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Karte.10-4「私たちは『白式』です」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

 ーー レベル17 魔導技師 マリー・ベル ーー

 ーー パリィ レベル2(達人級) ーー

 先手に出しゃばるのは二流三流、後手に応じて先手に立つ。マリーはパリィ(受け流し)によって相手を柔よく剛制す、カウンター型ディフェンダーだ。

 フェアリー同士でリンクされあったマリーとシュネーヴィの絆には、コンマ1秒ほどの誤差もありはしない。

 事実、鋼のカノジョは、『赤き岩塊』のタックルを芯から完璧に受け止めた。

「ギュルルァ!!」

「う、そっっっっ!?」

『シュギャッッッッ!?』

 だが。

 ーー パリィ レベル3(神級) ーー

 相手の勢い全てをハイリスクハイリターンに弾き返す、前に、

 逆に、弾き返された。

「パリィ返し……!?」

 ーー レベル999 ()()()()()()()() 『赤き岩塊』 ーー

 後手の先手を取られていたのはマリーのほうだったのだ。

 ーー チートスキル 《オートパリィ》 ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー

「チート、だって……!?」

 『赤き岩塊』は……疾かった。

 しかも。ソレが薙ぎ上げた豪腕にはいつの間にか、()()()()()()()のように『水』色の魔方陣が浮かんでいて。

『ガ……ッ』

 タックルがぶつかった肩から『水』のエーテルが伝播していくと、シュネーヴィは瞬く間に()()してしまったのだ。

「っ! エーテルバーニア!」

『ガガ!』

 シュネーヴィの各部から火属性に偏向された魔力が噴き出し、凍結は瞬時に砕かれた。

 しかし、その一瞬こそが命取りだ。

「カカカチッ!!」

 『赤き岩塊』が突き出してきた正拳突きには、疾くも『火』の魔方陣が展開されていた。

 爆ぜた衝撃が、シュネーヴィを7つに吹き飛ばしながら皆を巻き込んでいた。

 ーー ……ドック ーー

 ーー グランピーッ! ーー

 ーー ハッピ~ ーー

 ーー スリーピー…… ーー

 ーー バ、バッシュフル ーー

 ーー スニージー、っ、くしゅん! ーー

 ーー ドーピー? ーー

「っ、みんなあ……きゃあッッ!?」

「マリー!」

「マリーさん……!」

 ひしゃげ、砕かれ、連結を失ったパーツたちから妖精隊は辛くも脱出していたものの。小さなマリーを支える間も無く、彼女は衝撃波に倒されてしまった。

 街並みにヒビが迸り、聖女を讃えるステンドグラスや彫刻が割れ落ちる。

「《ヴァッサー・ダス・クローネ》(渇かぬ水冠)!!」

 そんななか。圧に押されず、突き抜けてみせたのは金色の彼女……シェリスだ。

「てめぇっ! うちのもんにふざけたマネしていいのは……このシェリスさんだけなのだわっっ!」

 体内魔力で編まれた『水』の王冠をシャベルへ叩き込み、魔法剣ならぬ魔法シャベルとして属性の力を付与。刃が纏った水流よりも疾く流麗に、十重二十重に剣戟を接いでいた。

 ーー レベル50 魔法戦士 シェリザベート・ハーフェン・ベルアーデ ーー

 ーー ベルアーデ剣術 レベル2(達人級) ーー

「カヂュッ……」

「でゃっ、ら、ぁぁぁぁ!」

 ーー ATK:B- DEF:SSS DEX:B- AGI:SSS INT:A RES:A ーー

 『赤き岩塊』は『水』と『火』の両腕でやはりパリィしてみせたのだが、シェリスときたらのけぞった勢いをも利用して剣舞を繋いでいた。特に魔法シャベルの水属性は『火』の左腕へ相性で勝り、大きくブレさせていた。

 その一瞬だけは。

「カ、ヂ、ヂヂヂヂ!」

 直後、両腕の魔方陣が『土』色に切り替わった。

「でゃ!?」

(詠唱も何も無しに、属性を切り換えた……!?)

