Karte.16-1「オレ、絶対回避しちゃうんだけどな」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
ーーブゥゥゥゥン……
ーーカシャシャシャシャシャ
ーーカシャッ
ーー『ヨ ミ コ ミ エ ラ ー』
ーーカシャッ
ーー『ゾ ッ コ ウ ?』
ーーガッチョン
ーー『PLAY』
ーーカシャッ
ーー『チ ャ プ タ ー 2 0 / 2 2』
ーーブゥゥゥゥンァ……!
……。
…………。
『ベルアーデ帝国軍をどう思いますか?』。
O国在住、43歳農夫の回答。
『ベルアーデ軍は最高だよ。呼べばすぐ駆けつけてくれるし、タダ同然の報酬で何でもやってくれる。魔物でも、盗賊でも、廃村の再開発でもイチコロだ』
S国在住、19歳主婦の回答。
『近代化っていうの? うちらでも使える機工を教えてってくれてさ。そりゃそうだよね、今時はこういう技術がありゃ素人でもいっぱしの仕事ができるんだもん、ふんぞり返ってるだけの領主様や汚い奴隷どもなんかいらないよ』
B国在住、67歳社会学者の回答。
『ベル帝連中は優しき侵略者よな。たしかに人民の危機には国も身分も関係なく駆けつけるが、裏返せばそれは国を統べる尊い御方々に話をつける前に介入してくるということ。弱き民の声や、貴族たちの対応の遅さをふりかざしてな……』
ーーザザッ……ザザザッ、
『な、なんだね? 帝国軍……? いるならそう最初から……んん? ……忌憚無いご意見には報奨を、と……ふ、ふふ、さすが実力主義の傭兵国家だ。わかっているではないか』
ーーガッチョン
ーー『FF』
ーー『チ ャ プ タ ー 2 1 / 2 2』
……。
…………。
『ルーデリカ・ルル・ベルアーデ帝王妃による啓発激励』
『ちゅうわけで、みんなのお仕事は救援にかこつけた派兵先の実効支配と帝国式思想の普及や。
いうてお助け任務もテキトーこいたらあかんよ~。傭兵団から成り上がったベルアーデ建国の意志、『貴族殺し』の互助精神を忘れたらあかん。
うちもその昔、親戚みたいなドワーフのおっちゃんに言うたったもんや。あんたはヒトを金の成る木みたいに言うけど、ヒトっちゅうもんは木やのうてほんまは土なんやって……、
ああごめんごめん、脱線してもた。
何が言いたいかっちゅうとな、うちらはシャベルなんや。
いやまた例え話かいなって、ええやないの。うち、例え話が似合うシャレオツな女になりたいねん。
みんな。偉いさんから雑草みたいな扱いされとるお隣さんたちを、ぎょーさん助けたって、耕したり。
貴族も奴隷ももう古い。機工も魔法も魔導かてあんのに、ほんまに頑張っとるみんながただ絞り取られるだけの生き方をまだ続けるんか。ちゅうてな』
『ああ、血の貴さが目に見えるものか。ベルアーデの民として目にモノをこそ見せてやれ』
『スーちゃんはハンコ押しとき! うちに撮影任したからには出しゃばり禁止!』
『ははは。兵士諸君、貴族連中が出しゃばってきても喧嘩するんじゃないぞ。それは俺たちの役割だからな』
ーーガッチョンチョン
ーー『STOP』
ーーブゥゥゥゥン……
「ヤバ! なんでブチるんスかタイチョ~。せっかくですしおすしぃ、最後まで見ればよかねッス?」
「……貴女こそ。どうして止めたのですかな?」
……資料保存のために敢えてガス灯に乏しい室内。今までは一人の指が操作していた操作ボタンを、今度は二人の指が同時に押し込んだ。
すると、スクリーンへ上映されていた活動写幻がストップされた。
「……まあ、もう十分でしょうぞ。貴女がこぼしたフラッペのせいで、無事に活動写幻の破損は確認できたわけですから」
