Karte.14-3「……人の体も、魔法も、そんなに単純なものではないのです」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
◎
数日がかりで、イエはようやく一つのパーティに雇われた。
かすり傷や疲労回復など、無料診療に毎日のようにやって来たので心配から指摘したところ……なぜだか仕方なさそうに次の冒険へ誘われたのだった。
彼らは、ある程度の期間で地方を転々としている素材採取パーティらしかった。
時機に応じて需要の高い素材を見出だし、旬のうちに売りさばいてはまた別の地方へ旅立っていくのである。
さてテュルソー以西には荒原ばかりがあるが、その下には蟻の巣を思わせる洞窟が広がっている。かつては別個なる無数のダンジョンだったが、冒険者たちの長年の介入により横穴が繋がりあった『ブロブスト・アンダーフォレスト』だ。
その名が示す様は、地下の天井から逆さまに生えた針葉樹……のようなキノコの森か、それともブロブ(粘菌)がごとく洞窟を侵していく人々の姿か。
目立ったボスモンスターもいない浅くて広い大迷宮は、いわゆる『周回』や『マラソン』にもってこいだった。
「あのよお白魔法師さん、サボるのやめてくれないか?」
「えっ……?」
小広間にて倒された中ボス格の魔物、バンブーショットが自然発火した。弾丸じみた巨大タケノコモンスター、その消滅の灯はイエに詰め寄る戦士の影を大きくした。
アタッカーばかりの老若男女からなる五人パーティに一人加わったヒーラーは、声に出さない失笑たちに見つめられていた。
「サボるだなんて……いいえ、ごめんなさい、まだ負傷されている方がいらっしゃいましたか? すぐに診ます」
「いやそういうことじゃなくて……あー、誰も怪我してないよな? いちおう」
頷いたり首を振ったり手を上げたり、まとまりはなかったが誰も傷ついてはいなかった。それはそうだ、戦闘中の怪我や疲労はイエが終始診てきたのだから。
「あんた、回復かける時以外は見てただけじゃん。そういうこと言ってんの」
「……? はい、皆さんが万全に戦えるように見ていました。回復だけではなくて支援も、タイミングを失わないように様子を見るのがヒーラーの基本なので……」
「様子を見る、ね。……ものは言いようだわな」
ため息に傾ぎながら。喉笛に白刃でも添えるように、パーティリーダーの戦士はイエをねめつけた。
「ヒーラーの基本っていうならそうかもしらんけどな、現場にはセオリーってもんがあんの。知らないのか? 白魔法師だって回復がいらない時には敵を攻撃してもらわないと、暇だからって見てるだけじゃ効率悪いんだよ」
「……。私、戦闘は不得手だと顔合わせの時に言ったとおりで……」
「そういう予防線はいいって、ヒーラーはみんなそう言うんだから。でも実際問題やってもらわなくっちゃ。まあなんでもいいんだけどさ、冒険者として稼ごうってくらいなら攻撃魔法の一つや二つ覚えてんでしょ」
「……《ファイアーアロー》」
イエが虚空へ手を伸ばすと、
爪の先ほどのか弱い火が放たれ、ブーメランよろしくイエの袖に命中した。
「あっ……っつ……」
ーー 攻撃魔法 レベル-(才能無し) ーー
今度は、声になった失笑たちがイエへ滴った。
「……いいわいいわ、とりあえず契約どおりにヒールはちゃんとしてくれや。ったく、安くついたと思ったのによ……」
戦士のハンドサインで、パーティの皆は……パーティの彼らは適当な横穴へ歩きだしていった。
「あの……ごめんなさい。できるかぎり、攻撃面はアイテムでサポートするので……」
イエはそれらの背へ手を伸ばしたが、一つとして止まらず、待たず、聞かず。
……これ以上置いていかれないように、イエは魔力回復の飴ちゃんを含んでから走りだした。
○
「当時はアイテムの蓄えもほとんど無かったので……攻撃に使えそうなものを手当たり次第に投げていったら、最後にはけっきょく赤字になってしまいました」
「ヒールに専念してたほうがよっぽど良かっただろ……」