 イエとともにマリーを助け起こしながら、ハルトは目にしていた。瞬く間に属性相性がひっくり返され、シェリスの斬撃が大振りに弾かれたのを。

 『赤き岩塊』の正拳突きがまたも唸る、

「《ヴィント・ダス・クローネ》(凪がぬ風冠)!」

 が、起死回生をねじ込めるだけの速さをシェリスもまた持っている。『風』の王冠を編んでいた左手がシャベルへ擦り付けられると、風力を乗せた兜割りを無理矢理に振り下ろした。

 『土』の正拳突きを、見事打ち落とす。

「ヂッッ!」

 それでもやはりというべきか、次の瞬間には『赤き岩塊』はまた属性を切り替えていた。

 今度は『風』に強い『火』を右腕に展開し、さらにはその先を見越したように左腕の『土』はそのままにした……二属性の構えだ。

「しゃらくせぃ!」

 風属性シャベルであくまでも『土』で守られた左半身側を狙い、右腕の『火』がしゃしゃり出てくると踊るように翻す。

 シャベルと拳の応酬が激化していくなかで。もはや一つ一つを捉えきれないほどに、互いの得物は属性を次々に切り替えていった。

 なんと繚乱なる速さの読み合いか。

 『経験値』や『レベル』という数値上の差を巻き返す、暴れん坊王女自身の『経験』による拮抗に他ならなかった。

「兄ぅぅ弟ぃぃ!」

「わかってるよ……!」

 とはいえ拮抗は拮抗。鈍る様をまったく見せない人形じみた『赤き岩塊』に対して、シェリスには息切れが見えていた。

 手近な瓦礫の陰へマリーを介抱し終えたハルトは、駆け出すとともに二丁拳銃パラレラムを突き出していた。

「イエ、立て直せるか!」

「任せてください、《リフレッシング》、っ、《アジ:ブースト》……!」

 こんな時、ハルトが言うまでもなく白魔法師イエの手際は正確だ。回復魔法ヒーリングでマリーを看ながらも、シェリスとハルトへ魔力を飛ばした。

「ふっはぁっ! ふっかぁつっ!」

「畳み掛けるぞ……!」

 ーー ステータスアップ! ーー

 ーー ハルト AGI:C → AGI:B- ーー

 ーー 効果時間 残り:20秒 ーー

 休息魔法リフレッシングによってシェリスの酸素量や新陳代謝が調整され、AGIを対象とした増幅魔法ブーストによってハルトの敏捷が高められた。

 駆け込んだ青年騎士は『赤き岩塊』の背中側へ回り込み、シェリスのめった突きとの挟撃にて『風』の魔弾を連射した。

「カ、チュ、ギュルルル!」

 しかし、かの巨躯には一発も当たらなかった。

 その身を成す歯車たちの一部が分離していき……、

 魔方陣を抱いた()()()()へ組み立てられると、魔弾を弾いたのだ。

「ウソだろ……!?」

 無駄弾になったこと以上に、ハルトは『赤き岩塊』の戦法そのものに悪寒を感じていた。

 魔方陣というタワーシールドでカウンターを狙い、模造とはいえフェアリーの形をしたシールドビットを操る戦いかたは……。

「ふざけてる、わ……! あがーのん、まるで……まるで……!」

「マリーさん、っ、まだ動いたらダメです……!」

 瓦礫に寄りかかってもなお立ち上がろうとするマリーの歯噛みが、遠くからでも届いていた。

(レベル999だとか、この姿とか、この戦いかたとか……! なんだよこいつらは!)

 銃として構えていたパラレラムを双剣へと握り直し、ハルトは『赤き岩塊』の間近へ滑り込んだ。

「合わせろぃ!」

「そっちもな! ……ぅぐっ!」

「カチュ、カチ、カチ!」

 双剣としてはパラレラムは無属性だ。属性の有利不利も無く『赤き岩塊』の腋へ刺し込んだが、連撃と成す前に振り払われた。

 しかし、それでもいいのだ。

「ほぅぅぅぅっっはぁぁッッ!」

 速さという名の力任せはシェリスの領分だ。颶風を絡めたシャベル剣技が一際迅く連ねられた。

 縦、横、斜、斜。それはほとんど同時に放たれたといっても過言ではない、回避不能な斬撃の鳥籠だった。

「ギュ、ルギュッ……!」

 甲高い衝撃音とともに、捻れたように『赤き岩塊』が後ろへ滑っていく。その二つ名どおりの巨大な圧がハルトの鼻先を通過していった。

「……カ、チチチチ」

(うっ……!?)

