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Karte.9-1「幸せになれるわ」

【ハルト】……ベルアーデ帝国騎士団第七隊所属、双剣銃を手にイエへ寄り添う青年騎士。18歳。

【イエ】……極東ニフ国の乙女で、大体いつもレベル1なのにチートのような守護精霊の力を使える白魔法師。16歳。

【マリー】……ドワーフのミニマムレディ、妖精機シュネーヴィを操る魔導技師にして第七隊のメイドさん。19歳。

【シェリス】……第七隊隊長、魔法剣ならぬ魔法シャベルを振り回すハーフエルフの残念系王女。20歳。

【アリステラ】……イエを守護する自称『闇の精霊』にして、自称『勇者』。自称17歳。


「パンダだ!!」

 ある日の昼前。ベルアーデ帝国騎士団第七隊、リヒャルトこと青年ハルトは驚愕した。

 ここは帝都ベルロンド近郊、『見守りの森』からもう少し遠出した『おさわりの沢』。

 ーーワニャメェ~ン

 小川の畔で、犬だか猫だかはたまた羊だかよくわからない鳴き声の魔物が遊んでいた。

 熊のようだがずんぐりむっくり丸っこくて、白と黒のフワフワな毛並み。

 しかも背中には到底飛べそうにないちっちゃな翼を生やしていたのだから、あざといほどにキュートな短足獣だ。

「イエっ、おい聞いてるか……」

「はあ」

「はあっておまえ。フォールンパンダだぞ、激レアの魔物だぞ」

 一方。第七隊顧問白魔法師、乙女イエはなんとも生返事だった。

 真白のローブの裾をたくし上げ、足を踏み入れた川底からバナナを採取し続けている。

 魔術工房『アトリイエ』を持つイエの採取業務に、ハルトは今日も護衛として付き添っているのだった。

「あ、そうかそうだよな……おまえのことだからパンダもよく知らないんだろ。あいつらは……」

「知ってますけど」

「……なんで半ギレなんだ?」

 いつも無表情な彼女は、その実、よくよく覗いてみれば感情豊かだ。現に今、黒曜の眼差しには『苛立ち』と『動揺』が入り混じっているようだった。

「大量の体内魔力オドエーテルを持っているので、倒せばものすごい経験値になる魔物。ですよね?」

「そ、そうだな……」

 水辺の採取カゴにバナナを詰め込み、他にもイカダ石やチャコールナナフシでいっぱいになっていたので蓋をする。

「《インベントリ》。せーの……っ、ふぐにゅっっ。……げし、げし、げし」

 収納魔法インベントリで開いた次元の狭間へカゴを投げ入れる……どころか持ち上げることもできずにぶっ倒れる。……足蹴り連打でなんとか放り込んだ。

 ーー レベル1 白魔法師 イエ  ーー

 そんなド非力最弱天然危険物は、明らかに、パンダへ見てみぬフリしていた。

「……あー……っと、じゃあ、なんだ……なんだ? 知ってるかもしれないがあいつらはすごく気まぐれで、退屈するとすぐに雲の上へ帰るし……」

 ーーバウニャッ!

「うおああ!?」

 ハルトが双剣銃パラレラムを握り直した直後。高速宙返りしながら飛びかかってきたパンダが、プニプニの肉球ハンドを薙いだ。

 ーーニャッホッホニャッホッホ!

「首っ、首だけ狙って肉弾戦仕掛けてくるしーーーー!」

 二本足で着地すると。格闘技さながらの連撃を、青年の首周りだけにたたみかけてきたのだ。

「遊んでいるのです。安心してくださいハルトさん、狙いがわかっているなら心構えもできます。骨が折れても頚椎が切れても瞬で治してみせますので、瞬で」

「未然に防ぐ方向で努力してくれ!」

 接合魔法コンタクティングの術式を手元に構えたイエに対して、ハルトはパラレラムの柄をパンダへ振り下ろした。

 ーーンメェ~ン……

「は、っ」

 ……パンダの残像がスウェイしていった時には、剣銃は虚空ばかりを殴っていた。

 ーー スケープパンダ レベルEX(特殊) ーー

「はうっ……」

 ーーワフッ

 ハルトがやっと捉えたのは、愛くるしいポーズに寝っ転がったこん畜生の姿だった。

 それはアッパーキックの溜めに他ならなかった。

「《必中/すーぱーすとらいく》」

「あ」

 ーーアーンッ!?

 だが、それがハルトに放たれる前に。パンダの超回避スキルをも押し通り、イエがエーテルで形作った杖が鼻先へ必中した。

 とはいえレベル1な彼女のへっぽこアーツは、青さめにすら0ダメージなのだが……、

 ーーアーン、アァァァァン……!