「彼らにも一理はあったわ。癒し手の本分は治療とはいえども、野に出て独り立ちしようというのならば護身以上の力は持って然るべき。特に、温室の花であることを良しとしない白法衣の魔法師は」
イエが箱入り猫へバイバイと別れを告げ、閉じるとともにエーテルへ還す。アリステラの『昔話』なんてまるで堪えていない様子に見えた。
「いちおう、短刀術なら実家にいた頃から鍛えていたのですけど……修道会の師長からは『あなたのドス捌きは良くも悪くも人体特効ですね』と。落第点ギリギリでした」
詳しくツッコみたい衝動に駈られたハルトだったが、イエが袖の中に覗かせてみせた白木の鞘は抜かれないほうがもちろん平和だろう。
「こうして考えてみれば、あなたがニフから北エウルの修道会まで渡ってこられたこと自体が僥倖ね」
「いろいろありました」
「……こいつは野良で生きていけるタイプじゃないだろ。一人じゃなけりゃなんだってできそうなのに、めんどくさい人間だから真の仲間ってやつができないんだよな。きっと」
……イエとアリステラが同時に見つめてきたものだから、ハルトは今さらながら息を呑んだ。
「な、なんだよ。そりゃ俺だって最初はよくわかんなくて……泣かせたこともあるけどさ、もうけっこう一緒にいるんだからわかるんだよ。間違ったことは言ってないだろ」
「きみを責めているわけではないのだけれど……まあいいわ。イエ、眠気覚ましをもう一つ」
「はいお姉さん。《ウィッチクラフト》」
ーー レベルダウン! ーー
ーー レベル2 イエ ーー
呑気に、どこか楽しげに、エーテルが捧げられて。
イエの前に現れた白刃が、彼女にキャッチされる前にハルトへかっさらわれた。
「なんてタイムリーな……。短刀、じゃなくて包丁かよ」
ーー レベル99 キチンナイフ ーー
刃を覆うカバーからずらし上げてみれば、それは調理用ナイフだった。鶏のトサカを思わせるエングレーブがグリップから刀身へ走り、『闇』色の輝きを滲ませた様子はユニーク武器かのようだ。
……そして『キッチンナイフ』ではなくて『キチンナイフ』となっているあたりに、またろくでもないタネがあるのだろう。
「キチンナイフ、か。なるべく安全に処理しましょう。まずはイエに渡して……」
「はいストップ。わざとか、わざと俺たちをカオスに引き込もうとしてるのかおまえは」
「混沌は望むところだけれど、私はそんな快楽主義者ではないわ」
「今度こそ先に言わせてもらうぞ、べつにイエじゃなくても俺が使えばいいじゃないか」
「そのナイフは『装備者』と『ターゲット』の2つがあってはじめて機能するの。きみが『装備者』になるというならば、さて……ただでさえレベル99の武器を安全に処理できると、きみは『ターゲット』にする私たちへ誓えるのかしら」
「……わかったよ悪かったよ、俺なんかまだまだ未熟者だっての。俺が殺されかけるほうがまだ安牌だな……」
ーー シークレットモード ーー
ーー レベル■■■ ■■■■■■■ ハルト ーー
ハルトだっていろいろあるのだ。この仲間たちに……家族たちには己の弱いところさえさらけ出せても、まだ自信満々には開き直れないほどには。
「大丈夫ですハルトさん、私、ハルトさんならどんなクリティカルヒットでも受け止めてくれると信じています。はい……っ」
「そりゃどうもありがとうな……」
そうしてハルトからイエへナイフがバトンタッチ。
「使い方はこう。まず、『ターゲット』にする対象へナイフを向ける」
「はい」
「…………」
ーー 短刀術 レベル0(凡人級) ーー
素人に毛が生えた程度の、脇の甘い腰溜めの構え。
カバーに覆われていても良い気分はしなかったのだが、なぜか、革越しに切っ先が強く輝いたのが見えて。
「次に、『ターゲット』から逃げる。彼の周りでも走っていればいいわ」
「はい。わー、きゃー、いやー」
「なんの儀式だよ」
演技しろとは言われていないのだが、諸手を挙げたイエはハルトの周りを小走りで巡って。5秒、10秒、15秒……。
「よし。襲って」
「はい喜んで」
「よろぶゅ……!?」
