかった黒い肌、それに長耳。いわゆるダークエルフの女子が、ハーフエルフのシェリスとハイタッチしてみせたのだった。
エルフ弁の亜流なる口調のせいで幼く映るものの、シェリスよりわずかに年下、18、9くらいの年頃だろうか。
薄緑色のウェービーヘアーをツインテールにした、人懐っこそうな相貌が糸目を細めている。
魔法兵の証である袖付きのサーコートを着ているのだが、肉付きの良いその胸元を覆い隠す調子で迷彩柄のケープを巻いていた。
「サーシャ殿。皆様がたにちゃんとした挨拶を、さあどうぞ」
「りょ! どもども~、サーシャちゃん伍長ッス。タイチョのズッ友的なのやってますッス。とりま盛ってこ~第七隊のみんな~! うぇ~い! ッス~!」
「うぇーい。です。ひゅーひゅー」
「なんかいたたまれなくなるからやめてくれ、イエ」
「う~ん~。ダークエルフ弁ってただでさえ独特なのに後輩口調まで……盛りすぎとちがう?」
サーシャ副官はダブルなピースとともに笑っていたのだった。
ダークエルフ。もともと『風』と『水』のエーテルの影響を色濃く受けてヒトから分化したとされるエルフのうち、山林ーーすなわち『風』と『水』のエーテルーーから離れて暮らすうちにさらに分化した種族。
放浪や旅を是としてきた者が多いからか、その中で形成されたいわゆるダークエルフ弁には様々な地方の言葉が混ざり合い、なんともいえない軽妙さがあるのだった……。
○
大量のイモ弾が早くも芽を出しつつある、森の入口にて。
第七隊と、ニーヤ&サーシャが集合していた。
「あ~い、あの避けゲロメンの倒しかたッスよね? おけり~、倒すのは無理ポでも降参させるんならできると思うッスよ~」
「同じことじゃないのか、それ」
「きゃわわ~っ、イエちんのお姉さんかわうぃ~ッスね~! ガチ美人かよ~!」
「ありがとうございます。特別に高い高いの権利を差し上げます、どうぞ」
「ヤバ~!」
「むぐぅ……す、や……すてぁ……」
「話を聞かないヤツが増えた……もうダメだ……」
「絶望するのが早いですぞハルト殿。心中お察ししますがね、いろいろと」
「心配ゴム用ッスよタイチョ~。あ~し~、こう見えてもアイツのこと森ん中でパーペキ偵察してたッスから」
「アイス屋から出てきたではありませんか」
「それは偵察完了した後んことッスよ~。問題無いこりんっしょ~?」
「ふーむ。まあいいでしょう」
(いいのかよ)
「んでサー公よぉ、ヤツを倒すだか降参させる目算ってぇのはなん……」
「きゃわわ~っ、マリさんのネヴィちゃんかわうぃ~ッスね~! ガチメイドかよ~!」
「ありがと~! 特別に高い高いされる権利を差し上げちゃりま……」
「兄弟ぃ、ツッコミ」
「いいかげんにしろっっ! ……って自分でやれよ!」
「にしし。あいあい、いいかげんなあ~しッスけどぉいいかげんにするッス。あ、よく見たらハルぴっぴもけっこイケてる系男子ッスね?」
「ダメです。ハルトさんは貸さないです」
「ガチしょんぼり沈殿丸ッス~」
「……もう俺はツッコまないぞ」
エルフという種族はみんなこうなのかと口に出しかけたハルトだったがやめた。
「あ~しってほらぁ、こういう作戦? 的なサムシングを口で説明すんのマジ苦手じゃないスか」
「いや知らないって」
『プシュルン』
と。サーシャは目を瞪る身軽さでシュネーヴィの膝、腰、肩へと飛び乗ってみせながら、アリステラを可愛がって笑ってみせるのだ。
「とりま~、一緒にパーティ組んであん人らの村まで凸してもらっていいスか? ぶっちゃけみんなには、あ~しがサクをこ~じる間のオトリになってほしいんス!」
「ああんっ? このシェリスさんたちを捕まえてオトリだぁ~? でぃ~?」
「ほな進軍してもろて! あっ安心してくださいッス、ちな道中もどちゃくそ援護するッスから! イエちんパ~ス!」
「お姉さ、ん、っ」
「すてぁっ……す、や……」
投げ渡されたアリステラ。次の瞬間にはサーシャは跳び上がり、森の天を覆う枝葉の中へと潜っていってしまったのだった。
「……ニーヤ中尉い。さすがにわしらでもね、えっとね、これだけの情報でタマあ張るんはいたしい(つらい)んじゃがあ……」
「然りですな。代わりといってはなんですが我輩が先陣を切らせてもらいますゆえ、ご容赦くだされ」
「ああダメダメ、ドタマぶちかますんはわしとシュネーヴィのお役目じゃけん。いくわよおみんなあ」
『ガガガ』
「はああ……けっきょくこういうノープランなノリなのな、俺たちって」
「戦いの中で閃き……成長し、強くなるのです……」
「良いことを言いますなあイエ殿」
「こいつもけっこうノリで言ってるだけ。てか緊張してワケわかんなくなってるだけ」
「うっぷ」
「イエ子ぉ、ほれ紙……袋」
最弱乙女の底知れない眼差しが、その黒曜の瞳の奥でいつもよりグルグル渦巻いているのもやむなし。
(紛争地の野戦病院に雇われた『昔話』ならこの前聞いたが、紛争の最前線に介入するのははじめてなんだろうな。……ったくいつも以上に無理しやがって)
「あうっ。……ハルトさん、頭を撫でる時は理由と目的を申告してください。です」
「なんだよそのこっ恥ずかしい要望は。とにかくいくぞ、離れるなよ」
「はい。ありがとうございます」
やむなし。眼前に立ち込める深く薄暗い森の奥には、魔物ではなく血気盛んな人間たちが待ち構えているのだろうから……。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