 が、パンダは泣き喚きながら飛び去ったのだ。

 そのモッフモフボディから尋常ではない量のオドエーテルが溢れると、戦いを通じてより強く共鳴した者たちへ……すなわち勝者であるイエとハルトへ宿った。

「……パンダ系はAGI(敏捷)はS級ですが、体力も防御力もさめ以下。ですよね?」 

「そ、そうだな……」

 ユラリ。杖型エーテルを霧散させたイエは、やはりパンダへ目もくれなかった。

 ーー レベルアップ! ーー

 ーー イエ レベル12 ーー

 ーー レベルアップ! ーー

 ーー ハルト レベル009 ーー

 ハルトのホルスターから顔を出したフェアリーが、ステータスを分析し終えると拍手をしてみせた。

 まやかしの自我に刻まれたエモートではあっても、契約者の経験値大量獲得をたいそう喜んでいるかのようだった。

「おお。パンダ一匹でそこまで成長するなんて、おまえってレベルが上がりやすい体質なんだなあ」

「そういうハルトさんこそ、今まではレベル8でしたよね。1レベルしか上がらないのですか?」

「ああ、まあ俺は逆に……例の()()()()()()を持ってるせいかな、とんでもなく上がりにくいんだよ」

「なるほど。……パラレラムさんが壊れてます」

「げっ!? しまったっ、力みすぎた……!」

 指差されたハルトの手元……、空を切っただけだったはずの双剣銃が曲剣よろしく湾曲していた。

 ーー シークレットモード 解除 ーー

 ーー レベル009 ウェポンテイカー ハルト ーー

 ーー 《ウェポンマスタリー》 チートスキル! ーー

 ーー 双剣術 レベル3(神級) ーー

 ハルトは『救えざるもの』と揶揄される『チート』スキル《ウェポンマスタリー》の持ち主だ。どんな武器でも最上級の業を身につけることができる。

 とはいえまだレベルも実力も伴っていないため、一撃で武器をダメにしてしまうのだが。

 イエとは微妙に異なる『レベル009』という表記なのも、チートを宿した生物や物品はレベルの桁が外れてしまっているからだった。

「それはそうと、なんで急に機嫌悪くなったんだ?」

「……パンダはもううんざりです。今まで食べてきたおそばの本数くらい相手にしてきました」

「まさか。あいつらは半年に一回会えるかどうかぐらいの珍獣なんだぞ」

 ハルトのチートのことなんてぜんぜん気にしない最弱乙女は、それどころか自分のレベルにだって無頓着だ。

「私だってパンダは好きです。実家で飼ってたポチ丸の次ぐらいには。でもうんざりなんです、ダメなんです……」

「ん、ん? ……なんの話だ?」

 ……が、なんだか今は憂鬱そうに、フェアリーが表示した『レベルアップ』のウインドウをチラ見していていたのだ。

 ーー レベルダウン! ーー

 ーー イエ レベル11 ーー

 ーー 《クラフトウィッチ》 ーー

「あぅ?」「んんっ?」

 と。レベルアップ表記をあっという間に塗り替えながら、イエの胸元が輝いた。

 ローブの内から……、闇色クリスタルでできたタリスマンを引っ張り出して。

「おめでとう。パンダを見つけるなんて、今日のあなたたちは運が良いのね」

 そこから、『闇』が飛び出した。

「ところで、今ならレベルを10消費して新しいスキルを使えるのだけれど。興味は」

 長すぎる髪と大いなる存在感を有した、少女の形の『闇』が。

「お姉さん」

「出てきて早々胡散臭いなあ……アリステラ」

 アリステラ。イエの自称守護精霊にして、自称『勇者』だ。

「というかおまえな、イエのレベルを勝手に使うなよ。こっちから起こしたら嫌がるくせに」

「挨拶や質問でいちいち起こされていたら、いざという時にレベルが足りなくなるでしょう。……この子が一人ぼっちで盗賊に襲われた時とかね」

「うぐっ……も、モンダイのスリカエだ……」

「まあまあ。ハルトさん。あの時のことはもう怒っていないので、絶対忘れないですけど気にしないでください」

「気にしてるじゃないかよ……!」

 夢の中から見守っているという彼女の力を借り受けることで、イエはいくつかのトンデモなスキルを行使できるのである。

 スキル《ウィッチクラフト》はレベル99のカンストアイテムを作成できるし、

 スキル《クラフトウィッチ》はこのように、短時間ながらアリステラの影を召喚できるらしい。……盗賊だろうとチートアイテムだろうと()()()()()()()彼女を。

 ……実質、イエもアリステラというチート級存在を宿しているといえるだろうか。

「新しいスキル、です? どういうものでしょう」

「名前は《カミングホーム》、とでもしましょうか」

「《カミングホーム》(家路)? いや名前はともかく効果は?」

「幸せになれるわ。きみもイエも」

「……もういい。いや全然いいことないんだが、イエ、どうする?」

「ではせっかくなので。お姉さん、お一つくださいな」

「ええ。術式を送るわ」

 タリスマンから闇色の輝きが舞う……と、イエに浸透した。

 頷いたイエは、両手を挙げた。

「《カミングホーム》」

 ーー レベルダウン! ーー

 ーー イエ レベル1 ーー

 イエから出でた多めのオドエーテルが、タリスマンを介して頭上へ放射された。

 それは、転移魔法ファストトラベルのゲートに似たものを編み上げた。

 ただしそれは、見開かれた眼の形をしていた。

「……レベルってなんだっけなあ」

「良い思考だけれど、現実逃避は良くないわね」

「チキンじゃなくてもこんな目玉は怖す……あっ」

 眼の、中へ。

 降ってきた眼差しの向こうへ。

 アリステラがタリスマンへ還っていくとともに、ハルトとイエはゲートの向こうへ転移していったのだった。

(1話につき4部分構成の短編連作です)

(毎週月曜日、18時頃に更新中です)

(1話完結の翌週……つまり5週間に1回、次話の準備期間として更新にお休みを頂きます。よろしくお願いいたします)


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