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Karte.10-2「……『星』の意志」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。

 壁には長々と神話が綴られているらしいプレートが掲げられていたが、どうやらそれはあくまでも『補足』用らしい。

 このツアーのメインとなるものは、各プレートの前に設えられた()()()たちだ。

「さあ第一ゲームっ、今からお兄さんが蝋燭を灯すよ☆ 1番から256番の点のどれが光ったか探してみよう!」

「番号が無駄に多いしそもそも暗すぎて番号が見えない……!」

 ……真っ暗すぎるハリボテドームに押し込まれると。どうやらその外周に回り込んだらしいアイクお兄さんがくぐもった声を響かせた。

「72番! だぜぃ!」「72番、です」

「わあ、さすがじゃねぇ二人とも」

「シェリスさんだからな!」「白魔法師ですから」

「理由になってるのかそれ」

「ま、わしのほうが二人よりちぃと前に見つけてたけどっ。魔導技師じゃけん!」

「張り合うな張り合うな」

 胸の高さより少し下ぐらいの死角に灯った光を見ていると、ドームの向こうから咳払いがあって。

「世界には最初、創造神である『祖となる神』と御身を取り巻く『無』しかなかったんだ! でもある時ここに、聖女フロレンシアが一点の光として降り立ったんだよ☆」

(解説までそのテンションなのな)

 つまりこの真っ暗ドームが始原の世界であり、灯った光点が聖女フロレンシアということか。

「御二方はたちまち惹かれ合い、創造神が聖女の魂の在り方を基にして『宇宙』という概念を形作ったんだね。そしてその中に、ボクたちが生きるこの『星』が創られたのさ!」

 聖杯トロッコが引かれる。

 暗闇から引き出されたギャップもあるが、それにしても少し眩しすぎるような明るさがハルトたちに目を細めさせた。

 よく採光するように設計された天窓からの明るさのせいであり……、

 それとドームの先にあった、白く光るクリスタルたちの展示台のせいでもあった。

「『宇宙』と『星』。二つ合わせた『世界』を創ったのは創造神の指先……つまり光属性のエーテルだね! 最初は『火』、『水』、『土』、『風』の四大属性や闇属性もなくて、魔力といえば光属性だけだったんだ!」

「そうなのか? 光属性って、今じゃ闇属性より希少属性って言われてるのにな」

「うんうん、わかるよ騎士くん! でも『希少属性』っていうのはね、創造神の御力により近い『光』と『闇』を扱える存在は少ない……そういう意味の()()なんだよ! 『光』のエーテルそのものは今だって、人間にも魔物にも自然にもアイテムにも、世界の全てのものに多かれ少なかれ宿ってるんだな~!」

「……あんた、そんなふうに踊り狂ってなかったら良い解説者だよな」

「ありがとう、嬉しいなあ! それじゃあ第二のゲームを始めるよ!」

 薄い笑みとともに上下左右へ舞いながら、アイクお兄さんは聖杯トロッコを止めた。

 そこから手の届く位置に、『星』のジオラマがあった。

 ()()()()()()。五大陸は大雑把に省略されているが、世界の果てから零れ落ちる海水はレース生地で無駄に再現されている。

 ジオラマの盤面上には白色の『人間』や『動物』および『植物』の駒が無造作に置かれ、突起の付いたそれらは『星』へ配置できるようになっていた。

「その『人間』や『動物』たちをいろんな場所に置いてみよう! 正解も不正解も無いから思うさま楽しい世界を作ってね!」

「任せろぃ。とりま、南エウルを犬まみれにして北エウルを猫まみれにして全面戦争を……」

「いけんてシェリスさん! 貸しんさい貸しさいっ、こがーのん見るとドワーフ魂がふざけちゃおれんのじゃあ! まずはウェザリング用エナメル塗料とシャドウ吹きにエアブラシを準備して……」

「あってめぇマリーこらっ、第四次ままごと大戦(イプシロン)の恨みは忘れちゃいねぇからなぃ!」 

「白は好きですけど、白ばかりだと少し寂しい世界ですね」

「そだな。こいつらはほっといてさっさと置いてけ置いてけ」

「「ああっ!?」」

 二人のガキ大将が座礁している間に、ハルトとイエはフィーリングでジオラマ世界に命を配した。

「うんうん! 創造神は聖女フロレンシアを模して『人間』を創ると、その糧となる『動物』や『植物』と合わせて世界に配したんだ! そしたら……『星』に奇跡が起きたんだよね☆」

