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Karte.12-3「ほら。私のヒーリングは最強でしょう?」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

「あなたは……『真白の幽鬼』……!」

「おまえっ! どうやってここに!?」

「勘の悪い前フリありがとうございます。ご覧のとおり、あなたたちのパーティもといタリスマンに寄生していたのです」

 真白の法衣が蕩けたように全身に張り付いている。そのせいで薄い笑みを浮かべた口元しか見えない、レイスーー幽鬼ーーがごとき女だ。

 かつて精霊とともに神代の世界を壊しかけたという背徳者一派、『白式』のリーダー格である。

 斬り結ぶにはいささか遠い距離を以て、ハルトたちはすでに身構えていた。

「なるほど、私から答えを掠め取ったのはあなたというわけ。……何かしらねこの思いは、その姿を見ているとただの怒り以上の不快感を覚えるわ」

「そうでしょうねお姉さん、あなたは私を知っていましたし私はあなたを知っていましたから。だけどあなたはもう私を知りません……ネタバレできるのは私だけということです。とても気持ちいい優越感ですね」

 『真白の幽鬼』はアリステラへこそ注目を向けているようだったが……ついでとばかりに、目の覗かない眼差しを第七隊へ回した。

「あなたたちもむしろ幸運に思うべきです。何もかも知らずにまた『はじめから』プレイできるのですから、私でもできないことです」

「なぁにワケわからんこと宣ってんのだわ! こんなとこまで付いてきといて自慢話だけでもねぇんだろぃ!」

「そうでしょうか。ここで高笑いでも残しながら消えていくのが定番かと」

 ーー 《ファストトラベル》 ーー

 『真白の幽鬼』の上空からゲートが開かれ、彼の者を転移させるべく下がってくる。

 彼女がそこへ手を伸ばした時点で、シェリスは腰溜めにしたシャベルとともに地を蹴っていた。

「逃げる前にとっとと斬るッッ!」

「……まあ、あいにく私は高みの見物キャラではないので」

 『真白の幽鬼』が間一髪、ゲートをくぐり消えていった。

「ーーさっそくバトルパートとまいりましょう」

 直後。シェリスの背後に現れたゲートから、あの異端なる段平刀とともに再来した。

 医療用鋸を思わせる、細かな刃を連ねた極大刀が黄金縦ロールへ吼え……、

「そうくると……!」

「思っちょった!」

「のだわぁぃ!」

 『土』の魔弾と、シールド型ビットと、回転斬り上げ。

 ハルトのパラレラムと、マリーのシュネーヴィ内蔵武装アームと、シェリスのシャベル。

 三方から交差し、ゲートの向こうへ段平刀ごと『真白の幽鬼』ごとを殴り返した。

 ただ。それが消えるとともに、今度は第七隊を囲むように四方からゲートが現れた。

「増えた、っ……!? なんだよっ、こんな《ファストトラベル》の使い方なんて見たこと……」

「ーーなるほど。さすがです」

 そのうちの一つから、無傷の『真白の幽鬼』が上半身を覗かせた。

「ですが、さすがにもう覚えましたよね? 私たちに『無敵』がついているということ」

 ーー 《ステータス》 完了 ーー

 ーー 状態 『無敵』 ーー

 ーー 効果時間 残り:9999999…… ーー

 ハルトのフェアリーが捉えたさきから、白影はまた隠れる。段平刀の風切り音だけがわざとらしくゲートたちを転移していく。

「だからどうした! おまえらが襲ってくるならとことんやらせてもらうだけだ!」

「どうしてお姉さんや私たちを狙うのですかっ……!?」

「そこんとこ知られとうないけん妨害しにきたんじゃろ! 問答無用ってやつね!」

