Karte.13-3「報連相しっかりしてつかあさい!」
【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。
【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。
【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。
【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。
【アリステラ】……イエを守護する旧き『星』の意志であり、自称『勇者』。自称17歳。
「ダメ押しでぃ! 《ヴォーデン・ダス・クローネ》(崩れぬ土冠)!」
属性チェンジ。『土』の魔力王冠をシャベルに叩き込めば風属性は弾き出され、代わりに天然砥石を思わせる原石たちが刃をコーティングした。
「んあーー、っと、『火』は殴って『水』は突いて『土』は掘って『風』は斬ってっとっとっとっとっとぉぉぉぉう!」
そうして破壊力を増し増しに、駆けるは変幻自在のシャベル捌き。
打撃、
から、
刺突、
から、
掘削、
から、
斬撃。
魔力の属性もさることながら、シェリスはシャベルの振るいかた一つで物理の属性をも変転させていた。
ジェムたちがそれぞれの弱点属性に応じて砕かれていき、翻り続ける魔法戦士はもはや着地するまでもなく次から次へと潜航していくのだ。
『シャベルを持っているシェリスさんは本当にキレイですね』
『その感想には同意しかねるが、まあ、シャベルは万能の武器だって信じてるヤツだからな』
「ほーーーーっはっはっはっは! シャベルは万能なのだわぁぁ!」
『ほらな』
曰く、シャベルとは万能の武器である。
斬る、掘る、突く、叩く、投げる、防ぐ、鉄板焼を作る、崖に刺す、弓につがえる、フックショットにする、などなど。
スプーン状の刃と長柄の組み合わせが体現するは、サバイバリティの極地なのだと。
新しい空白が生まれるたびにジェムの崩落は増大していったが、もはや、シェリスはその速度を追い越してしまっていた。
たった数瞬……あるいは数瞬もの遅れの後に同色が並び、繋がり、消え、たまに爆弾ジェムも誘爆して、常人にはもう把握しきれない大変動。
「いよっし! そろそろゴーールでぃ! 」
しかしその中でただ一人、蹂躙の路を抜けた黄金王女だけが自他を掌握していた。
『……バカなんだけどなあ。バカなのになあ』
『おバカさんなのと頭が悪いのはまた別問題だと思います、ハルトさん』
『そうだな。まったくそのとおりだな』
「賢いシェリスさんは身も蓋もねぃ悪口はスルーなのだわ!」
『根も葉もない、な。いや間違ってもないんだが』
エウル大陸中西部を席巻せしめる大国の帝位継承者なれば。鍛えこまれてきた英才教育の賜物が、馬も鹿も見分けのつかない屑鉄であるものか。
ゆえにこそ、彼女は黄金なるただのバカである。
「てーーーーーーーーぃ!!」
シャベルが、障壁のように平べったい金色のジェムへ突き立てられて……。
○
……カノジョは、生まれた時から仲間と異なる姿をもっていた。
しかし種族柄とでもいうべきか、家族はカノジョへ分け隔たりない愛を贈っていたし、共に育った他の群れの子供たちとも仲良しだった。……単に難しいことはよくわからない種族だったともいえるが。
波乱の始まりは、成体になってから。
親元から巣立ち、特に気の合う仲間たちと群れを組んで新天地を探しはじめた時のことだ。
カノジョはあっという間に、人間に捕獲されてしまった。
新しい生活は、野に生きていた頃に比べて過酷ではなかった……はずである。
けれども辛かったし、怖かったし、気持ち悪かった。
気持ち悪かった。
そう思えることもまた、カノジョが仲間たちと違うところなのだろう。
ある日、カノジョはひょんなことから『カイヌシ』の下より逃げ出すことができた。
嫌いな炎の中、周りはカノジョと同じようにフードを被った人間たちばかりが走っていたから。運良く、もう一度捕まらずに済んだ。