「ワラ~ッス。からのサーセンッス」
箱型の魔導装置『フェアリクター』から、フェアリーを模したクリスタル『UFCメモリー』が抜き出された。
「ま、こんなこともあろうかとぉ。あーしのフェアリーに複製してあるんで、転写すればおけまるッスけど」
「……それこそ、どうして先に言わないのですかな?」
「あ、つらたん。訊かれてから言おうて思てたのに、あーしってばマジ正直者~」
『部外秘 新兵研修用 複製禁止』と貼られたラベルは、野草を煮出したシロップでベタベタになっていた……。
○
南エウル大陸中部、スオスカ共和国。
土地の大半を占める湿気った森の中に、数多の少数民族のコミューンばかりがある小国だ。
近年では数少ない平地へ南方のマグヤ・ルォルツァ王国の民が流入し、農工地として実質的に占領されてしまっているが……歴史的背景を鑑みればそれも致し方なかった。
そもそもこの地は古来より名をも定かではなく、諸外国からすれば国としても認められていなかったのだ。
森に埋もれた少数民族たちが好き勝手に自称『統一国家』を立てては、内外の干渉を受けて崩壊と統合を繰り返しているからだ。
その都度に民族同士でも流入出を繰り返し、特に言語が混ざり合って新しい民族が誕生することもしばしば。
現在は比較的規模の大きい新興民族スオスカが『スオスカ共和国』と称し、自分たちの話す言語こそがこの地本来の言語であるなどと主張していて……。
もっとも。諸外国からは単に『言葉の地』とだけ呼ばれていることが、その関心の低さを窺わせるだろう。
『✕れ!』『マグヤ・ルォルツァの✕✕め!』『ここは我らの✕✕!』『誰にも✕✕!』『✕らなければ✕す!』
森の奥。魔除けのデザインに彩られたポンチョやチェストラップ姿のスオスカ族たちが、怒号とともに武器を蹴り出した。
それは、銀色のスイカとでもいうようなまあるい果実だった。
この『言葉の地』の特産フルーツ、『ビクティミン』。
ーーバッッッッ、
ーースピピピピピピ!
強い衝撃を与えれば数秒後に破裂し、槍の形をした無数の種が鋭利に飛び散る殺人フルーツ。
学名を『槍瓜』、通称を『槍玉』という。
ところが、襲いかかる槍の種たちを敵対者たちはものともしていなかった。
鎧のうなじに格納されたフェアリーたちに、まだフロレンシック・レコードでも最適化されていないのだろうスオスカ語を同時通訳させながら……。
「あんだって!?」「半分しか翻訳できてないぞ!」「余計に口悪そうに聞こえるね」「『帰れ』とかだろ! 聞くまでもねぇ!」
彼らは、黒金の軍。
ベルアーデ帝国軍だ。
一人として違わず超重装のフルアーマーで全身を覆い、さらには歯車とゼンマイ仕掛けの機工式強化外骨格『シュティーフムッター(継母)』を纏っていた。
本来、フルアーマーというものは限られた強者しか装備しえないものだ。その重さゆえに身じろぎ一つでさえ全力を振り回さないといけないからである。
しかし。強化外骨格が動きに連動して膂力を与え、彼らベルアーデ兵たちは一人として余さず量産された強者だった。
もはや異能ある一握りの英雄たちの時代ではなく、今や技術を用いれば誰もが平均化された強者になりえるのだ。
『黒金の国』ベルアーデは豊富な鉱物資源と北方のドワーフたちの助力のもと、特に機工技術による人の力の革新を体現していた。
「ショット!」「ガーン!」「仲良しかおまえら」「舌噛むわよ」「バディは離れるなっての!」「離れてんのぁそっち!」
そんな機工化ベルアーデ兵たちが振るう今時の標準兵装は、大銃剣ショットガン『アイゼンシューエ(鉄靴):MP(量産型)』だった。