 いかにも、ゲートの中から返答は無かった。

「ーーそれでは次のギミックです」

「散開! なのだわ!」

 唱えられたのはそんな身勝手なる宣言だけ。シェリス、ハルトとイエ、マリーは、四つのうち三つないし……四つとも捉えられるように分かれた。

「アリステラ! おまえも戦えるか!?」

「人並みの戦いかたは無理ね……! 肉体を得たとはいってもできることは変わらないわ! ……《ダークアロー》!」

 アリステラがゲートの一つへかざした手から、体内魔力オドエーテルが滲みだして……、

 爪の先ほどにも形にならず、涎がごとく垂れ落ちていった。

「……ほらみなさい!」

「えばることじゃあないわねえ!」

 ーー レベル0 【 () () () ()】 【 () () () () ()】 ーー

ーー ATK:- DEF:- DEX:- AGI:- INT:- RES:- ーー

「レ、レベル0……! ええいもうツッコミは無しだっ、じゃあこの前みたいに無敵バフは破れないか!?」

「っ……少し時間を貰うわ! 手を貸しなさいエルケ! イエ、あの子も見てあげて!」

「は、はいですうう!」

「エルケちゃんは戦えるのです……っ? 『ドントクライ障壁地雷』、っ」

 エルケも散開に加わり、アリステラが胸元へ『闇』のエーテルを溜めはじめる。一方、イエがバラ撒いた三脚式の板状アイテムたちが、魔導仕掛けに地へ刺さると『火』のエーテルを灯らせた。

 まもなくゲートの一つが揺らいだ。

「ーーごきげんよう『エルケーニヒ』ちゃん。あなたとはお姉さん以上に久しぶりですね」

「な、何言ってるのかわからないんですごめんなさいひゃああああああ!」

 第七隊の動きを知ってか知らずか……いやおそらくわざとなのだろう、よりにもよってエルケが相対したゲートから『真白の幽鬼』が躍り出た。

「ひゃっ、《百鬼夜行》!!」

 対して。急ブレーキをかけたエルケは両手を突き出しただけで。

 その胸の包帯と肉が、裂けた。

 ーー✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕!!

 奏で合うような咆哮たちとともに、()の形をもった混沌が溢れたのだ。

 無数の、魔物の一部がエルケの中から突き出たのだ。

 角、腕、翼、尾、脚、砲、刃、などなど。

 あまりにも無数に連なっているとはいえ、なぜか胴体や頭はまったく見えない無貌の坩堝だ。

 それは小屋の中での暴走じみた怪異と異なり、明確な意思の見えるアーツだった。

 段平刀を大上段に構えた『真白の幽鬼』へ、一つになった数の暴力でなだれ込み……、

「無双します」

 ーー✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕……!!

 真っ向からの斬り下ろしが、全長10メートルはあった《百鬼夜行》をほぼ両断した。

「あ、あわああああっっ、みんなあ!?」

「なんちゅうバカ力じゃあ……!」

 見上げるほどに霧が割れ、遅れて、割れた岩地から海水が噴き出す。

 もちろん段平刀自体にそこまでの刃渡りは無い。

 ーー レベル999 ()()()()()()() 『真白の幽鬼』 ーー

ーー ATK:SSS DEF:B- DEX:A AGI:A INT:SSS RES:B- ーー

 その威力はただ斬撃の余波であり、力業タイプの超絶ステータスから生じた衝撃波だった。

 すんでのところでエルケに届かず済んだのは。急いで飛んできたマリーのシールドビットと、設置されていた『ドントクライ障壁地雷』が発動し、バリアとなってエルケを護っていたからだった。