人間が作ったオモチャ……特にお気に入りだったツミキを持ち出してくれば良かったな、と後になってから少し残念に思ったものだ。
そうして流れに流れ着いたのは、水を……海への道を辿った先。
なぜかそこは、地の底だった。
その場所は、とってもピカピカなツミキでできていた。
回して、並べて、繋げて、消して。楽しくて楽しくてどんどん進んでいたら、いつの間にかそことお友達になれたのだ。
お友達は、毎日のようにお友達を連れてきてくれる。
あと、美味しいお肉も。
どういう仕組みなのかはわからなかったが。ツミキをしているだけでご飯が食べられたのだから、彼女は不幸せではなかった。
最近になって気づいたことがある……、
どうやらカノジョは、人間がいうところの『パズル』が得意らしい。
パズル洞ヌガルドナは原生魔物のいない人食いダンジョン……、
だが、主は、いる。
「てーーーーーーーーぃ!!」
「ーーさみゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そしてカノジョは、天井を突き抜けてきた暴君とジェムの下敷きになった。
「よっしゃぁぁいボス戦でぃバッチコーーイッッ……お? お?」
いろいろとハイな状態でシャベルをギラつかせたシェリスだったが、目を丸くした。
ーーヒヒーン
ーーンメェェ
ーーモォォウ
ーーヴォルィショイ
その大空間にいたのは、馬、羊、牛、ツキノワノリグマ、などなど。
そこはまるで海辺、海賊の隠れ港を思わせる洞だった。
輝くほどに水属性エーテルを含んだ地下水が湖をなし、上向きの滝となって天井の向こうへ遡っていく。それはやがて入り口から溢れる川瀬となるのだろう。
仄明るいその水源を基点とし、節操ないほど多種多様な藻類や草木が生い茂っていて。なんとも穏やかそうに暮らす動物たちの餌場となっていた。
ーーカァー、カァー
ーーピッカァー、ピッカァー
ーーピチピチ……カァ、カァ、ピチカァカァ
よく見ればあのサンマカラス、アジカラス、イワシカラス、コハダカラスたちもいた。
「おーぅ……メルヒェ~ン、なのだわ」
『そうか? あっちには物騒な宝の山も見えるけどな……』
……湖の対面側に、主を失って久しく見える武器や防具の山が聳えているのを除けば……そしてそれらに一片の骨すら見えないのを除けば、幻想的な最下層だ。
『あの。シェリスさんが下りてきたところに、今、誰かいたような気が……』
「んあー? 気のせいだろぃ」
「しゃらほろひれはれ……」
「じゃねぃのだわ!?」
ジェム屑のお山の頂上から、ボス猿いやいや大将シェリスが見下ろせば……カノジョが瓦礫の下敷きになっていた。
青さめ。
青さめ柄のフード付きパジャマを着た、年頃は12~3の女の子。
しかして手足は本物のヒレであるし、背ビレに尾ヒレまで生えた半人半魔の女の子だ。
「おーーぅ!? ヒューモンなのだわ、さめ女なのだわーー!!」
『あ……私、知っています。魔物の変種のそのまた変種、いわゆる『モンスター娘』ですよね。むふん』
『ドヤ顔してるとこ悪いがその呼び方は古いぞ。今は『ヒューモン』。女型だけじゃなくて男型もいるんだし』
カノジョは魔物の人型変異体……いわゆるヒューモンのようだった。
世界に満ちるエーテルの影響を受け、人間と相似のカタチで生まれた魔物である。
エーテルには人間が認識できる形へと事物を変換させる因子が含まれているのだ。
それはかつて『星』の意志が、高次元の概念を精霊という形へ降ろした名残であるという。
「あーあ、もったいねぃことしちまったのだわ。こいつと一戦やり合ってみたかったのになぃー」
瓦礫を滑り降りたシェリスは、目を回しているさめ女の手元から妙なものを奪い取った。
それはジェムでできた石版だった。
魔法仕掛けで表面に文字と記号が表示されていて。
……その階数表示とジェムのパズル画面を見てとったシェリスは、ちょちょいと操作した。
ーーゴゴゴゴゴ……カチャチャン、ッ、チャンッ!
