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Karte.11-4「俺たちに『できる』ことをやるだけさ!」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

「いや応援もいいがおまえも戦ってくれよ! 前線を上げろおお!」

「本官、攻撃は最低限の心得しかないのでありますので! この『ゴスベル』で歌っているほうがお役に立てるであります! ライトピーポーライトプレイス!!」」

 実際、エティルは《ライトアロー》を発動してみせたし、ゴスベルなるバトンベルで棒術よろしくダイオウムシを叩き伏せてはいた。

 ーー レベル25 ゴー・ス・ベル ーー

 ーー 攻撃魔法 レベル0(凡人級) ーー

 ーー 棒術 レベル0(凡人級) ーー

 しかしなるほど、それは護身の域を出ない冴え。魔法はともかく武器術は鍛練次第でスキルレベルの上げようもあるのだが、十分だと言わんばかりに彼女はアホ毛をなびかせていた。

「そもそも聖女教会の神官たるものっ、戦いとは敵を倒すことではなく調和を保つことでありますので! このダイオウムシたちを海に出しさえしなければ攻め込むつもりは無いのであります! ラインディフェーンス!!」

「けーーっっ! ハナっから守勢しか頭にねぇなんざつまらねぇ連中なのだわ! 攻めも守りも殺すも生かすも、まずぁっ、戦場を支配してからの話だってんでぇぇぃ!」

 と、疾さこそを是とする傭兵帝国のシェリス姫。有言実行、体内魔力を編み込んだ水属性の王冠を金剛円匙シャーフェス・エス・エスツェットへ擦り付け、魔法剣ならぬ魔法シャベルとするやいなやぶん回した。