「ぴ……ぴええええええエルケでは無理ですごべんばさああああああい!」

「おーーいどこ行くんでぃっ、エーーーーーール!」

 洗濯物でも取り込むように魔たちを戻し、エルケは脚を整地死霊ローラーロードの車輪に変えて走り去ってしまった。あっという間に霧の奥へ……。

「無理もないな……! こいつは『力』特化型ってことかよっ、食らったらひとたまりもないぞ!」

「治せる怪我にも限界があります……! 皆さん、無茶はしないでください……!」

 落ち着いて治療できる環境や設備があるならともかく。戦闘中の回復魔法は高度な応急手当に近く、重症・致命傷はそれだけで戦闘不能を意味する。

「あなたが無茶を語りますか、白魔法師さん。ではお望みどおりに」

「ぬぁっ……!」「ぁぅっ」

 届くはずのない連続横薙ぎから鎌風が吹き荒れ、ハルトはイエの身を屈めさせてやりながら避けた。その間に『真白の幽鬼』はまたまたゲートへ飛び込んで。

 ーー 補助魔法 レベル3(神級) ーー

 その数が、

 四方の4つから八方に8つ、

 そして今度は高低差も距離感もランダムな16つへ増えた。

「イ、イエちゃあん! 《ファストトラベル》てこがー使い方もできるんならあ!?」

「ここまでピンポイントな転移は不可能です……! 地脈のエーテルを要とする魔法なのに、おそらく自分の魔力だけで座標を固定しているのかと……!」

「こんなもんカバーしきれねぇのだわ! 集合っっ……でゃっっ、マリー後ろでぃ!」

 マリーが「えっ」、振り向けば、

 彼女の死角に近いゲートから音も無く『真白の幽鬼』が抜け出ていた。

 ただ、その手に段平刀は無くて。

「ーー《インベントリ》」

 袖の中に現れた次元の狭間から、一気呵成に()()たちが投げられていった。

 それらは、およそ人間用ではないだろう大型の医療器具だった。

 メス、ドリル、打診ハンマー、焼灼止血用『火』魔石など。

『ガガガガガ!』

「ええ子じゃシュネーヴィ!」

 間一髪。錆びたアイテムたちのバラバラな軌道を演算し、シュネーヴィが両腕の大盾でいなした。

 それでも勢いはほとんど衰えず、一つ一つが砂浜や岩地を穿つ。

 そしてまもなく、『光』となって消えていった。

「コンボが途切れてしまいましたね。まあ、いいでしょう」

『ガガッ……!?』

 一方、シュネーヴィの裏拳をすり抜けた『真白の幽鬼』は、投擲の風圧だけでシールドビットたちの妨害をも吹き散らして。

「失礼します」

「うぅっ……!」

「イエ、っ、くッッ……!」

 遠くからわざわざ、ハルトとイエめがけて一直線。シェリスとマリーが援護に追い付くまでに、アイテム投げの嵐を見舞ってきた。

 互いに避けきれず、互いに庇いきれず、傷を刻まれる。

「大丈夫です……っ、回復、させますっ。《ヒーリング》……!」

「たのんだ……!」

 メスによる切り傷、ドリルによる刺し傷、打診ハンマーによる打ち傷、焼灼止血用『火』魔石による火傷。

 イエの《ヒーリング》とともに、ハルトは『風』の魔弾連射で『真白の幽鬼』を圧しようと試みた。

 しかし、『力』の彼女は尚もアイテム投げだけで魔弾を相殺していた。

「おどりゃあ! ディフェンダーをスルーなんじゃあええ度胸じゃけえ!」

「兄弟イエ子っ、こっち来るのだわ!」

「向こうはそうさせないみたいだ、ぞ……っ!」

「当然です。ヒーラーから落とすのがセオリーというものでしょう?」

 第七隊は分断され、ハルトとイエは狙われ続けていた。

 シェリスの猛追もマリーの防備もほとんど無視され、あしらわれていた。

 ようやく集合できそうなところで『真白の幽鬼』がゲートに消え、別のゲートから飛び出してきてまた分断する。

 ゆえにイエが治療したさきから、二人に新しい傷が刻まれていく。

 リペアパウダーで装備品を修復する暇もなく。肌の傷は閉じられても、破られたプロテクターやローブに血の痕が残される。そして増えていく。

「安心してください、搦め手を考えるのは面倒くさいので状態異常系とかは使いません。ただまあ、破傷風とかには気をつけてくださいね白魔法師さん」

「っ……嫌な人、です……! 傷の種類が多すぎます……!」

「どうした! 大丈夫なのか!?」

「『回復』魔法と一口に言っても、怪我や病に合わせて調整しないと効果が無いのです……! こんなに傷の種類が多いと……調整が、追いつかなく、なりそうで……!」

 エーテル補給の飴ちゃんを噛み砕きながら、イエのヒールワークは精彩を欠きつつあった。こと癒し手としての立ち回りならスキルレベル以上もの奮迅を見せる彼女だというのに……。

「……くっ……! イエ、ハルト、こんな時に言いたくはないのだけれど……やっぱりダメ、思い出せない……っ!」

 アリステラの頭上にあの『薄眼』が表示され、もどかしそうに霧散していった。

「あいつの無敵を破るやり方も、喰われてしまったようだわ……!」

「くそ、そんな気はしてたよ……!」

 胸元に渦巻かせていたエーテルを握り潰すしかなかった魔女。その睨みを向けられても、『真白の幽鬼』は薄い笑みを張りつけたままだった。

「良いですね、その悔しそうなお顔。醍醐味です」

「……ハルト、っ。世話をかけるわね……」

「いいって! ……こいつがこんな手を使うなら、俺だってできることがある!」

 ハルトはホルスターへ二丁剣銃パラレラムを仕舞った。

「イエ! わるい、ちょっとだけ無茶するぞ……そばにいてくれ!」

「……! はいっ、参ります……!」

 そうして青年は……そして乙女は。距離をとるためのダッシュから一転、前へと踏み込んだ。

(やれるのか……? いや、できることをやり続けろ……!)

