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Karte.11-3「光の導きあれであります!」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


 ○


 数時間後……。

 そこは熱風吹きすさぶ黒炭の大地。

 南の果て、

 アン・アッシーク小大陸。

 水面下ギリギリに火口のせり出した海底火山が、溶岩流混じりの焦土を形成し続けている。

 ただしそれ自体は波に侵され数日で消えゆく軽石でしかなく、本来ならば小大陸ほどにでも陸地には成りえない。

 この地を真に繋ぎ止めているのは、この()()()()()まで流れ着いた瓦礫やゴミだ。

 木、石、鉄、紙、骨……地方も年代もバラバラな成れの果てが混沌と寄せ集められた、まさに終末的な風景がそこにある。

 今。魔法式ホバークラフトである水上移動小教会『ランペドゥ』が、魔力障壁で護られた北端のベースキャンプへと接岸されていて。

 北ゲートのそばに、聖騎士隊が整列していた。

「ーー今回のボランティア活動の流れは以上であります! ザッツオール!!」

 踵の角度までキッチリカッチリ折り目正しく、一団の前で挙手してみせたのはエティルである。

 対するパラディンたちは祈りの礼で寡黙に応える者がほとんどだ。

 ただし彼らの後方に詰めた者たちは少し違った。

「おいっす!」「了解でっす!」「いつもどおりだね!」「隊長~気合い入ってるう~」「ここのボランティア激アツなんだよなー良くも悪くも」「実際暑いしね」

 エティルと同じ楽隊風の法衣を纏い、しかしケピ帽ではなく標準礼装のベールを被ったシスターたちだ。

 柄頭に鏡を付けることで魔術用の小杖としての機能を持たせたハンドベルを携えている。

 一方、ベル付きのバトンを持つエティルがそれを軽く鳴らせば、かしまし娘たちの野次はすぐ静まっていって。

「なお、ベルアーデ帝国騎士団第七隊には遊撃手として参加してもらうであります! 先の『白式』騒ぎに係って身の潔白を立てたいそうなので、どしどし手伝わせてあげてほしいであります! コープ!!」

「よろしくお願いいたします」

「ボランティアでもオーク汁ぐらいは出てくるんだろうなぃ?」

「暑~い……汗が籠るんよのう、こんラバーメイド」

(……どうしてこうなったんだっけな)

 エティルの脇に並んだハルトたちもまた、纏まりなく身振り手振りで挨拶したのだ。

「では開始時間を既に過ぎていますので、さっそく1分後にスタートするであります! 各員、準備始め! プリペアー!!」

 そうしてエティルが号令をかければ、教会の面々は装備の最終確認やバディとの打ち合わせに動き出した。

「あ……冷房、延長しますね。《エアコンディショニング》」

「あんがと~。白魔法って何気に便利ねえ、いつでもどこでも」

「おまかせください。今の私は全力を超えて超全力です。頑張ります」

「ほははは! その意気なのだわぁ!」

(どうしてこうなったんだっけなあ)

 空調魔法エアコンディショニングが第七隊の頭上で『火』と『水』のエーテルを吐き、ちょうどいいバランスで皆へ浸透していった。

「……ハルトさん? もしかして寒いですか? 冷え性ですか?」

「え? ああいや、違う違う。朝はエストにいたのに、今はこんな世界の果てにいるなんてまだしっくりこなくってさ」

「しっくりきてください。しっかりしてください。なんといっても()()()()()()()()()()()()()のですから」

「お、おう……たしかにいつも以上に熱くなってるな」

「暑いですか。《エアコンディショニング》、《エアコンディショニング》」

「さっっっっむ!? 違う違う、そういう意味じゃなくて……!」

「皆さん! イエちゃん! 本官、アホなので事情はよくわからないでありますが光の導きあれであります! 」

「ありがとうございますエティルさん。私もバカなので神様とか奇跡はまったく信じていませんけど嬉しいです」

「それはなによりであります!」

「いえいえそんな」

(バカとアホがすっかり仲良くなってるし)

 そう。これはアリステラを救うためのクエスト。その第一歩なれば。

「エティルさんエティルさん、()()()()へはどう向かったらええかのう?」

「はっ、南へまっすぐ行けばそのうち着くであります! ゴーサウス!!」

「んなこたぁわかってらぃ! もちっとマシな攻略法をよこしやがるのだわ!」

「むむむ。しかしですね、どこをどう進んでも()()との戦いは避けられないでありますので……攻略もなにも強行突破しかないであります。ランスルー!!」

 と、エティルが指差した先……。

 さながら古戦場じみた退廃の原野が、遠くで動きはじめていた。

 地平線が()()()()()