 すぐに踏みとどまったカノジョは、とんがり帽子の下で赤々と眼を光らせたように見えた。

 ()()()()()()()で、

 突進からのダブルラリアットによりハルトもシェリスも打ち飛ばした。

「が、ふ……ッ!」「でゃー!?」

「お二人とも……!」

 二人とも得物で防御を固めたが、打撃の恐ろしいところは体の芯まで響く衝撃力にある。ハルトの二の腕から肘にかけて、それに肋骨にまで軋みが走った。

 それだけではなく。ハルトには『火』の魔方陣によって火炎が這い、シェリスには『土』の魔方陣によって刃物じみた泥流が過った。

「《ヒーリング》、《ギプシング》……!」

「火事でぃ火事でぃ!」

「ぶっ!」

 回復魔法ヒーリング骨接魔法ギプシング。二人揃って地を滑った先から、『水』の魔法シャベルが火だるまになりかけていたハルトの脳天に叩きつけられた。刃の上で練られていた水流が破裂し青年騎士を救う。

「べらんめぇ! おかしいぜぃ兄弟!」

「おかしくないところなんて無いだろ……!」

 バトルドレスの装甲がほとんど砕け散っていたが、膝を付きかけた姫君はそれでも奮い立った。

「確かに手応えはあったのだわ! んだってぇのにダメージ0だなんざ、お天道様が許してもこのシェリスさんが許さねぇのだわ!」

 告発するように、シェリスは身構え続ける『赤き岩塊』へシャベル突きつけた。

(……そうだ、いくらゴーレムみたいに硬い相手でも変だ。この感覚は……)

 たしかにハルトのパラレラムも、腋の間接部を狙って一撃だけは刺し込めたのだ。しかし……、

 確かな手応えとともに、()()()()()()()()とわかる違和感が伝わってきたのだ。

 ハルトに応え、ホルスターの中のフェアリーが『赤き岩塊』を見据えた。

 ーー 《ステータス》 完了 ーー

 ーー 状態 『無敵』 ーー

 ーー 効果時間 残り:9999999…… ーー

「お、おい……!? 無敵、だって!?」

「あああん!? てやんでぃバーロー!」

 それは最高度な魔法や霊薬でしか付与しえないし、ごく短時間しか保てないはずの状態変化だ。

「ほんとになんなんだよ……! これじゃまるで……チート(反則)じゃないか……!」

 救えざるもの。

 まるで……チート(悪夢)だ。

(だけど、ここで退くわけには……!)

 倒す、とは言葉にできなかった。これなる神話上の怪物から逃げる手立ても見えはしなかった。

 それでも、

「ーーーー

 ーーーー!!」

「くっ……! ふざけるな!!」

 見上げれば街並みの遠くで、いまだ無軌道に魔弾を撃ち続けている人狼が見えたから。

 それでも今、ハルトにできることで戦わなければならないのだ。

 ーー レベルダウン! ーー

 ーー イエ レベル1 ーー

 ーー 《クラフトウィッチ》 ーー

「ーー……やっとわかった。私としたことが出遅れたわ」

 それは、彼女たちもきっと同じなのだ。

「イエ! ハルトのそばへ!」

「は、はいお姉さんっ……! 《ウインドライド》!」

 黄昏に、声が吹き抜ける。

「イ、イエちゃん!?」

「ってぇっっ、無茶するなぃイエ子!」

 治療し終えたマリーのそばから、翠色の波風に乗った白魔法師が……滑空魔法ウインドライドに乗ったイエが、一気呵成に走り出したのだ。

 その傍らに、胸元のタリスマンから飛び出していた少女の形の『闇』を連れて。

(イエ、それにアリステラ……! どうして……!)