 投げつけられてきた糸鋸と『火』魔石を、

「ぐっ……!」

「《ヒーリング》……!」

 掴む。向きも勢いも測る余裕無く。

 糸鋸で二の腕近くまで引っ掻かれてしまったし、『火』魔石には手のひらを焼かれてしまった……、

 が、回復魔法による自然治癒力の高まりとともに、その輝きの揺るぎなさとともに、掴む。

 ーー シークレットモード 解除 ーー

 ーー レベル012 ウェポンテイカー ハルト ーー

 ーー チートスキル 《ウェポンマスタリー》 ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー 

 ーー 鋸術 レベル3(神級) ーー

 ーー 魔器術 レベル3(神級) ーー

「ッッ……返すぞ!!」

 武器術の神業を得る突然変異スキル。

 ハルト自身の力量が伴わないゆえに一撃で得物を壊してしまうのだが、もとより、突っ込んできた『真白の幽鬼』へは真っ向勝負こそ望むところで……。

「ああ、はい、そういうのはもういいです」

「っ……?」

 急に。

 『真白の幽鬼』は翻り、ゲートへ飛び込んだ。

「私のアイテムを逆手に取って一矢報いるという展開、ですよね」

 そして今度は、『闇』のクリスタルの上にゲートを開けて現れたのだ。

「ええ、映えるカットシーンですね、ひょっとしたら私の『無敵』だって貫通するかもしれないですね。ですがそういうのは見飽きてるというか読めるので時間短縮しましょう」

「な、にを……?」

 クリスタルの天頂に立ちながら、その手にはまた段平刀を握っていて。

「はい。いろいろありましたがなんとかなりました、デウス・エクス・マキナということで……どうぞ」

 その刃を担ぎ、

 ーーブヂュギッ……

 一刀のもとに、己の首を斬り落とした。

「うッ……!?」

 ハルトをはじめとして第七隊の誰もが息を呑んだ。

 呆然とせずにいられるだろうか。

 心臓というものの力強さを感じさせる赤黒い飛沫が、早鐘を打ちながら噴き出していった。

 クリスタルを踏みにじるその汚濁を追い越して、首無しの体が落ちていった。

 そして最後に、薄い笑みを浮かべたままの貌がクリスタルの麓へ転がったのだ……。

 残虐を越え、狂気を越え、それはもはや悪趣味すぎる喜劇のような一幕だった。

 ーーッギュヂブ

 そう。魔力の発露とともに、()()()()()()()()()()()()のも含めて。

 それは濁った『光』と『風』と『土』の輝きだった。

「なにが……なんなの、です、か、これ……」

 ーー チートスキル 《リィン・ヒーリング》 ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー

 皆のフェアリーが唱えた警告とともに、生首だったものは瞬く間に人型をなしていった。

 内蔵、血管、骨、筋肉、皮……、

 そして蕩けた白法衣までそのままに、『再生』されていったのだ。

「光属性の再生魔法……《リィン》? いいえ、いくらなんでも切り落とされた首から元に戻るなんて……」

「ええ、ただの《リィン》ではないので。これが私のチートスキルです」

 ついに手を付き、膝を立て、ソレは立ち上がった。

 そばで痙攣していた旧い体を蹴り除けて。距離をとるしかなかった第七隊の前で、『真白の幽鬼』は段平刀を悠々と拾い上げたのだ。

「ほら。私のヒーリングは最強でしょう?」

 ーーギギュッ……

 左腕が斬り落とされた。

 ーー 《リィン・ヒーリング》 ーー

 ーーッュギギ……

 もはや血が噴き出す前から、左腕が再生された。

「そんなものは、……ッッ、癒しの(わざ)ではありません……!!」

 白い手がことさら白むほどに握り締められた。イエはこれまでにないほど憤慨しているようだった。

「白魔法師さんは拘るところがわからないですね。あなたたちだって『できる』ことをするのでしょう。このスキルを使えばどんな方でも復活させられるでしょうから、羨ましがられることはあっても謗られる謂れは無いと思いますが」