 今まさに、無数の影がこの地の果ても果てから迫っていたのだ。

 ーースカベベベベベベ

 ーース、カ、カ、カ、カ、カ、カ、カ

 ーースカベンッ

 大人の背丈より少し小さいくらいだろうか。異様に背を丸めたそれらが、千差万別な()()を背負いこみながらダバダバと駆けてくる。

 ムシだ。

 ゴミを背に拾い集めながら爆走する、フナムシ型の魔物たちだった。

「来たであります! ()()()()()()!!」

 どんどこ翻したベル杖を、エティルはざっと1000体からなる大軍勢へ突きつけた。

「皆々さんっっ、()()()()()()()()開始でありまーーす! ぱっぱらーーーー!」

「ちょっ、おい!? 心の準備……!」

「ほーっはっはっはっはっはぁ! どけぃティルティルっ、鬨の声と一番シャベルはこのシェリスさんのものなのだわ! とぉぉぉぉつげきストラァァァァァァイク!」

「むむむむ! 『ベル』が付く武器同士、本官、シェリスちゃんに負けられないであります! キャンノットルーズ!!」

「なんだかんだでシェリスさんも仲良おなっちょるねえ」

「「「「「「「「おおおお! 光の導きあれええええ!」」」」」」」」

 すわ、祈りの叫びとともにエティルとシェリスに続いた聖騎士隊。その重厚な光に呑み込まれてしまわないようにハルトたちも走りだした。

「ほんと、っ、どうしてこうなったんだっけなああ!?」

 南エウルを含めた五大陸もまだよく識らないのに、こんな、世界の果てに踏み込むことになってしまった。

 ダイオウムシ駆除ボランティア……、

 もちろん、真の目的はそんなことではない。

 見据えるは大軍勢の先……、

 この円錐形の『星』から海水も何もかも零れ落ちる、世界の果てのそのまた果てだ。

「はい、教皇さんのおかげなのです……!」

 そう。どうしてこうなったかというと……。


 ○


 数時間前。

 エスト市国聖庁舎、教皇執務室にて。

「ふうん。自称『闇』の守護精霊、勇者アリステラねえ……」

「です。お姉さんにはまだまだ隠し事があるみたいですけど、私たちが知っている限りのことは話しました」

 この聖女教会総本山へと見学旅行に来たのも、かの魔女の眼によるものなのだと。一切の事情を語り終えたイエは、卓上のタリスマンへ手を添えた。

 対して教皇シロリドは、椅子に背を預けながらしばし考え込んでいる様子だった。

 ーー 録音 終了します! ーー

 耳元に『炎』色の魔方陣を回して録音稼働していたハイフェアリーを、腕の中へ呼び戻して。

「聖典とか、神代の『吹き溜まり』から出土した碑文ならざっと読んでるけどね……闇属性の精霊がいたなんて話は知らないね。特に『ユウシャ』なんてのは聞いたこともない」

「そうですよね~。この子たちには四大属性の名残はあっても、『光』と『闇』の妖精は一体もおらんのんじゃあですもの」

 七妖精隊を身体中に乗せながらマリーが前のめりになった。フェアリーたちはたしかにバリエーション豊かな髪色や所作を有していたが、それらはたしかに『火』、『水』、『土』、『風』で当てはまる限りのものだった。

「『光』の影から生まれた『闇』……つまり『星』の意志。彼あるいは彼女の混沌から分かたれた精霊たちは、ある意味で上位的な『光』と『闇』の属性は持たなかった……ゆうんが通説なんじゃあよね」

「さすが、D&E商会総帥の孫娘さね。説明の手間が省けるよ」

「えへへん! 恐縮ですわあ、ありがとうございます!」

『そりゃそうだぞ猊下。うちの娘が方々で恥かかないように、彼女にはうちで一番の英才教育を施してあるしね』

「解せねぇのだわ」

『マリちゃんがセンセならシェリちゃんも大人しゅうおベンキョするやろ』

 呑気にティーカップを傾けている帝王一家はともかく、フロリドは肩をすくめた。

「ただし聖女教会の関係者としちゃ……べつにアタシみたいな物好きじゃなくってもね、その『アリステラ』の正体は察するに余りあるよ。むしろ神話に疎すぎるあんたらに呆れるくらいさね」