 鞭のように水の刃が伸びに伸び、ダイオウムシたちを十把一絡げに溶岩流へ洗い流した。

「つってもまっ、その詩援魔法だけは褒めてやるぜぃほははははは! もっと速くっ、疾くっ、コンマ一秒先の世界を目指すのだわほーーっはっはっはっはっはぁ!」

「恐縮であります! アフレイド!!」

 手元が見えないほどの速さで地を掘り進め、シェリスは地中潜航していってしまった。

 直後、方々で熱湯の間欠泉が噴き出していった。

「ぼーっばっばっばっばっばぁ、っ、げふがふごふ!」

 バカ笑いが地表を隆起させ、逆に地盤沈下も引き起こし、敵軍の足並みを乱していった。

「なんだかんだで相性良いじゃないかよ、あの二人」

「む~、姫様専属侍女兼メイドとして複雑じゃあ」

「むう、バフもお任せの白魔法師として後塵を拝しています」

 それこそ適材適所というものだ。できることは多いに越したことはないが、マリーもイエもハルトだって他人には譲れない本分を持っている。

 そしてきっと、第七隊にしか果たせない縁がある。

「ん……!? 見えた……!」

 進撃の果て、ハルトはいまだ分厚いダイオウムシ軍の向こうに()()()()()()()()を見た。

 それは1キロほどの距離に接近してはじめて視認できる、儚い()()だった。

 四大属性のエーテルが、この『星』の境界線として壁のように立ち込めていた。

「インビジブルウォール(見えない壁)……! あの向こう側が、『世界の果ての果て』ってことだよな!?」

 見えるのに見えない壁とはこれいかに。けれどもそれは、この『星』に生きる者たちが『見えないもの』として忌避したがるからこその異名だった。

「そうであります! ここは本官たちで大丈夫でありますので、どうぞ良い旅を! ゴッドブレスユー(お大事に)!!」

「それはくしゃみした時に言うヤツ!」

「そうでありますか? ともかく皆さん傾聴ーっ! リスニング!!」

 エティルが一際ダイナミックにゴスベルを投げ回せば、パラディン&シスターズが意識を向けてきた。

「第七隊はこれからダイオウムシたちの巣穴の破壊へ向かうであります! そのまま直行直帰されるということなので温かく見送ってあげましょう! シーユー!!」

「「「「「「「「光の導きを!」」」」」」」」

「「「「「「「「ファイト~~♪」」」」」」」」

 余裕のあるものだ。甲殻やゴミの死屍累々を築きながら祈りを投げられた。

「お世話になりましたエティルさん。帰ってきたら私にも詩援魔法を教えてください」

「是非とも! ……ではっ、ここからは猊下にお任せするであります! チェェェェンジ!!」

 エティルのケピ帽の中から一つの影が飛び出す。

 ーー スリープモード 解除 しました! ーー

 ーー マスター の オドエーテル と 同期中…… ーー

 ワンピース姿のハイフェアリー。活動写幻を録画中であるらしく目を『炎』色に輝かせながら、ハルトの空きホルスターへ飛び込んだ。

 ーー アバターモード 起動 しました! ーー

『ーー引き返すなら今だよ。かの場所に()()()ヤツの話ならごまんとあるが、帰ってきたって話は一つもないからねえ』

 可憐な仕草から一転、老獪に頬杖を付いてみせる。ハイフェアリーならではの高精細な同期により、海の彼方の女教皇シロリドと繋がったのだ。

「こっちだって半信半疑だよ……! だけど俺たちは、『何でも屋』の第七隊だからな!」

「はい……! こんなお別れなんてお姉さんもきっと望んでいません……! 勝手ながら、あの人からの救援依頼とさせていただきます!」

 ーー「……視るべきものを視て。できることをやりなさい」

 そうだ。あの時、『真白の幽鬼』の刃に曝された彼女の眼差しは……何も受け入れてはいなかった。

 不安定に霧散しかけていても、次へと繋がる前だけを見据えていた。

「たとえあいつ自身が諦めてても! 俺たちに『できる』ことをやるだけさ!」

 救いたい。名も無き青年たちと……リヒャルトと……ハルトと、最弱乙女とを、繋いでくれたあの少女を。

 あの訳知り顔をつねり上げるのは、それからだ。

『なら期待してやろうじゃないか。いろんな意味で、アンタらの行く末には興味があるよ』

「猊下ーーーー! もしもその妖精さんが帰ってこられなかったら、本官、同じワンピースを着て差し上げますであります! ドレスアップドール!!」

『いいところで余計な心配してるんじゃないよ! アンタは黙って……いや歌って仕事してなッ!』

「ユアホーリネス!!」

 そうしてとうとう、第七隊はエティルと離れた。まだまだ大量に蠢くダイオウムシの背中に遮られて姿が見えなくなれば、第七隊をカバーしていた詩援魔法の範囲からも外れた。

「シェリスさーーん! そろそろいくわよおっ、帰ってきんさい!」

「でゃーー! 話は聞かせてもらったのだわ!」

「声に出して言いたいセリフなのはわかるけどいま違ういま違う」

 地面の中からちょっと焦げかけたシェリスも飛び出してきて、第七隊は進み続けるのだ。

 インビジブルウォールが、もう、目の前にあった。

「「「「せー、のっっ」」」」

 ジャンプ。

 あくまでも境界線にすぎない魔力の壁は、なんら拒むことなくハルトたちをくぐらせた。

 溶岩流も、ゴミも、骸も、あらゆるものはこの先へと流れ続けているのだから。

 しかしてそこへ自ら飛び込もうとする者たちの、なんと狂おしいことか。

 なにしろその向こう側は、ゴミか骸しか堕ちえない場所に他ならないのだから。

『いってきな! 『()()』へ!』

 ついに世界の果ての果て……見えない壁を越え、

 その先には、『闇』だけがあった。

 地面なんてどこにも在らず、『光』の無い奈落だ。

「お、落ちる落ちる落ちるッッ……!」

「それはそうですハルトさん、落ちていくのはわかっていたことです」

「わかってても怖いものは怖いッッ……!」

「ほーっはっはっはっはっは! とりあえず笑っとけぃっ兄弟ぃ!」

「『深淵』……あるいは『地獄』と謳われる、『星』の流刑地かあ。どうなるかのう」

『プシュル~』

 シュネーヴィを止まり木代わりに、第七隊はどこまでもどこまでも落ちていくのだ。

 振り向けばすぐそこには、皆と同じく下へと向かい続ける()()があった。

 『星』の斜面に纏わりつくもの。溶岩流が永い年月をかけて下へ下へと堆積していった、黒岩の絶壁だ。

 ーースゥカベンベン

 ーーベッ

 ーースカァ……スカァ……

 その表面には粘着液を固めた巣穴が点々と連なり、びっしりと張り付いたダイオウムシたちがゴミと惰眠を貪っていた。

 それらは深度を増していくごとに少しずつ少なくなっていくようにも見えたが、なにせ一瞬ごとに過っていく景色なので眺める暇も無かった。

「ーーひはははは!」

 そう。一分と経たないうちに第七隊の真上で魔力のゲートが開かれたのだから、心休まる暇なんて無かった。

「ひはっははははは……!」

(っっ……!?)