そして、翻ってきた鳩尾突きにツッコむ暇すらなかった。
それは。まさに圧倒的。
ナイフというより、大きな針で突かれたような一点集中の冴えだった。
もちろん刃は出ていないのだが、皮、血管、肉、と鋭利に伝播しすぎる衝撃をハルトは感じていた。
「えい、えい、きゅんです」
「いみちがっ」
鳩尾への衝撃が横隔膜に作用して呼吸困難、
くの字に息詰まったところで耳の後ろの骨……乳様突起を突かれ、運動機能が一瞬混濁、
そこで肘先上腕骨の内側……いわゆるファニーボーンから尺骨神経を突かれ、
腕から体ごと痺れたところで、最後は正中線から突き飛ばされた。
この間、わずか2秒。
「……はっ。あっ、あっ、ごごごごごめんなさいついクセで。大丈夫ですかハルトさん」
「……すひゅぅぅ……すひゅ、ぅ、ぅ」
気づけばハルトは。……心臓直上にナイフを押し当てられたまま、イエに馬乗りされていた。
「げふ、がふ……そ、そのナイフ捌きなら十分戦えるじゃないかよ……」
「そうね、油断した人間相手に限っては。スキルとかステータスは関係無しに、この子、人体の急所なら熟知しているから」
「こんなに力いっぱい振れたのははじめてです」
「それはキチンナイフの効果。逃げた分だけ体内魔力を攻撃力に変えていく……逃げたままでは終わりたくない者のための、キチンと一矢報いる武器よ」
「またダジャレかよ……!」
「名前なんてわかりやすければそれでいいわ」
ーー ステータスアップ! ーー
ーー イエ ATK:G- → ATK:G ーー
真白の乙女を侮る者は、秘めた白刃のもとにきっと報いを受けるだろう。
それはたった一度限りの抵抗にしかならなくとも、イエはその救いを逃さずに危機から逃げおおせるに違いない。
命あってこそ次へ繋がる物種になるのだと、白魔法師の彼女はわかっているはずだから。
◎
副業の冒険者稼業が少しは忙しくなってきた頃。無料診療の際に知り合った傭兵から、イエは紛争地の後方支援を紹介された。
星暦から聖歴へと代わって以降、それも『聖女の加護』とやらなのかクリア聖戦のような世界の危機は起こっていない。しかし共通の敵となる精霊も何もいなくとも、人は神秘に依らず争うものだ。
資源を巡る領土争いだったか、解放を掲げたイデオロギーのぶつかり合いだったか、もはや実体すら怪しい代理戦争だったか。
トゥルソー南西『罪の湖』を挟んだ紛争へ介入するに際し、イエは背景を知りたかったものだがついぞ余裕は無かった。
湖というより川のように細長いその東側、天幕を連ねただけの野戦病院に乙女はいた。
「《デトキシング》」
「うう……センセイ、ちっとも楽にならねえよお……白魔法師なんて、聞いてた評判と違うじゃねえかあ……」
咳、嗚咽、啜り泣き。そんな息苦しさが篭る中で、イエをはじめとしたヒーラーたちが兵士たちの病床の合間を駆け回っていた。
土がこびりついたサロペットやシャツに安手の鉄板を接いで、兵士たちのほとんどは軍人ではなく農民のようだ。
この野戦病院だって粗末なもので、木材と藁敷きの上へ患者を並べていた。本営からの補給品が届かなくなって久しいらしい、清潔な水すらも不足していた。
皆、『毒』の状態異常に弱っていたのだ。
「解毒魔法は毒素を抜くことに特化した魔法です。すでに傷ついてしまった体には痛みが残ったままなので、それは今から回復させます……《ヒーリング》」
「お? お……おおー……楽になってきたあ、気がする……」
「他と違って、毒系状態異常のアフターケアはゆっくり回復していかないと自然治癒力が循環不全を起こしやすいんです。リラックスしてください、眠っていてもけっこうですよ」
「そうかあ……ありがとうよ、センセイ……」
「……いいえ。まだ少し早いですけど、お大事に。おやすみなさい」
診療モードで被ったフードの奥。無表情から一息ついた慈愛の笑みは、あっという間に眠りへ落ちた兵士には見えなかっただろう。
それからじっくり、回復魔法のエーテルの流れから自然治癒力の機微を読み取り、頷いたイエはその病床から離れた。