「……それがあなたにとっての『できる』ことならそうなのでしょう。それでも……あなたのその(ごう)を私は否定します」

 首を振り、最弱白魔法師は応えた。ハルトたちだって冷えた眼差しをこそ『真白の幽鬼』へ向けていた。

再生魔法リィン……ムウ修道会の回復魔法ヒーリングと対をなす体系じゃあね。自然治癒力を高めるんじゃなくて、光属性が司る『時間』を操作して患部を再生させる治療法だったかしら」

「……たしか。それを得意とする者たちは……」

 マリーに続いてふと考え込んだアリステラだったが、段平刀が地を掻く不協和音が割り込んだ。

「さあ絶望してください。そしてそれでもなお心折れず、物語を廻してください。あなたたちにはその因果があるのですから……()()()()()()()ときっと縁があるのですから」

 『真白の幽鬼』は、廻っていた。

 段平刀を引きずりながら、自分自身を中心にして好き勝手に廻る。

「ですから。いちばん愛されている私が……私こそが、あのお方の御前へ再び至る為に。何度でもいつまでも、私はあなたたちを愛しましょう」

 加速していく……、

「好きです、好きです、大好きです、大好きです、楽しくて、楽しくて、面白くて、面白くて……気持ち良いです」

 そして、

「あ」

 止まった。

 歯車仕掛けでも切れたがごとく、彼女は『光』を浴びるかのような停滞の中にあった。

「……やはりここでは。ロールプレイ(私は私)を保てないようです」

 薄い笑みだけが、ごくゆっくりと、第七隊へ向いて。

「それではまた。ごきげんよう」

 その身が、静謐なる霧たちに穿たれた。

「ぷぎゅぁ」

 それは例えば、深海の水圧に捻り潰されていくように。

 しかしてここは深海ではなく、深淵だ。

 水圧ではなく『闇』が、無数の次元の狭間を渦巻かせるがごとく『真白の幽鬼』を解していたのだ。

 その姿が、捻れ、歪み、蕩けていく。

「ーーあ……ぁ、ぁ、が、ゃゎアアアアガァァァァアアアアアアアア!」

 悲鳴もろとも別物へ、圧されていくどころかまったく異なるカタチヘと膨張していく。

(お、おいおい……!? 今度はなんだ!?)

 ハルトたちは、ソレを見上げていった。

 ……肉塊だ。

 全長5メートルはあるだろうか。漂泊されたような肌色の肉が、捻れ、歪み、蕩けた、塔がごとき異様だ。

「……! まさか……()()()()

「お姉さん? あれが何かわかるのですかっ?」 

 眼をことさら見開いていたのはアリステラだ。

「クリア聖戦当時、精霊王たちが領域の守護者として用いていた魔法生物……。(ツイッグ)というのは人間側からの通称で、本来の名を……『オグドラシルの梢』」

「オグドラシルじゃてえ!? そんなはずないわ、その世界樹はもう壊されて……聖霊大陸の奥で今でも朽木なんだもの」

 マリーの祖父による商会が今でもフェアリーの原材料をサルベージしている、聖霊大陸の最奥……天へと吼えるがごとく焼け爛れた逆さまの大樹。

 その漆黒の古戦場の名こそ、かつて在った精霊王たちの本拠地にちなんで世壊樹バーンドラシルという。

「てやんでぃっ、そもそもありゃどう見たって植物の類いじゃねぇだろぃ! 果肉どころか生肉なのだわ!」

「どうしてあんなものが今さら出てくるのかは私もわからないわ。けれどもあの姿でこそ正しく『オグドラシルの梢』よ。聖戦末期には()()()の仕業で化けの皮が剥がれて……」