するとどうだろう。シェリスが穿ってきた天井のジェムたちがクルクル動き回り、修復されたのだった。
『なるほど。このさめさんがダンジョンを動かしていたのですね』
「おっ、てこたぁ実質ここに来るまでにビシバシやり合ってきたってことだよなぃ? ほははははよーしよし、これで心置きなく冒険者ギルドのおっさんどもに自慢できるのだわ」
『それはそれとして目的を忘れないでくれな。座標的にはそこで間違いないはずなんだが……』
「あいよーぃ」
シェリスは振り向きざまにシャベルをフルスイング。
付与されたままだった『土』のコーティングがすっぽ抜け、散りかけていきながらも武器防具の山のほうへと飛んでいって、
通りすぎて、
壁に当たって、
跳ね返って、
カキンッと、山の頂上に刺さっていたソレにヒット。
「よーぃよぃっと」
そうして飛んできたのでキャッチ。
「たぶんこれだろぃ? シェリスさんアイは宝を見逃さないのだわ」
ソレは、つまめるサイズの無色のクリスタルだった。
古風な魔法使いがそうするような、おいそれとは変質しない封印容器である。
その中に、虹色の鍵が収まっていたのだ。
『さすがですシェリスさん。たぶんそれです、すごいです。ありがとうございます』
「ほーっはっはっはよせやぃ水臭ぃ、もっと褒めるのだわ」
『助かった……無事に帰ってきてくれよな』
「おうよぉ。ところでパスワードはなんなのだわ?」
『は?』『えっと?』
「おん?」
……クリスタルを指で弄べば、そこには空欄の形をした12の輝きが浮かび上がっていた。
封印を解くための入力装置のようだ。
『いやパスワードって? ……知らないぞそんなの、聞いてない』
「べらんめぃ、実際打ち込むとこあんだから知らねぃじゃ進まねぃだろぃ。例の魔神ヤロウはなんか言ってなかったのだわ?」
『いいえ……宝箱を開ける鍵はこちらの座標へ飛ばしました、とだけ……』
「ーーぱんぱかぱ~~~~ん!!」
と。シェリスの目と鼻の先に光柱が現れれば、そのスポットライトの中へどこからともなく彼女が降ってきた。
「って、今どき『ぱんぱかぱ~ん』もございませんわね」
「《秘剣ベルロード》ぅ!」
「ふふふのふ」
ベルアーデ剣術奥義、鈴が鳴るような共振波を追加発生させる滅多斬り技の炸裂。
長すぎる黒髪少女、宝箱の魔神は完璧なローリング回避でコロリコロリと距離をとった。
『滅多に出さない奥義をこんなところで出すな! ……って違うっ、そいつだそいつ宝箱の魔神! 斬るんじゃない!』
「わかってらぁ! 雰囲気でなんとなくわからぁ! それはそれとして胡散臭いから斬るのだわ!」
「ご挨拶ですのね王女様。以下略ですの」
埃一つ付いていないセーラー服のタイを整え、ロングスカートを摘まんで膝折礼。シェリスはゲジゲジナナフシでも見るような顔をしていたが、宝箱の魔神はマイペースに楽しげだった。
「陰ながら一部始終拝見させていただきましたわ! 縦型パズルになされるのは予想外でしたけれども、ええ、ええ、良い刺激になりました! ごちそうさまでございます!」
「シェリスさんは褒められるのは好きだが中身の無ぃおべんちゃらは死ぬほど嫌いなのだわ。とっととコイツのパスワードを教えやがれぃ」
「申し訳ございません、それはいたしかねますの」
「あああん?」
『シェリスさんシェリスさん、ガマンなのです』
シェリスはまたも斬りかかりそうだったし、宝箱の魔神も空気を読めているのかいないのか。
「あらごめんあそばせ、申す訳はございましたわ。なぜってほら……」
テヘペロリンと舌で唇を湿らせてみせれば、彼女の前にオーロラを束ねた幻影が映された。
……それは、宝箱に手を挟まれた瞬間の騎士と白魔法師のハイライト。
ーーバシュバシュッ!
ーー「「ふぁっ」」
宝箱の左右から、いっそおどかす調子で光線が飛び出していった。
そう。左右から、つまり、合計2つの光線が飛び出していったわけで。
ーーじゃじゃ~~~~ん!!