 ()()の哄笑が、逆さまにハルトたちの目前へ追いついた。

「べらんめぇ!」

「ひはっ!」

 シェリスが薙いだシャベルに喉笛を刈られる前に、翻って距離を取って。

「あーーーーっ、めんどくせぃ! いよいよ気に食わねぇ連中なのだわ!」

「『黄金夢魔』じゃあ……!?  このタイミングで!?」

「ひひぃーーーーははぁい!」

 一糸纏わない躯体のそこかしこに金色のダイヤが生え、美貌をも覆う双角や尻尾を形成したサキュバスーー夢魔ーーがごとき女。

 神代の背徳者『白式』が一体、『黄金夢魔』だ。

『はぁあ、こいつが実物かい。見れば見るほどなんとまあ……なあお姫ちゃん、アンタの生き別れた親類縁者とかじゃないのかい?』

「てやんでぃっっ、シェリスさんに女の姉妹はいねぇのだわ! あんな顔無しと一緒にすんじゃねぇやぃ!」

「私たちの動きがわかっていたみたいに……! 彼女と一緒に降りていくわけにはいきません……!」

「当然だ! 向こうもおしゃべりのつもりは無いみたいだぞ!」

 落下に遊ばれるばかりのハルトたちに対して、『黄金夢魔』は宙を地とするように己が身を御していた。

「ひ、ひははははぁ!」

 背中を突き破り、黄金ダイヤの翼膜が生えた。

 両腕の黄金ダイヤが増殖していき、形をなすと手に手に分離した。

 ……捻れたシャベルのような宝剣と、小盾バックラーだ。

「ひっはぁぁ!」

「きやがれぃ!」

「シュネーヴィっ、みんなの足場になって! ズィーヴェンツヴェルク(七妖精):ファーズアイン(Phase1)!」

『ガッガーッ、プシュルン!』

 突撃の『黄金夢魔』。七つのパーツに分離したシュネーヴィもとい七妖精隊が、エーテルバーニアで飛びながらハルトたちの足下を担った。

 そうして『黄金夢魔』が振り上げた宝剣と、シェリスが腰溜めに絞ったシャベルが交差……、

「ひっはは!」

「でゃ!?」

 ……する前に、『黄金夢魔』は剣筋をユラリと歪めた。

 真正面から斬撃をぶち上げていたシェリスは、今さら軌道修正できずに虚空だけを両断した。

 そこに遅れて、『黄金夢魔』の横薙ぎがバトルドレスの腰を抉る……、

「シェリス! 迂闊だぞ!」

「ナイスでぃ兄弟!」

「ひっはっ」

 いや抉る前にハルトは飛びかかり、二丁剣銃でシャベル宝剣を叩き下ろした。次いでシェリスのフロントキックが『黄金夢魔』を突き放す。

「ヤロウ! ディレイ(遅延)かけてきやがったぃしゃらくせぃ!」

「んな単純なフェイントに引っ掛かるなよ!」

「バカ言えぃ単純なもんかぃ! 構えだけで騙くらかすならともかく、一度振ったモンをギリでズラすのはバカみてぇな技量がいるのだわ!」

「力任せなシェリスさんには苦手なヤツじゃあーー!」

「うるせぃっ、力任せじゃなくて速さ任せでぃっっ……でゃややぃっ!?」

「ひぃっはっはははは!」

 ーー レベル999 ()()()()()()() 『黄金夢魔』 ーー

ーー ATK:A DEF:A DEX:SSS AGI:B- INT:B- RES:SSS ーー

 ーー ディレイ レベル3(神級) ーー

 再び躍りかかってきた『黄金夢魔』。

 なるほどその剣術は変幻自在。狂ったリズムのようでいて洗練されたディレイ攻撃を、のべつまくなしシェリスへ奏でた。

 速さを以て場を支配するはずの姫君が、防戦一方に甘んじるほど翻弄される。

 己のリズムというものを強く持っているシェリスにはキツい相手だ。

「ひはぁぁはは!」

「く、っ、ムカつくヤツだ……!」

 隙を見てハルトが剣撃と銃撃をねじ込もうとするも、左手のバックラーで殴り返される。しかもその一発一発が、文字通り痺れるほどに鋭かった。

「イエちゃん! みんなの足下、シュネーヴィ無しでもうまいしこーできる!?」

「す、少しの間なら……!」

 と。腹パーツにしがみついてきりもみ回転するばかりのイエへ、空中サーフィンをしながらマリーがハイタッチをして。

「オーケイ!」