一見すると両刃の大剣だ。
ただし実際に刃が聳えているのは、トリガー付きの柄を握り込んだ時に下側となる一方だけ。
もう一方の上側には刃と見せかけてスライドできるフォアエンドが、ポンプアクションのリロード機構として、また第二の持ち手として備わっていた。
切っ先の銃口は刺突などの際に異物が詰まらないよう、トリガーと連動して開くようになっていた。
魔導『剣銃』シリーズと異なり、これら機工『銃剣』シリーズは剣としての運用が主体である。量産性と耐久性を重視した歯車仕掛けの合体により、普通の武器類より著しく重い。
だが、強化外骨格とともに扱えばその重量こそが武器となる。
もとより刀でもなければ剣とは斬るためのものにあらず。その重厚さでもって鎧の隙間を抉り潰し、結果としてぶった斬るものなのだから。
「「「「うぅぅぅぅららららぁぁぁぁ!」」」」
『ぎゃっ!』『✕✕し!』『痛ァァいッッ……!』『✕✕!』
バディを必ず組んだツーマンセルが複数連なり、斧か鉈かと見紛うダイナミックすぎる剣術をスオスカ族たちへ叩き込んだ。
「安心しな! 殺しゃしねぇよ!」「そりゃ悪役のセリフ」「間違っちゃないよね」「刃にゃカバーしてるし弾もイモ」「ベルアーデ軍は優しいねぇ」「だから悪役っぽいって」
『くそっ!』『✕るな!』『✕✕✕しやがって!』『✕✕するぞ!』
「「「「「「ふぁぁぁぁいあぁぁぁぁ!」」」」」」
『『『『ぶっっ……!』』』』
そう、刃は革のカバーで覆ってあったし、倒れ込んだスオスカ族たちへ撃ち込んだ追い打ちも殺傷能力の無いイモ製散弾である。
それでも痛いのは痛いだろうし青あざは必至だが。
「網、まだあるか!?」「無いよ~」「やるやる」「どいてどいて」「よーし俺たちが連れて帰る!」「何人目の捕虜かなあ。先進んで」
『人さらい……!』『✕して!』『ぐうええ……』
再起不能となったスオスカ族たちは、強化外骨格の追加ポーチから取り出した網で掬える限りに一網打尽。背負い込まれて、森の外側へと連行されていった。
一方、残ったベルアーデ兵たちは剣撃と散弾を振り回しながら前へ前へと進み続けるのだ。
鍛え込まれたベルアーデ剣術の理念どおりに。
電光石火……捲土重来……速さを以て万事を征服せしめるベルアーデ帝国の王道どおりに。
似たような光景が、森の南方から包囲する形でいくつも展開されていたのだった。
「なぁおい~、すぐ戻ってくっからいいだろぃ? シェリスさんもあいつらとグレネードなフットボールしてぃのだわ」
「いえ。ブリーフィングどおり、王女様たちはまだ待機していてくだされ」
そんな戦場を見やり、森の外側の平原。
農工地の拠点として拓かれた名も無いような村に、ベルアーデ帝国の軍営が敷かれていた。
捕虜連行や補給を終えてまた出撃していく機工化兵たちの、サスペンションの利いた足音が轟く。
馬に依らない四輪式の機工車が、軍用に装甲を厚くした車体をバリケードとして何台も並んでいる。
領主の館に背を向ける格好で設えられた天幕
では、この代理戦争の趨勢を計る指揮官二人がテーブル越しに向き合っていた。
「ちぇぃっ。『衝突』の409小隊ってワリにゃあ慎重なこってぃ」
一人はベルアーデ帝国軍王女、シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ。とはいえ彼女が帝位継承者として軍の指揮を執ることはまだ無いので、いつものように帝国騎士団第七隊隊長シェリスとしての参戦である。