「じゃじゃ~~~~ん!!」
宝箱の鍵穴から光を集束させて出現した幻影を突き抜け、宝箱の魔神はまたもシェリスの目前へ詰めた。
眼帯じみた仮面に隠そうともせず、実に楽しげな薄い笑みが際立っていた。
「よく見たらもう一つ飛んでいましたのよ? 宝箱を開ける鍵を探して、今度はその鍵を開けるパスワードを探して……ふふっ、お使いクエストの醍醐味ですわね!」
『斬れシェリス!』
「おぅっけぇぇぇぇい!」
『ダメです、あの、あの、ダメなのです。私が交渉してみます』
こんな時こそ、イエの揺らがなさにある意味救われる第七隊だ。
『魔神さん。鍵がある座標は教えてくださったのですから、今度もパスワードがある座標を教えてくださらないと不公平だと思います。アンパイです』
『アンフェアな。ていうかそれ交渉か……?』
「一理ありますわね! とりあえず半日ほどノーヒントで頑張っていただくつもりでしたけれども、白魔法師様のお言葉に負けましたわ!」
宝箱の魔神はまた、黒い光で空中へ座標を描いた。
「ご安心くださいませ、このパスワードを見つけたらそれで完全クリアですわ。クリスタルは開きますし、宝箱も開きますし、騎士様と白魔法師様が自由になりますの。わたくしの名にかけて約束いたします」
張った胸元に手を添えた彼女へ……シェリスが斬りかかる、
「ではでは! ごきげんよう!」
廻った宝箱の魔神は。……髪の影に消えるように、やはりもう、いなくなっていたのだった。
「……。…………けーーーーっ!」
『ハッ。怪鳥の鳴き声です、モンスターかもです』
『いいからおまえは座標を覚えてくれ』
『はい。メモメモ……できないので暗記暗記……』
砂埃が立つほど勢い良く胡座を掻いたシェリスは、唇を尖らせる。
「……シェリスさんはもうやらねぃぜぃ。あの煽り魔のせいで一気に興が削がれたのだわ」
『はあ!? お、おいおいそりゃないだろ頼むって』
「助けねぃとは言ってねぃのだわ。交代交代、次はあいつに回してやらぃ」
ーー 念話 発信! ーー
ーー 念話帳登録名 『袋みてぃな乳してるよなぃあいつ』
ーー …… ………… ………………接続拒否! ーー
ーー 接続先 フェアリー スリープモード! ーー
縦ロールの中からフェアリーを呼び出し、念話が繋がらなくても欠伸を噛み殺すのだ。
「こんなこともあろうかと、緊急ラインの一つや二つ。なのだわ」
ーー FINコード 確認完了! ーー
ーー 接続先 オーバーライド ーー
ーー スリープモード 解除中…… ーー
○
ベルアーデ帝国から北東、三方を陸地に囲まれた地中海であるイバルスト海。
そこにゴツンザラシという小島がある。
5月の時頃でもいまだ降雪が続き、極北の先触れを思わせる枯れ色の地が広がっている。
ーージャリジャリ
ーージャキュ~ン
ーーピュ~サドサドサド
数歩往けばスナアザラシにぶつかるといわれるほどの生息地であるが、紙ヤスリの原料となる彼ら以外にはこれといって目ぼしいもののない絶海の孤島だ。
島の中心部に、結界でカモフラージュされたスァーヤ皇国の魔導要塞がある以外は。
アイザ大陸の勢力図を二分する極北のスァーヤは、いつか南エウル大陸をも己の弾薬庫とすべく……ベルアーデ帝国へ諜報活動を続けている。
表沙汰にはならないその冷たい戦いは、誰が言ったか『冷戦』と呼ばれていた。
そう。ベルアーデ帝国側だって、スァーヤの尻尾を掴むべく水面下で反撃し続けているのだ。
「ーーぶははは! よく来たな!」
要塞中に警戒警報が唸り続ける、今。エーテルスチームの配管にまみれて空も見えづらい中庭に、暑苦しいがなり声が轟く。
「おれはバルコニー・ダイヴン! この要塞を預かる身として、ここから先へは行かせない!」
