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Karte.11-1「一列に並びな!」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

 フルオラ教国にて。

 経済上の首都エヌシアのさらに中央にこそ、聖女教会の総本山たるエスト市国はある。

 明朝……、

 聖女を識るために開かれたこの街は、今、破壊されていた。

 人も建造物も分け隔てない、しかし無軌道な力の痕がそこかしこに残っていた。

 いまだ『火』に燃え、『水』に凍り、『土』に崩れ、『風』に裂かれ……。

 白黒の法衣を纏った聖騎士パラディンや神官たちが救護と撤去に従事している。テーマパークのように可愛らしい趣向が凝らされた街並みだけに、その物々しさはいっそう痛々しかった。

 一方。街の奥にそびえる大聖堂の周囲では、警備のために残されたわずかな聖騎士たちが緊張感の中にあって首を傾げていた。

 大聖堂の周辺にも被害はあったが、それらは流れ弾のように偶発的なものばかりだったからだ。

 聖女像広場から目抜き通りを介して侵食してきていた『破壊』は、あともう少しでこの街の中枢へと至れるというところで終わっていた。

 諦めたのではなく。そうするまでもなく目的を完遂したとでもいうように、不気味なほど潔く。

 あるいは、キリの良いところで児戯を終えるように……。

「あの『白式』たちにとって聖女教会は最大の敵でしょ? この聖庁舎を奇襲すりゃあ教皇も枢機卿たちもおったんに、街だけ破壊してくなんて戦略的じゃあらんわ」

 一般向けに開かれたその大聖堂の向こう、天を仰ぎ見る白亜の城郭に不遜な分析がこだまする。

 最高位の神官たちが祈りと施策を日夜捧ぐ、ここは『聖庁舎』……、

「マリー……この牢けっこう響くんだから滅多なこと言うなって。見張りの神官たちに聞こえるぞ」

 ……その地下にある、牢獄にて。

 ベルアーデ帝国騎士団第七隊……ハルトたち四人は、戦闘後のボロボロの姿のまま投獄されていた。

「聞かせとるんじゃいっ! ぷんすか! わしらは一所懸命戦ったのに、『白式』と間違えるなんてサイッッッッテーだわ!」

「うるさいぞ異端者どもめ!」

「貴殿らの認否は聖女フロレンシアの御威光の下、教皇猊下が明らかになされる! それだけでも光栄に思いたまえ!」

 正確にはまだ罪状も何も定まっていないので、勾留されているというべきか。

 建物の基礎剥き出しの牢獄はジメジメと冷たく、澱んだ土埃と苔に満ちていた。ただし手入れされていないというよりは……、

「おいそれより、あいつらを入れた房の鍵ってこれだったっけ? こんなとこ本当に使う日が来るなんて思わなかったぞ」

「よしてくれ、いざ呼ばれた時にアタフタしたくないぞ。なんだったら今のうちに掃除でもしておくか……」

 そもそも、あまり使われていない場所らしい。ハルトたち以外に収容者は皆無であり、階上への小階段の前で聖騎士二人だけが錫杖と盾を立てていた。

「……なに見てんのだわコノヤロー。外交問題にするぜぃコラ」

 鬼の形相のシェリスが鉄格子の真ん前で仁王立ちし続けていたから、聖騎士二人は所在無さげに兜の奥でむせていた。

(ご丁寧に『魔枷』付き、か。俺たちが本当にあの連中だったら大人しく着けてやるわけないだろ)

 ハルトたちには首輪状の枷が着けられていた。体内魔力オドエーテルの鎮静により特に詠唱を意味消失させる、人魚種の魔物素材由来の『ハウフルチョーカー』だ。

 これにより転移魔法ファストトラベル帰還魔法リターンで脱出はできない。

 擬似精霊フェアリーは没収されずにそれぞれの衣服から顔を出していたが、オドエーテルでコマンドを伝えられないので武器の取り出しや念話すらできなかった。

(……くそ。あんな、デタラメなヤツら……)