黙っていれば縦ロールのセミショートブロンドがエレガントな、ハーフエルフの美姫なのだが……。黄金色のバトルドレスとダイヤ色のシャベルを引っ提げた、言動ともにギラギラな二十歳である。
「民同士の衝突問題を多く取り扱っているというだけで、べつにイノシシ小隊ということではありませんぞ」
対してもう一人。肩のホルスターに座らせたフェアリーから発せられるウィンドウたちに四方八方囲まれ、卓上のエリアマップを見下ろすは……二十代後半ほどの士官。
名家の跡取りといっても通じるだろう、シャープな美青年だ。
……ただしプラチナブロンドの髪はボサボサにひっつめているばかりで、目の下には眼鏡より存在感のある濃いクマ、おまけに無精髭。素材だけ見れば美青年、というだけの残念な男だった。
戦闘よりも指揮に走り回る士官として、フルアーマーではなく黒金色のサーコートを纏っていた。
「あー、ニップルとかいったっけかぃ? それともニーニー?」
「ニーヤと申しますぞ王女様。階級は中尉です」
「おぅ中尉、大抵の指揮官野郎はシェリスさんの前じゃ面白ぃぐれぃ困った顔すんだけどなぃ。大したむっつり野郎なのだわほはははは」
「それは光栄ですな。まあ我輩、王女様のようなヒトの相手には慣れておりますゆえ……おっと失礼、第4分隊、10時方向に数3、頼みますぞ」
『了解!』『確認しました!』『3、2、1っ……』『《ピットフォール》!!』
念話通信を交わした直後、地鳴り、そして悲鳴。
包囲網をすり抜けて森から飛び出してきていたスオスカ族が、突如として現れたミニ落とし穴に……陥没魔法にハマったのだった。
『✕し穴!?』『✕✕だぞ!』『ぐあああ!』
「むしろ正々堂々~」「まっすぐ来るあんたらが悪い」「機工だけじゃないのよベルアーデは」
平原を滑るように駆け抜けていたのは、オプション装備としてローラー付きサバトンを履き、アンテナよろしく背に杖を佩いたフルアーマー兵たち。ベルアーデ軍では何かと重宝される、長い袖の意匠を纏った魔法兵たちだ。
「ひぃ、ひふ、っ、ひひゅうぅぅぅぅ……大変ですハルトさん、追加で、また、3人いらっしゃりそうです……」
「追加の3人より目の前の5人に集中。べつにいいって言われたのに1人救護所を始めたのはおまえだからな……ほら魔力回復、飴ちゃん」
そして。落とし穴から出てこようとしたスオスカ族たちがやっぱり網で捕縛されるのを見やりながら、天幕の脇で救護所を開いている白魔法師と助手がいて。
第七隊顧問白魔法師、極東ニフよりの乙女……イエ。
そして彼女のそばに寄り添う青年騎士、リヒャルトもといハルト。
二人の前では、網入りのまま下ろされたスオスカ族たちがもんどり打っていたのだった。
「ぼりぼりこりこり……飴ちゃん舐めながらで失礼します、《スリーピング》、《ヒーリング》」
『✕✕✕✕! ……ぐぅ』『すんっ』『すぴー……』『眠……る、わけには……』
弱った者にしか効かない睡眠魔法、からの自然治癒力を高める《ヒーリング》。怒れるスオスカ族たちは心地よい眠りへと落ちていって……。
最後まで抵抗していた一人がイエを睨み上げた。
『✕✕、白魔法師だろうが! 人を治す人間が、戦争に加担して✕✕✕なのか!』
「…………」
と、間違いなく罵られていたが……、
「いいえ、白魔法師は戦いを否定しません。怪我や病気の無い世界が有り得ないように、それも人間の性ですから」
『ぐっ……』
彼女の黒曜の眼差しは底知れないまま揺らがなくて……、
「その代わり、というわけではないですけれど。命の別なく『できる』こと全てで救ってみせるのが私たち白魔法師です。……お大事に」
『ぅぁ……』
ようやっと寝落ちした彼は、乙女の慈愛の笑みを目に映すことができただろうか。