グラディエーター風のマスクとショートタイツだけを身につけた大男が、汗と熱気を迸らせていた。
それは、今や廃れかけた剣闘より派生した武道『レスリング』の装備だ。
『ガガガ』
相対するは。全長約2.5メートル、赤銅色の鉄巨人である。
赤々と眼光だけを光らせた兜にホワイトブリムを冠した、鋼のメイドさんである。
「ラリアッティスもタオルフもやられたか……貴様、名は!」
『プシュルー……』
「ふ、敵に明かす名はないか。だがわかるぞ、たとえ名無しでもその鎧から溢れる闘気は強者の証に他ならない!」
類い稀なる武芸者が纏う体内魔力の溢れ、いわゆる闘気……、
……というより、鋼のメイドさんの『鎧』の各部からはエーテルスチームが排気されていたのだが。
「一仕合付き合ってもらうぞ! 『レスラー』がれっきとしたディフェンダージョブだということ、その身に叩き込んでやる!」
『ガッシュルゥ!』
熊が掴みかかるように飛び出したダイヴン。その戦闘行為に反応し、鋼のメイドさんもまた抉れるほどに地を蹴った。
両腕のガントレットから、ダイナミックすぎる変形プロセスを経て棺のごときタワーシールドが展開された。
ーー アーム(武装) ザーグシルト ーー
「ウィィィィィィィィ!」
『プシュゥゥゥゥゥゥ!』
肉塊と鉄塊、護り手二人が取っ組み合った。
正確には一人と一体が、なのだが。
「ーーあん人がぱーぷー(アホ)で助かったわあ~。いそいそ、こそこそ……」
そんなガチムチファイティングを排気口越しに見やりながら、ちみっこメイドさんが配管内をゆく。
これまた赤銅色のラバーメイド……つまりゴム製メイド服を着た、幼女である。
いやパッと見は幼女だが。赤髪を貴婦人風のブレイドに編み上げた、出るところは出ているトランジスタグラマーな淑女である。
そのミニマムボディと褐色の肌は、職工種族ドワーフの特徴だ。
ーー レベル17 魔導技師 マリー・ベル ーー
ーー レベル26 妖精機シュネーヴィ ーー
「お願いねシュネーヴィ。敵視取りまくりでぶちエラいのう、さすがわしの妖精機じゃい」
彼女は、あの鋼のメイドさん、もとい鋼のメイドメカ……魔導妖精機シュネーヴィの造り手なる魔導技師である。
兼ベルアーデ帝国騎士団第七隊副隊長、兼七番館のメイドさん、兼シェリザベート王女付き侍女である。
そんなマリーは今日も、仕えるべき国の平和と第七隊の予算のためにバイト中だ。
『火』から変換された『水』の排気エーテルスチームの渦中……熱い冷気もなんのその。エンジニアスーツを兼ねたラバーメイドのおかげでただ汗ばむ程度に留まりながら、
「どっせい」
配管の接続部をちょちょいとネジ開け、要塞の中枢へ降り立った。
「わあステキ」
そこは、俗に『サーバールーム』と呼ばれる場所だ。
魔導機関の要である大型エーテリークリスタルが、ざっと見ても数十柱から規則的に並んでいた。
と。それらの根元には、機工と一体化した大瓶が接続されていて。
ーー 情報 収集中 ーー
ーー 情報 整理中 ーー
ーー 情報 記録中 ーー
大瓶はテラリウム。フカフカの椅子に座らせてもらったフェアリーのチームが、機工が表示する膨大な文字列をデータベース化していた。
「さってと、お仕事お仕事」
マリーはメイドカチューシャの中からフェアリーを呼び出した。
ーー スリープモード中 Zzz…… ーー
ただし薄羽で浮遊しながらも眠っていたのだが、それもそのはず、潜入の邪魔にならないよう外部からの接続を拒否していたのだ。
「起きてー。出番じゃあよ」
ーー スリープモード 強制解除 ーー
「……ん? キョウセイ……?」
……はずだったが、急に、冷や水でもぶっかけられたようにビクーンと目覚めて。
『おぃーーーーっすマリーッッッッ、かくかくしかじかなのだわぁ!!』
「ひゃわじゃぁぁぁぁ!?」