「悪かったな。だから資料館で見学してきたんだよ」

「フルオラニアか……あそこはプロパっぽいのがちょいと気に食わないけど、さめでもわかる神話ツアーは悪くないね」

 ハルトたちは一人ずつ、厳めしいまでの皺に囲まれた眼差しに見渡された。

「あんたたちも薄々気付いてるんじゃないのかい? その『闇』の守護精霊とやらの本当の姿に」

 ……誰も、答えることができなかった。

 シェリスは腕組みをしてみせただけで、マリーは小さな息を吐いただけで。

 イエも、タリスマンへの指先に力が込められただけで。

「……確証は無いんだ。まだ本人に訊けてもなかったし……なんていうか、少なくとも俺は、あいつの正体を識ったら何かが決定的に変わってしまうんじゃないかって気がして」

 識るということは、時として受容以上の混沌を伴う。その()が前へと進むために必要な痛みだとしても、様々な理由から踏み出せないのが人間性だ。

「アンタらのお気持ちは知らないさ。好きなだけ悩んで勝手にすりゃいい。だけどね……葬式ムードになるのだけはまだ早いんじゃないかね」

 シロリドがテーブルへ手を打った。

「そのタリスマンじゃ生きてるか死んでるのかもわからないってんなら、()()()()()()()()()()()()じゃないか。……話を聞いた限り、その嬢ちゃんのご本尊は『人の島』ってところにあるんだろう?」

 快活なる老婆はクツクツと笑っていたのだ。

 ハルトとイエは目を丸くしたまま、困惑の様相を見合わせた。

「教皇さん……それは難しいと思います。あそこに行くのもお姉さんから《カミングホーム》のスキルをもらわないといけなくて、《ファストトラベル》でも見つからない不思議な場所にあるんです」

「そもそも本当に実在する島なのかどうかも怪しいしな……」

 地図に載っていない島、なんてレベルではなく。異界とでもいおうか、この世の道理では『視えない』のだと感じ取れてしまう場所なのだ。

「まあ聞きな。そんな島なのかはわからないけどね、それらしい場所なら心当たりがあるんだよ」

「えっ……!?」

「ほ、本当かっ?」

「なんでぃババアっ、もったいつけてないでさっさと教えるのだわ!」

「シェリスさん……! いま、大事なところなのでお静かに……!」

「でゃ……お、おう」

 マリーが「シェリスさんっ……って、あらら」、嗜める前にイエが桜髪を逆立てた。

「おやたまげたねえ。さすが白魔法師、ヒトの命が懸かってるとしたたかなもんだ」

「当然です。家族でも、精霊でも、それ以外でも、命を救うために『できる』ことをし続けるのが私の生き方です」

「くく……なるほど、アンタみたいな人間を『闇』が護りたがるのも道理さね」

 ーー ワールドマップ 表示します! ーー

 シロリドのハイフェアリーが、卓上へ『星』の立体幻影を映し出した。 

 円錐形の大地。ハルトたちがフルオラニア資料館で見た模型よりも詳らかな造りで、五大陸や島々はもとより、東西南北の果てを縁取る四つの小大陸も描かれている。

「神話に曰く。この世の果てのそのまた果てには、どこまでも深い『闇』があるそうだよ」

 なによりこの立体世界地図が秀でているのは。命が暮らす『星』のみならず、文字通りに()()()()全体を象っていることで。

 天文学者たちが魔導技術で観測するところによると、世界……すなわち『星』を内包した『宇宙』は()()()()()のような円筒形をなしているのだという。

 ゆえにこの幻影も、中央に『星』が浮かんだ円筒形だった。

 シロリドが指差したのはその最下層である。

 『星』から出ずる海が……命が……世界の端から零れ、どこまでもどこまでも落ちていった果て……。

 『宇宙』の底に、混沌が深まっていた。

「その名は……」


 ○


「おおおお多い多い多い!」

 ーーベベン

 ーースカァァァベンッ

 ーースカベンジャァァァァ!

 切り込み隊……もとい遊撃隊のハルトたちがぶつかれば、数十ものダイオウムシたちが千切れ飛んでいった。

 ハルトたちと神官たちによる合同ボランティア隊は、ガラクタ色の波濤を迎撃しはじめた。

 ーーカ、カブッ、ガブガブ!