次の瞬間にはまた、乙女は無表情を張っていたのだった。
「次の方々、どうぞ。よろしくお願いいたします」
「嬢ちゃんは城ん外でも変わんないね」「ま、とりま眠らせてくれてサンキュ」「助かる」「姫様の良い友達でいてやってくれな」「彼氏くんもファイトー、おー」
「回転率回転率! さっさと去る!」
騎士団の他部隊からは鼻つまみ者な第七隊だが、さすが連帯感を重んじる正規軍は細かいことを気にせずフレンドリーだ。これが真の運動部系のノリか。
ベルアーデ兵たちがケラケラと捕虜たちを担ぎ直し、遠く、囲いをしただけの収容所へ運んでいけば。入れ替わりに、あの魔法兵たちが新たな網入りスオスカ族を連れてきたのだった。
ちなみに。そんなハルトとイエの特設救護所のすぐ隣では……、
「だからああ! だからわしは魔導技師なのっ、機工のこっちゃわりゃーさんらの整備班に任したほうがええんじゃっちゅうんの!」
なんちゃって幼女なドワーフのラバーメイド、第七隊副隊長にしてシェリスの侍女であるマリーが特設整備所を開かされていた。
『ガガガ』
全長2.5メートルの赤銅色の鉄巨人、マリーの分身なる妖精機シュネーヴィももちろん一緒だ。
彼女の前には、運悪く強化外骨格の関節部に槍玉を食らったり、土くれの詰まったベルアーデ兵たちが詰めかけていた。
「だって。なあ?」「ふんすふんす」「うちの整備班も手一杯だし」「早く戦線に戻りたいんだよお」「魔導は機工の発展系だろ? 大丈夫っしょ」「つーかうちらの装備造ったんはマリさんの……」
「お母ちゃんの話はや・め・て! 耳タコなの! あああんもうっ、シュネーヴィっ、90×92のスパナじゃい! めがね形じゃないほう!」
『プシュル』
魔導仕掛けにエーテルスチームを噴き続ける鋼のメイドを助手に、工具を両手いっぱいに構えたメイドレディは鉄塊たちへ挑みかかっていた。
と、そんな時だった、
『伝令、伝令ーーーー! 全隊に報告、不正汚染対象を確認!』
全員のフェアリーを通じてそう叫ばれた途端、誰も彼もに緊張が走った。
『シェリス様、第七隊の皆様! 出番ですよ!』
「ほーーーーっはっはっはっはっは! よっしゃいくぜぃおまえたちぃぃ!」
「おう! ……マリーっ、髪がオイルだらけだぞ!」
「うっそヤダ!? 顔はええがの髪はいけんっ、イエちゃん拭かして拭かして! ごしごしごしごし」
「あの、あの、ガーゼはこちらですそれは私の袖です」
そう、ベルアーデ兵たちよりも第七隊こそが動きだしたのだ。
天幕から飛び出してきたシェリスを先頭に、四人が全員集合。
森へと向き直ったところで、指揮官ニーヤも遅れて天幕から出てきた。
「ここで解決できれば重畳ですがね、ご無理はなさはず。なんなら我輩も加勢いたしましょうか」
彼は士官の制式装備として、機工ではない直剣と円盾を装備していた。盾を溜めるように抱えながら剣を斜め下方に突き出した姿は、ショットガン持ちの兵たちのようにアレンジの加わっていない、ベルアーデ剣術の『賢者』の構えだった。
「ああううん~、わしらってただでさえスチャラカしてるから。お気持ちだけ頂いとくわいのう中尉さん、巻き添えにだけならんよう気いつけてつかあさい」
「承服いたしました。帝都を空へぶち上げたという大白魔法師殿の実力と併せて、拝見させていただきますぞ」
「シェリスさんシェリスさん、話が大きくなってますです……」
「べつになぁんも間違っちゃいねぃだろぃ」
「そうなったのはおまえが原因だけどな」
そして皆で見つめた、森の奥……、
騒乱が、一塊になって現れ出でた。