「……ふ、う。こまめな魔力補給、塩分補給、水分補給……」
「お、塩水飴ちゃんだ~。白魔法師さん、いっこ貰っていい~で~すか~?」
「あ、はい。どうぞ」
糞尿で汚れた藁敷きを取り替えていた治療師へ、通りすぎ様に飴ちゃんを渡す。天幕の外で座して待っているしかない患者たちを早く入れてやるため、袖すり合うもなんとやらで彼の作業を手伝いはじめる。
「どうも~。あのお~、白魔法師さんがこんなとこ雇われるなんて珍しいですね~。修道会で働き口あるんじゃないんですか~?」
「もちろんです、修道会のお仕事もしています。今日は非番なので、自分のアトリエを建てるお金のためにこちらへ働きに」
「うーわモーレツ~、ご苦労様っていうか~。まあヒーラーってストレスマックスですけど死にかけることはあんま無いし、金を稼ぐならいいですよね~」
「……えっと。ごめんなさい、お金を稼ぎに来たのはたしかですけど……その、なんというか、お金を稼ぐためにここにいるわけではなくて……私は」
「え? なんですか~?」
「……いいえ」
白魔法師はヒーラーとしてメジャーではあるがポピュラーではない。イエ以外に雇われた者たちは別段の資格を必要としない治療師ばかりだった。
書籍から学んでもいいし市井の先輩たちから教わってもいい。自分で認める限りどんな専門でも好きに名乗っていい。概して治療魔法だけ覚えた彼らは、そのマジックユーザーとしての才ゆえに医師や薬師とも同列に扱われる。
いかにも、身一つでどこへ行くとて稼げるだろう。そしてとりあえずは命を十分に救えるだろう。
今も見渡せば。複数の病床の合間に立った治療師たちが、四大属性色にグラデーションのかかったエーテルを次から次へと兵士たちへ……。
「ーー白魔法師。貴様、なにを怠けている」
「は、い……?」
イエはふと、無理やり振り返らされる調子で肩を掴まれた。
そこには、故も知らない紋章を抱いたサーコートの将軍がいた。
お付きの通信魔法兵を伴い、厳めしいばかりに胸を張っていた。
「……ごめんなさい。どういうことでしょう」
意を探るイエの目には疲れが見てとれ、どう捉えたものやら将軍は眉をひそめた。
「貴様が担当している病床の兵たち、その戦線復帰率が他より遅いと言っているのだ。となれば貴様のやり方が非効率、怠慢ということだろう」
回復のために眠る先ほどの患者を示されながら、手元のリストを打ち鳴らされる。その響きに野戦病院内の注目がいっそう集まったが、イエは何ら気にするべくもない。
「失礼ですが……戦線復帰させたいのならこそ時間はかかります。毒を治すだけならすぐに済んでも体力回復はデリケ……」
「そもそも誰が毒を治せと言った」
「……え?」
遮られ、息を呑まされる。
「貴様らヒーラーへの契約は『兵士をいち早く戦線復帰させる』ことだけだ、その為ならば手段を問うてはいない。……わからんか? 毒なんぞ治す前に、戦えるだけの体力を回復させて叩き起こせということだ」
「っ……そんなこと……皆さんの前で……!」
「今、戦場には敵軍が撒いた毒が満ちている! 治したところで無駄だ!!」
将軍は窓とも呼べない天幕の切れ込みから彼方を指差した。
……まさに毒々しい靄が水面から立ち込める、汚染された『罪の湖』の岸辺で。戦陣が何度目かの開戦衝突へ向けて兵を寄せ集めていた。
「殺すには微弱な毒だ……こうして病人ばかりを増やすことで、単に死人を焼かせるよりも我々の負担を重くする作戦だ。それがわかっていて手玉に取られる我々ではない……!」
イエは言葉を失い、そして……慄いてしまっていた。血走っているのにひどく冷たく見えた将軍の目に。
「敵の本拠地は目前なのだ。そこを落としてしまえば毒なぞ後で治せばいい……それこそ貴様の言うとおりゆっくりとな。だから今は体力で押しきるのみっ、体力を回復させるのだ……!」
その檄は野戦病院の皆へ向けられていた。目に留まらないことを願うように、治療師たちが『作業』を急ぐ。
「《キュア》、で~す……!」
今しがたまでイエと話していた彼も、病床の整備は諦めて手近な兵士へエーテルを飛ばした。