 二人を止めるべく駆け寄るべきか。ハルトの足取りは揺らぎかけた。

 だが、それはダメだ。

 揺らいではいけない。

「っぅ、く……!」

 何も無くとも転んでしまうような彼女が、震える脚を堪え、青年のそばへ駆け込んできたのだから。

 そのまっすぐな眼差しは、ハルトへ確かに結ばれていたから。

「使いなさい、ハルト!」

「なに……!?」

 必死に過ぎる乙女から分かたれたように、自称守護精霊は前へと踏み込んだ。

「この力を、ッ……」

 アリステラは、

 己の眼窩の中へ手を突き入れた。

 そして、血潮がごとき闇を迸らせながら()()を掴み抜いたのだ。

「喰い散らされたこの力でも……これくらいのことはできるわ!」

 深き闇のみを湛えた、ボウルのような王冠だ。

(あれは……! 前にアリステラが破壊したチートアイテム!?)

 ーー レベル212 ウィナー・ウィナー ーー

 以前、ハルトとイエが相対したチート事変の折……『光』を剥がし、『闇』としてアリステラに吸収された力だ。

 アリステラがソレを眼前へ掲げれば、

 闇は『眼』の印となり、そして、アリステラを繭がごとく包み込んだ。

 そして再び、人の形を成すとともに飛び出した。

 御旗……いや旗地をなびかせる槍を携えた、()()()()姿()の女性のシルエットだ。

 夢の狭間で出会った、あの少女アリステラだ。

 儚く、虚しく、そして……勇ましき者の幻だった。

 その幻は顕れた先から消えかけていたから、

 だから、

 一際に煌めこうとしていた槍が、投げ渡された。

「っ……?」

 ハルトへ。

 それは嘘のように不確かで、何よりも重かった。

 青年騎士は、自分にできることを……為すべきことをわかっていた。

「ッッ……らぁぁぁぁぁッ!」

 ハルトは、その力を廻した。

 ーー シークレットモード 解除 ーー

 ーー レベル008 ウェポンテイカー ハルト ーー

 ーー チートスキル 《ウェポンマスタリー》 ーー

 ーー チート! チート! チート! ーー 

 ーー 神器術 レベル3(神級) ーー

 吼えた、刃。

 魔女のように静謐ではなくとも、その一閃はまっすぐ冴え渡った。

「ギュ、ガ……チュ……」

 ーー レベル99 御旗の槍 ーー

 ーー 『無敵貫通』 ーー

 ーー 『無敵』 無効化 ーー

 『赤き岩塊』のどてっ腹を、煌々なる『闇』のエーテルが穿った。

 遠く聖女像の胸をも貫き、黄昏た月へも届かんばかりに……突き抜けていったのだ。

「…………」

 ーー 《ファストトラベル》 ーー

 身を投げ出すようにのけぞった『赤き岩塊』の頭上に、魔力のゲートが開いた。

「なッ……!? おい待てっ、おまえらはなんなんだ……!」

 武器術の神業を得るチートスキル《ウェポンマスタリー》の反動……ただの『闇』として散っていた槍はもう握れず、ハルトはパラレラムへ持ち換えた。

 しかし、放たれた『火』の魔弾たちは制止には至らなかった。

「……ギュ……ァ、ァ、ァァ……」

 魔弾に焼き焦げ、それでも巨躯はゲートの向こうへ上がっていったから。

 再び歯車が寄せ集められていく傷穴の奥に、赤い眼光だけを露わにしながら。

 『赤き岩塊』は、逃げていったのだ。

 残ったゲートが渦巻きながら消えていって……、

 ーー 《ファストトラベル》 ーー

 上書きされ、新しいゲートが開かれた。

「ーー私たちは『白式』です」

 そこから飛び出してきたのは。『真白の幽鬼』。

 誰もが瞬時には応じられなかった。

 滑空魔法ウインドライドを履いた彼女が、イエへ肉薄するまで。

「久しぶりですね。お姉さん」

「え、っ……?」

 その手には、異端なる()()()が握られていた。

 医療用鋸を思わせる、細かな刃を連ねた極大刀が。

(イエ……!!)