 彼女は、フリルもろとも変形したメイドカチューシャをバイザーとして目に掛けた。

「シェリスさん、ハルト、ちぃとごめんのっっ……ファーズ:ツヴァイ(Phase2)!」

「「っあ!?」」

 ハルトとシェリスのみならず、全員の足下から離れた七妖精隊がマリーのもとに再集合。

 七つに分かれた全身での分離攻撃を旨とするフェーズ1は、真には変形合体の準備フェーズである。

「シュピーグライン(鏡よ)!」

 腹、左脚、右脚。メイドメカの下半身だった3つが盾を連ねるがごとく圧縮変形し、マリーに纏われた。 

『シュピーグライン(鏡)!』 

 頭、胸、左腕、右腕。上半身だった4つはシュネーヴィの胸像へと再集合した。

「ドッペルゲンガー(合わせ鏡)じゃあ!」

『シュップールーガガガゥ!』

 マリーが纏ったのは、エーテルを噴かすバーニアブーツ。そして腹部パーツが変形した外骨格……エクソスケルトン。

 背後には、林檎型小盾ビット『アプフェルビッシェン』たちにより浮遊したシュネーヴィを伴って。

 それはさながら、自らの二重身を背負うような出で立ちだった。

「《ウインドライド》……!」

 滑空魔法ウインドライドによりバランスを得たハルトたちの合間を、()がゆく。

「ひひぃーっはは……!」

「おどりゃあッッ!」

『プシュルアッッ!』

「ひは……っ?」

 ズレて、ズレて、しかし噛み合った金属音。

 『黄金夢魔』が舞ったディレイ連撃を、シュネーヴィの腕とマリーの脚が全ていなしたのだ。

 ーー パリィ レベル2(達人級) ーー

「ギフトシュラーグン:SP!(毒正拳:鏡)!」

『ガガルー!』

「ひぎっ……」

 フェーズ2は、ディフェンダーなマリーとしては攻め寄りの形態だ。パリィ&カウンターのスタイルはそのままに、前へ前へダブル正拳突きとドロップキックを重ね合わせた。

 胸郭を突かれた『黄金夢魔』は豪快に飛んでいき、絶壁に激突すると岩盤やダイオウムシを吹き飛ばしたのだった。

 そんな土煙もまた、あっという間に上へ上へと遠ざかっていったのだ。

「相手と相性が悪いっちゅうんじゃいっ! おどれのディレイはレベル3かもしれんがのうっ、わしとシュネーヴィなら2足す2で合計レベル4よ!」

「いやその計算はおかしい……!」

「要は気合い気合い! じゃあ!」

 そんな根性論はともかく。たしかにマリーにとって、相手がどんなに神がかったディレイをかけてこようとも『パリィの一瞬を読む』ことに何ら変わりはないのだ。

「昨日はあのぱーぷー(アホ)に速さで負けたけどっ、もう負けんのじゃけえっ! ぷんすか!」

「あの岩女にぶっ飛ばされたのが相当キテるみたいでぃ」

「それこそ相性だと思うけどな……とにかく助かったよマリー」

「みなさん、怪我はありませんかっ? う、《ウインドライド》しながらの《ヒーリング》は初体験ですが、が、頑張りますので……」

「ああっイエちゃんごめんごめんごめん! シュネーヴィ、ファーズヌル(Phase0)!」

『プシュールガガ!』

 変形解除。シュネーヴィは元のメイドメカへと組み直され、皆をしがみつかせた。

『……大したもんだけどねぇ。本当に大丈夫なのかい?』

「は? 何がだよ婆さん」

『そっちが話してたことじゃないさ。アンタらが戦った『赤き岩塊』はたしか……』

 シロリドが言い終わる前に、重い破壊音。

 遠く頭上の岩壁がもげ、肥大化した土煙の中からソレらが急降下してきた。

「ひーーーーっはははははははははぁ!」

 ーースカ……ベ…………ハイル・プリンセス……

 ーーヒメデン……カ、……スカ、カカ……

 ーーノタメ、ニ……ヒメ、メメ……ベン、ッ

 数体のダイオウムシを伴った『黄金夢魔』だ。

 ーー 《ステータス》 完了 ーー

 ーー 状態 『無敵』 ーー

 ーー 効果時間 残り:9999999…… ーー

『ほらみたことかい! ヤツも『無敵』じゃないか……!』