体力魔法。大気魔力マナエーテルを体内魔力オドエーテルへ生理的に近い形へと変換し、ロスも多いが体力だけは満たす魔法だ。
「……体力を戻せば戦える……人の体も、魔法も、そんなに単純なものではないのです」
イエは呟いていた。最後にはもはや何も言ってこずに天幕を出ていった将軍の背へ、そして野戦病院へ。
「つべこべ言う者に金は出さないぞ! 敵の間諜として捕らえてもいいのだからな!」
遠くで、声がまた違う場所の人々を叱責していた。
だからといって、イエは踵を返すことなんてしなかった。できなかった。
「お金のためでは……ありません。私は命を救いたいから……」
クビになるより、金が貰えないより、目の前で苦しんでいる人々を『できる』かぎり救いたいから、留まる。
だからふと。また動きだす前に、目元に落ちたフードの影が揺れるのだ。
「……どうして、私は……」
○
「どうなったと思う。患者第一の毒治療をそれでも続けて、本当にクビになったわ」
和を乱す者はただそれだけで、そこにどれだけ利があっても敵なのだと。クビに縄が掛けられなかっただけマシ、そう言わんばかりのアリステラだった。
「ずいぶん考え込んでいたようだけれど。この子のことだからきっと……」
「どうして、そんな思いをしてまでアトリエを持ちたかったんだ?」
……イエとアリステラがまたも同時に見つめてきたものだから、今度のハルトはたじろくどころか真正面から向き合った。
もちろん、見守り手の魔女よりもイエへだ。
「おまえは自分に『できる』ことなら相手も場所も選ばないだろ。誰かの命を救いたいって願いだけなら、それこそ修道会で働いてたら叶うはずだ。なのに自分のアトリエにこだわってたのはどうしてなんだ」
「……あの。んっと。それは……」
「なんだよ」
「……ハルトさん……怒って、いますか?」
「えっ? あ、い、いや、そういうつもりじゃないけどさ……」
いつの間にか、ハルトは近すぎるほどの目前までイエへ歩み寄ってしまっていた。上目遣いに探ってきた乙女は珍しく後ろめたそうで、頭一つ分の身長差がもっと広がって見えた。
「イエ。《ウィッチクラフト》を」
「は、はい《ウィッチクラフト》」
「おいっ、ズルいぞ!」
ーー レベルダウン! ーー
ーー レベル1 イエ ーー
エーテルが捧げられて以下略。
欠伸に微睡んでいたアリステラは、現れたアイテムをイエが必死にキャッチしたのを見ながら微笑んでいた。
それは、一応は魔法具らしい小ぶりな造りのサブマシンガンだった。
ーー レベル99 アルクエイド・レーラー ーー
「ふゅにゅ……だい、じょうぶ、です持てましたです」
「アルクエイド・レーラー。空間複製効果をもたらす『トリフォルドの鏡面』を封じてあるから、一度だけ、トリガーを離すまで無限に撃ち続けら……」
「おん」
「あっ」
アリステラの説明も食い気味に、ハルトはイエの手からサブマシンガンを抜き取った。
ちょうどその時アトリイエの玄関ドアが開いて、
「ーーいま帰ったぜぃおまえたち~。んや~、例のさめ女がさっそくレース場のアイドルに……」
ーーパーンッッ!
「でゃっっっっ」
上機嫌に帰ってきた黄金王女が、魔弾を食らってポーチを転がり落ちていった。
まあ。連射を前提とした小口径の魔弾ゆえに、一発だけではあのバトルドレスも貫通できずにただぶっ飛ばしただけだから心配ない。
「アリステラ。次の昔話、聞かせろよ」
「オマケが目的になってしまったわね」
霧散していったサブマシンガンを投げ捨てる。無限弾をたった一発きりで使い捨てたのだから勿体ないといえばそうだが、どうせ目的はそこではないのだ。
「いいわ、もとよりこれが最後の昔話。きみには辛い話ばかりになってしまったようだし、この子がついにアトリエを手に入れるに至った話をしてあげましょう」
そういえば、現にイエはたった1年でこの工房の主になったようだが……。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