「撃て!」「撃て撃てー!」「おうりゃあああ斬れぇぇ!」「くっそ!」「あんだぁ!?」「どりゃりゃりゃぶわわわわぁ!?」「ひぃっひぃっ!」「うおおおおう!」「もう弾ねぇよぉぉぉぉ!」
森へ突入した全員が戻ってきたのではないかと思われるほど大量に、ベルアーデ兵たちがある一点を包囲しながら後退してきたのだ。
そう、
『ーーおーい、すいませーん。戦争やめてもらっていいですかー?』
……ゆるゆると一人歩いてきたスオスカ族の若い男に、ただ一発の剣も弾も当てられていなかったのだ。
生成のポンチョとズボン姿の、これといって強者のようには見えない普通の男である。
武器の一つすら持っていないし、魔法の類いを使っている様子も無い。
なのに、
ベルアーデ兵が大銃剣から散弾をぶちかませば、
『あはは』
「くそっ!?」
足を止めた男の目前で、全ての弾がありえない弾道へ捻じ曲がり、
ベルアーデ兵が大銃剣を刃としてぶち込んでいけば、
『だから無駄だってー』
「ぬああ!?」
足を止めた男の目前で、剣も持ち主も不様につんのめって空振り、
ベルアーデ兵たちが同士討ちも恐れず全方位から殴る蹴るにぶっ飛んでいけば、
『オレには当たらないよ?』
「「「「「ぶべらばるぼるぶぇう」」」」」
足を止めた男の目前で、絶対に当たらなかったのだ。
そうして十数人からの包囲網をすっかり息切れさせ、男は少しずつだが着実に歩いてきていたのだ。
その姿がついに平原へと抜ければ……深いことなんて何にも考えていないような緩い笑みが、陽光のもとに際立った。
『うわ、なになになんか✕✕✕の美人さんがいるー。ひょっとしてベルアーデのお✕さん?』
「位置についてぃ~、よ~い……」
シェリスの小声で、第七隊四人は足に力を込めていった。一方、後退していったニーヤのハンドサインで、ベルアーデ兵たちが遠巻きの包囲網へとシフトしていった。
そして。
男の足首がズボン越しに太陽のような輝きを発したとともに、この場全員のフェアリーが分析を完了したのだ。
ーー レベル006 薬草摘み ヴィウノー ーー
ーー 警告! 警告! ーー
ーー チートを検出! ーー
ーー チートスキル 《絶対回避》 ーー
ーー チート! チート! チート! ーー
遠くからヤケクソに投げつけられた大銃剣が、立ち止まった男の目前で不気味なほどにずり落ちた。
『戦うの? オレ、絶対回避しちゃうんだけどな』
チート、チート使いの男は唇を尖らせたのだ。
「ドーーーーン! 目標ぅっ、エセ回避ヘラヘラスカシ野郎なのだわぁ!!」
「ほんとっ、あれのどこが『回避』だっていうんだよ……!」
第七隊は戦闘開始へと地を蹴ったのだ。
此度の依頼、あの『《絶対回避》男のチート処理』の為に。
誰も故を知らず突如として発現し、その望外の力で人や物を汚染する……『救えざるもの』こそは世の理を笑う異常存在である。
「ここで通行止めでぃ! 《ヴォーデン・ダス・クローネ》(崩れぬ土冠)!」
ーー レベル50 魔法戦士 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー
ーー レベル44 金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェット ーー
ーー ベルアーデ剣術 レベル2(達人級) ーー
早速の早駆け、シェリスがその手に『土』属性の魔力王冠を編み上げるとシャベルへ叩き込んだ。
天然砥石を思わせる原石たちによって刃がコーティングされ、魔法剣ならぬ魔法シャベルが唸りと構えを上げる。
「どーーーーんっっぅぬらぁ!」