 アリステラの頭上に、三度みたび、『薄眼』が浮かんだ。

「……ああ、本当に腹ただしいわね。これも消えているの」

「要するにあの『白式』連中へ全部繋がってるってことだろ! とにかくこいつをなんとかするぞっ、どう戦えばいい!?」

「守りは魔法防御に全て振りなさい。そして何よりも……とにかく攻めて、一秒でも早く倒しなさい」

「なんだよその、守りはともかく攻めのフワッとしたアドバイスは……」

 周囲を巻き込む調子で収縮し続けていたツイッグが、ようやくその変異を鈍化させていった。

 すると。その節々が、縦に裂けた。

 それは眼のような……、

 いや、違う、

 歯を剥き出しただけの、空虚なる()だった。

「……赤丸斜めに三角かけたの。風鈴揺れて心には鏡。岩、波、箱を垂れ流したら、円筒が禁じた、閉まった、見ていた、運ばれた傘があって」

 『真白の幽鬼』の声が重なった女声が、意味の通わない戯言を発して……。

 その口元ごとに、魔方陣を描いた『風』色のウィンドウたちが浮かんだ。

 ツイッグから、ドーム状の風属性エーテルが爆ぜた。

「はっ……! 《インベントリ》、『ニュートライズ・グリーン』、《アタック・ブースト・オルタ》、《ルォプ》……!」

 イエのきりきり舞い。

 消臭剤でも入っていそうなスプレーを取り出してトリガーを引くと『風』のエーテルが大規模散布され、

 『火』の別式強化魔法がATKのステータスではなく体内魔力の属性そのものを強め、

 投縄魔法が未発動だった『ドントクライ障壁地雷』たちを手繰りよせた、

 直後、

 シュネーヴィの陰に滑り込んでもなお、防御、中和、軽減、相殺しきれない魔力が第七隊を切り裂いた。

『プシュガー!』

「ナイスよイエちゃん、シュネーヴィ! で、も、イッタタタあぁ、あがーな全体攻撃わやくちゃじゃあ!」

「あれは範囲内の敵を退けることだけに特化した魔法生物よ。逃げる分には不可能ではないでしょうけれど……」

 ドーム状を維持した『風』色はうんと遠くまで駆けていき、霧の彼方でようやく消滅していた。その魔力波は地形こそ一切傷つけていなかったのだが……、ただ、

「あっ、お姉さんのクリスタルまで……!?」

「ええ……倒してもらわないと、私が困るわね……!」

 ただ。第七隊のみならず、アリステラの『闇』のクリスタルもまた傷つけられていたのだ。

「それで取れるよ一ツ星、可愛い毛触りは日暮れの布、痒くて膨れて扇に埃が冷えきって、変えるものは袋だけ……ぇぇぇぇぁぁぁぁ!」

「次が来る! こちらが消耗するまえに攻めて!」

「すでにヘトヘトだっての……!」

「閃いたのだわ! せぇぇぇぇいせいせいせいせいっ地面の中を進みゃあセーフ、っ、ぶ、でゃーーーー!?」

 シュネーヴィを文字通りの防波堤にしながら進みはじめたハルトたち。……シェリスだけは地中を掘り進もうとしたが第二の魔力波によって掻き上げられた。

『ガガップ……!』

「踏ん張りやがれぃネヴィ! 《フォイヤー・ダス・クローネ》(陰らぬ火冠)!」

 鋼の巨躯をも震わせる衝撃が皆をノックバックさせる。それでもすぐに第七隊は地を蹴り、シェリスが手元に編み出した『火』のエーテル王冠をシャベルへ叩き込む。

「……ほはははは今度こそ閃いたのだわっとぅぅ!」

 続いた第三波がシュネーヴィの守りを抜けた瞬間、刹那、高速シャベル剣技にて掻き乱した。

 それでも魔力波を消しきれることはできなかったが、確かに削いだのだ。

 だから一つ前の衝撃波よりも、力強く、また駆ける。

「要はタイミングでぃ! 今こそ第七隊の家族力を見せるのだわ!」

「カゾクヂカラってなあにシェリスさん!?」

「離れるなってことだろ! 吹き飛ぶなよアリステラ!」

「ええ! こんな痛みをきみたちと共有できるのなら、この肉体も悪くはない……!」

「白魔法師としては複雑です……《ヒーリング》、《アタック・ブースト・オルタ》、以下略です……!」

 一進一退、体力も魔力も回復したさきからギリギリだ。いつものように言の葉を掛け合い、そしていつものように現れる未知の脅威に歯を食い縛りながら、進む。

 あと何波耐えればいい……、

 あと何波か耐えればいい、そうすればきっと、次の『できる』ことへたどり着ける。

「ーーわ、わわわわわわわわわああああっっです~~~~!」

 そして、そんな第七隊へ呼応してみせた者がもう一人。

「ドド、ドドドドゥ!」「フウッ……!」

「わ、わかってますですぅぅー! ううん、あのっ、二人の言ってることはわからないですけど言いたいことはわかるのです! だから逃げちゃってごめんなさいですですーーーー!」

 二体のハイフェアリーを伴い、帰ってきたエルケだ。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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