 アイクお兄さんがジオラマの底を押し込むと、隠し収納がせり出した。

 さらには地殻の一点が裏返り……、

 闇色の、『眼』の印が現れた。

「『光』のエーテルを浴びて、『星』そのものに意志が宿ったのさ☆ 光属性の影から生まれたもの……『闇』のエーテルの誕生だね!」

(……闇属性の、『眼』? ……なんだ……妙な感じだな)

 『意志』を表す『眼』。とくに奇抜でもないメタファーだが、ハルトはなにか特別なものを感じていた。

「……『星』の意志」

 そしてどうやら、傍らの乙女もまた思うところがあるようで。イエは自分に問いかけるように、指を添えた胸元を見つめていた。

「この『闇』の中から『火』、『水』、『土』、『風』の四大属性が分かたれて、世界はもっともっと鮮やかになったんだ! 『星』の意志の代行者、()()たちと一緒にね!」

 アイクお兄さんが隠し収納から盤面に追加してみせたのは、四大属性の色とりどりな駒たちだった。

 炎の山や風巻く潮などの自然から。ドラゴン、サハギン、コボルド、ハーピーなどの魔物。それに『火』&『土』色のドワーフや『風』&『水』色のエルフといった人間種族まで。

 ハルトとイエは、どちらからともなく、四大属性に彩られた精霊たちの駒をつまみ上げていた。

 フェアリーと瓜二つ、違いといえば羽の枚数が多い程度の人型たちを。

「というわけで、この子たちも置いてあげてね! どんなカラフルな世界になるかなあっ?」

「え~~~~、拡張キットがあるんなら先に言うてつかあさいなあ……。最初からレイアウトの組み直しだわ」

「だからそこまでガチになるなよ」

 ブツブツとぶうたれてしまったマリーを御しながら、ハルトたちは世界の有り様を進めていったのだ。

「『星』の意志も、創造神や聖女と同じくらい人間を愛してたんだね! 彼もしくは彼女が精霊たちを介して加護を与えたから、人間は魔法を使えるようになったんだ!」

 エーテル……すなわち高次元という概念そのもの。その力に形を与えて世に降ろすことこそ、魔法や魔力の基礎的な考え方だ。

「こうして世界が幸せに廻りだしたのを見届けると、創造神は宇宙全体を見守るためにその外側に離れたのさ! 一方、聖女フロレンシアもこの『星』の安寧を祈るために人々の中へ紛れたんだって☆」