 ハルトは手を伸ばしていた。

 間に合わない、届かない、一目でそうとわかるその手が空だけを掴む……、

 はず、だったのに、

 ……乙女の背中が、青年の腕の中へ抱き留められていた。

「……視るべきものを視て。できることをやりなさい」

 不安定に霧散しかけていたアリステラが、それでも、イエをハルトのほうへ突き飛ばしていたから。

 最後まで確かなその眼差しは、『真白の幽鬼』を見据えていた。

 廻る、斬撃音。

 幻は散った。

 段平刀の切っ先が、イエのローブの胸元を捉えていたのだ。

 そこに提げられていたタリスマンだけを、抉ったのだ。

「あ、ぁっ……!?」

 黒曜の瞳が揺らぎ、霧散していったクリスタルを見つめた。

 ーー 《ファストトラベル》 ーー

 ……ハルトたちの背後へ駆け抜けた『真白の幽鬼』は、瞬時に開いたゲートへ消えていった。

「ーーーー

 ーーーー」

 呼応するように、遠く、あの『灰なる人狼』もまた転移していったのだった。

 今度こそ……静寂が訪れた。

 何も止められはしなかった街並みに、呻きと崩落を残しながら。

「《クラフトウィッチ》……っ、《クラフトウィッチ》。……《ウィッチクラフト》……!」

 辛うじて形を留めたタリスマンを握り込むイエもまた、この不条理な崩壊の渦中にあった。

「お姉さん、お姉さん……! 応えて、ください……!」

「イエちゃん……? あがーでも(ひょっとして)……」

 彼女がいくら唱えても何も起こらず、レベルも捧げられはしなかった。その悲痛な様子に、まだ多少ふらつきながらもマリーが歩み寄ってきた。

「っっ……お姉さんのタリスマンが……お姉さんが、応えてくれません……!」

「イエ……」

 こんな時。こんな時なのに。ハルトは彼女に触れてやれなかった。

 あの静謐なる魔女ならきっと大丈夫だと、たとえ気休めでも言えるのだろうに。

 ふと、膝裏を小突かれた。

「か~っ…………バッカおまえ、兄弟までそんなツラ見せてやんじゃねぃのだわ」

 不良座りで長すぎる息を落としたシェリスが、シャベルの柄で小突いてきていた。

「……ネエちゃんにアレコレ訊いてやろうと思ってたのによ、なんてこったぃ。……こんなイミフな状況、こっからどうすりゃいいってんでぃ」

「ごめんねみんな……わしも、ちょっとまだ体が動かなくって……ああもう、頭ん中もわやくちゃじゃあ……」

 シェリスもマリーも。イエを……そして今はもう視えないアリステラを見つめていた。

(アリステラ……おまえは……何を……)

 考えて。考えて。……ハルトは首を振った。

「ハルトさん……ハルトさん、どうしましょう……私……っ、そうです、他にも怪我してる方がたくさん……助けないと……」

「……イエ」

 今はそれよりも。ことさらか細く胸を抱いた彼女へ、手を……。

「ーー聖騎士隊、構え! レディッッッッ!!」

 その時だった。丹田に轟くような号令が、無数の金属音を連鎖させたのは。

 街並みの四方八方で、清廉なる詠唱音と鋭い展開音が並んだ。

「んかーーーーーーっ! 今度はっっ、いったいっっ、なんだってんでぃゴラァッッッッ!?」

 シャベルで石畳をぶん殴ったシェリスを……その全身をびっしりと、『光』の白い光点たちが無数に()()()()()した。

 そう、

 聖女像広場が……、

「ちょおっっ……せ、聖女教会の()()()()()!?」

 ……白黒法衣に中装鎧を纏った、聖騎士隊に包囲されていたのだ。

 彼らは手に手に、聖女教会の紋章入りのカイトシールドを構えていた。

 その鋭利すぎる菱形を地に刺して固定し、上部にくり貫かれた穴へ武器を通していた。

 錫杖を通し、その先端へ光矢魔法ライトアローを溜めていたのだ。

「『白式』を騙る破壊者とはあなたたちですね! 神妙にするであります! フリーズ!!」

 大聖堂へと続く道。隊列の向こうで薄闇を背負った人影が、バトン状の武器を翻していた。

 一人だけ異なる、機動性を重視したシルエット……軍楽隊よろしくケピ帽を被り、ズボンとスカートのダブルボトムスタイルをなびかせた姿が。

(……くそ。最悪だ)

 青年騎士は……乙女の傍らで、パラレラムを手離す他なかった……。


  続


(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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