 ーー「皆さん……はじめまして」

 ーー「ひははははは!」

 ーー「ギュルル。カチ、カチ、カチ」

 ーー「ーーーー

    ーーーー」

 もとより逃げ出すつもりなんてない。このほの暗い()の中こそ、内なる恐怖を見つめ直す意味では最適な場所かもしれなかった。

 ーー「この世界は間違っています。フロレンシアの加護を受け入れた皆さんは悉く私たちの敵であり、滅びを以て償わなければなりません」

 ーー「私たちは『白式』。追放された『星』の意志の代行者、在るべき形へ世界を廻す者です」

 『白式』。神代のクリア聖戦において人類に仇なしたという背徳者たちを称する、あの四体の異形はいったい……。

(どうして……俺たちに似てるんだ)

 それは口に出さずとも。ハルトたちの誰もが払拭しきれずにいるだろう疑念だった。

「……《ウィッチクラフト》……」

 ハルトは、あまりにもか細い傍らの声へ寄り添った。

「イエ。やっぱり……起きないのか? アリステラは」

「……はい」

 白魔法師イエは、ローブの胸元へ手を組み続けていた。

 それは祈りではない。ネックレスとしてローブの内に秘めていたタリスマンを、ずっと看続けていた。

 闇色のクリスタル……、

 イエの自称守護精霊にして自称『勇者』、アリステラ。

 その依り代は、喰い散らすような凶刃によって深々と抉られていた。

 イエが1レベル分のオドエーテル(経験値)を捧げれば夢の狭間から目覚めるはずの彼女は、いまだ応えてはくれなかった。

「手持ちのリペアパウダーもポーションも使ってみました、でも、効き目はありませんでした……」

「そうだな……。できることをしよう」

 袖の中の隠しポケットに覗いた小箱も小瓶も、そのほとんどが空になっていた。火属性に照る粉や薬草色の薬液が、乙女の膝の上になりふり構わず散っていた。

「没収されないだけよかったというべきか……ていうか、捕らえるにしてもやっぱり杜撰すぎだろ。ろくに身体検査もされずに押し込められただけだぞ」

「けっ、昔話のバケモノが現れやがって絶賛パニック中なんだろぃ。うちの帝国ならこうはならねぇのだわ。ここに来るまでに見た感じ、たぶん指揮系統の違ぇチグハグな命令が3つも4つも飛びまくってるみたいだったからなぃ」

「さすが、わかるのかそういうの」

「簡単でぃ。末端の連中の顔さえ見りゃ、現場の見えてねぇお偉いさん方にイジめられてるかどうかぐらい一発なのだわ」

 八重歯を剥き出しながらケケケと睨んでみせた先では、聖騎士二人が口を『へ』の字に引き結んでいた。

 と、そんな時だった、

 出口の扉が甲高く押し開けられ、明けの日射しが遠慮無しに射し込んできたのは。

「おはようございであります! グッドモーニング!!」

 オルガンの音色を思わせるハスキーボイス。歩く一挙一投足は愚直なまでに折り目正しい。

 フォーマルに布地を詰めた法衣はズボンとスカートを重ねたダブルボトムスタイルで、ケピ帽を被った姿は楽隊員かのようだ。

 トライテールの銀髪が、フルオラ地方の民によく見られる『陽光の恵み』の小麦肌へそよいでいた。

「せ、『聖歌隊』隊長殿!」

「おはようございます隊長! 光の導きあれ!」

「光の導きあれであります! エスト!!」

 指先を口元から頭上へ繋ぐ、聖女教会の祈りのジェスチャー。

 見張りの聖騎士二人に応えたその者は、牢の前に立ちはだかった。

「二度目まして! 本官は教皇猊下の代理、エティル・フローラであります! ナイストゥミーテュー!!」

「なんだよ『二度目まして』って」

「貴方たちとは捕縛時に会っていますがこうして話すのは実質はじめてなので、便宜的に造語したであります! コインドワード!!」

(アホが来たな)