「わ、忘れてたーーーー!」

「のだわぁ!」

「です……!」

「ちょっと!? ダイオウムシが喋っ……なしてあん子らまで連れとん!?」

 遠目からにはわからなかったが、その答えはかの小隊が近づいてくるほどに明らかだった。

 ダイオウムシたちには手のひらサイズの黄金ダイヤが突き刺さっていたのだ。

 黄金色のハートな魔力が彼らに纏わりついていた。

 ーー 状態変化 『魅了』 ーー

魅了テンプテーションンン!? 『黄金夢魔』の名は伊達じゃねぇってかぃ!」

 『魅了』。体内魔力オドエーテルの記憶や思想を司る部分を書き換えられ、術者の信徒となってしまう洗脳状態だ。

 オドエーテルの自浄作用や強い衝撃によって解かれる類いのバッドステータス……なのだが、いささか様子が違っていた。

 ダイオウムシたちに刺さった黄金ダイヤが増殖していき、彼らの身を包んだからだ。

 ーーハイル・プリンセス!

 ーーハイル・プリンセス!

 ーーハイル・プリンセス!

 甲冑と、剣と盾。

 ーー チートスキル 《ロイヤルテンプテーション》 ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー 

「へ、兵隊さんです……っ!」

「またチート……! 親衛隊のつもりかよ!」

 在り方すら変質してしまった命が、ただ主人……公を煌めかせるためだけにそこにいた。

 眩いほどの黄金に満ちた姫君と親衛隊は、しかし、堕落と退廃の姿に満ちていた。

 どうやら、先ほどまでの剣闘は余興だったらしい。

『来るよ! どうするんだい!?』

「どうもこうも倒すしかねぇのだわ! シェリスさんと兄弟はダイオウムシをっ、マリーは本体狙い、イエ子は兄弟から離れずにサポ……」

 と、シェリスのシャベル指揮に皆が応じる前に……、

「ひばゃっ」

 ーー スギャッ ーー

 ーー プギュッ ーー

 ーー ハベェッ ーー

 第七隊の目前で、『黄金夢魔』隊は平べったくなったのだ。

 そう。何か、見えない壁にでもぶち当たったように。

 ただしその『壁』は、実際には見えていた。

 ただしその『壁』は、『霧』だった。

「この霧は……!?」

「……お姉さん……!?」

 奈落の先には、霧が満ちていた。

 岩壁も途絶え、もはや日光すらも届かない中で、黄昏の底から月光とともに立ち込めていた。

 その混沌……『闇』は第七隊を呑み込んだというのに、『黄金夢魔』たちを阻んだのだ。

『こりゃあ『闇』のエーテル……!? なんだい、そんなもんに弾かれるなん……て……ます……ま……怪……』

「教皇猊下!? ど、どしたんならあ!?」

 ーー エラー が 発生しました! ーー

 ーー フロレンシックレコード 接続できません! ーー

 ーー 同期失敗 アバターモード 終了します! ーー

 ーー 録画 続行中です! ーー

「通信が切れたの……!? いよいよ世界の淵に来たって感じじゃあね!」

「ほーっはっはっはっはっ、ザマァ見さらせぃ偽物ヤロウ! ババアもお気の毒なのだわ!」

「今のうちに《ヒーリング》、《リフレッシング》、リペアパウダーに……エーテル回復に飴ちゃん……う……ぷ」

「おまえがいちばん吐きそうなんだが……!? ほら掴まれっ、絶対はぐれるなよ!」

 世界の底へ。『闇』に振り回されながらも、第七隊はいつもの調子で、進む、進む。

(『星』の代弁者を名乗る『白式』が、『闇』に弾かれた……?)

 ーー「私たちは『白式』。追放された『星』の意志に代わり、在るべき形へ世界を廻す者です」

 女教皇も言いかけていただろうその違和感が。あの幽鬼の薄い笑みがごとく、ハルトの胸中にこびりついていた……。

 

  続

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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