 アイクお兄さんが手品よろしく翻した手に、『聖女』の駒が姿を現した。

 それは遊ぶ調子で世界のジオラマの上を廻ると、適当な場所へ……南エウル大陸の一大帝国付近へ忍ばされた。

「それから千年以上の平和な時が流れて……。……はいっ、というわけでちょっとブレイクタイム!」

「なんでぃ?」

 トロッコがまた引かれだした、と思いきや、四人の前に配膳台がぶん回されてきた。

 フォークを添えたマグカップたちと、火属性のクリスタルで保温性を保ったティーポットが載っていて。

 乾麺が入れられていたマグに、牛骨ダシらしいクリーミーなスープが注がれた。

「聖女フロレンシアが大好きだったっていうヌードルスープだよ! 館内の売店の他、市内のスーベニアショップでも好評発売中だからよろしくネ☆」

「へいへい兄ちゃん、これでツアーは終了です後は半日かけて土産モン屋巡りでぃ……なんてぇことはねぇだろなぃ」

「もっちろん☆ ここまでは『創造編』、そしてここからはぁ……怖~い怖~い『聖戦編』だよ☆ ウヘヘへエヘエヘエヘエヘエヘ」

「怖がらせる笑いかたド下手かよ」

 たしかに順路の先では、内壁や展示プレートの様子がどこか物々しい意匠に移り変わっているようだったが……。

 ヌードルスープをサクッと飲み終えると、トロッコはほの暗い道へ進みだすのだった。

「第三ゲームだよ! この蹄鉄を投げて向こうの杭に引っ掛けてね! 杭に入れば3点、20センチ以内に入れば1点! とくに点数に意味は無いよ!」

「無いのかよ」

 そこにあったのは四大属性色のオモチャな骨製蹄鉄と、

 困り顔の人間を象った杭の群れだった。

「……西方では、輪ではなくて蹄鉄を投げるのですか?」

「なんでぃ、極東じゃ違ぇのかぃ? てかむしろ『輪』ってなんでぃ、『輪』って」

「輪投げ用の輪ですけど……」

「ニフ人はニッチなもん作んのだわなー」

「シェリスおまえな、あんな杭によくポンポン投げつけられるな……」

「罪悪感満載のホースシューズじゃのう」

 なにせ杭に蹄鉄をハメれば人間を拘束するかのようだし、ぶつけるだけでも胸が痛むゲームだ。

 ハルトもイエもマリーも遠慮の塊と化していたのだが、オモチャはオモチャだとでも言わんばかりに肩をすくめたシェリスだけは容赦が無かった。

 無駄にブーメランよろしく返ってくる蹄鉄捌きにて、苦悶の杭たちは全て捕らえられていったのだ。

「そうだねそうだね、可哀想だよね。創造神が離れてからも世界は成熟していったんだけど、人間は精霊たちから不自由な生き方を強いられるようになっていったんだあ」

 アイクお兄さんは、イエが持て余していたままだった蹄鉄の一つを貰った。

「そう。『人間を護る』ことが使命だった精霊たちが、いつの間にか『『星』を守る』ことしか見なくなっちゃったんだね!」

 指差された蹄鉄には、よくよく見れば浮き彫りのデザインが秘められていたのだ。

「『火』を消すな! 『水』を混ぜるな! 『土』を掘るな! 『風』を止めるな! ……ってね☆」

 それらは、四大属性色の精霊を模していた。

「四大属性を司る精霊王たちは繁栄しすぎた人間が『星』を壊してるって主張して、みんなから精霊の加護を消しちゃったんだ。それで魔法が使えなくなった人間も怒りだして、ついに戦争になったんだよ」

 アイクお兄さんの操作で、杭たちの向こうに飛び出す絵本じみた背景が現れた。

 人間の繁栄を体現するかのような鉄造りの摩天楼たち。

 そしてその真上から吊り下げられた、四色の強大な存在たち。

 火色のウサギ、水色の泥、土色の麗峰、風色の巨木。魔物とも精霊ともつかない威容に膨らんでいた。

「『星』全体を巻き込んでいったこの聖戦は、()()()()()って呼ばれるんだ!」

 トロッコは進むのだ。

 他に道なぞなく、いや、敷いたとて同じ場所に繋がるほかない順路を。

「あぅっ」「ちょっ?」

 レールへの重さで跳ね上がる仕組みなのだろう、道の左右から大きめのハリボテが脅かしてきた。のけぞったイエの桜髪がハルトの鼻先をくすぐる……。

 左右の陣営に分かたれたハリボテは、幼稚なほどに恐ろしさを引き伸ばした『人間』たちと『精霊』たちだった。

「聖戦は何年も続いたんだ! 精霊は人間の文明を滅ぼそうとしたし、人間は精霊を操る精霊王たちを弑するために戦ったんだね!」

「……少なくとも精霊たちは、『星』の自浄作用になろうとしたんとちがうじゃろか……」

 次にトロッコが止まった時には、先ほどの蹄鉄投げと似たようなゲーム場があった。

「しかも精霊側には、とある()()()()()が味方についたのさ!」

 剣や槍がペイントされた大量のボールを据えて、緩やかな坂道になった射的場があった。

 アイクお兄さんが、床下の大型ランプに火を入れた。

 すると。敷き詰められた鏡で増幅された赤光は、おどろおどろしく『的』を照らした。

「国々の英雄や聖人たちを倒してまわったっていう、人間の裏切り者たち……背徳者『白式』一派だね!」

 書き割りの『精霊王』たちよりも恐ろしげな、四体の蝋人形だ。

 すなわち、

 『真白の幽鬼』、

 『金色夢魔』、

 『赤き岩塊』、

 『灰なる人狼』。

 ……一応の人型ではある。しかし伝承や風説に尾鰭が付いていくように、幾星霜もの『恐怖』にまみれたそれらはもはや人とも魔物ともつかない異形だった。

「第四ゲームだよ! みんなの肩の力で『白式』たちを倒すんだっ☆」

「ほーん……背徳者『白式』、なぃ……」

 今度は、シェリスもボールを投げようとはしていなかった。

「……ごめんなさい、おしゃべりのお兄さん。私は遠慮させてもらいます……」

「あれあれっ? どうしたの白魔法師ちゃんっ、ひょっとして怖~くなっちゃったかな? 出口まで連れていってもらおっか?」

「いいえ、そういうわけではないのですけど……あの、えっと、そうですよねハルトさん」

「は、な、なにがッ?」

 そんな、パパに助けを求める調子で制服の裾を引かれても困るのだが。

 とはいえハルトは、イエが言わんとしていることが分かる気がした。

 それどころか、目が合ってしまったマリーやシェリスだって同じようなことを考えているだろうと思えたのだ。

(……『白』、『金』、『赤』、『灰』。どうも……なあ……)

 言えるわけがないではないか。

 自分たちと似通ったカラーリングだからなんとなく嫌なのだ、なんて。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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