 みょ~んと伸びたアホ毛を帽子で抑えた、シェリスと同い年か少し年上くらいのシスターだった。

「あああん? エティルだのフローラだのどっちが名前でぃコラ」

「『フローラ』は聖女教会の神官に与えられる称号でありますコラ! ファッ○ュー!!」

「んだとゴラァ!?」

 アダルティな魅力の香る女性だったが、どうにも、アホっぽいシスターだった。

「シェリスさんが難癖つけるからじゃろお。ごめんなさいね、ちょっといま教会関係の人にネガティブキャンペーン実施中だから」

「ふむむ……? 本官、何かされたでありますか? むしろしたでありますか? 相手に寄り添った話し方を心がけるようにと言われているのですが。スナッグルアップ!!」

「イエとはまた違うタイプのアホが来たな」

「ハルトさん……」

「わるい」

「アホよりバカと呼ばれるほうが好きです、私……」

「バカだなおまえ」

 相変わらず元気の無さそうなイエだったが、少なくともいつもの調子は取り戻しつつあるようでハルトはホッとした。

「アイムソーリー!!」

「なんだよいきなり!?」

 やにわに、エティルなるシスターは片膝を付くと第七隊へ祈りを捧げた。

「貴方たちが街を襲った『白式』だというのは誤認でありました! むしろ彼女たちと戦っていたという証言が多数得られたのであります! テスティモニー!!」

 ……第七隊は顔を見合わせた。シェリスはまだ唇を尖らせていたが、ハルトたちは息を吐いた。

「ただし! ハウエバー!!」

 しかし。バネでも付いているかのように立ち上がったエティルは、クワッと垂れ目を吊り上げた。

「貴方たちには他にもいくつかの嫌疑がかかっています! これから猊下の前で洗いざらい告解してもらうであります! コンフェッション!!」

 ……今度はシェリスも含めて一様に眉根を寄せた第七隊だった。


 ○


 フローリナ礼拝堂。

 聖庁舎の中心にして、聖女教会という組織の舵を取る中枢だ。

 毎日の祈りに用いられるのはもちろんのこと、そこは概して『議場』であった。

 黒髪に後光を背負った聖女のフラスコ画に見守られ、細い円環をなした長机が中央に据えられている。

 十数人の常駐枢機卿たちが、老体をバタつかせながら議論を交わしていた。

「かの『白式』はタチの悪い偽物に違いあるまい!」

「いかにも。教会の歴史上、そのような輩に脅かされたことも無いことはなかった」

「曖昧な言い方はやめたまえ」

「まあまあ。そういう異端騒ぎは公式記録に残さない方針だったのだ、仕方ない」

「し、しかし、瞬く間に街を破壊するほどの力を持っているのじゃぞ」

「では本物の『白式』だと!? それこそありえない!」

「そうとは誰も言っていないでしょう。楽観視できないということです」

「確実に言えることは、ただの愉快犯と軽んじるべきではないということですな」

「なにをわかりきったことを」

「そもそもなぜ、本物の『白式』ではありえないといえ……」

 と、

「あああああやっかましいね!!」

 ……と。女声と打音が、空騒ぎを一絡げに貫いた。

「憶測だけでポンポンポンポンしゃべくってんじゃないよ! そんでもってどうせ最後は『何もわからないことがわかりました』ってんだからしょうもないったらありゃしないね!」

 嗄れた女声が薬草色の煙をくゆらせる。床を打っていた錫杖をステッキよろしく翻す。

 枢機卿たちが萎縮しながら座した長机は、この礼拝堂の真の中心ではなかった。

 長机を一段上から見下ろす最奥に、天を目指す『光』を象った玉座があった。

「なんだい今度は揃いも揃ってだんまりかい!  いちど喧嘩を始めたらフルオラ教皇でも張り倒せっていうだろまったく! 意気地が無いね!」

「そ、それを猊下が仰いますか」

「物の例えを本当にやるわけにもいきませんわい猊下」

「猊下、これは喧嘩ではなく建設的な議論でして……」

「猊下猊下うるさいね!! アタシゃ教皇だけど王様じゃないんだ、いちいちビビるな!!」

 小麦色の肌、褪せた銀髪を結ったドレッドヘアー。絶対に似合っていない荘厳すぎる法衣姿を引きずりながら、ファンキーな老婆が座していた。

「もうアンタらは黙ってな! この子らにゃアタシが話を聞くからね!」

 ピィ……とビビりまくった枢機卿たちへぬるくなった白湯を啜らせると、引き寄せる調子で手招きをするのだ。

「さあ! アタシの前で一列に並びな!」

(うちの帝王よりよっぽどボスっぽいぞ)