ーー 被オーバーライド中 ーー
ーー 権限名 『ピンチの時しか使っちゃダメよシェリスさん! ぜ・っ・た・い・に!』
ーー 幻影念話 起動! ーー
ーー 念話帳登録名 『シェリスちゃん』 ーー
ーー 念話帳登録名 『ハルト(とたぶんイエちゃん)』 ーー
やにわに念話開始、からの無駄に大声。
二つのウィンドウに、なぜかジェムの山の天辺に座したシェリスと、なぜか虹宝箱に手を挟まれたハルトとイエの写幻が起動されたものだから、ビックラこいたマリーは盛大に尻餅をついてしまった、
ショートブーツが盛大にテラリウムを蹴り込んだ、
「あっ」
ーー 警告! ーー
ーー 破壊行動を検知! ーー
ーー 管理者に通達! ーー
ーー 警報、警報、警報! ーー
「ああああああああっっなにさらすんじゃいシェリスさああああん!?」
『まだ何もやってねぃのだわ』
「十分やらかしてるわよおおシェリスさんもわしもおおおお! もおおお!」
不吉に警告灯をぶん回しはじめた室内で、なおもマリーは噛みつかんばかりにテラリウムへ飛び付いたのだった。
『おうおう。わりぃわりぃ。そりゃそれとしてよろしく頼むぜぃ』
「なにがあ!? なんならあ!?」
『だからかくかくしかじかなのだわ』
「わかるわけないでしょおまるまるうしうしで!? お願い事ならちゃんと聞いちゃるけん報連相しっかりしてつかあさい!」
『そこがマリーとシェリスの違いだな』
『でも、お二人ともすぐに助けてくれるところは同じですね』
『ありがたいありがたい』
『です。です』
「ハルトもイエちゃんもちぃと今ほんわかしよる場合じゃないかなあ!? かしらあ!?」
ーー 解析中…… ーー
ーー 交渉中…… ーー
マリーのフェアリーが、念話をしながらでもテラリウム内の同胞たちへ謎のボディランゲージを送る。……実際にはエーテルの線条を発して接続されてはいたが、それでも身振り手振りで交信する。
対するテラリウムのフェアリーたちは申し訳なさそうに首を振るばかりだったが……、
ーー 解析成功! ーー
ーー 接続完了! ーー
やがて。どういう過程があったのか人間にはまったく理解できないが、フェアリーたちは良い笑顔とサムズアップで接続しあった。
ーー 指定情報 検索 ーー
ーー 発見 ーー
ーー 『スァーヤ皇国 黒鉄戦線方面 1853年度 スネークインワンズ作戦』 ーー
ーー 複製中! ーー
ーー 完了まで 残り99時間 ーー
ーー 完了まで 残り12時間 ーー
ーー 完了まで 残り40分 ーー
ーー 完了まで 残り7分 ーー
ーー 完了まで 残り18分 ーー
ーー 完了まで 残り5秒 ーー
ーー 完了! ーー
「よしオッケイお仕事完了あわわわわわ! ほんでなんならあ!? ……あと二人ともなにその宝箱!?」
『お忙しいところ失礼しますマリーさん。話せば長いので、とりあえずこの座標へ向かっていただきたいのですけど……』
「はいはいはいとりあえず了解ちぃと待ってねいま脱出するけん! ハイホォォォォシュネーヴィ!!」
『プシュールルル!』
途端、壁を割ってシュネーヴィがサーバールームへ突入。……破城槌代わりに構えていた意識不明のマッチョレスラーを投げ捨て、代わりにマリーを肩の後ろへ乗せるとそのまま駆け出す。
と同時、正規の出入口が重々しく開放されて、
「ーーいたぞ!」「侵入者だ!」「どうせベル帝の工作員だろ!」「攻撃用意!」「尋問用に頭だけは残しておけよ!」
クリスタル屑を再加工したプロテクター装備の兵士たちが、隊列を広げた。
(1話につき4部分構成の短編連作です)
(毎週月曜日、18時頃に更新中です)
(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)