ハンマーかアックスじみた叩き下ろしで、地を打てば。エーテルが地中へと伝播していき、ヴィウノーの足元まで掘り進んでいって。
開花したその魔力は、四方八方から隆起する大地の爪として突き出た。
走って抜け出ようとしたところで今さら間に合わない、それは瞬く間に閉じていく土牢……、
と、なるはずだったが、
『すげー』
「げげぃ!?」
立ち止まったヴィウノーへ接触する前に、やはり不自然にぐにゃりと歪曲。瞬く間に崩壊してしまった。
「マリーーーー!」
「はあいいくわよおシェリスさんっ、どっせええええい!」
『プシュルガァァン!』
ーー レベル17 魔導技師 マリー・ベル ーー
ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー
次いで。ジャンプしたシェリスを、マリーを肩に乗せたシュネーヴィがキャッチ。背や脚からエーテルバーニアを噴射し、ヴィウノーの真上まで跳んだ。
「ズィーヴェンツヴェルク(七妖精):ファーズアイン(Phase1)!!」
瞬間、
シュネーヴィは、七つのパーツに分離した。
ーー ……ドック ーー
ーー グランピーッ! ーー
ーー ハッピ~ ーー
ーー スリーピー…… ーー
ーー バ、バッシュフル ーー
ーー スニージー、っ、くしゅん! ーー
ーー ドーピー? ーー
頭、胸、腹、右腕、左腕、右脚、左脚。それぞれがエーテルバーニアで飛び交い、それぞれにフェアリーたちが搭乗していた。
「爆撃じゃあいっっ!」
「デスフロムアバァァブ! なのだわ!」
そうして。マリーが肩にしがみついたシェリスの兜割りダイブとともに、統制された七つのパーツが追尾性の散弾じみてヴィウノーへ降り注いで。
『うわ、怖ー』
「っぁ、なしてぇぇぇぇ!?」「でゃーーーー!?」
もはや本人の意思でも軌道修正はできない急降下だったのに、立ち止まったヴィウノーの周りに軌道が滑り、マリーもシェリスも七妖精隊も墜落してしまったのだ。
「正直、自信は無いな……!」
「《デクス・ブースト》……!」
続いて。シェリスとマリーに少し遅れて、ハルトとイエが駆け込んだ。
イエが唱えた強化魔法により、『水』の魔力がハルトの体の奥底まで浸透した。
ーー ステータスアップ! ーー
ーー ハルト DEX:C+ → DEX:B+ ーー
ーー 効果時間 残り:20秒 ーー
水属性のエーテルの高まりは、すなわち器用度(DEXterity)の向上だ。主に体捌きの精度へ影響し、命中率と、いわゆるクリティカルヒットの期待値が上がる。
しかも、今。ハルトは両腰のホルスターに仕舞った二丁剣銃パラレラムではなく……拝借してきた大銃剣ショットガンを二振り、双肩に担いできていたのだ。
「よっっっっこらせっ、とぉぉ……!」
当然、歯を食い縛るほどに重たかったし、大剣二刀流なんて酔狂でしかない。しかし、
「出し惜しみは無しでいく、ぞ……! 《ウェポンマスタリー》!!」
しかし、ハルトの胸から両腕へもまた陽光がごとき輝きが発せられたのだ。
ーー シークレットモード 解除 ーー
ーー レベル016 ウェポンテイカー ハルト ーー
ーー チートスキル 《ウェポンマスタリー》 ーー
ーー チート! チート! チート! ーー
ハルトもまた、チートの力を宿してしまった異常存在に他ならなかった。
今でもやたらめったら使う気にはなれないが。時にはソレも己に『できる』ことの一つになるのだと、誰かさんのおかげで少しは許せるようになっていた……!
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