 通用口の暗がりで待たされていた第七隊は、聖騎士たちに杖と盾を突きつけられながら入場した。

 沈黙が張り詰める。

 枢機卿たちは今にも席から浮いてしまいそうなほど及び腰になっていたし、息を圧し殺したパラディン隊も早鐘の鼓動を隠しきれていなかった。

 言われたとおりにハルトたちが老婆の前に並べば。靴音の余韻が消え去るとともに、彼女はニッと煙草を噛んだ。

「待たせたね。アタシは聖女教会のアタマ張ってる、教皇シロリド・マム・フローラだよ」

「やいババア、とっとと釈放しねぇと外交問題にするぜぃコラ」

「シェリスー!?」「シェリスさん」「シェェリィィスゥゥさぁぁん!?」

 いまだ鬼の形相のままのシェリスへ、ハルトたちはもとより誰もがギョッと目を向けた。

「ベルアーデの小娘がナマ言ってんじゃないよ! アンタら、あの黒金の国のはぐれ騎士隊なんだってね!」

 いやただ一人、女教皇『マム』の称号を戴く彼女……シロリドだけは首を鳴らしてみせただけだった。

「わかってんならちゃんと客として扱えってんでぃ! こちとらこんなみっともねぇカッコのまま地下牢に転がされて、葉っぱしか乗ってねぇ嫌がらせピザまで食わされたのだわ!」

「そりゃマルゲリータピザだよ不良王女が! なんだいそのけったいな喋り方は、今時のエルフ弁は満足に啖呵も切れないのかい」

「喋り方は関係無いやろがアホンダラぁ、うちの教育方針の賜物やっちゅうねんほっとけやクソババア」

 一見わからないがシェリスはハーフエルフだ。金髪縦ロールの合間をよくよく見れば種族の特徴である長耳がある。

 そんな帝国王女のことならともかく、第七隊そのものは有名でもなんでもないのだが……、

「ま、不自由を強いたのはすまなかったさね。件の『白式』にパニクった司祭どもが独自に動きまくってね、上意下達がスパゲッティみたいに絡まっちまったのなんの。アンタらを捕らえてるっていうのがアタシの耳に入るのもずいぶんかかったもんだよ」

 シロリドには、何から何まで掌握しているような不敵な面持ちが見えた。

「けっ、そんなこったろうなぃ。部下のせいにしちまやぁ楽なもんなのだわ」

「事実なんだから言い訳するまでもないね。アタシゃ体も一つきりなら頭の後ろに目もついてない普通の人間さ、自分にやれるだけのことはやった自信しかないよ」

 玉座の手すりに置かれた灰皿へ、あっという間にチビた煙草を捩じ込む。

「だからアンタらにも礼を言わせてもらうよ。街では『白式』と戦ってくれてありがとうね」

 何も惜しむことはないという風に、聖職者たちの最高位は深々と頭を下げた。

 騎士隊も枢機卿たちもしばし動揺していたが、やや遅れてから次々と礼を払った。

 対して第七隊も。意外にもシェリスが……いいや当然か……バトルドレスが砕けてもなお黄金なる王女が(仏頂面で)敬礼を返せば、ハルトたちもそれに倣った。

「えとえと、恐縮でございます教皇猊下。シェリスさ……じゃのうてシェリザベート王女も御身の御厚意に敬服されておりますわ。ほんとほんと、一の侍女のわしが言うけぇじなくそ(うそ)とちがいますよ」

「ああいいんだよちいちゃいのちゃん、べつにそういうのは。なんたって()()()()()()()なんだしね」

 ちいちゃいのちゃん……と苦笑していたマリーをはじめとして、ハルトも疑問符を浮かべた。

 シロリドは、灰皿の脇のシガレットケースを開けた。

 薬草の絵と喉への効能が描かれたそこから、次のハーブシガレット(薬煙草)を咥えた。

 錫杖の先に灯しただけの光矢魔法ライトアローで、着火。

「で? あんたらはあの『白式』とどういう関係なんだい?」

 クワッと顔色を変え、前のめりに問い質すのだった。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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