 ーースャカァァッ

 ーーベジュゥゥ

 ダイオウムシたちは可動域に優れた長い節足を有していたが、鋭いそれらを攻撃のためには一切使ってこなかった。

 なにしろ背中のゴミを支えるだけでほとんどの本数を使っていたし、爆走しながらでも新たなゴミを拾い集めていたからである。

 だから彼らの攻撃方法は、ただただ、シャッター状の口に粘着液を泡立たせながら『噛みつく』だけだった。

「ひええええんアップで見せんで! トライポフォビアになっちゃう!」

『ガガガ!』

 マリーをおんぶした妖精機シュネーヴィが、タワーシールドやシールドビットでダイオウムシたちを打ち返していく。

「こ、こほんっ……ダダダダイオウムシの特徴は極めて強い悪食と繁殖力ね! 背中のゴミはどがーもんでもこん子らのご馳走じゃ! 定期的に駆除しなかったら他の大陸にまで進出して、計算上は半年余りで世界征服を達成しちゃうとかしないとかああああ!」

「解説どうも! でも今いるかその情報!?」

「解説でもして気い紛らわさんとやれんわああ! わしこういうのちょっと無理かなああ!」

「落ち着いてくださいマリーさん。こう考えましょう、百万のムシさんより一体のゾンビのほうが百億万倍怖いです」

「ううん絶対に百万のムシのほうが怖いわよお!?」

「なにを言っているのですかマリーさん……! ゾンビは、ゾ、ゾゾゾゾンビは最初は一体だけでも噛まれたらすぐに一十百千万十万百万あわわわわわ」「おまえら二人とも落ち着けええええ!」

『プシュルガ~!』

 ディフェンダー(守り手)な彼女&カノジョの移動防壁ぶりに守られながら。ハルトは二丁剣銃パラレラムによる魔弾連射を、イエは《インベントリ》からの殺虫薬連投を敢行していた。

 精密に撃ち抜くこともぶん投げることも難しいが、これだけ標的が多ければバラまくだけで当たる。特にイエはいつも以上に奮起しているようだった。

 一方。そんな三人の左右を、極細の『光』たちが突き抜けていった。

 さながら機織りでも見るように、美しいまでの水平かつ等間隔な魔法の矢だ。

「「「「「「「「構え! 狙え! 《ライトアロー》!」」」」」」」」

 カイトシールドを地に突き立て、モノポッド(一脚支持装置)として杖を固定し、光矢魔法ライトアローで狙撃していく聖騎士たちである。

 攻撃魔法として初歩も初歩であるアロー系魔法は、だからこそ部隊戦術に組み込みやすい。もっと上級の魔法を扱える隊員だっているだろう、しかし戦闘機動の中核とは『個々の尖った力』ではなく『全体の均された力』なのだ。

 貫通力特化にアレンジされているらしいそれらの《ライトアロー》は一呼吸のズレもなく、ダイオウムシの先陣を何層も突き崩していった。

 そして……皆を後押しする力がもう一つ。

「「「「「「「「ア~♪ アァ~、アッ、ア~~~~アアアァアァア♪」」」」」」」」

 後ろでハンドベルを回す聖歌隊シスターズの……歌。応援。

 それはアップテンポにリミックスされた聖歌だった。

 ただし、それはただのチアにあらず。

 ハンドベルという小杖から、音波と音色を象徴した色とりどりの魔力が謡っていたからだ。

 一つ一つは小さい範囲ながら隊列でカバーされ、前衛へあまねく降り注いでいた。

「「「「「「「「構えぇぃ! 狙えぇぃ! 《ライトアロー》ーーーー!」」」」」」」」

 ーー ステータスアップ! ーー

 ーー 聖騎士隊 オールステータス 3RANK UP! ーー

 ーー 効果時間:歌唱中有効 ーー

 するとどうだろう。聖騎士たちの機動に磨きがかかり、聖歌と同じくどんどん上がり調子になっていった。

「オーケイ!! 続いてニコン組曲07改、リズムはブルースで本官に合わせるであります!」

「「「「「「「「ハ~~~~イ♪」」」」」」」」

「おまっ、こら人の耳元でヂリンヂリンうるせぇってんでぇぇぃ!」

 そして彼女たちの指揮を執るは、エティル。

 シェリスとともに最前線で、まったく戦うことなくバトンベルを取り回していた。

 ーー ステータスアップ! ーー

 ーー ベルアーデ帝国騎士団第七隊 オールステータス 3RANK UP! ーー

 ーー 効果時間:歌唱中有効 ーー

詩援(しえん)魔法はそういうものであります! ので! ア・シスト・マジック!!」

 ーー 詩援魔法 レベル2(達人級) ーー

 特定波長を持たせたエーテルの共鳴により対象を強化する、これぞ《ア・シスト・マジック》、通称『詩援魔法』。

 数十年前に破天荒な破戒シスターが編み出したという、変わり種のバフ魔法だ。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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